2016年05月07日
事例研究行政法第2版 第1部問題6 住民票の記載をめぐる紛争
回答
1 あり得る訴訟類型
(1)抗告訴訟(行訴法3条)
住民票の記載を処分とみた場合、住民票の記載処分の義務付け訴訟が考えられるが、これは住民基本台帳法(以下「法」という)14条2項が私人に申請権を付与したものとみるかどうかによって、申請型義務付訴訟(行訴法3条6項2号)なのか、非申請型義務付訴訟なのか(同1号)が分かれる。申請型義務付訴訟であるならば、2008年11月19日の応答を処分とみるか否かで併合提起する訴訟に違いが生じる。処分とみればその取消訴訟を併合提起することになる(行訴法37条の3第3項2号)。処分でないと見れば、住民票の記載処分の不作為の違法確認訴訟を併合提起することになる(同1号)。
また、出生届を受理しない処分(本件不受理処分)の取消訴訟と、出生届の受理処分の義務付け訴訟の併合提起も考えられる。
(2)当事者訴訟(行訴法4条後段)
確認対象として、@Aが住民票に記載されるべき地位にあること、AAが有権者となった後初めての選挙で選挙権を有することが考えられる。
2 考察
(1)抗告訴訟について
ア 住民票の記載(法8条)の処分性の有無
処分とは、国又は公共団体の行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものを言う。住民票の記載が法効果を発生させるかが問題となるところ、選挙人名簿の登録は住民基本台帳に記録されている者をもとに行われる(法15条)から、住民票に記載がなければ選挙人名簿に登録されず選挙権(憲法15条)を行使できないことが確実になる。つまり住民票の不記載は、選挙権を行使できない法的地位に立たされることを意味する。したがって、住民票の記載は法効果性を有し、処分に当たる。
イ 法14条2項が申請権(行訴法3条6項2号)を付与したものか否か
「申請」(行訴法3条6項2号)の意義は同法に定義がないが、行政手続法上の「申請」(2条3号)と同義と解される。そうすると、申請とは、@法令に基づき行政庁の許可等を求める行為であって、A当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。
本件は、法14条2項に基づくものだから@を満たし、下位法たる施行令11条が応答義務を定めているからAを満たす。
したがって、法14条2項は申請権を付与したものである。
そのため、提起する訴訟としては、申請型義務付訴訟が正しい。
ウ 2008年11月19日の応答の処分性の有無
この応答は住民基本台帳法施行令に基づいているから法に基づいているものと言える。また、前述のように住民票の不記載は選挙権を行使できない法的地位に立たされることを意味するから、法効果性を有する。
したがって、この応答は処分性を有する。
そのため、提起すべき申請型義務付訴訟は行訴法37条の3第1項2号に基づくものであり、併合提起するのは応答処分の取消訴訟である(同3項2号)。
(2)当事者訴訟について
要件は@確認対象の適切さ、A即時確定の利益の存在、B方法選択の適切さである。
@確認対象としてAを選ぶのは、Aがまだ1歳未満の子供であることを考えると、即時確定の利益がなく、確認の利益を欠くため不適法である。したがって、当事者訴訟を選択するならば、確認対象は@とすべきである。
Aしかし、Aはまだ1歳未満の子供であるから、選挙権を行使するまでにはまだ間があるため即時確定の利益はない。さらに、B抗告訴訟が提起できるから、方法選択としても適切ではない。
したがって、当事者訴訟は提起すべきではない。
(3)結論
法8条に基づく住民票の記載を求める申請型義務付訴訟と、2008年11月19日に行われた応答処分の取消訴訟を併合提起すべきである。
3 Aの本案の主張
(1)@嫡出子または非嫡出子の別は不合理な差別であり憲法14条1項に違反すること、A2008年11月19日の住民票の記載をしない旨の応答処分の法3条、8条、14条1項違反を主張しうる。
(2)@について
家族制度をどのように定めるかは立法裁量事項であるが、個人の尊厳(憲法13条)という根本価値を無視してはならない。また、非嫡出子というのは人が社会において一時的にではなしに占める地位であり「社会的身分」(14条1項後段)にあたるから、この差別は厳格に審査しなければならない。嫡出子と非嫡出子を区別する目的は相続分に差を設けることであり、相続分に差を設ける目的は法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調和である。この目的は正当であるが重要性は相対的なものである。手段として嫡出子と非嫡出子の相続分に差を設けるのは、法律婚の尊重という制度設計上の便宜から生じる不利益を一方的に何の落ち度もない非嫡出子に押し付けるものであり、不合理である。
したがって、嫡出子と非嫡出子の区別は不合理な差別であり、憲法14条1項に違反する。
そのため、嫡出子と非嫡出子の区別が記載されていないことを理由に本件出生届を受理しなかった本件不受理処分は違法である。
そして、出生届と戸籍の記載は法7条5号で関連付けられており、また、選挙権の付与を含む国民の保護という同一目的に向けられたものである。さらに、本件不受理処分の段階では未だAに具体的な不利益が及ぶおそれは小さかったと認められ、本件不受理処分を争わなかったことに非はない。そのため、本件不受理処分の違法は2008年の応答処分の違法に承継される。
(3)Aについて
住民票の記載はある個人が住民であることを認める性質のものであり、記載の要件は提示された法文からは不明であるが、ある自治体内に住所を有すれば住民票に記載しなければならない性質のものであり、かつ、その判断は法3条、8条、14条1項の文言から裁量事項ではない。
したがって、Aが甲市内に住所を有するのを認識しているにもかかわらず住民票に記載しない甲市長Dの応答は法3条、8条、14条1項に違反する。 以上
1 あり得る訴訟類型
(1)抗告訴訟(行訴法3条)
住民票の記載を処分とみた場合、住民票の記載処分の義務付け訴訟が考えられるが、これは住民基本台帳法(以下「法」という)14条2項が私人に申請権を付与したものとみるかどうかによって、申請型義務付訴訟(行訴法3条6項2号)なのか、非申請型義務付訴訟なのか(同1号)が分かれる。申請型義務付訴訟であるならば、2008年11月19日の応答を処分とみるか否かで併合提起する訴訟に違いが生じる。処分とみればその取消訴訟を併合提起することになる(行訴法37条の3第3項2号)。処分でないと見れば、住民票の記載処分の不作為の違法確認訴訟を併合提起することになる(同1号)。
また、出生届を受理しない処分(本件不受理処分)の取消訴訟と、出生届の受理処分の義務付け訴訟の併合提起も考えられる。
(2)当事者訴訟(行訴法4条後段)
確認対象として、@Aが住民票に記載されるべき地位にあること、AAが有権者となった後初めての選挙で選挙権を有することが考えられる。
2 考察
(1)抗告訴訟について
ア 住民票の記載(法8条)の処分性の有無
処分とは、国又は公共団体の行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものを言う。住民票の記載が法効果を発生させるかが問題となるところ、選挙人名簿の登録は住民基本台帳に記録されている者をもとに行われる(法15条)から、住民票に記載がなければ選挙人名簿に登録されず選挙権(憲法15条)を行使できないことが確実になる。つまり住民票の不記載は、選挙権を行使できない法的地位に立たされることを意味する。したがって、住民票の記載は法効果性を有し、処分に当たる。
イ 法14条2項が申請権(行訴法3条6項2号)を付与したものか否か
「申請」(行訴法3条6項2号)の意義は同法に定義がないが、行政手続法上の「申請」(2条3号)と同義と解される。そうすると、申請とは、@法令に基づき行政庁の許可等を求める行為であって、A当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。
本件は、法14条2項に基づくものだから@を満たし、下位法たる施行令11条が応答義務を定めているからAを満たす。
したがって、法14条2項は申請権を付与したものである。
そのため、提起する訴訟としては、申請型義務付訴訟が正しい。
ウ 2008年11月19日の応答の処分性の有無
この応答は住民基本台帳法施行令に基づいているから法に基づいているものと言える。また、前述のように住民票の不記載は選挙権を行使できない法的地位に立たされることを意味するから、法効果性を有する。
したがって、この応答は処分性を有する。
そのため、提起すべき申請型義務付訴訟は行訴法37条の3第1項2号に基づくものであり、併合提起するのは応答処分の取消訴訟である(同3項2号)。
(2)当事者訴訟について
要件は@確認対象の適切さ、A即時確定の利益の存在、B方法選択の適切さである。
@確認対象としてAを選ぶのは、Aがまだ1歳未満の子供であることを考えると、即時確定の利益がなく、確認の利益を欠くため不適法である。したがって、当事者訴訟を選択するならば、確認対象は@とすべきである。
Aしかし、Aはまだ1歳未満の子供であるから、選挙権を行使するまでにはまだ間があるため即時確定の利益はない。さらに、B抗告訴訟が提起できるから、方法選択としても適切ではない。
したがって、当事者訴訟は提起すべきではない。
(3)結論
法8条に基づく住民票の記載を求める申請型義務付訴訟と、2008年11月19日に行われた応答処分の取消訴訟を併合提起すべきである。
3 Aの本案の主張
(1)@嫡出子または非嫡出子の別は不合理な差別であり憲法14条1項に違反すること、A2008年11月19日の住民票の記載をしない旨の応答処分の法3条、8条、14条1項違反を主張しうる。
(2)@について
家族制度をどのように定めるかは立法裁量事項であるが、個人の尊厳(憲法13条)という根本価値を無視してはならない。また、非嫡出子というのは人が社会において一時的にではなしに占める地位であり「社会的身分」(14条1項後段)にあたるから、この差別は厳格に審査しなければならない。嫡出子と非嫡出子を区別する目的は相続分に差を設けることであり、相続分に差を設ける目的は法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調和である。この目的は正当であるが重要性は相対的なものである。手段として嫡出子と非嫡出子の相続分に差を設けるのは、法律婚の尊重という制度設計上の便宜から生じる不利益を一方的に何の落ち度もない非嫡出子に押し付けるものであり、不合理である。
したがって、嫡出子と非嫡出子の区別は不合理な差別であり、憲法14条1項に違反する。
そのため、嫡出子と非嫡出子の区別が記載されていないことを理由に本件出生届を受理しなかった本件不受理処分は違法である。
そして、出生届と戸籍の記載は法7条5号で関連付けられており、また、選挙権の付与を含む国民の保護という同一目的に向けられたものである。さらに、本件不受理処分の段階では未だAに具体的な不利益が及ぶおそれは小さかったと認められ、本件不受理処分を争わなかったことに非はない。そのため、本件不受理処分の違法は2008年の応答処分の違法に承継される。
(3)Aについて
住民票の記載はある個人が住民であることを認める性質のものであり、記載の要件は提示された法文からは不明であるが、ある自治体内に住所を有すれば住民票に記載しなければならない性質のものであり、かつ、その判断は法3条、8条、14条1項の文言から裁量事項ではない。
したがって、Aが甲市内に住所を有するのを認識しているにもかかわらず住民票に記載しない甲市長Dの応答は法3条、8条、14条1項に違反する。 以上
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