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2016年05月07日

事例研究行政法第2版 第1部問題8 飲食店における食中毒をめぐる紛争

回答
 国家賠償制度は、公務員による公権力の行使によって生じた損害を国又は公共団体に賠償させる制度である。その責任の性質について、公務員の責任の代位責任とする説があるが、加害公務員が不特定の場合に国又は公共団体に責任を問えなくなるので妥当でない。責任の性質は、国又は公共団体が公務員を通じて危険を生じさせていることに対する自己責任であると解する。
 なお、通常の不法行為との違いは、求償の要件に故意・過失が加わっていること(国賠法1条2項)、及び使用者の免責規定がないことである。
 国賠法1条による損害賠償が認められるための要件は、@公権力の行使であること、A公務員であること、B「職務を行うについて」、C故意・過失、D違法性、E損害の発生である。@は権力的作用を意味するという説もあるが、私経済作用と2条が適用されるものを除くすべての行為と解する(広義説)。Aは組織法上の概念ではなく、公権力の行使を行うものであれば民間人でも公務員に当たる。Bは職務関連性を意味し、その有無は外形から判断する。Dについて、民法上は権利の性質と侵害態様の相関関係で判断するという説が伝統的通説だが、国賠法の違法はこれと異なる。取消訴訟で争われる違法性との比較でいうと、取消訴訟では法令違反という意味で違法性が使われるのに対し、国賠訴訟では公務員が職務上の法的義務を尽くしたか否かという観点から違法性が判断される(違法性二元説)。
 以上が要件の一般論であるが、本件のように規制権限の不行使が争われる訴訟類型では何が違法性を根拠づけるか問題が生じる。一般に行政庁の規制権限行使は裁量事項である場合が多く、また、行政庁は公益のために規制権限を行使するのであって行政庁による規制権限の行使により私人が受ける利益は反射的利益とされ、それ自体は法的保護に値しないとも考えられるからである。しかし、一定の場合には裁量権が収縮すると構成したり(裁量権収縮論)、第三者の権利の重要性から行政庁に作為義務が生じると構成したり(作為義務論)することにより、規制権限不行使の場合の違法性を基礎づけるべきである。判例は、行政庁の規制権限の不行使が、その権限を定めた法令の趣旨目的、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下で、不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により損害を受けた者との関係において、国賠法1条1項の適用上、違法となると解している。
 本件では、飲食店Pの施設の管理ないし設備は食品衛生法50条及び51条に基づき同施行令及び施行条例の定める基準に適合しない事態になったのだから、A県知事は同法56条に基づきPの営業停止命令を出すべきであった。しかしA県知事は職務上の注意義務を尽くすことなく漫然と行政指導をしたのみである。食品衛生法は国民の健康の保護を図ることを目的とするもので、規制権限が適切に行使されずに食中毒が発生した場合には人命にかかわることから、その失われる利益の大きさを考慮すると、規制権限の行使が飲食店の営業の自由を考慮しても、安全性が確信される程度の規制権限が行使されるべきであった。にもかかわらず保険所長Cは、Pが過去に処分を受けたことがなかったこと、経営者が改善を口約束していることなど、過大に考慮すべきでない事実を過大に考慮して規制権限を発動しなかったのであるから、このようなA県の権限不行使は、Xとの関係で、国賠法1条1項の適用上、違法である。
 したがって、それにより発生したGの死亡について、Aは損害賠償責任を負う。 以上
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