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2017年04月16日

民事訴訟法 予備試験平成28年度

設問1(1)
 弁論主義とは裁判における事実の主張と証拠の提出を当事者の権能かつ責任とする建前であり、私的自治の手続的反映がその根拠である。弁論主義の内容の一つに、裁判所は当事者の主張しない事実を裁判の基礎とすることができないという原則がある。弁論主義の対象は「事実」であるが、その範囲は主要事実(要件事実に該当する事実)と解されている。      
 本件で証拠調べの結果明らかになった事実によると、甲土地の所有権はX→Y1→X→Y2と推移しており、最後のX→Y2の部分はY1らに主張責任のある抗弁事実に当たる(所有権喪失の抗弁)。具体的には、@XY2間で甲土地譲渡担保契約が締結された事実、およびAXが受戻権を喪失した事実が主要事実である。これはXからもY1らからも主張がない。したがって、裁判所は、当事者が主張しない事実を判決の基礎とした弁論主義違反がある。
設問1(2)
 本件を弁論主義違反ではないという立場からは、以下のように立論できる。Y1らの主張は甲土地の所有権がX→Y1→Y2と推移するものだが、Y1→Y2の売買の際に、XY2間において、甲土地の将来売買の予約(民法556条1項)がなされたとする。このように構成するか、裁判所が心証を抱いた事実のように譲渡担保契約の受戻権喪失と構成するかは、事実ではなく法律構成の違いに過ぎない。なぜなら、どちらもXがY2に対して1000万円支払うことを条件としており、その支払いがなされなかったために最終的にY2に甲土地所有権が帰着した事実は共通しているからである。
 しかし、このような構成には、Xに対して不意打ちとなるという問題点がある。具体的には、Xの主張による所有権の推移はX→Y1→Xであり、Y1らの主張はX→Y1→Y2であるから、本件訴訟における争点はY1から所有権を譲り受けたのはXなのかY2なのかという点だと考えられ、Xもその点に主張を尽くせば勝訴するのに必要十分と判断していると考えられる。にもかかわらず、X→Y1→XというXの主張通りの所有権の推移を認めながら、その後にX→Y2という推移を追加して認定することは、Xに対して、X→Y2という推移を否認する手続きを与えていないことになり、Xの弁論権を侵害していると言える。
 したがって、裁判所には、譲渡担保という法律構成を当事者に指摘する、法的観点指摘義務があるというべきである。
設問2
 既判力(114条)とは、確定判決の後訴での通用力ないし拘束力を言い、訴訟法上の効力である。紛争の蒸返し防止の必要性ゆえに認められ、当事者に手続保障がなされていることにより正当化される。既判力の主観的範囲は、当事者の口頭弁論終結後の承継人に及ぶ(115条1項3号)。そうしないと紛争が蒸し返されるからである。このような紛争蒸し返し防止の観点から、「承継人」とは、紛争の主体たる地位を承継した者を言うと解する。
 本件では、訴訟物はX→Y1、Y1→Y2の各甲土地所有権移転登記の抹消登記請求権であるが、甲土地について所有権を主張する者が紛争主体である。よって、Y2から甲土地所有権を承継したZは、本件紛争の主体たる地位を承継したと言え、「承継人」に当たる。したがって、Zに対して既判力が及ぶ。               以上
 

2017年04月09日

刑法 予備試験平成28年度

回答
1 保険会社に対して自作自演の放火により保険金請求しようとして請求しなかった点に詐欺未遂罪の共同正犯(60条、250条、246条1項)の成否を検討するに、詐欺罪は保険金の請求の時点で保険会社の財産の詐取に対する現実的危険が生じるため実行の着手時期は保険金請求時と解すべきところ、甲及び乙は請求していないので、未遂にすらならない。したがって、詐欺未遂罪は成立しない。
2 甲宅及び乙宅を放火した点について、放火罪の共同正犯(60条、108条ないし109条)の成否を検討する。
(1) 甲宅内にX発火装置を置き、9月8日午後9時に発火するように設定した行為について
ア 「放火」と言えるか。放火罪の実行着手時点は「放火」したときであるが、実行の着手というのは法益侵害の現実的危険性を惹起した時点で認められるところ、108条の保護法益は公共の危険であり、そうするとX発火装置のような時限装置を一定時間後に発火するようにセットした時点で公共の危険に対する現実的危険性が惹起されたと言えるから、「放火」と言えると解する。
イ 「焼損」と言えるか。放火罪の保護法益は公共の危険であり、火が独立して燃焼するに至れば公共の危険は発生するから、「焼損」すなわち放火罪の既遂時期は火が独立して燃焼するに至った時点と解する。本件では、X発火装置から出た火は甲宅の木製の床板に燃え移ったから、独立燃焼するに至っている。したがって、「焼損」と言える。
ウ 甲と乙は、甲宅内にBがいることに気づいていないから、108条の故意(38条1項、犯罪事実の認識・予見)があるか問題となる。108条が109条よりも重い刑を定めているのは犯人以外の者の生命に対する危険を特に保護しているためと解されるから、「人」とは犯人以外のものを指す。甲宅は甲が一人で住んでいたのだから現住性はない。しかし、放火当時、甲宅にはBがいたのであるから、「現に人がいる」(現在性)と言える。しかし、甲及び乙は、いずれも甲宅には甲しか住んでおらず、放火の際に人はいないと認識していたのだから、現住性・現在性いずれの認識もない。そのため、甲及び乙には108条の故意がない。
 異なる構成要件間の錯誤の場合は、構成要件が実質的に重なり合う範囲で軽い犯罪が成立すると解されている。108条と109条は構成要件が形式的にも実質的にも重なり合っているから、軽い109条の放火罪が成立する。
エ 甲宅は、甲にとっては自己所有物(109条2項)であり、乙にとっては他人所有物(109条1項)であるところ、乙については109条1項の共同正犯が成立する。甲について、共同正犯は二人以上が共同して特定の犯罪を実現する場合に単独犯の構成要件を拡張したものであるところ、構成要件が重なり合う範囲で軽い共同正犯が成立すると解するから、甲には109条2項の共同正犯が成立する。
(2) 乙物置にY発火装置を置き、9月8日午後9時30分に発火するように設定した行為について
ア 乙建物は、たしかに現在Aがいないが、乙の内妻Aが起臥寝食に使用しているので現住性がある。そのため、甲乙両者にとって108条の建造物に当たる。
イ 「放火」と言えるかについて、建造物放火罪の公共の危険は建造物そのものに対して放火されなくても建造物と物理的一体となっている延焼可能性のあるものに放火されれば発生するところ、乙物置は乙宅とは屋根付きの長さ約3メートルの木造の渡り廊下でつながっている木造の小屋だから、乙宅と物理的一体となっている延焼可能性のあるものに当たる。そのため、乙物置に対する放火は建造物放火罪の「放火」に当たる。
ウ 「焼損」と言えるかについて、本件で独立燃焼したのはY発火装置と段ボール箱及び同は庫内の洋服の一部のみであって、乙物置自体は独立燃焼するに至っていないから、「焼損」とは言えず、未遂罪(112条)が成立するにとどまる。
エ 乙は発火時刻頃に翻意して消火活動を行ったから、共犯からの離脱が認められないか。共同正犯を含む共犯の処罰根拠は特定の構成要件的結果に因果性を及ぼすことにあるから、物理的因果性及び心理的因果性の双方を除去した場合に共犯からの離脱が認められると解する。本件では、乙は消火活動をして結果ジャッキの物理的因果性を除去したが、甲に対して何ら連絡を取っておらず心理的因果性を除去していないから、共犯からの離脱は認められない。
オ では、乙の消火活動が中止未遂となって犯罪が必要的に減免されないか(43条但書)。中止未遂の趣旨は未遂の段階にまで至った行為者に刑の必要的減免という特別の効果を与えることによって結果惹起防止を最後まで図ることである。要件は@「自己の意思により」、A「犯罪を中止した」(意識的危険消滅)であり、違法減少を前提とした責任減少が根拠と解する。@は行為者の認識した事情が経験上一般に犯罪の障害となるようなものか否かを基準として判断し、Aは実行中止の場合には危険消滅のための「真摯な努力」をしたか否かを判断すべきと解する。本件では、乙は「Aには迷惑を掛けたくない」こと及び「近所にも迷惑を掛けたくない」ことを認識しており、これは経験上一般に犯罪の障害とはならないから@を満たす。また、消火活動を最期まで遂げて危険を消滅させているので、Aも満たす。したがって、乙には43条但書が適用される。
3 甲宅に侵入した行為について、乙は甲の黙示の同意を得ていると解されるから住居侵入罪(130条)は成立しない。乙宅に侵入した甲は、Aの同意を得ていないから住居侵入罪が成立する(130条)。
4 罪数
 前提として、甲宅と乙宅は直線距離で2キロメートルという遠い距離があるから、それぞれに対する放火は別々の公共の危険を発生させるとみるべきである。そうすると、すでに検討したように、甲には@甲宅の放火について109条2項の共同正犯、A乙宅への侵入について住居侵入罪の単独犯(130条)。B乙宅の放火について115条・108条の共同正犯が成立し、AとBは牽連犯(54条1項後段)となり、@とBは併合罪(45条)となる。乙には、甲宅の放火について109条1項の共同正犯、乙宅の放火について115条・108条の共同正犯が成立し、後者については45条但書が適用されて刑が必要的に減免される。両者は併合罪となる。                              以上

posted by izanagi0420new at 23:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 刑法

2017年04月07日

民法 予備試験平成28年度

回答
1 DのBに対する請求
(1)  支払済みの代金500万円の返還請求は、売買契約解除により発生した原状回復請求権に基づくものである(民法561条前段)。
要件は、@売買契約締結、A権利移転不能(取引通念上権利移転が期待できない場合を意味すると解する。)、B解除の意思表示と解される(以上561条前段)。本件では、@平成27年5月22日に、BD間でC所有の甲機械の売買契約が締結されており、A同年9月22日にCがDに対し甲機械の返還請求をしたことにより取引通念上権利移転が期待できなくなっており、B同月30日にDはBに対し契約解除の意思表示をしている。
   解除の効果について明文はないが、契約関係の遡及的消滅と解する(545条1項本文参照)。そうすると、Bは法律上の原因なく500万円を所持していることになるから、Dは前記500万円について不当利得返還請求権(703条)を有する。
(2)  乙機械購入のための40万円をDが請求するとしたら、根拠は債務不履行に基づく損害賠償請求権が考えられる(民法415条)。確かに、561条後段は、契約時において権利が売主に属さないことを知っていた時の損害賠償請求権を認めていないが、履行不能が売主の帰責事由によるときは、561条後段の規定にかかわらず、要件を満たす限り415条に基づく損害賠償ができると解する。
   要件は、@契約締結、A本旨不履行、B帰責事由である(以上415条)。本件では、以上に述べたところからいずれも@Aは認められる。B帰責事由について、所有権移転という結果債務(560条)の不履行は、不可抗力の場合を除き、帰責事由が認められる。本件では、BがDに所有権を移転できなかったことは不可抗力によるものではないから、Bに帰責事由が認められる。
   損害の範囲についての416条は相当因果関係を定めたものというのが従来の通説だが、契約時に両当事者が予見可能な損害を賠償させる規定と解する。本件では、契約締結時に、Bが権利を移転できないならばDは代替物を取得することは契約時にBD両者が予見可能だから、損害の範囲に含まれる。
したがって、Dは415条に基づき40万円の損害賠償請求権を有する。
(3)  甲機械の価値増加分50万円を請求するとしたら根拠条文は196条だが、同条は「回復者」に対する請求権であり、本件で甲機械の回復者はCであるから、Bに対する請求には理由がない。
   703条によることも考えられなくないが、Bには利得がないから、要件を満たさない。
2 DのCに対する請求
 修理による甲機械の価値増加分(50万円)は、占有者による有益費の償還請求権(196条2項)によるものである。Dが主張すべき要件は@「有益費」であること、A価格の増加が現存する場合であることである(196条1項本文前段)。「有益費」(196条2項)とは物の価値を増加させる費用をいうが、物の扱い方は本来所有者が決めるべき事柄であるし、賃借人が目的物の原状回復義務を有することと(616条、598条)のバランスから、必要な改良がおこなわれた結果としての価値増加額に限ると解する。本件では、@甲機械を「稼働させるためには修理が必要」であったから、Dの請求する50万円は必要な改良がおこなわれた結果としての価値増加と認められる。また、Aも認められる。
 もっとも、Cは「回復者」(196条2項本文後段)であるから、「支出した金額または増加額」を選択できる。Cはこの規定に基づき、増加額の50万円ではなく、Dが実際に支出した金額である30万円を選択することができる。
 したがって、Dの請求は30万円分に限り認められる。
3 【事実】5におけるBおよびCの主張
(1)  Bが乙機械を購入するための増加費用40万円を理由がないと主張する理由は、561条後段が、契約時に権利が売主に属さないことを知っていた他人物の買受人による損害賠償請求権を否定している点にあると考えられる。本件でBはDに対し、甲機械の所有権がCにあることを伝えているから、Dは561条後段の悪意である。しかし、判例は前述のように、415条の要件を満たす限りで415条に基づく損害賠償請求権を認めており、Dは415条に基づく損害賠償を主張しているのであるから、この主張は認められない。このように解すると561条1項後段が空文化するが、仕方がない。
(2)  Bが甲機械の価値増加分50万円を理由がないとする主張は、前述のように認められる。
(3)  Cが甲機械の価値増加分50万円を理由がないとする主張は、前述のように認められないが、Cは「回復者」として支出額を選択できる。
(4)  B及びCが、Dに対し、甲機械の使用相当額25万円を求める根拠は何か。使用相当額は「果実」であるから190条1項によるべきとも思える。しかし、189条や190条は物権の帰属状態の正常化を想定した条文であり、本件のような契約関係の巻き戻しの場合に適用すべきでない。575条によるべきとも思えるが、同条は両当事者の給付が均衡していることを前提としているから、本件のように不均衡の場合に適用するのは妥当でない。契約解除の場合には、互いに契約関係がなかった状態に戻すことを重視すべきであるから、公平を趣旨とする不当利得法の規定によるべきである。
   主張権者はBかCか。Bは甲機械の所有権を有していないから、甲機械の使用利益が帰属せず、したがって甲機械が生み出した利益はBの損失とはならない。そのため、主張権者はCである。
   Cが主張すべき704条の要件は、本件のような侵害利得の場合には@Dの利得とAその利得がCの権利に基づくこと(以上703条)、並びにBDの悪意(704条)である。ABは明らかに認められるから、Cは@が25万円であることを証明すれば、Bに対する25万円の不当利得請求権を有する。
(5)  そうすると、DはCに対して30万円の費用償還請求権を有し、CはDに対して25万円の不当利得請求権を有しており、これらは同じ金銭債権であって弁済期にあるから、相殺できる(505条1項)。
    したがって、CはDに対し、5万円を支払えば足りる。    以上


posted by izanagi0420new at 23:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 民法

2017年04月06日

憲法 予備試験平成28年度

回答
1 Xからの主張としては、助成の要件として本件誓約書を提出させることの憲法19条違反が考えられる。
(1) 19条は、日本が明治憲法下で治安維持法の運用に見られるように特定の思想そのものを弾圧したことから、諸外国の憲法に内心の自由そのものを規定した条文がないのに、あえて規定されたものである。「思想」(「良心」も同義と解する。)とは、世界観・人生観・主義・主張など個人の人格的な内面的精神作用を広く含むと解する。Xが法律婚のみならず事実婚も支援しているのは、結婚に関する価値観は多様であるというXの世界観に基づくものであり、これは「思想」に該当する。
(2) 「犯してはならない」とは、保持強制の禁止・表明強制の禁止・不利益取扱いの禁止を意味すると解する。
 Xとしては、本件誓約書の内容が、法律婚のみを評価し、法律婚のみを推進する内容であることが、前述のXの「思想」に反する思想の表明強制であり、また、補助を打ち切ることが、特定の思想に対する不利益取扱いに当たると主張したい。
これに対してAは、誓約書に事実婚を否定する文言がないことから表明強制にあたらず、また、補助金を受ける地位という有利な法的地位を否定するだけであるから不利益取扱いに当たらないと主張したい。
(3) 私見は以下の通りである。
ア 表明強制の点
たしかに「単に事態の真相を告白し陳謝の意を表するにとどまる程度」であれば、思想表明の強制に当たらないとした判例があるが、本件誓約書は陳謝の意を表することさえなく、ただ法律婚の評価を述べているに過ぎないのであって、事実婚を評価するXの思想と両立しうるものとも思える。
 しかし、本件誓約書は「法律婚が、経済的安定をもたらし、子どもを生みやすく、育てやすい環境の形成に資する」という法律婚の評価のみならず、「自らの活動を通じ、法律婚を積極的に推進し、成婚数を上げるよう力を尽くします。」という宣誓も含んでおり、この宣誓部分は、事実婚をも尊重するというXの活動方針とは非両立である。そのため、単に形式的に陳謝の意を表明させることを合憲とした先の判例を前提としても 本件誓約書を提出させることは、Xの思想と異なる外部的行為を求めることになるため、その限りで、Xの思想に対する間接的制約となる。
イ 不利益取扱いの点
 Aの言う通り、補助金を打ち切ることそれ自体は一般人よりも有利な法的地位の否定に過ぎず、制約に当たらない。
 しかし、助成の申請に対し本件誓約書を提出させるという運用は、助成を手段として上記Xの思想と異なる外部的行為を求めるものと評価できるから、その限りで、やはりXの思想に対する間接的制約となる。
(4)ア もっとも、間接的制約であっても政策との関係で必要かつ合理的なものである場合には許されるべきところ、政策目的や制限の程度は様々だから、政策の目的及び内容並びに制約態様を総合的に較量して、当該政策に当該制約を許容しうる程度の必要性及び合理性があるかを判断すべきである。
イ これを本件についてみるに、A市は10年前に本件条例を制定して少子化対策を進め、その一つとして結婚支援事業があり、Xは本件条例の制定当初から結婚支援事業の事業者として助成を受けていた。しかし、A市では少子化が急速に進行したため、本件条例が未婚化等の克服を目指す内容に改正され、女性についても成婚数を上げることを重視する方向転換がなされた。本件誓約書は、この方針転換に伴い、要項によって義務付けられたものだから、本件誓約書は、少子化克服が主たる目的をなし、未婚化等の克服は、あくまで少子化克服の手段にすぎないから、副次的補充的目的と解される。この政策目的自体は、人口がGDPに比例するという顕著な事実にかんがみ、合理性が認められる。
 しかしながら、少子化克服を達成するための手段として未婚化克服をすることは、非嫡出子の相続分を嫡出子の半分とする民法の規定が違憲とされた現在では、合理性が認められない。また、未婚化克服を目的として、誓約書を提出させるという手段も、たとえば従来の成婚数に応じて補助金の額を変えるという、より制約的でない方法をもって必要十分と考えられるから、必要性が認められない。
 これを要するに、本件誓約書を提出させることはXの思想の自由に対する間接的制約になるに過ぎないが、政策内容にかかる間接的制約を許容しうる程度の必要性・合理性が認められない。
2 したがって、Xに本件誓約書を提出させることは、Xの思想の自由を侵害し、憲法19条に違反する。                               以上
 
posted by izanagi0420new at 23:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 憲法

2016年05月07日

事例研究行政法第2版 第1部問題10 自然公園の開発不許可をめぐる紛争

設問1−1
 自然公園法上の特別地域の指定(同法20条1項)が「処分」(行訴法3条2項)に当たるかが問題となる。
 処分とは、国又は公共団体の行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し、またはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。この定義から、ある行政行為が処分であることの要件は@公権力性、A法効果性、B個別具体性(紛争の成熟性)と解される。
 本件は@Aは認められるが、問題はBである。特別地域に指定されると、その地域に土地を所有する者は20条3項各号の行為を行うのに、国定公園にあっては都道府県知事の許可が必要になる。このような制限は特別地域内に権利を有する者すべてに科せられる不利益であり、個別性がないといえる。また、許可を受ければ20条3項各号の行為ができるのであるから、不許可処分が出た場合に初めて不利益が具体化するものであり、具体性がないと言える。
 したがって、Bの要件を満たさず、処分に当たらないため、Xは本件指定の取消訴訟を提起できない。
設問1−2
1 Xは、Dが20条3項本文の許可処分をすることの義務付訴訟(行訴法3条6項2号)と、不許可処分の取消訴訟(同3条2項)を併合提起(同37条の3第3項2号)すべきである。
2(1)違法性の主張としては、一般的に取消訴訟ではすべての違法を主張できるのが原則である(例外は行訴法10条1項、2項)。そのため、Xは本件不許可処分の違法性のみならず、環境大臣が行った国定公園の指定(自然公園法5条2項)の違法性を主張することができる。具体的には、国定公園の指定が関係者の所有権尊重義務(自然公園法4条)に違反するものであることや、財産権(憲法29条)を侵害するものであることを主張しうる。
(2)また、不許可処分自体の違法性として、Xが行おうとしている約80haの区域の立木の皆伐は、自然公園法20条3項2号の「木竹を伐採すること」に当たるが、同法施行規則11条14項基準に適合するため、不許可処分は裁量権濫用であることを主張しうる。
設問1−3
1 損失補償制度は、公益の実現のため個人の特別の犠牲によって生じた損失を平等原則(憲法14条)及び財産権(憲法29条)の趣旨に基づいて国民全体の負担とするための制度である。損失補償の要否は、@規制の対象が一般的か個別的か、A規制の程度が重大か、B規制の目的が消極的か積極的か、C規制の態様が財産権に内在する制約と言えるかという観点を総合的に考慮して決められる。
 本件はXを対象としているから個別的である。そして、規制の程度は所有する土地の木を利用することができないのだからある程度の重要性はある。そして、規制の目的は自然保護、生物多様性の確保(自然公園法1条)という積極目的である。そして、侵害態様は所有する土地の木を換金することを禁止するものであり、財産権に内在する制約とは言えない。
 したがって、Xの損失補償請求は認められる。
設問2
 自然保護団体A及び地元の自然愛好家で「甲山の自然を守る会」会長Eに原告適格(行訴法9条1項)が認められるかが問題となる。
 原告適格は処分によって法律上保護された利益を侵害され、または必然的に侵害されるおそれのある者に認められ、法律上保護された利益があると言えるためには、法が当該利益を個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むことが必要である。そのような趣旨を含むか否かは9条2項の事由を考慮して個別法規を判断する。
 自然公園法は自然保護等を目的とし(1条)これ自体は個々人の利益を保護していないが、関係法令である同施行令11条14項4号は、「学術研究」「地域住民」と定めているから、学術研究者や地域住民の利益をも保護しているという議論も可能性はある。しかし、「学術研究」「地域住民」という文言はなお広範すぎる。しかし、ある私人への処分によって不特定多数の第三者が不利益を受ける場合に、その第三者のなかで誰も原告適格が認められないということになると、行政庁の処分を司法の場で争う機械がなくなってしまうから、法の目的と同じ目的を追求するために活動する団体には、政策的に原告適格を認めるべきという議論がある。
 しかし、前述した現行法の原告適格の判断枠組みはそのような団体の原告適格を想定したものではなく、これを認めると、個別具体的な事例において原告適格を認められる団体と認められない団体の線引きが直ちに問題になると言わざるを得ず、現行法の解釈としては採用できない。
 したがって、本件でも、A及びEの原告適格を認めることはできない。 以上

事例研究行政法第2版 第1部問題9 国立公園内での転落事故をめぐる紛争

回答
1 歩道の設置管理の瑕疵を国賠法2条1項で争えるか検討する、
2 国賠法2条は公の営造物の設置管理の瑕疵による損害を賠償させるための規定であり、要件は@公の営造物であること、A設置管理に瑕疵があることである。@について、公の営造物とは国又は公共団体により公の目的に供される有体物であり、自然公物、動産も含む。実際に公の目的に供されているかが決め手となる。Aについて、設置管理は事実上のもので足りる。瑕疵とはその物が通常有すべき性質を有していないことすなわち危険性を有することを指し、供用関連瑕疵により生じる第三者への危険性も含まれる。もっとも、全く危険性のない物というのは想定できず、生活関係の中で受忍すべきものと一般的に考えられている危険性に対してまで賠償義務を発生させるのは適切でないから、その危険性が社会生活上受忍すべき限度を超える場合に、原則として損害賠償義務が発生すると解する。また、瑕疵の有無の判断は@危険の存在、A損害発生の予見可能性、B損害の回避可能性、を総合的に考慮する。もっとも、公平のためBは抗弁事項と解する。
3 本件では、問題となる柵は@海岸線の歩道に設置されたものであるから設置場所として一般的な危険が存在している。
 そして、問題となるのはA予見可能性である。たしかにXは柵の上のパイプに腰を掛け、下のパイプに足を置き、海側に背を向けて座っており、このように柵をベンチ代わりに使うことは柵の通常の用法に反するから予見不可能とも思える。テニスコートの審判台を本来の用法と異なった使い方をしたため瑕疵が否定された事例もある。しかし、異なる使い方が常態化しており、国や公共団体側にこのような異なった使い方が蔓延することに対する是正責任がある場合には、予見可能性はあるというべきである。
 そうして改めて本件を見ると、問題の歩道は甲県乙市の観光地であり、歩道は観光客を増加させるために乙市の要望で甲県が設置したものである。観光地であるからその歩道を歩くのは観光客であり、飲酒をしていたり歩き疲れていたりすることも多いことが容易に想定される。そして、実際に観光客が従来から防護柵やその周辺に座ることがよくあり、乙市もその事実を把握していた。そうすると、予見可能性はあったというべきである。
 そして、ベンチを設置したり、防護柵を改造したり、「座るな」の警告文を掲出する等の対応で、本件は容易に回避できたと認められる。
4 したがって、本件で歩道の設置者である甲県と、実際に管理を事実上行っていた乙市には損害賠償責任がある。
5 また、費用負担者である国や、事実上管理を行っていた乙市も、国賠法3条によって責任を負う。国賠法3条の趣旨は被害者の救済の便宜であり、道路の設置者と費用負担者が異なる場合が適用の典型例であるが、本件にも当てはまる。  以上

事例研究行政法第2版 第1部問題8 飲食店における食中毒をめぐる紛争

回答
 国家賠償制度は、公務員による公権力の行使によって生じた損害を国又は公共団体に賠償させる制度である。その責任の性質について、公務員の責任の代位責任とする説があるが、加害公務員が不特定の場合に国又は公共団体に責任を問えなくなるので妥当でない。責任の性質は、国又は公共団体が公務員を通じて危険を生じさせていることに対する自己責任であると解する。
 なお、通常の不法行為との違いは、求償の要件に故意・過失が加わっていること(国賠法1条2項)、及び使用者の免責規定がないことである。
 国賠法1条による損害賠償が認められるための要件は、@公権力の行使であること、A公務員であること、B「職務を行うについて」、C故意・過失、D違法性、E損害の発生である。@は権力的作用を意味するという説もあるが、私経済作用と2条が適用されるものを除くすべての行為と解する(広義説)。Aは組織法上の概念ではなく、公権力の行使を行うものであれば民間人でも公務員に当たる。Bは職務関連性を意味し、その有無は外形から判断する。Dについて、民法上は権利の性質と侵害態様の相関関係で判断するという説が伝統的通説だが、国賠法の違法はこれと異なる。取消訴訟で争われる違法性との比較でいうと、取消訴訟では法令違反という意味で違法性が使われるのに対し、国賠訴訟では公務員が職務上の法的義務を尽くしたか否かという観点から違法性が判断される(違法性二元説)。
 以上が要件の一般論であるが、本件のように規制権限の不行使が争われる訴訟類型では何が違法性を根拠づけるか問題が生じる。一般に行政庁の規制権限行使は裁量事項である場合が多く、また、行政庁は公益のために規制権限を行使するのであって行政庁による規制権限の行使により私人が受ける利益は反射的利益とされ、それ自体は法的保護に値しないとも考えられるからである。しかし、一定の場合には裁量権が収縮すると構成したり(裁量権収縮論)、第三者の権利の重要性から行政庁に作為義務が生じると構成したり(作為義務論)することにより、規制権限不行使の場合の違法性を基礎づけるべきである。判例は、行政庁の規制権限の不行使が、その権限を定めた法令の趣旨目的、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下で、不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により損害を受けた者との関係において、国賠法1条1項の適用上、違法となると解している。
 本件では、飲食店Pの施設の管理ないし設備は食品衛生法50条及び51条に基づき同施行令及び施行条例の定める基準に適合しない事態になったのだから、A県知事は同法56条に基づきPの営業停止命令を出すべきであった。しかしA県知事は職務上の注意義務を尽くすことなく漫然と行政指導をしたのみである。食品衛生法は国民の健康の保護を図ることを目的とするもので、規制権限が適切に行使されずに食中毒が発生した場合には人命にかかわることから、その失われる利益の大きさを考慮すると、規制権限の行使が飲食店の営業の自由を考慮しても、安全性が確信される程度の規制権限が行使されるべきであった。にもかかわらず保険所長Cは、Pが過去に処分を受けたことがなかったこと、経営者が改善を口約束していることなど、過大に考慮すべきでない事実を過大に考慮して規制権限を発動しなかったのであるから、このようなA県の権限不行使は、Xとの関係で、国賠法1条1項の適用上、違法である。
 したがって、それにより発生したGの死亡について、Aは損害賠償責任を負う。 以上

事例研究行政法第2版 第1部問題7 指定管理者をめぐる紛争

設問1
1 Bは、利用許可処分の義務付訴訟(行訴法3条6項2号)と申請拒否処分の取消訴訟(同3条2項)を併合提起し、甲市の市民会館利用規則が条例16条の委任の範囲を超え無効であると主張しうる。
2 
(1)甲市文化会館は、住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設だから「公の施設」(地方自治法244条1項)に当たる。公の施設は住民の福祉向上を目的とする施設だから、公の施設の指定管理者(地方自治法244条の2第3項)は、住民の利用申請があった場合には、正当な理由がない限り、原則として利用許可処分をしなければならない(地方自治法244条2項)。甲市文化会館条例は、地方自治法244条の2第1項の委任を受けて甲市文化会館の設置管理のために設けられた委任条例であるが、同条例11条2項が不許可の事由を列挙したのは、地方自治法の規定により許可処分を出すことが原則だからである。そうすると、同条例11条2項は限定列挙であり、同条例は会館の管理等に関し必要な事項の定めを規則に委任しているが、規則において新たに不許可の要件を創設的に定めることは予定されていないというべきである。
(2)そうすると次に問題となるのは「甲市以外の普通地方公共団体の住民は、小会議室の利用については、利用日以前の事前の利用申込みはすることができない」と定めた利用規則が新たに不許可の要件を創設的に定めたものであるか否かである。条例11条2項4号は「その他利用させることが会館の管理上支障があると認められるとき」と、解釈の幅のある規定となっており、前述の利用規則は「会館の管理上支障があると認められるとき」を単に具体化しただけであって、新たに不許可の要件を創設的に定めたものではないと見ることも考えられるからである。そこで利用規則の内容を見るに、利用規則の主語は甲市以外の普通地方公共団体の住民であるから、利用規則は甲市の住民と甲市以外の住民を区別し、甲市の住民の利用を優先させる趣旨の規定と言える。たしかに条例11条2項には甲市の住民と甲市以外の住民を区別している不許可要件はないため、このような区別は条例の予定しない不許可要件を創設的に定めたものとも考えうる。しかし、そもそも普通地方公共団体の公の施設は住民の福祉を増進する目的で設置管理されるものであるから、当該公共団体の住民とその他の住民を区別することが当然に違法となるわけではない。もとより、厳密に住民でなければ一切使用できないというような運用には問題があるが、住民と住民以外を問わず利用申込が多く利用の競合が頻繁に起こる公の施設において住民を優先的に利用させる不許可要件は、それが他の住民の利用を不当に阻害するものでないかぎり、「管理上支障があると認められる」(条例11条2項4号)場合の一つとして許されると解する。
(3)本件では、甲市の小会議室は交通至便の地にあり人気があって利用頻度が極めて高く、これまで甲市以外の住民の利用が多すぎて実にしばしば甲市の住民が利用できないことが多かったという立法事実があり、利用の競合が頻繁に起こる公の施設と言える。そして、甲市以外の住民は一切利用できないわけではなく、利用申込ができないのみであり、当日に空きがあれば利用できるのであるから、甲市以外の住民の利用を不当に阻害するものとは言えない。
3 したがって、利用規約は「管理上支障があると認められる」(条例11条2項4号)を具体化したものであり、条例16条の委任の範囲を超えるものではなく、適法である。
設問2
1 Cは、設問1と同様に、利用許可の義務付訴訟と利用許可の取消処分の取消訴訟を併合提起すべきである。

(1)実体法上の違法事由
 Cに会館の利用を許可したことが条例15条1号、11条2項1号、4号に当たるとするAの判断は、事実誤認及び他事考慮があり、裁量権を逸脱して違法であると主張しうる。
 条例11条2項1号は「秩序を乱し」「公益を害するおそれ」など抽象的な文言が使われており、具体的な申請された集会がそれらの事由に当たるか否かの判断には裁量が認められる。もっとも行政庁に裁量が認められる処分であってもその判断が事実の基礎を欠き、または社会通念上著しく妥当を欠くときは裁量権の逸脱・濫用として違法となると解する。
 本件はAはCに「内ゲバ事件」が起きたと判断したと考えられるが、捜査中の警察においてすらまだ「内ゲバ事件」と断定されたわけではないので事実誤認がある。また、申請された利用日に会館で結婚式が行われることから、葬儀が場にふさわしくないものと判断された可能性があり、そうだとすると11条2項各号以外の事由に基づいて許可処分を取り消したことになるため、他事考慮がある。
 したがって、本件許可処分の取消は裁量権の逸脱であり違法である。
(2)手続法上の違法
 本件許可の取消処分は条例15条に基づくものであるから、行政手続法の適用を受けない(行手法3条3項)が、同内容である甲市の行政手続条例の適用を受ける。条例15条による許可の取消は、Aが条例に基づきCを名宛人として直接に権利制限をする処分であるから、行手法上の不利益処分(行手法2条4号)にあたる。したがって理由の提示が必要となるが(同14条)、理由提示の趣旨は行政庁の恣意を抑制し、また不服申立ての便宜を与えることであるから、理由付記の程度は、いかなる事実がいかなる法規の適用を受けたのかの判断を記載自体から被処分者が了知しうる程度にする必要があると解する。
 本件では適用の条文が示されているだけで、いかなる事実が問題とされたのかをCが了知することができない。
 したがって、本件の理由提示は行手法14条と同内容の甲市行手条例に違反する。
設問3
1 Aは、指定管理者の指定取消処分(条例8条)の取消訴訟を提起することが考えられる。
2 
(1)実体法上の違法理由
 @喫茶店の設置と地元名産品の販売は公の施設の管理の範囲内であり、行政財産の目的外使用ではないから、条例7条1号に違反しないこと、A指定の取消しは営業停止措置等の打撃緩和措置を介在させない点で比例原則違反であることを主張できる。
ア @について
 指定管理者の権限は公の施設の「管理」(地方自治法244条の2第3項)であるが、どのような行為が「管理」の範囲内であるかは困難な問題を生じうる。一般的に言えば、公の施設の設置目的は住民の福祉向上であり(244条1項)、指定管理者への管理の委任の目的は設置目的の効果的達成である(244条の2第3項)ため、指定管理者は住民の福祉向上を達成するため行政機関が自ら行うのでは実施しにくい創意工夫を凝らすことが予定されていると言いうる。他方、指定管理者は普通地方公共団体が指定するものであり、長または委員会は管理業務内容について指示する権限があり(同10項)、指定を取り消す権限もあること(同11項)から、何が「管理」に当たるのかの判断権限は第一次的には地方公共団体にあり、裁判所はその判断が裁量権の逸脱濫用に当たらないかぎりその判断を尊重すべきである。いかなる場合に裁量権の逸脱濫用となるかについては、行政庁の判断が重要な事実の基礎を欠き、または社会通念上著しく妥当を欠く場合と解する。
 管理業務が収益を伴う場合があるが、客観的に収益を上げることが直ちに福祉の向上の目的を超え、ひいては管理の範囲を逸脱するわけではない。収益的事業が管理の範囲を超えるか否かは、指定管理者の意図、収益事業の規模、提供されているサービスや販売されている物の内容を総合考量して判断すべきである。
 そうしてみると、本件のAが行った喫茶室の設置と地元名産品の販売は、サービスの内容としては利用者に憩いの場を提供し、また地場産業の活性化に資するものであり、住民の福祉の向上のためのものでないとは言えない。収益規模は不明であるが、Aの意図としても管理の目的を超えない。そうすると、本件の事業は住民の福祉向上を達成するためAが創意工夫をしたものであるから、行政財産の目的外使用には当たらない。
 そうすると、このようなAの事業をもっぱらの収益的事業と認定した甲市長の判断は社会通念上著しく妥当を欠くものと言える。Aの前記行為は地方自治法に違反するものではなく、したがって条例7条1号に違反するものでもない。
 したがって、甲市長の処分は違法である。
イ Aについて
 比例原則とは、私人の自由に対する制約は真に必要な場合でなければならない必要性の原則と必要な場合であっても目的と手段が比例していなければならないという過剰規制の禁止を内容とし、元来は警察行政に妥当する原則であったが、現在では侵害行政一般に妥当するものと解されている。
 指定管理者が条例8条の一に該当する場合に、市長は指定管理業務の取消処分の他、期間を定めた営業停止処分をすることができ、手段の選択に裁量が認められる(条例8条本文)。この手段の選択は自由裁量ではなく、指定管理者に適切に管理させる目的のために必要最小限度の手段を選択しなければならない。
 本件では、甲市長は営業行為を止める指示を出した後、直ちに指定取消処分を行っており、適切に管理させるための必要最小限度の手段を選択していない。
 したがって、比例原則違反の違法がある。
(2)手続違法
 指定取消処分は行手法上の不利益処分に当たるが、聴聞手続きを経なかったことを主張しうる。聴聞手続きを経れば結果が変わりえたと考えられるから、この違法は取消事由となる。 以上


事例研究行政法第2版 第1部問題6 住民票の記載をめぐる紛争

回答
1 あり得る訴訟類型
(1)抗告訴訟(行訴法3条)
 住民票の記載を処分とみた場合、住民票の記載処分の義務付け訴訟が考えられるが、これは住民基本台帳法(以下「法」という)14条2項が私人に申請権を付与したものとみるかどうかによって、申請型義務付訴訟(行訴法3条6項2号)なのか、非申請型義務付訴訟なのか(同1号)が分かれる。申請型義務付訴訟であるならば、2008年11月19日の応答を処分とみるか否かで併合提起する訴訟に違いが生じる。処分とみればその取消訴訟を併合提起することになる(行訴法37条の3第3項2号)。処分でないと見れば、住民票の記載処分の不作為の違法確認訴訟を併合提起することになる(同1号)。
 また、出生届を受理しない処分(本件不受理処分)の取消訴訟と、出生届の受理処分の義務付け訴訟の併合提起も考えられる。
(2)当事者訴訟(行訴法4条後段)
 確認対象として、@Aが住民票に記載されるべき地位にあること、AAが有権者となった後初めての選挙で選挙権を有することが考えられる。
2 考察
(1)抗告訴訟について
ア 住民票の記載(法8条)の処分性の有無
 処分とは、国又は公共団体の行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものを言う。住民票の記載が法効果を発生させるかが問題となるところ、選挙人名簿の登録は住民基本台帳に記録されている者をもとに行われる(法15条)から、住民票に記載がなければ選挙人名簿に登録されず選挙権(憲法15条)を行使できないことが確実になる。つまり住民票の不記載は、選挙権を行使できない法的地位に立たされることを意味する。したがって、住民票の記載は法効果性を有し、処分に当たる。
イ 法14条2項が申請権(行訴法3条6項2号)を付与したものか否か
 「申請」(行訴法3条6項2号)の意義は同法に定義がないが、行政手続法上の「申請」(2条3号)と同義と解される。そうすると、申請とは、@法令に基づき行政庁の許可等を求める行為であって、A当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。
 本件は、法14条2項に基づくものだから@を満たし、下位法たる施行令11条が応答義務を定めているからAを満たす。
 したがって、法14条2項は申請権を付与したものである。
 そのため、提起する訴訟としては、申請型義務付訴訟が正しい。
ウ 2008年11月19日の応答の処分性の有無
 この応答は住民基本台帳法施行令に基づいているから法に基づいているものと言える。また、前述のように住民票の不記載は選挙権を行使できない法的地位に立たされることを意味するから、法効果性を有する。
 したがって、この応答は処分性を有する。
 そのため、提起すべき申請型義務付訴訟は行訴法37条の3第1項2号に基づくものであり、併合提起するのは応答処分の取消訴訟である(同3項2号)。
(2)当事者訴訟について
 要件は@確認対象の適切さ、A即時確定の利益の存在、B方法選択の適切さである。
 @確認対象としてAを選ぶのは、Aがまだ1歳未満の子供であることを考えると、即時確定の利益がなく、確認の利益を欠くため不適法である。したがって、当事者訴訟を選択するならば、確認対象は@とすべきである。
 Aしかし、Aはまだ1歳未満の子供であるから、選挙権を行使するまでにはまだ間があるため即時確定の利益はない。さらに、B抗告訴訟が提起できるから、方法選択としても適切ではない。
 したがって、当事者訴訟は提起すべきではない。
(3)結論
 法8条に基づく住民票の記載を求める申請型義務付訴訟と、2008年11月19日に行われた応答処分の取消訴訟を併合提起すべきである。
3 Aの本案の主張
(1)@嫡出子または非嫡出子の別は不合理な差別であり憲法14条1項に違反すること、A2008年11月19日の住民票の記載をしない旨の応答処分の法3条、8条、14条1項違反を主張しうる。
(2)@について
 家族制度をどのように定めるかは立法裁量事項であるが、個人の尊厳(憲法13条)という根本価値を無視してはならない。また、非嫡出子というのは人が社会において一時的にではなしに占める地位であり「社会的身分」(14条1項後段)にあたるから、この差別は厳格に審査しなければならない。嫡出子と非嫡出子を区別する目的は相続分に差を設けることであり、相続分に差を設ける目的は法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調和である。この目的は正当であるが重要性は相対的なものである。手段として嫡出子と非嫡出子の相続分に差を設けるのは、法律婚の尊重という制度設計上の便宜から生じる不利益を一方的に何の落ち度もない非嫡出子に押し付けるものであり、不合理である。
 したがって、嫡出子と非嫡出子の区別は不合理な差別であり、憲法14条1項に違反する。
 そのため、嫡出子と非嫡出子の区別が記載されていないことを理由に本件出生届を受理しなかった本件不受理処分は違法である。
 そして、出生届と戸籍の記載は法7条5号で関連付けられており、また、選挙権の付与を含む国民の保護という同一目的に向けられたものである。さらに、本件不受理処分の段階では未だAに具体的な不利益が及ぶおそれは小さかったと認められ、本件不受理処分を争わなかったことに非はない。そのため、本件不受理処分の違法は2008年の応答処分の違法に承継される。
(3)Aについて
 住民票の記載はある個人が住民であることを認める性質のものであり、記載の要件は提示された法文からは不明であるが、ある自治体内に住所を有すれば住民票に記載しなければならない性質のものであり、かつ、その判断は法3条、8条、14条1項の文言から裁量事項ではない。
 したがって、Aが甲市内に住所を有するのを認識しているにもかかわらず住民票に記載しない甲市長Dの応答は法3条、8条、14条1項に違反する。 以上

事例研究行政法第2版 第1部問題5 パチンコ店の営業許可をめぐる紛争

設問1
1 原告適格は処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)に認められる。法律上の利益を有する者とは、自己の権利または法律上保護された利益を必然的に侵害され、または侵害されるおそれのあるものをさし、当該法律が保護する利益が一般公益に吸収解消されることなく、個々の国民の個別的利益としても保護する趣旨を含むと解される場合に法律上保護された利益が認められる。処分の相手方以外の者について法律上保護された利益の有無を判断する場合には、9条2項の要素を考慮する。
2(1)風営法の目的は善良で清浄な風俗環境の維持と青少年の保護である(風営法、以下「法」1条)。その目的を達成するため、同法は営業時間(13条)、照度(14条)、振動・騒音(15条)、広告等(16条)を制限している。また、風俗営業を営もうとするものは都道府県公安委員会の許可を受けなければならず(法3条)、都道府県知事は、営業所が良好な風俗環境を保全するため政令で定める基準に従った都道府県の条例で定める地域内にあるときは許可をすることができない(4条2項2号)。そして政令で定める基準は風営法の「関係法令」(9条2項)たる風営法施行令6条に規定があり、そこでは住宅集合地域が定められている(施行令6条1号イ)。条例で定める地域はA県の場合資料2の条例が定めている。この条例は自主条例ではなく、風営法に委任された委任条例であるから「関係法令」に当たる。条例3条は第1種地域を指定しており(条例3条1号)、第1種地域には都市計画法の第1種低層住宅専用地域が含まれる(条例別表、都市計画法9条1項参照)。そうすると、風営法は風俗営業所の近辺の住宅の生活環境を保護する趣旨を含むというべきである。
(2)そして、住宅の生活環境は、当該住宅が営業所に近ければ近いほど乱れる性質のものであり、法令に違反した営業所が建てられた場合の生活環境の被害は、生命・身体の利益ではないものの、当該営業所が存在する限り昼夜を問わず発生し続ける。
 このように法の趣旨・目的並びに処分において考慮されるべき利益の内容・性質を考慮すると、法は風俗営業所の近辺の第1種地域に住宅を有し現に居住する住民ないし条例3条2号に該当する施設が良好な生活環境を害されないという具体的利益を、単に一般公益としてではなく、個別的利益として保護する趣旨を含むというべきである。
3 本件では、Qは本件パチンコ屋付近に居住する住民だが、商業地域内に居住する住民であるから、その良好な生活環境は保護されていない。一方、Rは第1種低層住宅専用地域に居住しており、その住居は本件パチンコ屋の駐車場から50メートルという近場にあるから、その良好な生活環境が条例3条1号によって個別的利益として保護されている。
4 したがって、Qには原告適格がないが、Rには原告適格がある。
設問2
 Rは、本件パチンコ屋の駐車場の一部が第1種地域(条例3条1号)内にあるにもかかわらず本件許可をしたことが、法4条2項2号違反であることを主張できる。
 一方、C小学校の教育環境が悪化するにも関わらず本件許可をしたことは、R自身がC小学校に通学中ないし通学予定の子を有していない以上、主張できない(行訴法10条1項)。
以上
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