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2018年01月27日
民事訴訟法 百選[第5版⁆判例暗証用
百選8
権利能力なき社団が成立するためには、@団体としての組織を備え、A多数決の原理が行われ、B構成員の変更に関わらず団体そのものが存続し、Cその組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定していることを要する。財産的独立性については、固定財産を有していなくても、総合的に観察して当事者能力が認められる場合がある。
これらの要件を満たす団体には、民訴法上の訴訟能力が認められる。
※給付訴訟の被告となる場合に財産的独立性が必要とする見解があるが、当事者能力の判断が請求の内容ごとに異なることになり、妥当でない。
百選23
いわゆる遺言無効確認の訴えは形式上過去の法律行為の確認を求めることとなるが、@遺言が有効であるとすればそれから生ずべき現在の特定の法律関係が存在しないことの確認を求めるものと解される場合で、A原告がかかる確認を求めるにつき法律上の利益を有するときは適法である。
百選24
共有持分を有することの確認の訴えは許されるが、その原告勝訴の確定判決は原告が当該財産につき共有持分を有することを既判力をもって確定するにとどまり、その取得原因が被相続人からの相続であることまで確定するものではない。また、審判における遺産帰属性の判断には既判力が生じないから、後の裁判で遺産帰属性が否定される可能性があり、紛争の抜本的解決にならない。これに対し、遺産確認の訴えの既判力は当該財産が遺産分割の対象たる財産であることに生じ、紛争の抜本的解決に資する。
※遺産分割が行われることが前提。遺産分割が行われない場合には抜本的解決にならない。
百選38
係争中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは許されない
一個の債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起された場合において、当該債権の残部を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは、債権の分割行使をすることが訴訟上の権利の濫用に当たるなど特段の事情の存しない限り許される。
百選54
(債権譲渡に対する本件建物の売買)間接事実についての自白は裁判所を拘束しないのはもちろん、自白した当事者を拘束するものでもない
百選55
(消費貸借額が13万円か11万円かは、)ともに本件消費貸借が成立するに至った事実上の経緯に基づいてXが法律上の意見を陳述したものと認めるのが相当であって、これを直ちに自白と目するのは当たらない。
百選69
自己利用文書(220条4号ニ) 専ら内部の者の利用に供する目的で作成され外部の者に開示することが予定されていない文書であって、A開示すると所持者の側に看過しがたい不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には、B特段の事情がない限り、これに当たる。
百選76
債務不存在確認請求訴訟において、原告である債務者が訴えにおいて自認する金額を超える債務の存在を確認する場合に、債務の残額を確定することなく単に請求を棄却することは許されない
百選80
おのずから全部 被告の合理的期待
金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは、特段の事情がない限り、信義則に反して許されない
百選98
不動産の共有者の1人は、その持分権に基づき、共有不動産に対して加えられた妨害を排除することができるところ、不実の持分移転登記がされている場合には、その登記によって共有不動産に対する妨害状態が生じているということができるから、共有不動産について全く実体上の権利を有しないのに持分移転登記を経由している者に対し、単独でその持分移転登記の抹消登記手続を請求することができる
百選99
土地の所有者がその所有権に基づいて地上建物の所有者である共同相続人を相手方とし、建物収去土地明渡を請求する訴訟は、いわゆる固有必要的共同訴訟ではないと解すべきである。不可分債務
百選104
「利害関係」(42条)とは法律上の利害関係を言い、訴訟の結果について法律所の利害関係を有する者とは、当該訴訟の判決が参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがある場合をいう。
「効力」(46条)とは、判決主文に包含された訴訟物の存否についての判断だけではなく、その前提として判決の理由中でされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断などにも及ぶが、この判決の理由中でされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断とは、判決の主文を導き出すために必要な主要事実に係る認定及び法律判断などを言う。
百選113
外側説 まず債権総額を確定し、その額から自働債権の額を控除した残存額を算定した上、原告の一部請求が残存額の範囲内であるときはそのまま認容し、残存額を超えるときはその残存額の限度でこれを認容すべきである。
権利能力なき社団が成立するためには、@団体としての組織を備え、A多数決の原理が行われ、B構成員の変更に関わらず団体そのものが存続し、Cその組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定していることを要する。財産的独立性については、固定財産を有していなくても、総合的に観察して当事者能力が認められる場合がある。
これらの要件を満たす団体には、民訴法上の訴訟能力が認められる。
※給付訴訟の被告となる場合に財産的独立性が必要とする見解があるが、当事者能力の判断が請求の内容ごとに異なることになり、妥当でない。
百選23
いわゆる遺言無効確認の訴えは形式上過去の法律行為の確認を求めることとなるが、@遺言が有効であるとすればそれから生ずべき現在の特定の法律関係が存在しないことの確認を求めるものと解される場合で、A原告がかかる確認を求めるにつき法律上の利益を有するときは適法である。
百選24
共有持分を有することの確認の訴えは許されるが、その原告勝訴の確定判決は原告が当該財産につき共有持分を有することを既判力をもって確定するにとどまり、その取得原因が被相続人からの相続であることまで確定するものではない。また、審判における遺産帰属性の判断には既判力が生じないから、後の裁判で遺産帰属性が否定される可能性があり、紛争の抜本的解決にならない。これに対し、遺産確認の訴えの既判力は当該財産が遺産分割の対象たる財産であることに生じ、紛争の抜本的解決に資する。
※遺産分割が行われることが前提。遺産分割が行われない場合には抜本的解決にならない。
百選38
係争中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは許されない
一個の債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起された場合において、当該債権の残部を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは、債権の分割行使をすることが訴訟上の権利の濫用に当たるなど特段の事情の存しない限り許される。
百選54
(債権譲渡に対する本件建物の売買)間接事実についての自白は裁判所を拘束しないのはもちろん、自白した当事者を拘束するものでもない
百選55
(消費貸借額が13万円か11万円かは、)ともに本件消費貸借が成立するに至った事実上の経緯に基づいてXが法律上の意見を陳述したものと認めるのが相当であって、これを直ちに自白と目するのは当たらない。
百選69
自己利用文書(220条4号ニ) 専ら内部の者の利用に供する目的で作成され外部の者に開示することが予定されていない文書であって、A開示すると所持者の側に看過しがたい不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には、B特段の事情がない限り、これに当たる。
百選76
債務不存在確認請求訴訟において、原告である債務者が訴えにおいて自認する金額を超える債務の存在を確認する場合に、債務の残額を確定することなく単に請求を棄却することは許されない
百選80
おのずから全部 被告の合理的期待
金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは、特段の事情がない限り、信義則に反して許されない
百選98
不動産の共有者の1人は、その持分権に基づき、共有不動産に対して加えられた妨害を排除することができるところ、不実の持分移転登記がされている場合には、その登記によって共有不動産に対する妨害状態が生じているということができるから、共有不動産について全く実体上の権利を有しないのに持分移転登記を経由している者に対し、単独でその持分移転登記の抹消登記手続を請求することができる
百選99
土地の所有者がその所有権に基づいて地上建物の所有者である共同相続人を相手方とし、建物収去土地明渡を請求する訴訟は、いわゆる固有必要的共同訴訟ではないと解すべきである。不可分債務
百選104
「利害関係」(42条)とは法律上の利害関係を言い、訴訟の結果について法律所の利害関係を有する者とは、当該訴訟の判決が参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがある場合をいう。
「効力」(46条)とは、判決主文に包含された訴訟物の存否についての判断だけではなく、その前提として判決の理由中でされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断などにも及ぶが、この判決の理由中でされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断とは、判決の主文を導き出すために必要な主要事実に係る認定及び法律判断などを言う。
百選113
外側説 まず債権総額を確定し、その額から自働債権の額を控除した残存額を算定した上、原告の一部請求が残存額の範囲内であるときはそのまま認容し、残存額を超えるときはその残存額の限度でこれを認容すべきである。
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2017年12月25日
憲法判例フレーズ集
東京都管理職受験資格事件
地方公共団体が、公務員制度を構築するにあたって、公権力行使等地方公務員の職とこれに承認するのに必要な職務経験を積むために減るべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築して人事の適正な運用を図ることも、その判断により行うことができる
謝罪広告事件
単に事態の真相を告白し陳謝の意を表するにとどまる程度
拘禁者喫煙事件
個人の嗜好の一つとしても、あらゆる時と場所で認められなければならないものとはいえない
博多駅事件
報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の『知る権利』に奉仕するものである。したがって、思想の表明の自由と並んで、事実の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法21条の保障のもとにある。また、取材の自由も、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値する。
昭和女子大事件(私人間効力)
自由権的基本権の保障規定は、国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障することを目的とした規定であって、専ら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互間の関係について当然に適用ないし類推適用されるものでない。
百里基地事件
私法的な価値秩序のもとにおいて、社会的に許容されない反社会的な行為であるとの認識が、社会の一般的な観念として確立しているか否かが、私法上の行為の効力の有無を判断する基準になるものというべきである。
被拘禁者喫煙事件
これらの自由に対する制限が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは、右の目的のために制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を較量して決せられるべきものである。
堀越事件
国家公務員法102条1項は公務員の職務の政治的中立性を保持することによって行政の中立的運営を確保し、これに対する国民の信頼を維持することを目的とするが、国民は表現の自由(21条1項)としての政治活動の自由を保障されており、政治活動の事由は民主主義を基礎づける重要な権利だから、公務員に対する政治的行為の禁止は、国民としての政治活動の自由に対する必要やむを得ない限度にその範囲が画されるべきである。
国家公務員法102条1項の「政治的行為」とは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的なものにとどまらず、現実的に起こりうるものとして実質的に認められるものを指し、同項はそのような行為の類型の具体的な定めを人事院規則に委任したものと解するのが相当である。そのようなおそれが認められるか否かは、当該公務員の地位、その職務の内容や権限等、当該公務員がした行為の性質、態様、目的、内容等の諸般の事情を総合して判断するのが相当である。
Xによる配布行為は、管理職的地位になく、その職務の内容や権限に裁量の余地のない公務員によって、職務と全く無関係に、公務員により組織される団体の活動としての性格もなく行われたものであり、公務員による活動と認識しうる態様で行われたものでもないから、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものとはいえない。
君が代不起立事件
…このような考えは、X自身の歴史観ないし世界観から生ずる社会生活上ないし教育上の信念ということができる。
しかし、公立学校における式典において、日の丸の掲揚及び君が代の斉唱が広く行われていたことは周知の事実であって、起立行為は一般的、客観的に見てこれらの式典における慣例上の儀礼的所作である。したがって、起立斉唱はXの有する歴史観ないし世界観を否定するものではない。また、特定の思想を保持することを強制したり、これに反する思想を禁止したりするものではなく、信仰告白を強要するものでもない。
もっとも、起立斉唱行為は一般的、客観的に見ても国旗国歌に対する敬意の表明の要素を含む行為であるから、敬意を表明し難いと考える者にとっては、個人の歴史観ないし世界観に由来する行動と異なる外部的行為を求められることとなり、その限りにおいて、その者の思想良心の自由についての間接的な制約となる。
このような間接的制約は職務命令の目的及び内容並びに上記の制限を介して生ずる制約の態様等を総合的に較量して必要性及び合理性が認められる場合にのみ許容される。
→不服従教諭のあぶり出しを企図して職務命令が出された場合は職務命令の「目的」の正当性が欠ける。実際に歌うことを強要した場合は職務命令の「内容」が「慣例上の儀礼的な所作」を超えて相当性に欠ける。なお、職務命令の拒否が私的な考えの発露か教師としての職務上の良心に由来するかの区別は読み取れない。
よど号事件
閲読の自由の保障は、19条の規定や21条の規定の趣旨・目的からその派生原理として当然に導かれ、また、13条の規定の趣旨に沿う。
一般的抽象的なおそれがあるというだけでは足りず、具体的事情のもとにおいて放置することのできない障害が生ずる相当の蓋然性があると認められることが必要であり、かつ、その場合においても、その制限の程度は障害発生防止のため必要かつ合理的な範囲にとどまると解するのが相当である。
京都府学連事件
13条は、国民の私生活上の自由が、国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定している。
指紋押捺事件
指紋は、指先の紋様であり、そっれ自体では個人の私生活や人格、思想、信条等個人の内心に関する情報となるものではないが、性質上万人不同性、終生不変性をもつので、採取された指紋の利用方法次第では個人の私生活あるいはプライバシーが侵害される危険性がある。
早稲田大学講演会事件
学籍番号、氏名、住所及び電話番号は、早稲田大学が個人識別等を行うための単純な情報であって、その限りにおいては、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない。また、本件講演会に参加を申し込んだ学生であることも同断である。しかし、このような個人情報についても、本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきものであるから、本件個人情報は、上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである。
住基ネット訴訟
氏名、生年月日、性別及び住所からなる4情報は、人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には当然開示されることが予定されている個人識別情報であり、…いずれも個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえない。住基コードも同様である。
また、住基ネットによる本人確認情報の管理、利用等は、法令の根拠に基づき、正当な行政目的の範囲内でいこなわれている。そして、住基ネットにシステム技術上又は法制度上の不備があり、そのために本人確認情報が法令等の根拠に基づかずに、又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているということもできない。
国籍法事件
憲法14条1項は、法の下の平等を定めており、この規定は、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨である。
立法目的に合理的根拠が認められない場合、又はその区別と立法目的の間に合理的関連性が認められない場合には、当該区別は合理的な理由のない差別として14条1項に違反すると解する。
投票価値平等51年判決
選挙区割と議員定数配分の決定には、多種多様で複雑微妙な政策的及び技術的考慮要素が含まれており、それらの諸要素のそれぞれをどの程度考慮し、これを具体的決定にどこまで反映させることができるかについては客観的基準があるわけではないから、国会の裁量権の合理的な行使として是認されるかを判断するほかはない。しかし、このような見地に立っても、国会において通常考慮しうる諸般の要素を斟酌してもなお、一般的に合理性を有するものとはとうてい考えられない程度に達しているときは、もはや国会の合理的裁量の限界を超えているものと推定されるべきであり、これを正当化する特段の理由がない限り14条1項に違反すると解する。
徳島市公安条例事件
通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読み取れるかどうかによる。
税関検査事件
表現の自由を規制する法律の規定について限定解釈をすることが許されるのは、その解釈により、規制の対象となるものとそうでないものとが明確に区別され、かつ、合憲的に規制しうるもののみが規制の対象となることが明らかにされる場合でなければならず、また、(徳島県公安条例事件と同じ)。
北方ジャーナル事件
表現行為の事前差止めは原則として許されない。しかし、その表現内容が真実でなく、又はそれがもっぱら公益を図る目的のものでないことが明白であって、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあるときは、例外的に事前差止めが許される。
テレビ番組の名誉棄損
テレビ放送がされた番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては、一般の視聴者の普通の注意と市長の仕方とを基準として判断すべきである。
箕面忠魂碑事件
政教分離規定はいわゆる制度的保障の規定であって、国家と宗教との分離を制度として保障することにより、間接的に信教の自由の保障を確保しようとするものである。そして政教分離原則は、宗教とかかわる行為の目的及び効果にかんがみ、そのかかわり合いが信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするものである。そうすると20条3項の宗教的活動とは、国と宗教とのかかわり合いが相当とされる限度を超えるものに限られるというべきであって、当該行為の目的が宗教的意義を持ち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為を言う。ある行為がその宗教的活動に該当するか否かは、行為の外形のみにとらわれることなく、当該行為の行われる場所、当該行為に対する一般人の宗教的評価、当該行為者が当該行為を行うについての意図、目的及び宗教的意識の有無、程度、当該行為の一般人に与える効果、影響等、諸般の事情を考慮し、社会通念に従って、客観的に判断しなければならない。
空知太事件
憲法89条の趣旨は、政教分離の原則を財政的側面において徹底させることにより、20条1項後段の特権付与禁止を財政的側面からも確保し、信教の自由の保障を一層確実なものにすることである。しかし、国家と宗教とのかかわり合いには種種の形態があるから、89条も、そのかかわり合いが信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超える場合にこれを許さないとするものと解される。
国公有地を無償で宗教的施設の敷地としての用に供する行為は、一般的には89条との抵触が問題となる行為ではあるが、前述の相当限度を超えるか否かは、当該宗教的施設の性格、当該土地が無償で当該施設の敷地としての用に供されるに至った経緯、当該無償提供の態様、これらに対する一般人の評価等、諸般の事情を考慮し、社会通念に照らして総合的に判断すべきである。
防衛庁宿舎ビラ事件
政治的意見を記載したビラの配布は、表現の自由の行使ということができる。しかしながら、21条1項は必要かつ合理的な制限を是認するものであって、たとえ思想を外部に発表するための手段であっても、その手段が他人の権利を不当に害するようなものは許されない。
…たとえ表現の自由の行使のためとはいっても、このような場所に管理権者の意思に反して立ち入ることは、管理権者の管理権を侵害するのみならず、そこで私的生活を営む者の私生活の平穏を侵害する。
薬事法事件
職業は分業社会においては個人の人格的価値と不可分であるから、22条1項は職業選択の自由のみならず職業活動の自由も保障している。もっとも、職業は社会的相互関連性が大きく、多種多様だから、その規制目的も千差万別で、制限も各種各様ありうる。それゆえ、ある規制措置の22条1項適合性は規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較衡量したうえで慎重に決定されなければならない。ところで、一般に許可制は、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定しうるためには、原則として重要な公共の利益のために必要かつ合理的でなければならず、また、それが消極的、警察的措置である場合には、職業活動の内容及び態様に対する規制によることができないと認められることを要する。
証券取引法事件
財産権は、それ自体に内在する制約があるほか、その性質上社会全体の利益を図るために立法府によって加えられる規制により制約を受けるものである。財産権の種類、性質等は多種多様であり、また、財産権に対する規制を必要とする目的も多岐にわたるため、財産権に対する規制は種種のものがありうる。このことからすれば、財産権に対する規制が29条2項に言う公共の福祉に適合するか否かは、規制の目的、必要性、内容、その規制によって制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較衡量して判断すべきである。
国有農地売払特措法事件
29条1項2項の文言から、財産権の内容を事後の法律で変更しても、それが公共の福祉に適合するようにされたものである限り、違憲の立法ということはできない。公共の福祉に適合するようにされたか否かは、財産権の性質、変更の程度、及びこれを変更することにより保護される公益の性質などを総合的に勘案し、その変更が当該財産権に対する合理的な制約として容認されるべきかどうかによって判断する。
在外国民選挙権事件
選挙権の制限は原則として許されず、制限するためにはやむを得ない事由がなければならない。そして、そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り上記のやむを得ない事由があるとはいえず、このような事由なしに国民の選挙権行使を制限することは、15条1項及び3項、43条1項並びに44条但書に違反する。立法不作為により選挙権行使ができない場合も同様である。
立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置をとることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上違法となる。
堀木訴訟
25条1項は、いわゆる福祉国家の理念に基づき、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営みうるよう国政を運営すべきことを国の責務として宣言したものであり、また、25条2項は同じく福祉国家の理念に基づき、社会的立法及び社会的施設の創造拡充に努力すべきことを国の責務として宣言したものである。
同条1項は、国が個々の国民に対して具体的現実的に生存権を保障する義務を有することを規定したものではなく、同条2項によって国の責務であるとされている社会的立法及び社会的施設の創造拡充により個々の国民の具体的現実的な生存権が設定充実されてゆくものである。
また、「健康的で文化的な最低限度の生活」は抽象的相対的概念であり、25条の規定を現実の立法として実現するには国の財政事情を無視できず、また専門技術的な政策的判断が必要である。したがって、25条の趣旨に答えて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ないような場合をのぞき、裁判所が審査判断するのに適しない。
堀木訴訟控訴審判決
25条2項は国の事前の積極的防貧施策をなすべき努力義務のあることを、同1項は第2項の防貧施策の実施にもかかわらずなお落ちこぼれた者に対し、国は事後的、補足的かつ個別的な救貧施策をなすべき責務があることを各宣言したものと解すべきである。
川崎民商事件
検査が実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものと認めることにはならない。
地方公共団体が、公務員制度を構築するにあたって、公権力行使等地方公務員の職とこれに承認するのに必要な職務経験を積むために減るべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築して人事の適正な運用を図ることも、その判断により行うことができる
謝罪広告事件
単に事態の真相を告白し陳謝の意を表するにとどまる程度
拘禁者喫煙事件
個人の嗜好の一つとしても、あらゆる時と場所で認められなければならないものとはいえない
博多駅事件
報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の『知る権利』に奉仕するものである。したがって、思想の表明の自由と並んで、事実の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法21条の保障のもとにある。また、取材の自由も、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値する。
昭和女子大事件(私人間効力)
自由権的基本権の保障規定は、国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障することを目的とした規定であって、専ら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互間の関係について当然に適用ないし類推適用されるものでない。
百里基地事件
私法的な価値秩序のもとにおいて、社会的に許容されない反社会的な行為であるとの認識が、社会の一般的な観念として確立しているか否かが、私法上の行為の効力の有無を判断する基準になるものというべきである。
被拘禁者喫煙事件
これらの自由に対する制限が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは、右の目的のために制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を較量して決せられるべきものである。
堀越事件
国家公務員法102条1項は公務員の職務の政治的中立性を保持することによって行政の中立的運営を確保し、これに対する国民の信頼を維持することを目的とするが、国民は表現の自由(21条1項)としての政治活動の自由を保障されており、政治活動の事由は民主主義を基礎づける重要な権利だから、公務員に対する政治的行為の禁止は、国民としての政治活動の自由に対する必要やむを得ない限度にその範囲が画されるべきである。
国家公務員法102条1項の「政治的行為」とは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的なものにとどまらず、現実的に起こりうるものとして実質的に認められるものを指し、同項はそのような行為の類型の具体的な定めを人事院規則に委任したものと解するのが相当である。そのようなおそれが認められるか否かは、当該公務員の地位、その職務の内容や権限等、当該公務員がした行為の性質、態様、目的、内容等の諸般の事情を総合して判断するのが相当である。
Xによる配布行為は、管理職的地位になく、その職務の内容や権限に裁量の余地のない公務員によって、職務と全く無関係に、公務員により組織される団体の活動としての性格もなく行われたものであり、公務員による活動と認識しうる態様で行われたものでもないから、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものとはいえない。
君が代不起立事件
…このような考えは、X自身の歴史観ないし世界観から生ずる社会生活上ないし教育上の信念ということができる。
しかし、公立学校における式典において、日の丸の掲揚及び君が代の斉唱が広く行われていたことは周知の事実であって、起立行為は一般的、客観的に見てこれらの式典における慣例上の儀礼的所作である。したがって、起立斉唱はXの有する歴史観ないし世界観を否定するものではない。また、特定の思想を保持することを強制したり、これに反する思想を禁止したりするものではなく、信仰告白を強要するものでもない。
もっとも、起立斉唱行為は一般的、客観的に見ても国旗国歌に対する敬意の表明の要素を含む行為であるから、敬意を表明し難いと考える者にとっては、個人の歴史観ないし世界観に由来する行動と異なる外部的行為を求められることとなり、その限りにおいて、その者の思想良心の自由についての間接的な制約となる。
このような間接的制約は職務命令の目的及び内容並びに上記の制限を介して生ずる制約の態様等を総合的に較量して必要性及び合理性が認められる場合にのみ許容される。
→不服従教諭のあぶり出しを企図して職務命令が出された場合は職務命令の「目的」の正当性が欠ける。実際に歌うことを強要した場合は職務命令の「内容」が「慣例上の儀礼的な所作」を超えて相当性に欠ける。なお、職務命令の拒否が私的な考えの発露か教師としての職務上の良心に由来するかの区別は読み取れない。
よど号事件
閲読の自由の保障は、19条の規定や21条の規定の趣旨・目的からその派生原理として当然に導かれ、また、13条の規定の趣旨に沿う。
一般的抽象的なおそれがあるというだけでは足りず、具体的事情のもとにおいて放置することのできない障害が生ずる相当の蓋然性があると認められることが必要であり、かつ、その場合においても、その制限の程度は障害発生防止のため必要かつ合理的な範囲にとどまると解するのが相当である。
京都府学連事件
13条は、国民の私生活上の自由が、国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定している。
指紋押捺事件
指紋は、指先の紋様であり、そっれ自体では個人の私生活や人格、思想、信条等個人の内心に関する情報となるものではないが、性質上万人不同性、終生不変性をもつので、採取された指紋の利用方法次第では個人の私生活あるいはプライバシーが侵害される危険性がある。
早稲田大学講演会事件
学籍番号、氏名、住所及び電話番号は、早稲田大学が個人識別等を行うための単純な情報であって、その限りにおいては、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない。また、本件講演会に参加を申し込んだ学生であることも同断である。しかし、このような個人情報についても、本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきものであるから、本件個人情報は、上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである。
住基ネット訴訟
氏名、生年月日、性別及び住所からなる4情報は、人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には当然開示されることが予定されている個人識別情報であり、…いずれも個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえない。住基コードも同様である。
また、住基ネットによる本人確認情報の管理、利用等は、法令の根拠に基づき、正当な行政目的の範囲内でいこなわれている。そして、住基ネットにシステム技術上又は法制度上の不備があり、そのために本人確認情報が法令等の根拠に基づかずに、又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているということもできない。
国籍法事件
憲法14条1項は、法の下の平等を定めており、この規定は、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨である。
立法目的に合理的根拠が認められない場合、又はその区別と立法目的の間に合理的関連性が認められない場合には、当該区別は合理的な理由のない差別として14条1項に違反すると解する。
投票価値平等51年判決
選挙区割と議員定数配分の決定には、多種多様で複雑微妙な政策的及び技術的考慮要素が含まれており、それらの諸要素のそれぞれをどの程度考慮し、これを具体的決定にどこまで反映させることができるかについては客観的基準があるわけではないから、国会の裁量権の合理的な行使として是認されるかを判断するほかはない。しかし、このような見地に立っても、国会において通常考慮しうる諸般の要素を斟酌してもなお、一般的に合理性を有するものとはとうてい考えられない程度に達しているときは、もはや国会の合理的裁量の限界を超えているものと推定されるべきであり、これを正当化する特段の理由がない限り14条1項に違反すると解する。
徳島市公安条例事件
通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読み取れるかどうかによる。
税関検査事件
表現の自由を規制する法律の規定について限定解釈をすることが許されるのは、その解釈により、規制の対象となるものとそうでないものとが明確に区別され、かつ、合憲的に規制しうるもののみが規制の対象となることが明らかにされる場合でなければならず、また、(徳島県公安条例事件と同じ)。
北方ジャーナル事件
表現行為の事前差止めは原則として許されない。しかし、その表現内容が真実でなく、又はそれがもっぱら公益を図る目的のものでないことが明白であって、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあるときは、例外的に事前差止めが許される。
テレビ番組の名誉棄損
テレビ放送がされた番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては、一般の視聴者の普通の注意と市長の仕方とを基準として判断すべきである。
箕面忠魂碑事件
政教分離規定はいわゆる制度的保障の規定であって、国家と宗教との分離を制度として保障することにより、間接的に信教の自由の保障を確保しようとするものである。そして政教分離原則は、宗教とかかわる行為の目的及び効果にかんがみ、そのかかわり合いが信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするものである。そうすると20条3項の宗教的活動とは、国と宗教とのかかわり合いが相当とされる限度を超えるものに限られるというべきであって、当該行為の目的が宗教的意義を持ち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為を言う。ある行為がその宗教的活動に該当するか否かは、行為の外形のみにとらわれることなく、当該行為の行われる場所、当該行為に対する一般人の宗教的評価、当該行為者が当該行為を行うについての意図、目的及び宗教的意識の有無、程度、当該行為の一般人に与える効果、影響等、諸般の事情を考慮し、社会通念に従って、客観的に判断しなければならない。
空知太事件
憲法89条の趣旨は、政教分離の原則を財政的側面において徹底させることにより、20条1項後段の特権付与禁止を財政的側面からも確保し、信教の自由の保障を一層確実なものにすることである。しかし、国家と宗教とのかかわり合いには種種の形態があるから、89条も、そのかかわり合いが信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超える場合にこれを許さないとするものと解される。
国公有地を無償で宗教的施設の敷地としての用に供する行為は、一般的には89条との抵触が問題となる行為ではあるが、前述の相当限度を超えるか否かは、当該宗教的施設の性格、当該土地が無償で当該施設の敷地としての用に供されるに至った経緯、当該無償提供の態様、これらに対する一般人の評価等、諸般の事情を考慮し、社会通念に照らして総合的に判断すべきである。
防衛庁宿舎ビラ事件
政治的意見を記載したビラの配布は、表現の自由の行使ということができる。しかしながら、21条1項は必要かつ合理的な制限を是認するものであって、たとえ思想を外部に発表するための手段であっても、その手段が他人の権利を不当に害するようなものは許されない。
…たとえ表現の自由の行使のためとはいっても、このような場所に管理権者の意思に反して立ち入ることは、管理権者の管理権を侵害するのみならず、そこで私的生活を営む者の私生活の平穏を侵害する。
薬事法事件
職業は分業社会においては個人の人格的価値と不可分であるから、22条1項は職業選択の自由のみならず職業活動の自由も保障している。もっとも、職業は社会的相互関連性が大きく、多種多様だから、その規制目的も千差万別で、制限も各種各様ありうる。それゆえ、ある規制措置の22条1項適合性は規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較衡量したうえで慎重に決定されなければならない。ところで、一般に許可制は、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定しうるためには、原則として重要な公共の利益のために必要かつ合理的でなければならず、また、それが消極的、警察的措置である場合には、職業活動の内容及び態様に対する規制によることができないと認められることを要する。
証券取引法事件
財産権は、それ自体に内在する制約があるほか、その性質上社会全体の利益を図るために立法府によって加えられる規制により制約を受けるものである。財産権の種類、性質等は多種多様であり、また、財産権に対する規制を必要とする目的も多岐にわたるため、財産権に対する規制は種種のものがありうる。このことからすれば、財産権に対する規制が29条2項に言う公共の福祉に適合するか否かは、規制の目的、必要性、内容、その規制によって制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較衡量して判断すべきである。
国有農地売払特措法事件
29条1項2項の文言から、財産権の内容を事後の法律で変更しても、それが公共の福祉に適合するようにされたものである限り、違憲の立法ということはできない。公共の福祉に適合するようにされたか否かは、財産権の性質、変更の程度、及びこれを変更することにより保護される公益の性質などを総合的に勘案し、その変更が当該財産権に対する合理的な制約として容認されるべきかどうかによって判断する。
在外国民選挙権事件
選挙権の制限は原則として許されず、制限するためにはやむを得ない事由がなければならない。そして、そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り上記のやむを得ない事由があるとはいえず、このような事由なしに国民の選挙権行使を制限することは、15条1項及び3項、43条1項並びに44条但書に違反する。立法不作為により選挙権行使ができない場合も同様である。
立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置をとることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上違法となる。
堀木訴訟
25条1項は、いわゆる福祉国家の理念に基づき、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営みうるよう国政を運営すべきことを国の責務として宣言したものであり、また、25条2項は同じく福祉国家の理念に基づき、社会的立法及び社会的施設の創造拡充に努力すべきことを国の責務として宣言したものである。
同条1項は、国が個々の国民に対して具体的現実的に生存権を保障する義務を有することを規定したものではなく、同条2項によって国の責務であるとされている社会的立法及び社会的施設の創造拡充により個々の国民の具体的現実的な生存権が設定充実されてゆくものである。
また、「健康的で文化的な最低限度の生活」は抽象的相対的概念であり、25条の規定を現実の立法として実現するには国の財政事情を無視できず、また専門技術的な政策的判断が必要である。したがって、25条の趣旨に答えて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ないような場合をのぞき、裁判所が審査判断するのに適しない。
堀木訴訟控訴審判決
25条2項は国の事前の積極的防貧施策をなすべき努力義務のあることを、同1項は第2項の防貧施策の実施にもかかわらずなお落ちこぼれた者に対し、国は事後的、補足的かつ個別的な救貧施策をなすべき責務があることを各宣言したものと解すべきである。
川崎民商事件
検査が実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものと認めることにはならない。
2017年12月24日
会社法単純設例集1
設例1
Y会社の株主であるABCDXは、ABとCDXの間で内紛状態にあった。代表取締役Aは、新たに発行する株式を買い取るための資金として、自己の経営方針に賛同するEに対し、1億円を提供した。
回答指針
B会社がAに1億円を支払った行為は、株主に対する利益供与に当たり違法ではないか(120条1項)。Eは株主ではないから「株主の権利の行使に関し」された者とは言えないのではないかが問題となる。
そもそも株式の譲渡は株主たる地位の移転であり、それ自体が株主の権利の行使とは言えないから、会社が特定の株主に対して株式取得費用を提供することは、原則として利益供与に当たらない。しかし、会社から見て好ましくないと判断される株主が株主権を行使することを回避する目的で当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為は、「株主の権利の行使に関し」利益を供与する行為に当たる。そのため、B会社の行為は120条1項に違反する。
設例2
Y会社の株主はA会社、代表取締役B、取締役C、監査役Xであり、BとCX間で内紛状態にあった。A会社は、Cにほのめかされ、Cの経営方針に賛成するDに対し、株式を譲渡し、Y会社に対して名義書換え請求を行った。しかしBは名義書き換えを行わず、株主総会の招集通知をAに発送した。
設例3
Y会社の株主Aは保有する株式をBに譲渡し、名義書換え請求を行ったが、Y会社の担当者のミスで名義書換えは行われず、Y会社の株主名簿には依然としてAが株主と記載されていた。Y会社の製造する製品の売行きが好調となり、Y会社は事業拡張のための新株発行を決議し、Aに対して新株割り当て通知を行った(202条4項)。Aは、自己に対する通知が来たことを怪訝に思ったものの、Y会社の株価は今後も上昇すると考えたため、何事もなかったかのように1000株の引受を申込んだ(203条2項)。その後、行われていなかった名義書き換えが行われ、申し込みをしていないBがY会社から割当てを受け(204条1項)、払込金額の全額を払い込み(208条1項)、株主となった。
Aは会社に対して自己が株主であることを主張できるか。
設例4
公開会社であるY会社の代表取締役Aは、取締役Bと経営方針をめぐって対立していたが、自己の経営方針に賛同するCに対し、特に有利な金額で募集株式を発行した。なお、当該募集株式の発行に際して取締役会決議は行われず、募集事項の公示もなかった。
Bは本件募集株式発行の無効を主張できるか。
回答指針
Bは新株発行無効の訴え(828条1項2号)を提起することが考えられる。Bは株主であるから原告適格を満たす(828条2項2号)。
無効原因について明文はないが、重大な瑕疵のみ無効となると解する。新株発行が無効になると法律関係の安定や取引の安全が著しく害されるからである。
では本件で重大な瑕疵はあるか。まず、取締役会決議を経ていない点は重大な瑕疵とは言えない。なぜなら、授権資本制度(199条1項、2項、201条1項)のもと、新株発行は業務執行に準ずるものであり、取締役会決議を欠くことは内部的瑕疵に過ぎないからである。
次に、募集事項の公示がないことは、新株発行差止め請求をしたとしても差止の事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となる(最判平成9年1月28日)。本件は、Cに対して特に有利な金額で発行されているため、新株発行差止め請求がなされれば差止事由がある(199条3項、201条1項)。したがって、本件で募集事項の公示がないことは重大な瑕疵であり、無効原因となる。
設例5
非公開会社であるY会社の代表取締役はAであり、株主はABCXである。AはBCX全員が居合わせた席上で、株主総会を開催する旨宣言し、Bを取締役に選任する決議をした。この決議は有効か。
設例6
非公開会社であるY会社の代表取締役はAであり、株主はABCXである。Y会社には株主総会の議決権を行使しうる代理人は株主に限る旨の定款の定めがある。AはBを取締役に選任するため、BCXに対し、取締役会決議を経ずに株主総会予定日の3日前に招集通知を発した。Cは所用により出席できないため、弁護士Lを自己の代理人として出席させた。Lは、適法に委任状を示して出席した(310条1項後段、3項)。株主総会の目的事項はBの取締役選任の件であることはABCXいずれも了知していた。しかし、Xは株主総会の席上でBのほかにEをも取締役に推挙したところ、B、L、Xの賛成を得て可決された。
Cは本件株主総会決議の無効を主張できるか。
回答指針
310条1項は合理的理由による相当程度の制限を禁止するものではないと解されるから、議決権を行使しうる代理人を株主に限る旨の定款の定めは同条に反するものではない(最判昭和43年11月1日)。
非公開会社では株主総会の招集通知は1週間前までに発しなければならないところ(299条1項)、本件では3日前に発せられているから、299条1項違反がある。しかし、同条の趣旨は株主に出席の機会と準備の機会を与えることにあるから、全員出席総会において株主総会の権限に属する事項につき決議がなされたときは、その決議は有効に成立する(300条本文)。本件においても、全員が出席しているから決議は有効とも思える。
しかし、代理人が出席することにより株主全員が出席したこととなる株主総会においては、代理人を選任する株主が会議の目的事項を了知して委任状を作成しており、かつ、当該決議がその会議の目的事項の範囲内のものである場合に限り、決議は有効と解すべきである(最判昭和60年12月20日)。
本件ではCはEが取締役に選任されることを了知していなかったから、決議は無効である。よって831条1項1号の違法がある。
これに対してYは831条2項による裁量棄却を主張するであろうが、決議方法に重大な瑕疵がある場合にはその瑕疵が決議の結果に影響を及ぼさないと認められるときであっても裁量棄却されないところ(最判昭和46年3月18日)、本件の瑕疵は重大だから、裁量棄却されない。
Y会社の株主であるABCDXは、ABとCDXの間で内紛状態にあった。代表取締役Aは、新たに発行する株式を買い取るための資金として、自己の経営方針に賛同するEに対し、1億円を提供した。
回答指針
B会社がAに1億円を支払った行為は、株主に対する利益供与に当たり違法ではないか(120条1項)。Eは株主ではないから「株主の権利の行使に関し」された者とは言えないのではないかが問題となる。
そもそも株式の譲渡は株主たる地位の移転であり、それ自体が株主の権利の行使とは言えないから、会社が特定の株主に対して株式取得費用を提供することは、原則として利益供与に当たらない。しかし、会社から見て好ましくないと判断される株主が株主権を行使することを回避する目的で当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為は、「株主の権利の行使に関し」利益を供与する行為に当たる。そのため、B会社の行為は120条1項に違反する。
設例2
Y会社の株主はA会社、代表取締役B、取締役C、監査役Xであり、BとCX間で内紛状態にあった。A会社は、Cにほのめかされ、Cの経営方針に賛成するDに対し、株式を譲渡し、Y会社に対して名義書換え請求を行った。しかしBは名義書き換えを行わず、株主総会の招集通知をAに発送した。
設例3
Y会社の株主Aは保有する株式をBに譲渡し、名義書換え請求を行ったが、Y会社の担当者のミスで名義書換えは行われず、Y会社の株主名簿には依然としてAが株主と記載されていた。Y会社の製造する製品の売行きが好調となり、Y会社は事業拡張のための新株発行を決議し、Aに対して新株割り当て通知を行った(202条4項)。Aは、自己に対する通知が来たことを怪訝に思ったものの、Y会社の株価は今後も上昇すると考えたため、何事もなかったかのように1000株の引受を申込んだ(203条2項)。その後、行われていなかった名義書き換えが行われ、申し込みをしていないBがY会社から割当てを受け(204条1項)、払込金額の全額を払い込み(208条1項)、株主となった。
Aは会社に対して自己が株主であることを主張できるか。
設例4
公開会社であるY会社の代表取締役Aは、取締役Bと経営方針をめぐって対立していたが、自己の経営方針に賛同するCに対し、特に有利な金額で募集株式を発行した。なお、当該募集株式の発行に際して取締役会決議は行われず、募集事項の公示もなかった。
Bは本件募集株式発行の無効を主張できるか。
回答指針
Bは新株発行無効の訴え(828条1項2号)を提起することが考えられる。Bは株主であるから原告適格を満たす(828条2項2号)。
無効原因について明文はないが、重大な瑕疵のみ無効となると解する。新株発行が無効になると法律関係の安定や取引の安全が著しく害されるからである。
では本件で重大な瑕疵はあるか。まず、取締役会決議を経ていない点は重大な瑕疵とは言えない。なぜなら、授権資本制度(199条1項、2項、201条1項)のもと、新株発行は業務執行に準ずるものであり、取締役会決議を欠くことは内部的瑕疵に過ぎないからである。
次に、募集事項の公示がないことは、新株発行差止め請求をしたとしても差止の事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となる(最判平成9年1月28日)。本件は、Cに対して特に有利な金額で発行されているため、新株発行差止め請求がなされれば差止事由がある(199条3項、201条1項)。したがって、本件で募集事項の公示がないことは重大な瑕疵であり、無効原因となる。
設例5
非公開会社であるY会社の代表取締役はAであり、株主はABCXである。AはBCX全員が居合わせた席上で、株主総会を開催する旨宣言し、Bを取締役に選任する決議をした。この決議は有効か。
設例6
非公開会社であるY会社の代表取締役はAであり、株主はABCXである。Y会社には株主総会の議決権を行使しうる代理人は株主に限る旨の定款の定めがある。AはBを取締役に選任するため、BCXに対し、取締役会決議を経ずに株主総会予定日の3日前に招集通知を発した。Cは所用により出席できないため、弁護士Lを自己の代理人として出席させた。Lは、適法に委任状を示して出席した(310条1項後段、3項)。株主総会の目的事項はBの取締役選任の件であることはABCXいずれも了知していた。しかし、Xは株主総会の席上でBのほかにEをも取締役に推挙したところ、B、L、Xの賛成を得て可決された。
Cは本件株主総会決議の無効を主張できるか。
回答指針
310条1項は合理的理由による相当程度の制限を禁止するものではないと解されるから、議決権を行使しうる代理人を株主に限る旨の定款の定めは同条に反するものではない(最判昭和43年11月1日)。
非公開会社では株主総会の招集通知は1週間前までに発しなければならないところ(299条1項)、本件では3日前に発せられているから、299条1項違反がある。しかし、同条の趣旨は株主に出席の機会と準備の機会を与えることにあるから、全員出席総会において株主総会の権限に属する事項につき決議がなされたときは、その決議は有効に成立する(300条本文)。本件においても、全員が出席しているから決議は有効とも思える。
しかし、代理人が出席することにより株主全員が出席したこととなる株主総会においては、代理人を選任する株主が会議の目的事項を了知して委任状を作成しており、かつ、当該決議がその会議の目的事項の範囲内のものである場合に限り、決議は有効と解すべきである(最判昭和60年12月20日)。
本件ではCはEが取締役に選任されることを了知していなかったから、決議は無効である。よって831条1項1号の違法がある。
これに対してYは831条2項による裁量棄却を主張するであろうが、決議方法に重大な瑕疵がある場合にはその瑕疵が決議の結果に影響を及ぼさないと認められるときであっても裁量棄却されないところ(最判昭和46年3月18日)、本件の瑕疵は重大だから、裁量棄却されない。
2017年10月09日
憲法 平成17年度第1問
問題文
酒類が致酔性・依存性を有する飲料であり、飲酒者自身の健康面に与える影響が大きく、酩酊者の行動が周囲のものに迷惑を及ぼすことが多いほか、種々の社会的費用(医療費の増大による公的医療保険制度への影響等)も生じることにかんがみて、次の内容の法律が制定されたとする。
1 飲食店で客に酒類を提供するには、都道府県知事から酒類提供免許を取得することを要する。酩酊者(アルコールの影響により正常な行為ができないおそれのある状態にある者)に酒類を提供することは当該免許の取消事由となる。
2 道路、公園、駅その他の公共の場所において管理者の許可なく飲酒することを禁止し、これに違反したものは拘留又は科料に処する。
この法律に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。
回答
設問1
1 飲食店に酒類提供免許の取得を義務付けることは、酒類の提供を許可制にすることを意味する。これは飲食店の職業遂行の自由を侵害し、違憲ではないか。
2 憲法22条1項は職業選択の自由を保障しているが、職業は社会的機能分担の性質があり人格的価値があるから、同条項は職業遂行の自由も保障していると解する。
職業遂行の自由は「公共の福祉」(22条1項)によって制約されるところ、職業の内容は千差万別でそれに対する制約も各種各様のものがありうるから、どのような制約が「公共の福祉」に基づくものかを一般的に決めることはできず、具体的規制について規制の目的・必要性・内容、これにより制約される職業の自由の性質・内容・制限の程度を比較衡量して慎重に決めるべきである。しかし、一般に許可制は職業の自由に対する強い制約であるから、許可制が公共の福祉によるものと言えるためには重要な公共の利益のために必要かつ合理的なものであることを要し、また、許可制の目的が消極的・警察的なものである場合には、職業活動の内容及び態様に対する制約では目的を達成できないと認められることを要する。
3 本件では許可制が採用されている。その目的として@酒類が飲酒者の健康面に及ぼす悪影響の排除、A酩酊者の行動が周囲の者に及ぼす迷惑の防止、B社会的費用の抑制が挙げられているところ、@は飲酒者の健康が害された結果医療費が増えるという因果関係にあるから、Bが主目的であり、@はBの手段としての副次的目的に過ぎないと認められる。そうすると本件の規制目的はA及びBである。
そこで、A及びBが重要な公共の利益か否かを検討するに、Aは単なる迷惑であって重要とは言えず、Bも医療費削減が直ちに重要とは言えない。仮にそれらが重要な公共の利益であるとしてみても、消費者は飲食店ではなく小売店で酒類を購入して飲酒することが可能である以上、飲食店での酒類提供を規制してもそれらの目的を達することができるかは疑わしく、規制の合理性が認められない。
4 したがって、本件の許可制は飲食店の職業遂行の自由を侵害し、違憲である。
設問2
1 公共の場所の管理者の許可なく飲酒することを禁止した法律は、個人の飲酒の自由を制約し、違憲ではないか。
2(1) 飲酒の自由は憲法に明文がないが、憲法13条に規定されている幸福追求権は憲法に列挙されていない新しい人権の根拠となる包括的権利であり、幸福追求権によって基礎づけられる個々の権利は裁判上の救済を受けることのできる具体的権利であると解する。もっとも、幸福追求権として認められる権利は個人の人格的生存に不可欠な利益に限られると解する。
(2) 飲酒は個人の嗜好の一つとしても、あらゆる時と場所で認められなければならないものとはいえないから、飲酒の自由は人格的生存に不可欠とまでは言えない。
(3) したがって、飲酒の自由は憲法13条によっては保障されていない。
3(1) もっとも、憲法13条は客観法として個人の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているから、幸福追求権に含まれない個人の一般的行為であっても、それを規制する法律は比例原則に照らして合理的なものでなければならないと解する。
(2) 本件法律の規制目的は設問1で検討したA及びBであるところ、Bを達成するためには公共の場所以外での飲酒も規制する必要があり、公共の場所のみを制限するのは合理性がない。しかしAに限ると、周囲のものに迷惑を及ぼすことを防ぐために公共の場所の管理者の許可を要求するのは一定の合理性が認められる。
4 したがって、本件法律は憲法13条に反しておらず、合憲である。
以上
酒類が致酔性・依存性を有する飲料であり、飲酒者自身の健康面に与える影響が大きく、酩酊者の行動が周囲のものに迷惑を及ぼすことが多いほか、種々の社会的費用(医療費の増大による公的医療保険制度への影響等)も生じることにかんがみて、次の内容の法律が制定されたとする。
1 飲食店で客に酒類を提供するには、都道府県知事から酒類提供免許を取得することを要する。酩酊者(アルコールの影響により正常な行為ができないおそれのある状態にある者)に酒類を提供することは当該免許の取消事由となる。
2 道路、公園、駅その他の公共の場所において管理者の許可なく飲酒することを禁止し、これに違反したものは拘留又は科料に処する。
この法律に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。
回答
設問1
1 飲食店に酒類提供免許の取得を義務付けることは、酒類の提供を許可制にすることを意味する。これは飲食店の職業遂行の自由を侵害し、違憲ではないか。
2 憲法22条1項は職業選択の自由を保障しているが、職業は社会的機能分担の性質があり人格的価値があるから、同条項は職業遂行の自由も保障していると解する。
職業遂行の自由は「公共の福祉」(22条1項)によって制約されるところ、職業の内容は千差万別でそれに対する制約も各種各様のものがありうるから、どのような制約が「公共の福祉」に基づくものかを一般的に決めることはできず、具体的規制について規制の目的・必要性・内容、これにより制約される職業の自由の性質・内容・制限の程度を比較衡量して慎重に決めるべきである。しかし、一般に許可制は職業の自由に対する強い制約であるから、許可制が公共の福祉によるものと言えるためには重要な公共の利益のために必要かつ合理的なものであることを要し、また、許可制の目的が消極的・警察的なものである場合には、職業活動の内容及び態様に対する制約では目的を達成できないと認められることを要する。
3 本件では許可制が採用されている。その目的として@酒類が飲酒者の健康面に及ぼす悪影響の排除、A酩酊者の行動が周囲の者に及ぼす迷惑の防止、B社会的費用の抑制が挙げられているところ、@は飲酒者の健康が害された結果医療費が増えるという因果関係にあるから、Bが主目的であり、@はBの手段としての副次的目的に過ぎないと認められる。そうすると本件の規制目的はA及びBである。
そこで、A及びBが重要な公共の利益か否かを検討するに、Aは単なる迷惑であって重要とは言えず、Bも医療費削減が直ちに重要とは言えない。仮にそれらが重要な公共の利益であるとしてみても、消費者は飲食店ではなく小売店で酒類を購入して飲酒することが可能である以上、飲食店での酒類提供を規制してもそれらの目的を達することができるかは疑わしく、規制の合理性が認められない。
4 したがって、本件の許可制は飲食店の職業遂行の自由を侵害し、違憲である。
設問2
1 公共の場所の管理者の許可なく飲酒することを禁止した法律は、個人の飲酒の自由を制約し、違憲ではないか。
2(1) 飲酒の自由は憲法に明文がないが、憲法13条に規定されている幸福追求権は憲法に列挙されていない新しい人権の根拠となる包括的権利であり、幸福追求権によって基礎づけられる個々の権利は裁判上の救済を受けることのできる具体的権利であると解する。もっとも、幸福追求権として認められる権利は個人の人格的生存に不可欠な利益に限られると解する。
(2) 飲酒は個人の嗜好の一つとしても、あらゆる時と場所で認められなければならないものとはいえないから、飲酒の自由は人格的生存に不可欠とまでは言えない。
(3) したがって、飲酒の自由は憲法13条によっては保障されていない。
3(1) もっとも、憲法13条は客観法として個人の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているから、幸福追求権に含まれない個人の一般的行為であっても、それを規制する法律は比例原則に照らして合理的なものでなければならないと解する。
(2) 本件法律の規制目的は設問1で検討したA及びBであるところ、Bを達成するためには公共の場所以外での飲酒も規制する必要があり、公共の場所のみを制限するのは合理性がない。しかしAに限ると、周囲のものに迷惑を及ぼすことを防ぐために公共の場所の管理者の許可を要求するのは一定の合理性が認められる。
4 したがって、本件法律は憲法13条に反しておらず、合憲である。
以上
2017年05月03日
民法 平成19年度第2問
1 BC間の法律関係
(1)賃貸人について
Cは、Bが引き続き賃貸人であることを次のような法律構成で主張することが考えられる。
平成19年7月1日のAB間の合意は貸す債務の免責的債務引受である。免責的債務引受について明文はないが、一般的に責任財産の変更を伴い債権者を害するから債権者の同意が必要と解釈されている。したがって、貸す債務の債権者である本件建物の転借人Cの同意がない本件では、賃貸人の地位は移転しない。
(2)敷金返還請求権について
賃貸人の地位が移転しない以上、Bが負担する。
(3)しかし、賃貸人についても敷金返還請求権についても、Bは以下に述べるような反論をすることができる。結論として、BはCに対して、賃貸人としての義務も敷金返還義務も負わない。
2 AC間の法律関係
(1)賃貸人について
平成19年7月1日のAB間の合意は、単に賃貸借の権利義務の移転にとどまらず、解除権や敷金返還請求権等、賃貸借契約に付随する一切の権利義務の移転を内容としているから、単に免責的債務引受と解するのではなく、賃貸人たる地位の移転と解すべきである。
そして、確かに賃貸人たる地位移転には免責的債務引受の側面はあるが、貸す債務は責任財産の多寡にかかわらず履行可能な性質の債務である。また、旧転貸人が転貸対象物について権限を失った場合に本来なら転貸借契約は転貸人の貸す債務の履行不能により終了するところ、原賃貸人に賃貸人たる地位が移ることは、転貸借対象物の使用継続を希望する転借人にとってむしろ利益になる。(本件ではBC間の転貸借契約は貸す債務の履行不能によって終了するはずであるところ、賃貸人たる地位がAに移転すれば、本件建物の使用継続を望むCにとってむしろ利益になる。)そのため、貸す債務の引受けには賃借人の同意は不要と解する。
したがって、転借人Cの同意がない本問でも賃貸人の地位はAに移転する。
(2)敷金返還請求権について
敷金について明文はないが、敷金とは、賃貸借契約から生じる一切の債務の担保のため借主が支払う金銭を言う。この金銭は敷金設定契約という要物契約に基づき支払われ、また、この敷金設定契約は不動産賃貸借契約に従たる契約である。そこで、賃貸人たる地位が変更された場合、賃借人が旧賃貸人に支払った敷金が承継されるかが問題となる。
確かに、敷金が承継されるということは敷金返還義務の免責的債務引受となるから、債権者たる賃借人の同意がない限り承継されないとも思える。しかし、敷金は賃借人が債務を負担した場合に差引計算することが予定されており、この差引計算に対する賃借人の期待を保護する必要がある。したがって、賃借人の同意がなくても、旧賃貸人に対する債務を差し引いた残額が当然に新賃貸人に承継されると解する。
したがって、Cに対して敷金返還債務を負担するのはAである。 以上
・賃貸人たる地位移転も敷金返還請求権の承継も、ポイントは免責的債務引受ってところなんだろうと思う。
(1)賃貸人について
Cは、Bが引き続き賃貸人であることを次のような法律構成で主張することが考えられる。
平成19年7月1日のAB間の合意は貸す債務の免責的債務引受である。免責的債務引受について明文はないが、一般的に責任財産の変更を伴い債権者を害するから債権者の同意が必要と解釈されている。したがって、貸す債務の債権者である本件建物の転借人Cの同意がない本件では、賃貸人の地位は移転しない。
(2)敷金返還請求権について
賃貸人の地位が移転しない以上、Bが負担する。
(3)しかし、賃貸人についても敷金返還請求権についても、Bは以下に述べるような反論をすることができる。結論として、BはCに対して、賃貸人としての義務も敷金返還義務も負わない。
2 AC間の法律関係
(1)賃貸人について
平成19年7月1日のAB間の合意は、単に賃貸借の権利義務の移転にとどまらず、解除権や敷金返還請求権等、賃貸借契約に付随する一切の権利義務の移転を内容としているから、単に免責的債務引受と解するのではなく、賃貸人たる地位の移転と解すべきである。
そして、確かに賃貸人たる地位移転には免責的債務引受の側面はあるが、貸す債務は責任財産の多寡にかかわらず履行可能な性質の債務である。また、旧転貸人が転貸対象物について権限を失った場合に本来なら転貸借契約は転貸人の貸す債務の履行不能により終了するところ、原賃貸人に賃貸人たる地位が移ることは、転貸借対象物の使用継続を希望する転借人にとってむしろ利益になる。(本件ではBC間の転貸借契約は貸す債務の履行不能によって終了するはずであるところ、賃貸人たる地位がAに移転すれば、本件建物の使用継続を望むCにとってむしろ利益になる。)そのため、貸す債務の引受けには賃借人の同意は不要と解する。
したがって、転借人Cの同意がない本問でも賃貸人の地位はAに移転する。
(2)敷金返還請求権について
敷金について明文はないが、敷金とは、賃貸借契約から生じる一切の債務の担保のため借主が支払う金銭を言う。この金銭は敷金設定契約という要物契約に基づき支払われ、また、この敷金設定契約は不動産賃貸借契約に従たる契約である。そこで、賃貸人たる地位が変更された場合、賃借人が旧賃貸人に支払った敷金が承継されるかが問題となる。
確かに、敷金が承継されるということは敷金返還義務の免責的債務引受となるから、債権者たる賃借人の同意がない限り承継されないとも思える。しかし、敷金は賃借人が債務を負担した場合に差引計算することが予定されており、この差引計算に対する賃借人の期待を保護する必要がある。したがって、賃借人の同意がなくても、旧賃貸人に対する債務を差し引いた残額が当然に新賃貸人に承継されると解する。
したがって、Cに対して敷金返還債務を負担するのはAである。 以上
・賃貸人たる地位移転も敷金返還請求権の承継も、ポイントは免責的債務引受ってところなんだろうと思う。
2017年05月01日
民法 平成21年度第2問
設問1
1 相続開始(882条)によって3000万円の債務は相続人の「共有」(898条)となる。この「共有」とは原則として249条以下の共有と同義と解する。そのため、金銭債務のような分割債務は各相続人に等しい割合で分割される(427条)。したがって、遺産分割前であれば、BはCDEに対して1000万円ずつの債権を有していたことになる。
2 遺産分割(906条以下)は相続開始によって遺産共有状態となった財産の帰属を確定させる行為であり、協議分割(907条1項)でどのように遺産分割を行うかは相続人の自由である。そして、債権者は遺産分割が詐害行為となる場合を除き、遺産分割の結果通りに債権を行使しなければならない。
本問でも、遺産分割協議の結果として債務をCが単独で追うことになった結果、Bは、Cに対して3000万円の債務を有する。
したがって、BはCに対してのみ、残りの2000万円を請求できる。
3 条文はないが、免責的債務引受は債権者の与り知らないところで責任財産の変更を伴うから債権者の同意が必要と解釈されている。免責的債務引受と利益状況が異ならない本問では、BはDEにそれぞれ1000万円請求できると解すべきとも思える。しかし、不当な遺産分割は詐害行為として取り消すことができるので、解釈は変えない。
設問2
1 遺産分割は遡及効を有するが(909条本文)、「第三者」の権利を害することはできない(同但書)。この規定は遺産分割の遡及効により害されるものを保護する趣旨と解されるから、「第三者」とは遺産分割前に相続財産について法的利害関係を有するに至った者を言うと解する。本件のGは「第三者」に当たる。したがって、GはDに対し、所有権に基づき乙マンションの明渡しと移転登記を請求できる。
2 (1)この場合、DはCEに対し、遺産分割の任意のやり直しを請求することができる。
(2)CEが応じない場合、遺産分割の錯誤無効(95条本文)をCEに対して主張することができると解する。「要素の錯誤」とは、その点について錯誤がなければ意思表示をしなかったであろうし(因果関係)、だれもが意思表示をしないであろうもの(重要性)をいうが、遺産分割の対象となる財産の3分の1を占める乙マンションが分割対象ではなかったことはこれに当たる。また、遺産分割は利害関係者が多いから重過失(95条但書)は広く解すべきだが、本問ではDの重過失に当たる事実はない。したがって、DはCEに対し、錯誤無効を主張することができる。 以上
1 相続開始(882条)によって3000万円の債務は相続人の「共有」(898条)となる。この「共有」とは原則として249条以下の共有と同義と解する。そのため、金銭債務のような分割債務は各相続人に等しい割合で分割される(427条)。したがって、遺産分割前であれば、BはCDEに対して1000万円ずつの債権を有していたことになる。
2 遺産分割(906条以下)は相続開始によって遺産共有状態となった財産の帰属を確定させる行為であり、協議分割(907条1項)でどのように遺産分割を行うかは相続人の自由である。そして、債権者は遺産分割が詐害行為となる場合を除き、遺産分割の結果通りに債権を行使しなければならない。
本問でも、遺産分割協議の結果として債務をCが単独で追うことになった結果、Bは、Cに対して3000万円の債務を有する。
したがって、BはCに対してのみ、残りの2000万円を請求できる。
3 条文はないが、免責的債務引受は債権者の与り知らないところで責任財産の変更を伴うから債権者の同意が必要と解釈されている。免責的債務引受と利益状況が異ならない本問では、BはDEにそれぞれ1000万円請求できると解すべきとも思える。しかし、不当な遺産分割は詐害行為として取り消すことができるので、解釈は変えない。
設問2
1 遺産分割は遡及効を有するが(909条本文)、「第三者」の権利を害することはできない(同但書)。この規定は遺産分割の遡及効により害されるものを保護する趣旨と解されるから、「第三者」とは遺産分割前に相続財産について法的利害関係を有するに至った者を言うと解する。本件のGは「第三者」に当たる。したがって、GはDに対し、所有権に基づき乙マンションの明渡しと移転登記を請求できる。
2 (1)この場合、DはCEに対し、遺産分割の任意のやり直しを請求することができる。
(2)CEが応じない場合、遺産分割の錯誤無効(95条本文)をCEに対して主張することができると解する。「要素の錯誤」とは、その点について錯誤がなければ意思表示をしなかったであろうし(因果関係)、だれもが意思表示をしないであろうもの(重要性)をいうが、遺産分割の対象となる財産の3分の1を占める乙マンションが分割対象ではなかったことはこれに当たる。また、遺産分割は利害関係者が多いから重過失(95条但書)は広く解すべきだが、本問ではDの重過失に当たる事実はない。したがって、DはCEに対し、錯誤無効を主張することができる。 以上
2017年04月27日
民法 平成18年度第2問
設問1
AはCに対し、自らが94条2項の「第三者」に当たることを主張することが考えられる。この主張は、AB間の売買の抗弁、Cの虚偽表示の再抗弁を前提とした予備的抗弁と位置付けられる。この主張が認められるか。
94条2項は本来意思表示の規定であるが、虚偽の外観につき真の権利者に帰責性がある場合には、真の権利者はその外観を信頼した第三者に対して外観通りの責任を負うこと(表見法理)を定めた規定と解釈できる。本件でも、Cは本件建物のB所有権登記という虚偽の外観を1年間も放置したという帰責性があるから、その外観を信頼したAに対して外観通りの責任を負い、その結果CはAに対し、自分が本件建物の所有者であることを主張できないとAは主張したい。この場合、「善意」とは文字通り善意で足り、「第三者」とは虚偽の外観を前提として新たな取引をした者を指す。
しかし、94条はもともと通謀虚偽表示という真の権利者が外観作出に積極的に関与した場合の規定だから、本件のような故意放置の場合も通謀と同視できるだけの帰責性が必要と解するところ、登記というのは通常人は1年間くらい見ないことはありうること、BはCの夫であり特に登記簿を確認しなければならないほどの不信事由がないことから、本件のCにはでは通謀と同視できるだけの帰責性は認められない。
したがって、Aの主張は認められない。
設問2(1)
他人物賃貸借は債権的には有効だが(559条、560条)、所有者には対抗できず、所有者が賃貸借目的物について所有権に基づく返還請求をした時点で、賃貸人の継続的な貸す債務は履行不能となり終了する。本件では、CがAB間の賃貸借契約を有効と認めてほしいというAの申入れを拒絶した時点で、AB間の賃貸借契約は終了した。そのため、AはBに対し、本件建物の返還義務を負うはずである(616条、597条)。
しかし、Bは他人物賃貸人だから、本人Cの意思に沿って本件建物の明渡請求をするのは信義則(禁反言、1条2項)に反するように思える。そこで、他人物賃貸人が本人を相続した場合に、本人の地位で意思表示ができるかが問題となる。
この問題は無権代理人が本人を相続した場合と利益状況が異ならないから、同様に考えるべきである。判例は、本人が追認拒絶した後に無権代理人が本人を相続した場合について、追認拒絶によって本人への効果不帰属が確定した以上は、無権代理人が本人を相続しても無権代理人に効果帰属しないとしている。そこで、本人の追認拒絶後に他人物賃貸人が本人を相続しても、他人物賃貸借は有効にならないと解する。
本件でも、Cは追認を拒絶しているから、BがCを相続しても他人物賃貸借は物権的に有効にならない。
したがって、AはBに対し、BがCを単独相続したことを理由に本件建物の明渡しを拒絶することができない。
設問2(2)
1 敷金返還との同時履行
敷金とは、建物賃借契約から生じる一切の債務を担保するために支払われる金銭である。建物賃借契約に従たる契約として敷金設定契約という要物契約が締結される。定義からわかるように、敷金は一切の賃借人の債務を担保するものであり、修補義務等は建物明渡後に初めて発覚する場合も多い。そのため、建物明渡が敷金返還よりも先履行である。したがって、敷金返還を受けるまで明渡を拒絶するという主張は認められない。
2 債務不履行に基づく損害賠償請求
BはCの地位に基づいてAに対し本件建物の明渡しを請求しているが、本人BはAに対し、賃貸借契約における貸す債務(601条)の不履行及び他人物賃貸借で権利を移転する義務(560条、559条)の不履行があるから、AはBに対し、債務不履行に基づく損害賠償請求ができる(415条)。また、この損害賠償の支払いと建物明渡の同時履行(533条)を主張して建物明渡を拒絶することができる。
3 不法行為に基づく損害賠償請求
他人物賃貸借をしながら権利を移転できなかったことを「過失」(709条)ととらえ、不法行為に基づく損害賠償請求もできる。また、この損害賠償の支払いと建物明渡の同時履行(533条)も主張できる。 以上
AはCに対し、自らが94条2項の「第三者」に当たることを主張することが考えられる。この主張は、AB間の売買の抗弁、Cの虚偽表示の再抗弁を前提とした予備的抗弁と位置付けられる。この主張が認められるか。
94条2項は本来意思表示の規定であるが、虚偽の外観につき真の権利者に帰責性がある場合には、真の権利者はその外観を信頼した第三者に対して外観通りの責任を負うこと(表見法理)を定めた規定と解釈できる。本件でも、Cは本件建物のB所有権登記という虚偽の外観を1年間も放置したという帰責性があるから、その外観を信頼したAに対して外観通りの責任を負い、その結果CはAに対し、自分が本件建物の所有者であることを主張できないとAは主張したい。この場合、「善意」とは文字通り善意で足り、「第三者」とは虚偽の外観を前提として新たな取引をした者を指す。
しかし、94条はもともと通謀虚偽表示という真の権利者が外観作出に積極的に関与した場合の規定だから、本件のような故意放置の場合も通謀と同視できるだけの帰責性が必要と解するところ、登記というのは通常人は1年間くらい見ないことはありうること、BはCの夫であり特に登記簿を確認しなければならないほどの不信事由がないことから、本件のCにはでは通謀と同視できるだけの帰責性は認められない。
したがって、Aの主張は認められない。
設問2(1)
他人物賃貸借は債権的には有効だが(559条、560条)、所有者には対抗できず、所有者が賃貸借目的物について所有権に基づく返還請求をした時点で、賃貸人の継続的な貸す債務は履行不能となり終了する。本件では、CがAB間の賃貸借契約を有効と認めてほしいというAの申入れを拒絶した時点で、AB間の賃貸借契約は終了した。そのため、AはBに対し、本件建物の返還義務を負うはずである(616条、597条)。
しかし、Bは他人物賃貸人だから、本人Cの意思に沿って本件建物の明渡請求をするのは信義則(禁反言、1条2項)に反するように思える。そこで、他人物賃貸人が本人を相続した場合に、本人の地位で意思表示ができるかが問題となる。
この問題は無権代理人が本人を相続した場合と利益状況が異ならないから、同様に考えるべきである。判例は、本人が追認拒絶した後に無権代理人が本人を相続した場合について、追認拒絶によって本人への効果不帰属が確定した以上は、無権代理人が本人を相続しても無権代理人に効果帰属しないとしている。そこで、本人の追認拒絶後に他人物賃貸人が本人を相続しても、他人物賃貸借は有効にならないと解する。
本件でも、Cは追認を拒絶しているから、BがCを相続しても他人物賃貸借は物権的に有効にならない。
したがって、AはBに対し、BがCを単独相続したことを理由に本件建物の明渡しを拒絶することができない。
設問2(2)
1 敷金返還との同時履行
敷金とは、建物賃借契約から生じる一切の債務を担保するために支払われる金銭である。建物賃借契約に従たる契約として敷金設定契約という要物契約が締結される。定義からわかるように、敷金は一切の賃借人の債務を担保するものであり、修補義務等は建物明渡後に初めて発覚する場合も多い。そのため、建物明渡が敷金返還よりも先履行である。したがって、敷金返還を受けるまで明渡を拒絶するという主張は認められない。
2 債務不履行に基づく損害賠償請求
BはCの地位に基づいてAに対し本件建物の明渡しを請求しているが、本人BはAに対し、賃貸借契約における貸す債務(601条)の不履行及び他人物賃貸借で権利を移転する義務(560条、559条)の不履行があるから、AはBに対し、債務不履行に基づく損害賠償請求ができる(415条)。また、この損害賠償の支払いと建物明渡の同時履行(533条)を主張して建物明渡を拒絶することができる。
3 不法行為に基づく損害賠償請求
他人物賃貸借をしながら権利を移転できなかったことを「過失」(709条)ととらえ、不法行為に基づく損害賠償請求もできる。また、この損害賠償の支払いと建物明渡の同時履行(533条)も主張できる。 以上
2017年04月26日
民法 平成22年度第2問
設問1(1)
1 DはCに対し、本件パイプの所有権に基づく本件パイプの返還請求はできない。なぜなら、本件パイプは建物に付合し、本件パイプの所有権はCに移ったからである(242条本文)。
2 DはCに対し、本件パイプの譲渡担保権に基づく物上代位により300万円を支払わせることができるか。
譲渡担保権につき明文はないが、動産の占有を設定者にとどめたままその交換価値を把握する担保権として判例上認められている(非典型契約)。また、不動産の交換価値を把握する権利である抵当権に物上代位が認められているから(372条、304条)、譲渡担保権に基づく物上代位も認められると解する。要件は、@譲渡担保権設定契約、A売却等による交換価値の現実化(304条参照)、B弁済期の到来と解する。Bについて、仮に譲渡担保権の清算方法を帰属清算と解すれば弁済期到来後にも清算金が支払われるまでは受戻権を行使できるようにも思えるが、判例は弁済期到来後に譲渡されたらもはや受戻権を行使できないとしているから、要件と解するのが正しいと考える。
本件につき見るに、@DB間で本件パイプについて譲渡担保権設定契約が締結されている。Aについて、請負は「売却」(304条)等には当たらないから請負代金債権には原則として物上代位できないが、例外的に売却と同視できる特段の事情がある場合には物上代位できると解するところ、本件パイプの価格はBがCから受け取った金額の8割以上を占めるから、特段の事情があると言え、物上代位できると考える。Bについては、Bは請負の仕事を完成しているから、弁済期は到来している(633条但書、624条)。
したがって、DはCに対し、300万円を支払わせることができる。
設問1(2)
Cに対して請負代金を支払わせることができるのはDかEか。
Dが請求できる根拠は物上代位だから、Dは「払渡し」(304条但書)の前に差押えをしなければならない。Dは差押えをしていないから、債権譲渡が「払渡し」に当たるならばEが優先することになる。では、債権譲渡が「払渡し」に当たるか。
そもそも法が「払渡し」の前に差押えを要求した趣旨は、債権の特定性を維持することでも担保権者の優先弁済権を確保することでもなく、第三債務者を二重弁済の危険から保護することである。そして、譲渡担保の場合は抵当権と異なり、ある金銭債権が物上代位の対象となることが登記によって公示されていないから、差押えは第三債務者に対する公示機能を果たす。したがって、譲渡担保権の対象物権の価値が金銭債権に転化した場合、その金銭債権の譲渡は「払渡し」に当たると解する。
本件では、Dは「払渡し」たる債権譲渡の前に差押えをしていない。
したがって、Cに対して請負代金を支払わせることができるのはEである。
設問2
1 CF間
(1) FはCに対し、所有権に基づく返還請求として本件パイプの引渡しを求めることはできない。前述のように、Cは付合により本件パイプの所有権を取得しているからである。
(2)占有回収の訴え(200条1項)をすることもできない。Cは特定承継人(200条2項本文)に当たるからである。FはCの悪意を証明することによって占有回収の訴えを提起できるが(200条2項但書)、Cは、Bが専門の建築業者であることを評価障害事実として悪意を否定できるから、結論は異ならない。
(3)FはCに対し、本件パイプから得ている利益を不当利得(703条)として返還請求することはできない。CB間の請負契約という「法律上の原因」(703条)があるからである。
2 BF間
(1) FはBに対し、本件パイプの所有権に基づく返還請求をすることはできない。Bは本件パイプを占有していないからである。
(2) Fは占有回収の訴え(200条1項)をすることができるか。
BはAからの特定承継人(200条2項本文)に当たるが、Aは400万円の本件鋼材を4分の3の300万円という安値で慌てて売却していることから、Bの悪意(200条2項但書)を証明したい。しかし、占有回収の訴えは所持の外観に反し取引安全を害する可能性があるから「承継人が侵奪の事実を知っていたとき」の要件は厳格に解すべきである。そこで、「承継人が侵奪の事実を知っていたとき」とは承継人が何らかの形で侵奪があったことの認識を有していたことが必要であり、占有の侵奪の可能性についての認識にとどまる限りはこれに当たらないと解する。
本件につき見ると、4分の3程度の値引きは通常の売買でも行われうるから、上記のような事情からはBに侵奪の可能性の認識があったことを認定できるが、侵奪があったことの認識までは認定できない。
したがって、Fは占有回収の訴えを提起することはできない。
(3)FはBがAから本件鋼材を買ったことを不法行為(709条)として損害賠償請求することはできない。Bが前述のように侵奪の可能性の認識をもってAと取引したことは、709条の過失とまでは言い切れないからである。
(4)FはBに対し、不当利得に基づく返還請求(703条)もできない。Bは本件パイプの加工と取付けにより300万円の利益を得ているが、AB間の売買契約及びBC間の請負契約という「法律上の原因」(703条)があるからである。
3 以上のように解しても、FはAに対して不法行為に基づく損害賠償請求ができるから酷ではない。 以上
・最後の設問では法律構成が複数考えられることが多い。
1 DはCに対し、本件パイプの所有権に基づく本件パイプの返還請求はできない。なぜなら、本件パイプは建物に付合し、本件パイプの所有権はCに移ったからである(242条本文)。
2 DはCに対し、本件パイプの譲渡担保権に基づく物上代位により300万円を支払わせることができるか。
譲渡担保権につき明文はないが、動産の占有を設定者にとどめたままその交換価値を把握する担保権として判例上認められている(非典型契約)。また、不動産の交換価値を把握する権利である抵当権に物上代位が認められているから(372条、304条)、譲渡担保権に基づく物上代位も認められると解する。要件は、@譲渡担保権設定契約、A売却等による交換価値の現実化(304条参照)、B弁済期の到来と解する。Bについて、仮に譲渡担保権の清算方法を帰属清算と解すれば弁済期到来後にも清算金が支払われるまでは受戻権を行使できるようにも思えるが、判例は弁済期到来後に譲渡されたらもはや受戻権を行使できないとしているから、要件と解するのが正しいと考える。
本件につき見るに、@DB間で本件パイプについて譲渡担保権設定契約が締結されている。Aについて、請負は「売却」(304条)等には当たらないから請負代金債権には原則として物上代位できないが、例外的に売却と同視できる特段の事情がある場合には物上代位できると解するところ、本件パイプの価格はBがCから受け取った金額の8割以上を占めるから、特段の事情があると言え、物上代位できると考える。Bについては、Bは請負の仕事を完成しているから、弁済期は到来している(633条但書、624条)。
したがって、DはCに対し、300万円を支払わせることができる。
設問1(2)
Cに対して請負代金を支払わせることができるのはDかEか。
Dが請求できる根拠は物上代位だから、Dは「払渡し」(304条但書)の前に差押えをしなければならない。Dは差押えをしていないから、債権譲渡が「払渡し」に当たるならばEが優先することになる。では、債権譲渡が「払渡し」に当たるか。
そもそも法が「払渡し」の前に差押えを要求した趣旨は、債権の特定性を維持することでも担保権者の優先弁済権を確保することでもなく、第三債務者を二重弁済の危険から保護することである。そして、譲渡担保の場合は抵当権と異なり、ある金銭債権が物上代位の対象となることが登記によって公示されていないから、差押えは第三債務者に対する公示機能を果たす。したがって、譲渡担保権の対象物権の価値が金銭債権に転化した場合、その金銭債権の譲渡は「払渡し」に当たると解する。
本件では、Dは「払渡し」たる債権譲渡の前に差押えをしていない。
したがって、Cに対して請負代金を支払わせることができるのはEである。
設問2
1 CF間
(1) FはCに対し、所有権に基づく返還請求として本件パイプの引渡しを求めることはできない。前述のように、Cは付合により本件パイプの所有権を取得しているからである。
(2)占有回収の訴え(200条1項)をすることもできない。Cは特定承継人(200条2項本文)に当たるからである。FはCの悪意を証明することによって占有回収の訴えを提起できるが(200条2項但書)、Cは、Bが専門の建築業者であることを評価障害事実として悪意を否定できるから、結論は異ならない。
(3)FはCに対し、本件パイプから得ている利益を不当利得(703条)として返還請求することはできない。CB間の請負契約という「法律上の原因」(703条)があるからである。
2 BF間
(1) FはBに対し、本件パイプの所有権に基づく返還請求をすることはできない。Bは本件パイプを占有していないからである。
(2) Fは占有回収の訴え(200条1項)をすることができるか。
BはAからの特定承継人(200条2項本文)に当たるが、Aは400万円の本件鋼材を4分の3の300万円という安値で慌てて売却していることから、Bの悪意(200条2項但書)を証明したい。しかし、占有回収の訴えは所持の外観に反し取引安全を害する可能性があるから「承継人が侵奪の事実を知っていたとき」の要件は厳格に解すべきである。そこで、「承継人が侵奪の事実を知っていたとき」とは承継人が何らかの形で侵奪があったことの認識を有していたことが必要であり、占有の侵奪の可能性についての認識にとどまる限りはこれに当たらないと解する。
本件につき見ると、4分の3程度の値引きは通常の売買でも行われうるから、上記のような事情からはBに侵奪の可能性の認識があったことを認定できるが、侵奪があったことの認識までは認定できない。
したがって、Fは占有回収の訴えを提起することはできない。
(3)FはBがAから本件鋼材を買ったことを不法行為(709条)として損害賠償請求することはできない。Bが前述のように侵奪の可能性の認識をもってAと取引したことは、709条の過失とまでは言い切れないからである。
(4)FはBに対し、不当利得に基づく返還請求(703条)もできない。Bは本件パイプの加工と取付けにより300万円の利益を得ているが、AB間の売買契約及びBC間の請負契約という「法律上の原因」(703条)があるからである。
3 以上のように解しても、FはAに対して不法行為に基づく損害賠償請求ができるから酷ではない。 以上
・最後の設問では法律構成が複数考えられることが多い。
2017年04月19日
刑法 平成19年度第2問
第1 甲の罪責
1 Xに対して噓を言って事故現場に急行させた行為に偽計業務妨害罪(233条)の成否を検討する。
(1) Xをその場から移動させるために嘘を言った行為は、Xを欺罔する行為だから「偽
計」に当たる。
(2)「業務」(233条)とは社会生活上の地位に基づき継続して行うものをいうところ、警察官のような公務もこれに当たるかが問題となる。なぜなら、公務執行妨害罪(95条1項)は、公務を暴行・脅迫に対してのみ保護しているとも考えられるからである。この問題については、強制力を行使する権力的公務は偽計や威力に対する自力排除力があるから「業務」として保護する必要はない。したがって、強制力を行使する権力的公務以外が「業務」に当たると解する。
本件の警察官は強制力を行使する権力的公務に当たるから、「業務」には含まれない。
(3)したがって、偽計業務妨害罪は成立しない。
2 Xの制帽と業務日誌を持ち出した行為に窃盗罪(235条)の成否を検討する。
(1) 制帽も業務日誌もXが所有権を有する有体物だから「他人の財物」に当たる。
(2) 「窃取」とは意思に反する占有の移転を言うところ、Xはその場にいないが、制帽
も業務日誌も交番というXの支配領域内にあるから、Xに占有が認められる。そしてそれらを甲の自宅に持ち帰る行為は占有の移転に当たるから、「窃取」の要件を満たす。
(3) 窃盗罪が成立するためには、以上の故意(犯罪事実の認識・予見、38条1項本文)
のほかに不法領得の意思が必要と解する。その内容は、使用窃盗との区別のための所有者として振舞う意思と、毀棄罪との区別のための経済的利用処分意思と解する。
甲は、翌日まで自宅に隠した後で返還するつもりがあるから、経済的利用処分意思がない。
(4) したがって、不法領得の意思を欠き、窃盗罪は成立しない。
(5) もっとも、制帽を隠す行為は制帽の効用を害する行為だから「損壊」(261条)にあた
り、器物損壊罪が成立する。また、業務日誌は交番という「公務所」(7条)が使用する文書だから「公務所の用に供する文書」(258条)に当たり、隠す行為は効用を害する行為だから「毀棄」(258条)にあたるため、同行為に公用文書毀棄罪が成立する。
3 制帽をXに返すのをやめ、後に売るために保管した行為は、不法領得の意思が発現しているから占有離脱物横領罪(254条)が成立する。
4 罪数
甲には@制帽の器物損壊罪、A制帽の占有離脱物横領罪、B業務日誌の公用文書毀棄罪が成立し、@Aは併合罪(45条)、@とBは一つの行為として行われたから観念的競合(54条1項前段)である。
第2 乙の罪責
1 甲に対し、制帽を売ることを唆した行為に占有離脱物横領罪の教唆犯が成立する(254条、61条1項)。
2 本件業務日誌を交番まで運んだ行為に盗品運搬罪(256条2項)の成否を検討する。
(1) 本件業務日誌を領得した行為には公文書毀棄罪が成立しているから、本件業務日誌
は「財産に対する罪に当たる行為によって領得された物」(256条1項)に当たる。
(2) 被害者のもとに運ぶ行為も「運搬」に当たるのかについて、盗品運搬罪の保護法益
は被害者が財物に対して有する追求権であり、犯人の利益のために被害者のもとへ運ぶ行為は被害者の正常な回復を困難にして追求権を侵害しているため、「運搬」に当たると解する。
本件では、乙は犯人甲に頼まれて運んでいるから、犯人の利益のために被害者のもとへ運んでいると言える。
(3) したがって、「運搬」に当たり、盗品運搬罪が成立する。
3 Xに対し業務日誌と引き換えに10万円を要求して領得できなかった行為に恐喝未遂罪(250条、249条1項)が成立する。
4 罪数
乙には@占有離脱物横領罪の教唆犯、A盗品運搬罪、B恐喝未遂罪が成立し、それぞれ併合罪である。 以上
1 Xに対して噓を言って事故現場に急行させた行為に偽計業務妨害罪(233条)の成否を検討する。
(1) Xをその場から移動させるために嘘を言った行為は、Xを欺罔する行為だから「偽
計」に当たる。
(2)「業務」(233条)とは社会生活上の地位に基づき継続して行うものをいうところ、警察官のような公務もこれに当たるかが問題となる。なぜなら、公務執行妨害罪(95条1項)は、公務を暴行・脅迫に対してのみ保護しているとも考えられるからである。この問題については、強制力を行使する権力的公務は偽計や威力に対する自力排除力があるから「業務」として保護する必要はない。したがって、強制力を行使する権力的公務以外が「業務」に当たると解する。
本件の警察官は強制力を行使する権力的公務に当たるから、「業務」には含まれない。
(3)したがって、偽計業務妨害罪は成立しない。
2 Xの制帽と業務日誌を持ち出した行為に窃盗罪(235条)の成否を検討する。
(1) 制帽も業務日誌もXが所有権を有する有体物だから「他人の財物」に当たる。
(2) 「窃取」とは意思に反する占有の移転を言うところ、Xはその場にいないが、制帽
も業務日誌も交番というXの支配領域内にあるから、Xに占有が認められる。そしてそれらを甲の自宅に持ち帰る行為は占有の移転に当たるから、「窃取」の要件を満たす。
(3) 窃盗罪が成立するためには、以上の故意(犯罪事実の認識・予見、38条1項本文)
のほかに不法領得の意思が必要と解する。その内容は、使用窃盗との区別のための所有者として振舞う意思と、毀棄罪との区別のための経済的利用処分意思と解する。
甲は、翌日まで自宅に隠した後で返還するつもりがあるから、経済的利用処分意思がない。
(4) したがって、不法領得の意思を欠き、窃盗罪は成立しない。
(5) もっとも、制帽を隠す行為は制帽の効用を害する行為だから「損壊」(261条)にあた
り、器物損壊罪が成立する。また、業務日誌は交番という「公務所」(7条)が使用する文書だから「公務所の用に供する文書」(258条)に当たり、隠す行為は効用を害する行為だから「毀棄」(258条)にあたるため、同行為に公用文書毀棄罪が成立する。
3 制帽をXに返すのをやめ、後に売るために保管した行為は、不法領得の意思が発現しているから占有離脱物横領罪(254条)が成立する。
4 罪数
甲には@制帽の器物損壊罪、A制帽の占有離脱物横領罪、B業務日誌の公用文書毀棄罪が成立し、@Aは併合罪(45条)、@とBは一つの行為として行われたから観念的競合(54条1項前段)である。
第2 乙の罪責
1 甲に対し、制帽を売ることを唆した行為に占有離脱物横領罪の教唆犯が成立する(254条、61条1項)。
2 本件業務日誌を交番まで運んだ行為に盗品運搬罪(256条2項)の成否を検討する。
(1) 本件業務日誌を領得した行為には公文書毀棄罪が成立しているから、本件業務日誌
は「財産に対する罪に当たる行為によって領得された物」(256条1項)に当たる。
(2) 被害者のもとに運ぶ行為も「運搬」に当たるのかについて、盗品運搬罪の保護法益
は被害者が財物に対して有する追求権であり、犯人の利益のために被害者のもとへ運ぶ行為は被害者の正常な回復を困難にして追求権を侵害しているため、「運搬」に当たると解する。
本件では、乙は犯人甲に頼まれて運んでいるから、犯人の利益のために被害者のもとへ運んでいると言える。
(3) したがって、「運搬」に当たり、盗品運搬罪が成立する。
3 Xに対し業務日誌と引き換えに10万円を要求して領得できなかった行為に恐喝未遂罪(250条、249条1項)が成立する。
4 罪数
乙には@占有離脱物横領罪の教唆犯、A盗品運搬罪、B恐喝未遂罪が成立し、それぞれ併合罪である。 以上
2017年04月16日
刑事訴訟法 予備試験平成28年度
設問1
再逮捕再勾留は原則として許されないと解する。なぜなら、法が逮捕勾留について厳格な時間制限(202条以下)を設けた趣旨を没却し、身体拘束の不当な蒸返しになるからである(人身の自由、憲法33、34条)。
もっとも、逮捕して釈放後に逮捕の必要が生じる場合もあり、199条3項は再逮捕がありうることを前提にしているから、いかなる要件で再逮捕を認めるかが問題になる。上記再逮捕再勾留の原則禁止の趣旨から、新証拠発見等を理由とする再逮捕の高度の必要性と、身体拘束の不当な蒸返しとならないことに着目した相当性が要件となると解する。再勾留については、確かに、20日経過前に新証拠が見つかった場合には勾留延長ができないにもかかわらず20日経過後に再勾留するのは不当とも思えるが、逮捕は勾留の判断を慎重にするために行われるプレ勾留としての性格を有するから、再逮捕と同一の要件で判断すべきと解する。
本件被疑事実は窃盗及び放火であるところ、甲が窃盗犯人であることの証拠がないまま20日間を経過した。しかし、甲の釈放後、甲が本件の盗品を売却していた新事実が発見された。その売却は事件発生から4日後に行われているが、このように短い期間に盗品が犯人以外の者の手に渡るのは考えにくいから、この新事実は、甲による「窃取」(刑法235条)を推認させる有力な間接事実と言える。このような有力な新証拠の発見によって、再逮捕の高度の必要性があると言える。相当性については、上記新証拠をもとにした取調べには10日も要さないと考えられるから、5日間の勾留状を発布することによって、相当性の要件を満たすと考える。
したがって、勾留期間を5日以内とする限り、@の再逮捕再勾留は適法である。
設問2
犯人性の証明のために類似行為を立証することは原則として許されないと解する。なぜなら、類似行為という推認力の弱い事実を立証することは事実認定を誤らせるおそれがあり、また、争点拡散の危険があるため、法律的関連性を欠くからである。もっとも、犯行態様に顕著な特徴があり、かつ、それが起訴にかかる犯罪事実と相当程度類似することから、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものである場合には、事実認定を誤らせるおそれも争点拡散のおそれもいずれも存在しないと言えるから、例外的に類似行為を被告人と犯人の同一性の証明に用いることができると解する。
本件では、確かに美術品の彫刻を盗みウイスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶を使用して放火したという犯行態様は相当程度類似するが、窃盗ののちに証拠隠滅のため放火に及ぶということ及び放火に手製の火炎瓶を使うということはそれほど特殊なこととは言い難い。また、かかる類似行為が行われたのは7年前という昔に1回だけであって、甲が特にその犯行態様を固着させていたと評価することもできない。このような前科を本件の立証に用いることは、結局、前科の事実から被告人に対して放火に及びやすいという人格的評価を与え、その人格的評価をもとに被告人が本件放火を行ったという合理的根拠に乏しい推論をすることになる。
したがって、Aの判決書謄本を本件の証拠として用いることは許されない。 以上
再逮捕再勾留は原則として許されないと解する。なぜなら、法が逮捕勾留について厳格な時間制限(202条以下)を設けた趣旨を没却し、身体拘束の不当な蒸返しになるからである(人身の自由、憲法33、34条)。
もっとも、逮捕して釈放後に逮捕の必要が生じる場合もあり、199条3項は再逮捕がありうることを前提にしているから、いかなる要件で再逮捕を認めるかが問題になる。上記再逮捕再勾留の原則禁止の趣旨から、新証拠発見等を理由とする再逮捕の高度の必要性と、身体拘束の不当な蒸返しとならないことに着目した相当性が要件となると解する。再勾留については、確かに、20日経過前に新証拠が見つかった場合には勾留延長ができないにもかかわらず20日経過後に再勾留するのは不当とも思えるが、逮捕は勾留の判断を慎重にするために行われるプレ勾留としての性格を有するから、再逮捕と同一の要件で判断すべきと解する。
本件被疑事実は窃盗及び放火であるところ、甲が窃盗犯人であることの証拠がないまま20日間を経過した。しかし、甲の釈放後、甲が本件の盗品を売却していた新事実が発見された。その売却は事件発生から4日後に行われているが、このように短い期間に盗品が犯人以外の者の手に渡るのは考えにくいから、この新事実は、甲による「窃取」(刑法235条)を推認させる有力な間接事実と言える。このような有力な新証拠の発見によって、再逮捕の高度の必要性があると言える。相当性については、上記新証拠をもとにした取調べには10日も要さないと考えられるから、5日間の勾留状を発布することによって、相当性の要件を満たすと考える。
したがって、勾留期間を5日以内とする限り、@の再逮捕再勾留は適法である。
設問2
犯人性の証明のために類似行為を立証することは原則として許されないと解する。なぜなら、類似行為という推認力の弱い事実を立証することは事実認定を誤らせるおそれがあり、また、争点拡散の危険があるため、法律的関連性を欠くからである。もっとも、犯行態様に顕著な特徴があり、かつ、それが起訴にかかる犯罪事実と相当程度類似することから、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものである場合には、事実認定を誤らせるおそれも争点拡散のおそれもいずれも存在しないと言えるから、例外的に類似行為を被告人と犯人の同一性の証明に用いることができると解する。
本件では、確かに美術品の彫刻を盗みウイスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶を使用して放火したという犯行態様は相当程度類似するが、窃盗ののちに証拠隠滅のため放火に及ぶということ及び放火に手製の火炎瓶を使うということはそれほど特殊なこととは言い難い。また、かかる類似行為が行われたのは7年前という昔に1回だけであって、甲が特にその犯行態様を固着させていたと評価することもできない。このような前科を本件の立証に用いることは、結局、前科の事実から被告人に対して放火に及びやすいという人格的評価を与え、その人格的評価をもとに被告人が本件放火を行ったという合理的根拠に乏しい推論をすることになる。
したがって、Aの判決書謄本を本件の証拠として用いることは許されない。 以上