アフィリエイト広告を利用しています
ファン
検索
<< 2019年11月 >>
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新記事
写真ギャラリー
最新コメント
タグクラウド
カテゴリーアーカイブ
プロフィール
ヨリちゃんさんの画像
ヨリちゃん
プロフィール

広告

この広告は30日以上更新がないブログに表示されております。
新規記事の投稿を行うことで、非表示にすることが可能です。
posted by fanblog

2019年11月27日

日本経済をスカスカにした真犯人 日本発「多国籍企業」の罪と罰 冷泉彰彦






 日本経済をスカスカにした真犯人 日本発「多国籍企業」の罪と罰 冷泉彰彦


   11-28-1.png

   〜まぐまぐニュース!2019.11.20 by 冷泉彰彦『冷泉彰彦のプリンストン通信』より〜

 〜新聞各紙は今冬のボーナス支給額、そしてトヨタ自動車の純利益が夫々過去最高を記録したと伝えて居ますが、我々一般庶民が「好景気」を肌で感じる事は難しいと言っても過言ではありません。
 その一因に「日本経済の分断」があるとするのは、米国在住の作家・冷泉彰彦さん。冷泉さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、この様な分断が生じた理由を明らかにすると共に、日本経済が「スカスカ」に為った原因を考察して居ます〜








 引き裂かれた日本経済 日本的空洞化の研究 その1


 日本経済の空洞化が止まりません

 日本経済の空洞化が止まりません。何時の間にか、日本経済はスカスカに為って居ます。格差、貧困、ブラック労働に子供の貧困、こうした問題が国内では進行して居ます。
 今回の消費税アップでは、前回の3%アップ時に消費が低迷した事の再来を恐れて、軽減税率やポイント還元が行われましたが、逆に考えれば、そうした対策をし無くては2%アップのインパクトが吸収出来無い、その位に日本国内の購買力は弱って居るのです。
 その一方で、多国籍企業は空前の利益を挙げて居ます。そしてアベノミクス効果で株高と為り、都心のタワーマンション等は高騰して居ます。一体日本経済に何が起こって居るのでしょうか?

 日本経済と云うのが2つに分裂して居る

 このシリーズでは「空洞化」それも「日本型空洞化」をキーワードとして、このスカスカに為った日本経済の状況に迫ってみたいと思います。最初に取り上げたいと思うのは、日本経済の分断、詰まり日本経済と云うのが2つに分裂して居ると云う問題です。分裂の第一は「正社員経済」「非正規経済」の分裂です。

 毎年の事ですが11月に為ると、経済ニュースとして「冬のボーナスの増減」が話題に為ります。例えば、2019年の場合11月14日付の日本経済新聞(電子版)には次の様な記事が掲載されて居ます。

 ・・・経団連は14日、大企業が支給する冬の賞与(ボーナス)の第1回集計をマトメた。平均妥結額は96万4,543円と為り、前年比で1.49%増えた。主に春先までの堅調な企業業績を反映し、2年連続で過去最高を更新した。造船や自動車・建設が全体を牽引した。プラス幅は昨年(3.49%)より鈍ったが、経団連は「賃金引き上げの流れは継続して居る」と見て居る。
 東証1部上場で従業員が500人以上の82社分を集計した。製造業は94万7,400円で、前年比1.54%増えた。非製造業も2.01%増え、132万7,787円と為った。業種別に見ると7業種が増額・5業種が減額だった。


 要するにボーナスの支給額が、2年連続で「過去最高」だったと云うのです。しかも平均妥結額は全体で96万とか、非製造業では132万と云う高額に為って居ます。これは非常に可笑しな話です。日本の現在の労働慣行では、正規労働、詰まり正社員の場合、給料の5ヶ月分とか7ヶ月分がボーナスとして別に用意されて、夏(6月)と冬(12月)に分けて支給されて居ます。
 一方で、非正規労働の場合は、会社によって呼び方は違いますが、契約社員等月収の高い契約でも、それ以外のパートや派遣社員の場合でもボーナスはありません。

 正規と非正規の違いは、ボーナスの有無だけではありませんが、給与体系と云う事で見れば、この2つを分ける大きな違いと為って居ます。勿論これは問題です。どうしてボーナスがあるのかと云うと、給料が毎月の生活費分に消えるとして、それとは別に耐久消費財を買ったり、住宅購入の頭金にしたり、或は住宅ローンのボーナス返済に使ったりする為です。
 詰まり、ボーナスのある正規雇用と、無い非正規雇用の間には、生活スタイルの決定的な違いがある訳です。違いが連続して居る中での差では無く、全く別の所得階層と言って好い差がある訳です。

 百歩譲って、そうした制度があると云う事は前提にするにしても、今回の経団連の発表では、膨大な数の「ボーナスがゼロ」だと云う非正規の人はソモソモ調査の対象に入って居ないのです。
 ソモソモ、膨大な数の「ゼロ」を計算に入れるのであれば、絶対に「史上最高額」等と云うセリフは出て来無い筈です。仮に正社員への支給額の平均が100万円でも、正社員と同数の契約社員が居て、彼等のボーナスがゼロであれば、平均は半額の50万円に為ります。

 ですが、そうした計算は行われません。それは、経団連と云う団体が、終身雇用で守られてボーナスの支給対象と為る正社員共同体の利害を代表する団体だからです。
 ソモソモ6月12月に為ると、ボーナスの季節に為ったとか、史上最高額だと云うのは、対象外の非正規の人々には腹立たしいだけです。にも関わらず、そうした表現が平気で使われて居るのです。何故かとと云うと、経済新聞を読んだりこうした統計を見たりする人は、非正規労働者の事をホボ100%無視して居るからです。

 と云う事は、経済が2つに分かれて居ると云う事です。詰まりボーナスがあって、史上最高額のボーナスを受け取れる正規労働者の属している経済と、ボーナスの無い非正規労働者の属して居る経済・・・日本経済と言っても、その2つは完全に分断されて居ると言って好いでしょう。

 分断の一方である非正規労働者は、どうしてそんなに低い処遇で甘んじて居るのでしょうか?好く言われるのは「派遣労働法を作ったのが悪い」とか「就職氷河期があったので不公平だ」と云う批判ですが、そうした問題は結果に過ぎません。
 多くの企業が、日本国内の事務仕事に高い給料が払え無く為ったので派遣労働が必要に為ったのであって、派遣労働法が出来たから非正規が増えたのではありません。又、所謂氷河期には、日本企業の業績が著しく落ち込んで、回復の見込みが無かったから新卒採用が極端に抑制されたのであって、これも結果としてそう為っただけです。







 更に日本経済は第二の分裂をして居る

 何が問題なのでしょう?そこにはもう第二の分裂と云う問題が絡んで来ます。それは「多国籍企業の全世界連結決算」「国内経済への貢献」と云う分裂です。

 ボーナスが史上最高額と云う記事と並んで、最近好く目にするのが「企業の業績が史上最高」と云うニュースです。例えばトヨタの場合は、2019年4〜6月期の売上高と当期利益は過去最高を記録したそうです。間違いではありません。ですが、問題はその「過去最高」の意味です。
 トヨタの構造を見ると、年間の生産台数は約1,100万台(最新の2019年4月〜9月では545万台)ですが、大雑把に言って国内での生産は440万台で海外生産660万台で、海外生産の方が多い訳です。又、国内生産の内半分は輸出と為って居て、詰まり総生産台数1,100万台の内80%は海外市場向けです。

 国内販売は年間ベースで220万台で、全体の20%と為って居ます。しかも、この220万台の内、3分の1に当たる65万台はトヨタグループ内の「ダイハツ」の販売と為って居ます。要するに軽四なのです。と云う事は、例えば北米向けの車両の平均価格と比べると売上ベースでは半分以下と云う事です。
 又220万を輸出して居ると言っても、中身は決して昔とは同じではありません。昔は、トヨタの場合、アメリカ向けには「輸出台数の自主規制」と云うものがあり、その枠を最大限に利用する為に「レクサス等高級車、高付加価値者」を日本で作って輸出して居ました。

 ですが、現在は違います。北米向けレクサスの生産も、ES(ケンタッキー)RX(オンタリオ)等海外に出してしまって居るのです。又国内で生産して輸出する場合は、国内経済への貢献は「卸値」だけです。そう考えると、トヨタ全体の中で日本のGDPに貢献して居るのは10%位であると考える事が出来ます。
 と云う事は売り上げが過去最高とか、空前の利益と言っても90%は日本のGDPとは無関係だと云う事が言えます。雇用と云う事でも、基幹の技術職、マネジメント職も含めて、トヨタの場合はグループの中での外国人比率は50%を超えて居ます。又出資して居る株主も海外が中心、取引される市場はNY、従って配当金の行く先も海外です。







 日本発祥の多国籍企業の評価

 私はグローバル経済を基本的に支持して居ます。自由な国際市場があって自由な競争がされる事で、多様な人材のコミュニケーションが生まれ、新しいアイディアが実現されて行き、人類全体としては生活水準の向上に繋がるからです。自由貿易も同じ理由から賛成です。
 又、空洞化と言われる現象、詰まり多国籍企業がモノを作る場合に、先進国である本社で製造してしまうと、コストが高いので途上国で生産してコストを抑制するとか、そうした途上国も販売先に加えて行くと云うのは、水が高い所から低い所へ流れる様に仕方の無い事だし、余程の弊害が無い限り運命として受け入れるべきと思って来ました。
 同時に、市場によっては「生産を現地で遣って、雇用を創出しないと輸入関税を掛ける」と云う地域があり、その場合も現地生産を進める事で本体は空洞化する事があります。これも場合によりますが、避けられ無いケースが多いと思います。

 処が、現在の日本発の多国籍企業の場合は、生産と販売だけで無く、研究開発からマーケティング、或は経営戦略までドンドン外に出してしまって居ます。例えばトヨタの場合では、多くの予算を使ってCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、EV化)分野向けの研究開発をして居ますが、その殆どは海外で遣って居ます。
 そう為ると、研究開発費を払う先、研究開発の為に雇用する人材への給与等も海外に為って行きます。そしてノウハウは海外に蓄積されて、徐々に「日本発の多国籍企業」であったものが事実上は「無国籍企業」に為って居る訳です。

 そうなのですが、今でも「トヨタが最高業績」だと日本の新聞は喜ぶ訳です。又、日本の鉄道車両メーカーが、ヨーロッパで大量受注に成功したり、アジアで新幹線プロジェクトを請け負う事が決まると、メディアは良いニュースだとか、これで日本経済も元気に為る等と云う言い方をします。
 悪い事ではありませんが、実際は鉄道の様な公共インフラの場合は、特に車両の大量受注の様なケースですと、各国は雇用保障の為に、現地で生産する事がディールの条件に為って居る訳です。そう為ると、例えば英国の鉄道車両を日立が受注したとしても、日本経済への貢献は一部の技術に関するライセンス料位にしか為ら無いのです。

 詰まり、日本経済と言ってもトヨタとか日立と云う多国籍企業の「全体の業績」と、純粋に日本に金が落ちて、日本で金の回る日本のGDPとは全く別物だと云う事に為ります。この点が、どうにも誤解が多い訳です。
 どうしてかと云うと、経済新聞とか経済記事を読む人は、圧倒的に正規雇用の人が多い訳です。彼等の感覚は、先ず自分の会社、日本における自分の業界の発展・成長が大事だと云う考えが中心に為って居ます。ですから、トヨタが市場最高益だとか日立が欧州で大型受注をしたと云うと喜ぶ訳です。







 俯瞰した日本経済の観方(みかた)が必要

 ですが、純粋に国内の税収とか、雇用とか、消費と云う点では、確かに海外で稼いだ金で日本勤務の正社員のボーナスが増えたり、アベノミクス効果も加わって、日本での株価が上がれば、多少は日本での消費には好い影響はあるでしょう。日本での採用とか雇用には若干プラスかも知れません。ですが、それだけです。
 兎に角海外で稼いだ金は、日本には還流しません。多くの場合は、海外に再投資されます。その結果として、日本経済と言っても2つの経済に分断されて居る訳です。1つは多国籍企業が世界中で稼いだ「連結」の数字です。もう1つは、日本国内の経済活動の全体を表す「GDP」です。

 昔は、この2つの数字には相関関係がありました。ですが、今は違います。多国籍企業が世界中でどんなに稼いでも、GDPへの貢献は少ないのです。だから、日本国内の経済はスカスカに為って居ます。何時までも牛丼店が思い切った値上げが出来無いのも、無料の花火大会ばかりに人が殺到するのも、ブラックな外食産業が学生バイトを酷使してそれでも大した利益が出無いのも、日本国内の格差、貧困、社会苦がドンドン悪化して閉塞感が広がって居るのも、この「日本型空洞化」に原因があると思うのです。

 こう申し上げると、それではトランプと同じ「経済ナショナリズム」だと云う批判が来そうです。それは私としては気持ちの好い事ではありません。先程申し上げた様に、日本は自由貿易によってグローバルな世界で勝って来たと云う感覚があるのです。
 ですが、もしかしたら、そこで勝って来たのは日本発の多国籍企業だけであって、日本経済は負け続けて来たのではないか、それが「スカスカ」と云う事の意味なのです。


   image by  Michel Chappaz  Shutterstock.com 冷泉彰彦 東京都生まれ 東京大学文学部卒業 コロンビア大学大学院卒 1993年より米国在住 メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからコソの鋭い記事が人気のメルマガは第1〜第4火曜日配信

                以上







【お申し込みページ】







最早笑うしか無い 日本の生産性をダメダメにした5つの大問題




 最早笑うしか無い 日本の生産性をダメダメにした5つの大問題


           〜まぐまぐニュース! 11/27(水) 5:00配信〜


      11-27-15.jpg

 前回「日本経済をスカスカにした真犯人、日本発『多国籍企業』の罪と罰」「2つの日本経済の分裂」に我が国の空洞化の原因を求めた、米国在住の作家・冷泉彰彦さん
 更に冷泉さんは今回、自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、先進国の中で最低に迄沈んだ日本の生産性再浮上を阻む「5つの問題点」の存在を指摘して居ます。

 日本の生産性はスカスカ 日本的空洞化の研究その2


 日本生産性本部?

 と云う団体があります。正直に毎年「労働生産性の国際比較」を公表して居り、2018年12月には「日本の時間当たり労働生産性は47.5ドル(4733円)OECD加盟36カ国中20位」等と云うプレスリリースを出して居ます。今年もソロソロ2019年の分を出すのだと思いますが、取り敢えずこの2018年バージョンを見てみる。

 2017年の日本の1人当たり労働生産性(就業者1人当たり付加価値)は、84027ドル(837万円)、ニュージーランド(76105ドル/758万円)を上回るものの、英国(89674ドル/893万円)やカナダ(93093ドル/927万円)と云った国をヤヤ下回る水準で、順位で見るとOECD加盟36カ国中21位と為って居る。

 等と云う悲惨なデータが臆面も無く書かれて居ます。こんな悲惨な内容なのに、生産性本部等と云う名称を変える事無く毎年公表して居ると云うのは、不思議な感じがします。
 多分、日本の製造業が絶好調で「経済大国」と言われて居た1980年代に「日本の生産性も世界一」だと云う事でこうした団体の啓蒙活動がされて居た訳ですが「その時で時間がフリーズ」して居るのだと思います。男性中心の終身雇用労働者が会議をしたり、手帳に何かを書き込んだりして集団主義を実践すれば、世界一の生産性が達成出来た・・・そんな意識です。でも、1990年代以降の結果はダメダメで、先進国中最低に為って居る訳です。

 生産性本部にも、優秀な方、誠実な方も居られると思うし、昭和世代の自分には世代的に責任の一端があると思うと心苦しい面もあるのですが、こう為ると悲劇より悲惨な喜劇としか言い様が無いのも事実です。
 どうしてなのでしょうか?兎に角生産性が低いと云う事は、働いても働いても「付加価値=カネ」が稼げ無いと云う事です。企業活動としてカネが稼げ無いと云う事は、その結果として給料と云う形での報酬も得られ無い事に為ります。又、頑張って働いてもムダと云う事で、労働の社会貢献と云う意味でも成果はスカスカと云う事です。

 本当にイヤに為ってしまう様な話ですが、では、どうして日本の生産性はこんなに低いのでしょうか?

 先ず、コンピュータの利用が進んで居ない、文書が多い、原本を作ってハンコを押すと云った旧態依然とした事務仕事の問題があります。しかし、この部分は遅まきながら、少しズツ改革が進んで居るのも事実です。対面型コミュニケーションが主流と云うのも問題ですが、これも多少は理解がされて居る様です。
 ですが、その他にモッと根深い問題がある事に付いては、マダマダ認識が共有化されて居ない様です。今回は5つ問題提起したいと思います。







 1つ目は、仕事が専門化されて居ないと云う事です。例えば経理部門・マーケティング部門等の職能に付いては、仮に専門化して居れば、先ず最先端を大学や大学院で学んだ人材、より規模の大きなグローバル企業でバリバリだった人材と云うのは「スキルの訓練が出来て居る即戦力」に為る筈です。
 処が、仕事が専門化されて居ない人事をする為に、折角マーケティングが出来る様に為っても、今度は現場とか、生産管理の次は営業とか、無茶な回し方をする訳です。昭和の時代ならイザ知らず、そうした個々の専門職に付いては、現代ではグローバルな標準化がドンドン進んで居る訳で、学ぶ内容は格段に深く広く為って居ます。にも関わらず、人事ローテをするのは無駄です。その結果として折角身に着いたノウハウを捨てる事に為るし、部門や職能を変わる度に大変な思いをしてトレーニングをし無くては為ら無いからです。

 2つ目は、この「専門化され無い人事」の結果ですが、権限が現場に下ろされて居ないと云う事です。更に言えば、権限のある人にはスキルと知識が無い訳です。そうすると、決め無くてはいけ無い事が現場で決められ無い、そのクセ決める権限のある人は自分が好く判ら無いので決められ無いと云う事で、物凄い社内調整が必要に為り、意思決定にダラダラ時間が掛かる訳です。その間に浪費される時間、文書、エネルギーは殆ど無駄です。

 3つ目は、兎に角大勢が会議に出て来ると云う事です。会議が多いのが悪いのではありません。一回の会議にゾロゾロ大勢出て来るので、結果的に一人当たりの会議参加時間が多過ぎる事に為るのです。
 原因ですが、先ず権限と知識・スキルが切り離されて居ると云う事もありますが「幹部候補には全社的な動きを知って貰いたい」とか「新企画の立ち上げは、スタート段階から関連部門全員参加で会議しないと組織が動か無い」と云う様な非合理な風土があるからです。

 好く評論家の人等で、企業と会議する場合に「発言し無い人は無駄だから居て欲しく無い」等とダダを捏ねる人が居ますが、アレは間違いです。日本の場合、実務的な会議の中では、発言し無い人に最先端の、そして現場の知識とノウハウがあるのです。そうでは無くて殆ど素人だが、権限のある人がダラダラ思い付きで喋って、人の時間を奪って居るのです。
 有名な人が、コラボ企画等で企業と打ち合わせする場合もそうです。ベラベラ喋って居る人は権限はあるがスキルの無い人で、黙って居る人が実は実行力もあれば、企画の細部を握って居るのです。
 詰まりそうした場合の会議と云うのは、スキルや知識的には過去の存在である管理職に「著名人と合わせて満足させる」セレモニーである訳です。ですから、生産性を上げる為には、有名人の側は、実は黙って居る人とだけ会議をすれば良いのです。

 4つ目は、文書を増やして居る原因ですが、コンプライアンスと云う言葉に踊らされて居る面が大きいと思います。勿論、無法な事を遣って居た企業が、お行儀好く法律を守りますとか社会正義に徹します、或は働き方に留意しますと云うのは良いことです。
 ですが、そうしたコンプライアンスの動きが、結局は「規程・規則を増やす」とか「記録を残す」と云った形式主義に為る時、コンプラに注力すればする程、法令違反や社会的には炎上を招きかね無い誤った判断を生む可能性が大きいのです。
 詰まり法令や社会の視線の核にある「本当の正義」と云うのを経営者が好く判って居て、ピンポイントで的確な指示を出せ無いか或は出さ無い、そんな中でコンプラが怖いから規則を作って文書を大量に作ると云う事に為る訳です。これは1990年代に始まった事で、日本経済の競争力が下降して居るのと並行して起きた為に、経済の底力を奪って行ったのです。

 5つ目は国際化です。同時に1990年代には、これ又遅まきながら日本の各企業は国際化をして行きました。これが業務量を増やして行ったのです。コンピュータ化が出来無いと云うのも致命的ですが、英語で仕事が回ら無いと云うのも大変です。詰まり多国籍企業に為っても、社内の公用語は日本語である訳で、そう為ると文書は常に2つの言語でダブルで走る事に為ります。
 又、日本語の好く出来無い海外のグループ企業が日本語化される事を前提で動くとか、英語に慣れ無い本社管理部門が多国籍のオペレーションを統括すると云う中で、業務量は倍増しストレスは溜まるし、コミュニケーション上のロスや誤解も広がると云う事で、大変な事に為って居ると思います。この国際化の進展による業務量の増大、にも関わらず経済の競争力が低く為って居るので、要員は削減と云う中で二重言語による業務負荷が重く圧し掛かって居る訳です。

 兎に角、コンピュータが使え無いとか、文書が多いだけで無く、こんなに多くの要因が重なって、人の時間と労力を奪って居るのですから、生産性が上がら無いのも当然です。
 そうした問題を明らかにして、どうか生産性本部の皆さんは、本当に日本のオフィスにおける仕事の進め方にメスを入れて行って頂きたいと思います。

 ソモソモ働き方改革と云うのは、それが趣旨であった筈です。文書を削減し会議の参加人数を減らし、権限を委譲しコミュニケーションを効率化する、その結果として同じ業務量でも2倍・3倍の効率が生まれる、その結果として長時間労働が不要に為る、これが働き方改革の筈です。
 そうでは無くて、働き方改革の為に残業が出来無いので管理職が実務を抱えるとか、その果てに働き方改革の為に生産量や受注等、経済の規模も縮小すると云うのでは本末転倒です。

 日本経済において、ホンモノの経営者は何処へ行ったのか、そんな絶望感すら感じられるのです。その絶望も、そして日々の「非効率な業務」も、本当は無駄な不幸なのだと云う事、兎に角日本よりも「ラテン系」の諸国が日本以上の生産性を上げて居る、その現実を直視して、現在の日本の職場に蔓延して居る不幸がいかに無駄でバカバカしいのかを確り認識して行かねば為りません。


    image by: SubstanceTproductions / Shutterstock.com MAG2 NEWS   次につづく






まかせて!BOCCO






 ドンドン「犠牲者」を出すかも知れ無い萩生田文科相の発言



 


 ドンドン「犠牲者」を出すかも知れ無い萩生田文科相の発言


           〜前屋毅  フリージャーナリスト 11/27(水) 13:51 〜



  11-27-11.jpg

 萩生田光一文科相が「英語民間試験は制度上大きな問題があると判断した」と『教育新聞』(2019年11月26日付)のインタビューで答えて居る。可なり、飛んでも無い発言かも知れない。

 「元々存在して居る民間の英語検定を借りて、新しい大学入試制度を作ろうとした処に無理があった」と述べた上で、萩生田文科相は「大学入試センターが遣る試験為らば、例えば、文科省が責任を持って全国の高校を借り上げた上で、試験会場として再配分する様な事をしなければ為ら無い」と語って居る。英語民間試験の活用を根底から覆す様な発言だ。

 実際「元々あるものを使わせて貰えないかでは無い。国の方針を決め、それに協力して呉れると云う民間の人達には引き続き協力をして貰える様な仕組みも考えて行きたい」とも語って居る。
 民間試験の業者は国に協力したいなら参加出来る様にしても好いと言って居る様なものだ。英語民間試験制度では「メイン」だった筈の民間を「サブ」にすると云う訳だ。
 こんな扱いを受けて、英語民間試験の業者は黙って居られるのだろうか。来年からの民間英語試験実施を目前にして、どの業者も会場等の準備を慌ただしく進めて居た処に、突然、萩生田文科相が中止を宣言した。その上メインからも外されると為れば、まさに踏んだり蹴ったりの仕打ちである。

 ソモソモ英語民間試験が延期に為ったのは、萩生田文科相の「身の丈発言」が切っ掛けと言っても好い。英語民間試験は複数の受験が認められて居たが、それには経済的な負担が伴い、1回しか受けられ無い受験生と複数受けられる受験生では格差が生じる。これに付いて萩生田文科相が、今年10月24日のテレビ番組で「(英語民間試験は)自分の身の丈に合わせて頑張って貰えば言い」と云う様な発言をして、大きな批判を浴びた。
 英語民間試験そのものは認めての発言だった訳だが、批判の声が大きく為ると、その原因と為った英語民間試験そのものの見直しを萩生田文科相は発表したのだ。英語民間試験を問題視して居たなら「身の丈発言」などする筈が無い。その挙句が、民間を「サブ」にする今回の発言である。遣りたい放題だ。

 萩生田文科相が言って居る様に、民間試験を活用するのでは無く国主導の英語試験にするのなら、根本からの変更だから大混乱と為るのは必至である。そして、英語民間試験の活用を制度化した責任を誰かが取ら無ければ為ら無く為る筈だ。
 萩生田大臣は、その発言で問題を拡げて居る。それによる「犠牲者」も、ドンドン増える事に為るかも知れない。


                  以上

              11-27-12.jpg

 前屋毅  フリージャーナリスト 1954年鹿児島県生まれ 法政大学卒業 立花隆氏・田原総一朗氏の取材スタッフ 『週刊ポスト』記者を経てフリーに 最新刊は『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)『ブラック化する学校』(青春新書)その他の著書に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『洋上の達人-海上保安庁の研究-』『日本の小さな大企業』等がある 連絡取次先 03-3263-0419(インサイドライン)

               以上







 【否関連報道】 田原総一朗「安倍首相の説明一転 昭恵夫人の関与も明らかに」


         〜〈週刊朝日〉AERA dot. 11/27(水) 7:00配信 〜



     11-27-14.jpg

 田原総一朗(たはら・そういちろう)1934年生まれ ジャーナリスト 東京12チャンネルを経て77年にフリーに 司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた 『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数 (c)朝日新聞社
     
   〜ジャーナリストの田原総一朗氏は「桜を見る会」を巡る一連の疑惑に厳しい見方を示す〜


        11-28-4.jpg

 今問題に為って居る、首相が主催する「桜を見る会」だが、前回も記した様に、政府が公表して居る開催要領によると、招待範囲は、皇族・元皇族・各国大使・衆参両院の正副議長・最高裁長官・閣僚・国会議員・事務次官及び局長の一部や、その他各界の代表者等として計約1万人と定めて居る。

 処が、安倍内閣に為って、自民、公明両党の国会議員の地元後援会関係者らが「代表者等」に該当するとして大勢招待される様に為った。安倍内閣に為ってからドンドン増え続けて、今年の参加者は何と約1万8200人にも為って居るのである。そして、予算は毎年約1767万円と為って居るのに、今年は5519万円と3倍以上に増加して居る。この支出は全部、国民の税金なのである。税金が、言わば首相によって私物化されて居るのではないか。

 特に野党が問題にして居るのは、安倍事務所が「桜を見る会」の前日に、山口県等の後援者850人を招いて夕食会を催し、その会費が5千円と為って居る事である。
 政府は11月13日に、来年度の「桜を見る会」は中止すると発表した。と云う事は「桜を見る会」に問題ありだと政府自体が認めた事に為る。政府は、中止の発表で幕引きを図りたいのだろうが、勿論中止すれば済むという問題では無い。

 例えば、ホテルニューオータニの夕食会に招待された後援者の多くは、開催要領には該当して居ない。そして、夕食会の会費は5千円だったとされて居るが、ホテルニューオータニの夕食会の料金は「最低1万1千円」なのである。野党は、安倍事務所が差額分を支払って居たのではないかと疑い、もしそうであれば、公職選挙法が禁じる寄付行為にあたると捉えて居る。

 安倍首相は15日夜、何と20分以上掛けて、ホテルニューオータニでの夕食会に付いて説明した。安倍首相によれば、旅費、宿泊費は各参加者が旅行会社に支払った。夕食会の費用は会場入り口の受付で、事務所職員が1人5千円を集金し、ホテル名義の領収書をその場で手交した。
 受け付け終了後に、集金した全ての現金をその場でホテル側に渡すと云う形で、参加者からホテル側への支払いが為された。収支が発生した場合には、収支報告書に記載義務が生じるが、収支が発生して居ないので記載し無かったのだと云う。
 又、招待者の大多数がホテルの宿泊者で、毎年使って居ると云う事情があって、ホテル側が価格を安くしたのだろうとも説明した。野党はホテル側に明細書の提出を求めて居るが、ホテル側は「お客様のプライバシーに関わるので」と云う理由で提出を拒んで居る様だ。

 安倍首相は20日の参院本会議で、招待者選定に付いて「私の事務所が内閣官房の推薦依頼を受け、参加希望者を募って来た。私自身も事務所から相談を受ければ意見を言う事もあった」と、自らの関与を認めた。8日には「私は招待者の取りマトメ等には関与して居ない」と説明したのを修正したのである。しかも、招待者の選定には、昭恵夫人も関わって居た事が判明した。

 こう為ると、明らかに税金の私物化だが、19日に朝日新聞が報じた世論調査では、安倍内閣の支持率は前回の45%から44%へと、1ポイントしか落ちて居ない。これはどの様に捉えれば好いのだろうか。


          ※週刊朝日  2019年12月6日号   以上


 



▼お子さまの ”お留守番 ” にこんな不安ありませんか?▼
・寄り道しないで学校から帰ってきたかな?
・ちゃんと習い事行ったかな?

////不安なあなたにオススメ!////
公式サイトはこちらからチェック⇒https://px.a8.net/svt/ejp?a8mat=35SIQS+F4RNAQ+4D9O+61RIB









遂に始まった水道民営化、何故日本は海外「水道代5倍」の失敗例を無視するのか?









 遂に始まった水道民営化 

 何故日本は海外の「水道代5倍」の失敗例を無視するのか?


          
          〜マネーボイス 2018年12月11日 ニュース〜


 遂に水道事業を民営化し易くする改正水道法が成立しました。「貧乏人は水を飲むな」とも為りかね無いその問題点と、可決に至った政府の考えを解説します。『らぽーる・マガジン』

 世界は「再公営化」が主流 日本も貧乏人と地方が見捨てられる?

 遂に「水道民営化」法案が可決

 12月6日、水道事業を民営化し安くする改正水道法が可決され成立しました。この改正案は今年7月に衆院を通過し、11月に参院で審議入りして居たものです。当メルマガでは、衆院を通過した今年7月時点にもこの話題を取り上げて居ます。

 2018年7月5日、水道事業の運営権を民間に売却出来る仕組みを導入する事等が盛り込まれた水道法の改正案の採決が衆院本会議で行われ、自民・公明両党と日本維新の会と希望の党(当時)等の賛成多数で可決されました。審議時間は足ったの8時間でした。

 2018年6月18日、大阪北部地震が発生し、21万人以上が水道の被害を受けた事でクローズザップされた「水道管の老朽化」問題が切っ掛けと為り、6月27日に水道法改正が審議入りし、8時間の審議を経て7月5日に衆議院本会議で可決されました。
 「水道管の老朽化」と「水道法改正」と、どう関係するのでしょう。数の論理で成立した水道法改正に付いて、私達の命に関わる問題ですので、一度取り上げたものですが、再度その内容を検証して行きましょう。

 水道法改正を巡る「3つのキーワード」

 水道法改正に関して、キーワードを確認して置きましょう。
 大丸2老朽化
 大丸2人口減少
 大丸2コンセッション方式


 先ずは「老朽化」に付いてです。

 深刻な水道「老朽化」

 日本の浄水設備の多くは1960年代から70年代の高度経済成長期に建設されたもので、今後も老朽施設の更新需要は年々増加して行きます。現在、耐用年数40年以上を超える水道管は約10万km、これは地球2周半に相当します。更新費用は1km辺り1億円以上も掛かるそうです。
 これを早急に対処し無ければ為ら無いのですが、現状では可なり困難な状況に為って居ると云うのが政府の見解です。老朽化した水道管の更新の為の「資金・人材」が不足して居るとの事です。これ迄日本の水道運営は、企業会計原則に基づく地方公営企業法上の財務規定が適用される為、独立採算で運営されて居り、原則として、水道料金収入と地方自治体が発行する企業債(地方債の一種)で水道事業の運営・更新費用等が賄われて来ました。基本的には徴収した水道料金で運営や設備の補修等が賄われて居ます。

 「人口減少」で水道事業は赤字へ

 人口減少により、水道料金収入が減少して居ます。水道事業の大部分は固定費で、人口減少で水道需要が減っても、大きく運営コストが下がるものではありません。人口減少による水道料金収入減少は、水道事業維持を困難にして居る様です。約40年後には水需要が約4割減少すると厚生労働省は試算して居る様です。
 それ故毎年、水道料金は値上げされて来て居ます。日本水道協会の調べによれば、この4年間ズッと水道料金は上がって居ます。家庭用水道料金の、立方メートル辺りの月額料金は、過去最高の3,228円と為って居ます。日本政策投資銀行の試算によれば、このママ行けば、水道料金は30年後には6割も上がる事に為るそうです。

 水道料金を値上げしても、水道事業者は赤字だそうです。厚生労働省によると、市町村が運営する水道事業は全国で約3割が赤字と為って居るそうです。
 自治体の水道事業赤字は、そのママ私達が支払う水道料金アップに繋がります。老朽化した水道管を更新する費用も、私達が支払う水道料金に跳ね返って来ます。日本中の老朽化した水道管を全て更新するには、130年も掛かるそうです。少子化が進めば、水道料金値上げもドンドン進んで行く事に為りそうです。人材に関しては、公的運営では人材の流動性が見込めず、高齢化に伴い人材が不足して居ると云うのです。

 以上の事から、従来の自治体運営に限界があるとして、民間の力を取り入れる事で、老朽化した水道管更新を行って行こう、その為に民間企業を水道事業に参入出来る様に水道法を改正する必要があると云うのが政府の主張です。







 水道法改正のポイント

 審議されて居た「水道法改正のポイント」は以下の通りです。

 大丸2水道事業者に施設の維持・修繕や台帳整備を義務付け 収支の見通しを公表
 大丸2国が水道の基盤強化の為に基本方針策定 都道府県・市町村の責務を規定
 大丸2広域連携を進める為、都道府県が市町村等で作る協議会を設置可能に
 大丸2自治体が水道事業の認可や施設の所有権を持ったママ、民間企業に運営権を委託出来るコンセッション方式の導入


 何処にも水道事業の「民営化」とは書かれては居ませんが、民間企業を選定し、自治体が管理すると云う事は、間違いありません。

 麻生大臣は「水道は全て民営化する」と断言して居た

 入国法改正は「移民政策では無い」と主張するのと同じ様に、安部総理は、水道法改正は「水道事業の民営化では無い」と主張して居ます。只、2013年4月にアメリカのシンクタンクCSIS・戦略国際問題研究所で行われた麻生太郎財務大臣兼副総理の講演で「この水道は全て国営若しくは市営・町営で出来て居て、こう云ったものを全て民営化します」と述べて居ます。明確に麻生大臣は「水道の民営化」を目指すと断言して居ます。

 民営化では無いとしても、老朽化が進んだ水道管を更新するには、自治体運営には限界があるから民間企業に遣って貰うと云う事は、間違いありません。何故自治体がダメで、民間企業なら出来るのか…未だ好く判りませんね。
「水道法改正のポイント」で注目点は「広域連携」と「コンセッション方式」に為ります。ここで次のキーワード「人口減少」が出て来ます。人口減少により、水道料金収入が減少して居るのです。

 政府の主張は「役人には無理でも、民間ならコスト削減出来る」

 もう一度、水道法改正の流れを整理しますと、水道管の老朽化少子化等による水道料金収入低下で自治体の水道業が赤字水道業務に民間企業のノウハウを活用する と云うものです。
 政府は、自治体よりも民間企業の方がコスト削減のノウハウがあると言うのです。更に民間企業を参入させる事で競争原理が働いて、更なるコスト削減が期待出来るとして居ます。更新コストの削減は、水道料金アップを抑制する事にも繋がると政府は期待して居ます。果たして、そう上手く行くのでしょうか。

 小さな自治体は「見捨てられる」可能性

 民間企業は営利団体で、利益を拡大する為にコストを削減します。コスト削減は不採算部分のカットでもあります。その裁量は企業側にあり、利益を優先する余り、住民サービスが削減されるのでは無いかと云う懸念が出て来ます。
 ソモソモ人口減少による料金収入減少が水道事業を困難にして居る訳で、人口減少が目立つ自治体や、規模が小さな自治体は、民間企業が参入しても厳しい状況は変わら無いでしょう。営利を求める民間企業なら、そう云った小さな自治体を相手にし無いのでは無いかと云う事が危惧されます。詰まり人口減少が顕著な小さな自治体は「見捨てられる」事に為ら無いかと云う事です。

 不採算ではありますが絶対に必要な住民サービスこそ、営利を目的とし無い国や自治体が行うべきでは無いでしょうか。この事を前提に、人口増加が見込め無い小さな自治体での水道事業を考えてみましょう。ここで「広域連携」と云うキーワードが登場します。

 民営化しても小さな自治体には効果が無い?

 「広域連携」は複数の自治体を1つのグループとして住民サービスを提供しようと云うものです。小さい自治体を1つにする事でサービスコストの効率化を図ろうとするものです。広域連携の意義は好く理解出来ます。自治体単位と云う垣根を越えると云うものですが、それは何も民営化する理由には為ら無いでしょう。
 寧ろ、広域連携をしても採算性が悪いと為れば、民間企業は切り捨て無いかと云う懸念は残ります。住民サービスを削減し無いかと云う心配は常に付き纏うのです。厚生労働省側は、水道事業民営化が実現しても小規模自治体には効果が無い事を認めて居ます。コスト削減の為、敢えて老朽化した水道管補修を、更に限界迄引き伸ばす事を、民間企業は考え無いでしょうか。







 民営化し易くする「コンセッション方式」

 もう1つのキーワードが「コンセッション方式」です。「コンセッション」とは、利用料金の徴収を行う公共施設に付いて、施設の「所有権」は公共主体が有したママ、施設の「運営権」を民間事業者に設定する方式です。
 コンセッション方式では、高速道路、空港で実施した例があります。空港の場合、空港の土地は自治体の所有のママ、レストランや駐車場等の運営を民間企業が行います。民間企業のコスト管理から収益を得るノウハウを活用すると云うものです。

 水道管老朽化対策促進の名目で、市町村等が経営する原則は維持しながら民間企業に運営権を売却出来る仕組み(コンセッション方式)も盛り込んだのが、今回の水道法改正に為ります。平たく言えば、公的機関が商売するよりも、民間企業が商売した方が儲かると云うものです。
 只それは空港施設や高速道路と云った業務には適して居ても、インフラ整備の中でも国民の命に関わる水道業務に関して、営利を目的とした民間企業を活用する事に、反対派は抵抗して居る様です。
 政府は、自治体が民間企業の運営を確りと管理する事を強調して居て、不当な水道料金値上げを抑える為に、料金に上限を設ける事を決めるとして居ます。民間企業を活用する事で、地域の雇用を創出する事にも繋がるとして居ます。

 水道法改正反対派の意見

 反対派の意見では、矢張り「不採算事業の切り捨て」を心配する声が大きい様です。営利団体の宿命とも言える事で、企業は利益の最大化の為に動かず、倒産リスクの最小化の為に動くものです。
 道路事業関係者の間には「花の建設、涙の補修」と云うのがあるそうです。建設事業は華々しいものがありますが、補修事業は地味な作業ですからね。企業に取って見れば「補修は売上では無い」と云う風潮が未だあるのでは無いでしょうか。

 民間企業に任せるとコスト削減が期待出来ると云う政府見解にも、反対派は疑問を投げかけて居ます。競争原理によるコスト削減と云う事が実際に起こるのでしょうか。水道事業は独占事業と言えます。ソモソモ競争が行われる事業なのでしょうか。
 水道料金の値上げに上限が設けられれば、利益追求の為にサービスの質を落とすのは目に見えて居ると反対派は指摘します。自治体は住民に目を向けますが、民間団体は株主を強く意識するものだと云う指摘もあります。何より水道事業は、民間企業に取って魅力あるものなのでしょうか。公共事業は、談合や癒着は当たり前の世界でもありますからね。

 仏ヴェオリア日本法人が出向

 2018年11月29日の朝日新聞電子版の記事の一部抜粋です。

 水道等の公共部門で民営化を推進して居る内閣府民間資金等活用事業推進室で、水道サービス大手仏ヴェオリア社日本法人からの出向職員が勤務して居る事が29日判った。今国会で審議中の水道法改正案では、水道事業に民営化を導入し易くする制度変更が争点と為って居る。
 今回の民営化の手法は、コンセッション方式と呼ばれ、自治体が公共施設の所有権を持ったママ、運営権を民間企業に売却出来る。政府は、水道の他空港や道路を重点分野として導入を推進。下水道では今年4月に浜松市が初めて取り入れ、ヴェオリア社日本法人等が参加する運営会社が、20年間の運営権を25億円で手に入れた。

 
 出典 水道民営化、推進部署に利害関係者? 出向職員巡り議論 – 朝日新聞デジタル(2018年11月29日配信)

 「この法案で最も利益を得る可能性がある水メジャーの担当者が内閣府の担当部署に居る。利害関係者が居て公平性が無い」とする社民党福島瑞穂議員の質問に対して、内閣府民間資金等活用事業推進室は「浜松市なら問題だが、内閣府はヴェオリア社と利害関係は無い。この職員は政策立案に関与して居らず、守秘義務等も守って居る」として、問題無いとの立場だと答えた事を報じて居ます。

 ヴェオリア・ウォーター社は、フランスの多国籍総合環境サービス会社ヴェオリア・エンバイロメントの水処理事業部門会社で、ウォーター・バロン(水男爵)と呼ばれるスエズ、テムズ・ウォーターと並ぶ世界三大水処理企業の1つです。所謂「水メジャー」です。

 再公営化される海外事例を学んで居ない

 海外では、水道事業を民営化した後、様々な問題が生じて公営化に戻す「再公営化」の動きが目立つそうで、2000年から2015年の15年間で、37カ国235都市で再公営化がされて居るそうです。前回、このテーマでコラムを書きましたが、その時の海外失敗例も併せて、幾つかご紹介します。水道の民営化の失敗例として好く知られて居るのがマニラとボリビアの事例です。

 マニラは1997年に水道事業を民営化しましたが、米ベクテル社等が参入すると水道料金は4〜5倍に為り、低所得者は水道の使用を禁じられました。又ボリビアは1999年に水道事業を民営化したものの、矢張りアメリカのベクテルが水道料金を一気に倍以上に引き上げ、耐え兼ねた住民達は大規模デモを起こし、200人近い死傷者を出す紛争に発展しました。

 当時のボリビア・コチャバンバ市の平均月収は100ドル程度で、ベクテル社は一気に月20ドルへと値上げしたのです。大規模デモは当時の政権側は武力で鎮圧されましたが、その後、コチャバンバ市はベクテルに契約解除を申し出ると、同社は違約金と賠償金を要求して来たそうです。
 この違約金ですが、今回の改正で、日本の自治体は民間企業と「20年間」と云う長い機関の契約を結ぶ事に為ります。当然、不都合による途中解約だと違約金が発生します。

 「貧乏人は水を飲むな」も有り得る

 外資が参入して来て水道料金を引き上げ、水道料金が支払え無い低所得者層は水が飲めずに、衛生上好く無い水を飲んで病気に為るケースが観られ、民間の水道事業者が利益ばかり追い掛けた事により「再公営化」が世界の潮流と為りつつあると云う指摘もあります。
 この外資企業と言われるのが「水メジャー」と呼ばれる企業で、2強と呼ばれるのがスエズ・エンバイロメント(フランスや中国・アルゼンチンに進出)とヴェオリア・エンバイロメント(中国、メキシコ、ドイツに進出)です。

 フランスのパリでは、1980年代に民営化した後、30年で水道料金が5倍に為った事で、2010年に再公営化したそうです。米国アトランタでは、企業の人員削減で水処理が不十分に為り、茶色の水が出ると云う水質低下が見られたと云う例があります。
 他にも、老朽化放置で漏水率が上がって居る都市もあれば、鉛が溶け出して水道汚染事故が起きて居る処もある様です。コスト削減による補修工事延期の結果です。

 私達の命を海外企業に預けて好いのか?

 人間が生きて行く上で必要なのは「空気」と「水」老朽化した水道管の更新を急ぐ事は重要で、それは災害対策の一環としても大事な事でが、それがコンセッション方式による民間企業活用が良いのかどうか、水道料金の右肩上がりの値上げだけで無く、安全面としてでも、私達はもっと関心を持つべき法案だと思います。
 この「再公営化」の海外事例に関しては、政府は235例中3例だけ分析検討しただけで、水道法改正案を可決させました。

 「ダム建設」は引き続き推進か

 ちなみに、ダムを建設すると水道料金は上がります。横浜市では不必要と言われた宮ケ背ダム建設時で、水道料金は値上がりました。厚生労働省は、人口減少で水の需要は減ると言い、国交省は水不足で治水の為にダム建設は必要と訴えて居ます。予算は国交省に付くので、ダム建設は続き、私達の水道料金は上がる様です。
 その予算を厚生労働省の水道事業に回せば、全国の老朽化した水道管更新を、私達が支払う水道料金値上げだけに頼ら無いで済む筈です。その予算は2300億円だそうです。

 世界で水を巡る戦争が起きるとしたら、水需要が膨らむ中国は負け組みと為り、ツンドラ氷河を利用出来るロシアは勝ち組に為るそうですよ。これは全くの雑学です。何れにしても水道法改正は可決されました。


                  以上 











  


水道民営化に根強い抵抗感 料金高騰、水質悪化…海外では暴動も




 一年前の記事だが、保守色の強い産経の報道を参照したい。この物語の疑問の発端を知る事が出来る・・・


 水道民営化に根強い抵抗感 料金高騰 水質悪化 海外では暴動も

          〜産経新聞 2018.11.4 17:42〜

 水道の基盤強化を図る水道法改正案に付いて、政府・与党は今国会で成立を目指す。人口減少で料金収入が減少すると共に、事業を担う人材も不足するなど、水道事業は深刻な危機に直面している。その突破口として政府が打ち出したのが、民間の資金や能力を活用する「コンセッション方式」だ。しかし、運営を民間に委ねる民営化には住民の抵抗が根強い。

 「住民の福祉とは掛け離れた施策である。国民の生命と生活に欠かせ無い水道事業は民営化に馴染ま無い」

 新潟県議会は10月12日、水道法改正案に反対する意見書を可決。野党系が発案したものだが、最大会派の自民党が賛成すると云う異例の決断だ。民営化が進展すれば、海外から「ウオーターバロン」(水男爵)や「水メジャー」と呼ばれる巨大な水道事業者が日本に押し寄せると云う懸念もある。
 海外では、民営化後の悪影響が報告されて居る。厚生労働省等によると、米アトランタでは1999年に民間が水道の運営権を取得したが、施設の維持費が嵩んで水質が悪化し、4年後に再び公営に戻された。この15年間で30カ国以上で再公営化されて居ると云う。

 南アフリカでは民営化後、料金高騰で支払え無い約1千万人が水道を止められ、汚染した河川の水を使いコレラが蔓延。ボリビアでは料金が跳ね上がり暴動が発生したケースもある。

 厚労省は、民間が運営しても管理が杜撰になら無い様に、定期的なモニタリング(監視)や立ち入り検査を実施。水道料金の枠組みは自治体が事前に条例で定める事等を示し理解を促して居る。地震等の災害時の復旧は自治体との共同責任にした。  
 日本の水質の高さや漏水率の低さは世界トップレベルの技術力のお蔭であり、厚労省は「日本版の水メジャーの育成にも寄与出来れば」と目論む。

 水道事業に詳しい近畿大の浦上拓也教授(公益事業論)は「コンセッション方式は、自治体に取って選択肢が一つ増えると云う意味で評価したい。但し、これが最善の方法では無い。水道料金は必ず上がって行く。事業を継続させる為何が必要か自治体は議論を進めて行く必要がある」と指摘した。


                   以上












2019年11月26日

悪化する日韓関係  今こそ読みたい『「歴史認識」とは何か』 故・大沼保昭先生に教えられた  歴史と向き合う「俗人」目線







 

 悪化する日韓関係  今こそ読みたい『「歴史認識」とは何か』

 故・大沼保昭先生に教えられた  歴史と向き合う「俗人」目線



              〜中央公論 11/26(火) 17:16配信〜


           11-26-32.jpg

 ◇大沼保昭氏◇ 東京大学法学部卒業 東京大学教授 パ リ大学・北京大学客員教授などを歴任 東京大学名誉教授 専門は国際法 著書に『人権、国家、文明』『東京裁 判、戦争責任、戦後責任』『「慰安婦」問題とは何だった のか』『「歴史認識」とは何か』など多数


 文 江川紹子(ジャーナリスト)

 自虐でも、独善でも無く
 
 「今、大沼先生が居て下さったら、今コソ、話を伺いたいのに」 日韓関係が抜き差し為ら無い状況に 陥って居るのを見ながらそう思う。国際法学者の大沼保昭・東京大学名誉教授は、昨年10月16日に亡く為った。
 学者として、日本の戦争責任・戦後責任の問題を掘り下げ、そ の知見を在日韓国・朝鮮人の人権に関する市民運動に惜しみ無く注ぎ込んだ。更に、戦時中に朝鮮半島出身者が日本人労働者としてサハリンの炭鉱に送り込まれ、戦後は日本国籍を失って取り残された問題では、帰還運動を支援し政治家にも働き掛け、故郷へ帰りたいと云う人の帰還を後押しした。
 
 従軍慰安婦問題では「女性の為のアジア平和国民基金」 (アジア女性基金)の設立に尽力し、 理事の一人として活動した。(詳細は 『サハリン棄民』『「慰安婦」問題とは 何だったのか』〔何れも中公新書〕 参照)
 そう云う活動や研究を通じて、国内外の幅広い層の知識人との繋がりを持った。日韓の歴史学者やメディア関係者からの信頼も篤かった。 だからだろう、取り分けメディアに対しては、日韓のドチラにも率直に苦言を呈する事が少無く無かった。

 私(江川)が聞き手と為り、大沼先生の話を伺ってマトメた『「歴史 認識」とは何か―― 対立の構図を超えて』(中公新書)が、この処 続けて版を重ねて居る。
 切っ掛けは、9月14日付の『朝日新聞』の読書面に掲載された、小倉紀蔵・京都大学教授(韓国哲学) のコラムだった様だ。小倉教授は「ここは一度冷静に為って、日韓を深層レベルで理解する必要がある」と書き、この本を薦めて下さった。 他に、既にお読みに為った方の口コミや、本屋さんの店頭で「自虐でも、独善でも無く」の帯を見て手に取ったと云う方もいらっしゃるだろう。

           11-26-31.jpg

 ◇江川紹子氏◇ 早稲田大学政治経済学部卒業 神奈川新聞記者を経てフリージャーナリ ストに 1995年一 連のオウム真理教報道で菊池寛賞を受賞 『「 歴史認識」とは何か』では聞き手・構成を務めた

 韓国の対応も「嫌韓」も可笑しい

 本書が出版されて四年経った今、 こうして新たに多くの読者を得て居る要因は、言うまでも無く、日韓の 関係悪化だ。その根っこには「歴史認識」を巡る対立がある。日本政府が韓国を輸出管理の「ホワイト国」から外したのも、元徴用工訴訟に付いて韓国側の対応に業を煮やし た結果である事は、幾ら政府 が別の理由を挙げても明らかだ。
 この日本側の対応に韓国は激しく反発。文在寅大統領は「二度と日本に負け無い」と宣言し、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA) の破棄を決定した。韓国内では日本製品の不買運動が広がり日本への旅行者も激減した。政治的な対立が安全保障や経済に迄広がり、最早二進も三進も行か無い状況だ。

 双方のメディアも、夫々の国民の感情を煽る。韓国メディアは日本を「虐める強者」韓国を「虐められる弱者」と位置付け、日本 の「経済侵略」を糾弾する。更に、 来年の東京五輪を「放射能オリンピック」と呼び、東京電力福島第一原 子力発電所の事故の影響を殊更に膨らませて伝える等、国民の対日感情悪化を導いた。

 日本でも、テレビやインターネット、一部雑誌等で「嫌韓」コメントや、勇ましく「断韓」「国交断絶」を語る言説が持て囃される。 ワイドショーは、連日の様に韓国の法相のスキャンダルを取り上げ、 コメンテーターが「上から目線」で呆れて見せる。
 差別的・侮蔑的と思われる感情的な発言も飛び出した。 この様な番組作りは、韓国を叩いて置けば、それを喜ぶ視聴者が居て一定の視聴率が執れるからだろ う。しかし、そう云う情報発信を喜ぶ人達ばかりでは無い。

 日本の嫌韓には眉を潜めるが、 韓国の対応も釈然としない。静かに事態を見詰め乍ら、そう感じて居る人は、大きな声を出さ無いだけで案外多いのでは無いだろうか。そう云う方々が「歴史認識」の対立をどう理解し、解決の道を探したら好いのかを考える上で、本書を手に取って下さるのだと思う。
 そして、大沼先生の「ものの見方・考え方」 に触れ、見知らぬ土地を旅する為の地図と羅針盤を得た様に感じて居るのでは無いだろうか。私自身がそうであった様に・・・







 「やり残した事があるんです」
 
 私が、初めて大沼先生の謦咳に接したのは、2013年5月。この頃、 日本維新の会共同代表でもあった橋下徹・大阪市長(当時)が「慰安婦制度は必要だった」と述べて物議を醸して居た。それに関連して同氏は、沖縄県に駐留する在日米軍の司令官に「もっと風俗業を活用して欲しい」と勧め、批判されて居た。 (この発言は後に撤回し謝罪した)

 そんな中、私は大沼先生の『「慰安婦」問題とは何だったのか』を読み、アジア女性基金がどの様に実施され、何を成し遂げ、何を成し得無かったのかを知った。
 基金が設立されたのは1995年 7月。この年の3月には地下鉄サリン事件が発生し、私はオウム真理教問題で手一杯だった。基金に関しては、新聞やテレビの報道で知った程度。国の賠償では無く「民間基金」であり、だから「失敗」したと思い込んで居た。

 先生の本で、そうした認識の誤り が正されただけで無く、日本人の一人としてこの問題とどう向き合った ら好いのか「償い」とはどうあるべきか、基金の活動から何を教訓とするか......と云った様々な事を考 えさせられた。特に、メディアの責任に触れた部分は、ジャーナリズムの一隅に身を置いて居る者として、 心に響いた。私は、今の日本の状況 に付いて話を伺いたいと思い、当時 先生が教鞭を執って居られた明治大学の事務局を通して、インタビューを申し込んだ。
 先生の反応は素早かった。直ぐにOKの返事があり、その日の内にインタビューが実現。話の内容は、 Yahoo!ニュースに掲載した。

 この記事を読まれた作家の高橋源 一郎さんが「心を打たれた」と『朝日新聞』の論壇時評で取り上げて下さった。大沼先生の語り口に付いて、高橋さんはこう書いている。
 〈印象的なのは、静謐で、少し哀し気な喋り方だ。それは、大沼さんが、紙の資料や何等かの「正義」や証明したい「事実」では無く、生身の「慰安婦」達の姿を見て居たからだ。彼女達の呟きの一つ一つを、膝がくっ付く程の距離で聴いたからだと僕は思った〉
 この後、先生には何度かお目に掛かったが、2014年春、先生は病を得て入院された。或る日、入院中の先生から私に電話があった「一緒に食事をしましょう」

 病院に、ソコソコ美味しいレストランがあるとのこと。明るい声だった。私は、病気の深刻さも知らず、ウキウキと出掛けた。そこでご馳走に為り、私だけワインも飲んだ。 食後のお茶を頂いている時に、先生から最初の病院で癌が見逃され、症状が可なり深刻である事を聞いた。
 呆然として居る私に、先生はこう言われた。「やり残した事があるんですよ。歴史認識に付いて、一般の人達の為の本を出したい。でも、時間的 にも体力的にも可なり厳しい。江川さんに手伝って欲しいんです」

 具体的には、yahooo !ニュースに掲載したインタビューの に、先生が語る を、普通の市民に伝わる な形で て欲しいと云うご依頼だった。 こんな状況で、辞退したり判断を留保したりする訳にはいか無い。私はこう答えた。「お手伝いします。しますから、先生、絶対元気に為ってください」
 その後、抗癌剤治療が劇的に効いて、病巣は小さく為り、手術が可能に為ったと聞いた。何度かの入退院の後、少し体力を取り戻されてから、今度はランチのお誘いがあった。 そして「あの話だけど......」本音を言えば、聊か気が重か った。インタビューをするには、聞き手もそのトピックに付いて勉強して置か無ければ為ら無い。「歴史認識」と云う膨大なテーマで、大沼先生の聞き手を務める自信が無かった。

 でも、病院で約束した手前、今更辞退も出来無い。先生は、私の困り顔に気付かぬ振りで、出版社に連絡を取って企画を持ち込み、ズンズンと話を進められる。とても大病の後とは思え無いパワーに押されて、 私も覚悟を決めた。
 担当編集者のOさんが先生の論文や著書を集め届けて呉れた。その量に圧倒されながら、少しずつ読み進め、先生とも打ち合わせを重ねた。そして、一章分ずつ、先生のお宅でインタビューを行った。毎回、インタビューの日が近付くと、試験前に追い込み勉強をする学生に戻った気分であった。準備は大 変だったが、先生のお話を伺うのは、 知的な好奇心を刺激される、それはそれは濃密な時間だった。







 普通の人の視点で考える
 
 そこで先生が繰り返し述べられたのは「俗人」目線の大切さだった。

 〈歴史をどう認識・解釈するかは、「俗人」詰まり普通の人の多くがどう感じたか、と云う視点から考えるべきで、自分が出来もしない英雄的行動や高い倫理水準の観点から考えるべきでは無い〉
 〈社会と云うのは、好い事もすれば悪い事もする「俗人」と、極一握りの聖人と大悪人から為って居る(中略)ですから「歴史認識」を初めとして社会のあり方に関わる議論は、社会と云うものがこうした俗人から出来て居るのであって、聖人の行動を求めるべきでは無い、と云う認識を頭の片隅に置いて遣った方が好い〉


 韓国側の主張を全て受け入れ「無限に頭を垂れる」と云った聖人の様な振る舞いを求めるのは寧ろ偽善だ、とリベラル派を嗜める。その一方で「東京裁判」を批判する保守派に対して、欠点の多い裁判ではあるが、戦勝国も天使の集団では無く、多くの犠牲者を出した戦争の責任者を処罰無しで済ませる事は有り得ないし、遣った意議はあったと理を尽くす。
 自分の価値観や考えを「正義」と見做し、それを他者にも求める様な態度を先生は戒める。この姿勢は、日本の人々に対してのみ為らず、韓国や中国、更には欧米に向き合う時も一緒だった。対立する双方が、夫々の「正義」を貫徹しようとすれば、争いは何時までも続く。その為に人々の日常が犠牲にされ、新たな被害も出る。

 不正義を正そうとする志や努力は尊いけれど、人に取って大切なもの は「正義」だけでは無い。美味しい食事や親しい人との会話等、日常 の様々な出来事が、幸せで豊かな時 を持たらす。大沼先生は、こうした人の暮らしや人生を、心から大切に考えていらした。
 サハリンに取り残 された朝鮮半島出身者の帰郷や元慰安婦への償い等の活動でも、一人ひとりの当事者が、少しでも幸せな余生を過ごして欲しいと云う思いに突き動かされて居た様に見える。

 一人ひとりの暮らしや人生の大切さを考えれば、対立する双方のドチラもが満足せず、不満を残す様な決着が寧ろ望ましい。飽く迄 「正義」の実現を求める者には「悪」に見えるかも知れないが、大沼先生はこう語る。

大部分の人間は俗人だし、国家と云うのは「非道徳的な社会」ですから、人間よりもっと悪い行動を取る。世界で生きていく上で、私達は「よりマシな悪(lesser evil)」を求め、それを積み重ねて行くしか無いのです〉

          11-26-30.jpg

 大沼保昭著 (聞き手)江川紹子『「歴史認識」とは何か――対立の構図を超えて』(中公新書本体840円)

 立体的に物事を理解する
 
 もう一つ、先生を突き動かしていたものは、日本人としての矜持とこの国への愛だったと思う。過去の過ちを、戦後の日本国民がキチンと受け止め、誠実に対応し、次の世代に少しでも好い状態でこの国を引き継いで好きたいと云う姿勢は一貫して居た。
 だからコソ、歴 史の事実を否定する言動には「恥 ずべき態度」と厳しかった。一方、日本の対応にも誇るべき事柄はある と語り「ドイツは立派、日本はダ メ」と云った単純な見方には強く反論した。

 大沼先生の話を聞きながら、私は歴史を考える時だけで無く、社会で起きている様々な出来事を見る時にも大切な視座を学んだ。今の世の中では、兎角明確に正邪を切り分け、キッパリハッキリし た物言いが好まれる。問題の解決方法を見つけた様な、爽快な気分を味わえるからだろう。しかし、物事はそんなに単純では無い。日韓関係もそうだ。
 菅官房長官は両国の関係悪化に付いて「全て韓国に責任がある」と述べた。慰安婦問題に関する日韓合意に基づいて作られた財団を一方的に解散したり、元徴用工訴訟に関して日本が日韓請求権協定に基づく協議を要請しても応じ無かったり、確かに韓国側の対応には問題が多い。

 しかし、日本には何の責任も無いと胸を張って好いのだろうか。ソモソモは、日本の植民地支配や侵略戦争が引き起こした問題だ。日韓合意の後も、政治家が元慰安婦を「売春婦」呼ばわりする等「心からお詫びと反省の気持ち」(日韓合意) を疑われる様な事もあった。街中でヘイトスピーチが行われ、関東大震災時の朝鮮人虐殺を無かったとする言説も飛び交う等、人権や歴史を無視した言動も見られる。
 元徴用工に付いても、金銭支払いの責務は、日韓請求権協定で「解決済み」だとしても、過去のアジアに対する加害の事実は、次の世代にもっと確り伝える等、日本にも課題はあるのでは無いだろうか。

 だからと云って、鳩山由紀夫・元首相の様に「戦争被害者がもう謝罪し無くても好いと言う時迄加害者は謝罪する心を持た無ければいけ無い」と言うのはどうなのか。戦争や植民地支配に全く関与して居ない若い人達に、祖父母やその上の世代の行為についてズッと謝罪し続けろ、と言うのは、まさに聖人の振る舞いを求めるものではないか。
 こうして、どちらの問題にも目を配りながら、時にドチラからも距離を置いて物事を見詰め、考える事は「どっちもどっち」「どっちつかず」等では無い。一見、回り諄く、マドロッコシイ様に感じても、立体的に物事を理解し、私達が 「より増しな悪」に辿り着く為に、必要な作業だと思う。

 この本を通じて大沼先生から教わ った、この様な「ものの見方・考え方」を、私はこれからも大切にして行きたい。


         中央公論 2019年12月号より  以上








 【管理人のひとこと】

 何事かの発言をしたり、文章を書きそれを発表しようと云う時、人は簡単に自分の心の表層に現れた思いをツイツイ喋ったり記したりする。しかし、それを見聞きした人の事までは深く思慮したりはしない。何かの事で悲しんだり怒ったりした挙句に思ったママを表現したく為るのが素の人間だからだ。その為、時には多くの人から非難されたりバカにされたりする・・・そんな危険な状況に置かれる事もある。
 そんな思いで書いたのでも喋ったのでも無いのに・・・と言っても既に遅い。一旦表に出てしまい、それを見たり聞いた人が「何等」かの反応を受けた時、既にその次元で元々の発信者が全ての責任を取ら無くては為ら無い・・・それが、現在の世の中の掟だ。
 ・・・その意味において、この文章で考えさせられるのは、一つ一つの言葉の意味・重みを自覚し慎重に用いる事が如何に大切であるか。それを出来る人が如何に少なく貴重な人達なのかと云う・・・事を改めて思い知らされた。








◆■【信頼と安心】三井住友VISAカード キャンペーン実施中!■◆
┏………………………………………………………………………………………┓
  ●オンラインでのカード発行で、今ならオトクな特典が・・・。
    詳しくは、こちらをチェック!!
https://px.a8.net/svt/ejp?a8mat=2ZVXAQ+7N2A9E+1E32+6AZAR



大学入試改革、何故すべての道は「ベネッセ」に通じる? 受験産業が入試に関わる危険性




 



 

 大学入試改革 何故全ての道は「ベネッセ」に通じる? 

 受験産業が入試に関わる危険性



            〜デイリー新潮 11/26(火) 8:02配信〜


           11-26-9.jpg ベネッセホールディングス

 「大学入試改革」何故全ての道はベネッセに通じるのか? 

 大学入学共通テストに導入予定だった英語の民間試験は「身の丈」発言が波紋を拡げ、実施が見送られる事と為った。そして今度は、国語と数学の「記述式問題」にも教育界から疑問の声が上がる。採点者の質の確保や、採点の質をチェックする仕組みが無い為だ。(前回参照)
 
 今回、記述式問題の採点業務を61億円で落札したのは、ベネッセホールディングスの子会社・学力評価研究機構。衆院文科委員会では「(採点者は)アルバイトも居る。学生か社会人かは問うて居ない」(ベネッセの学校カンパニー長・山崎昌樹氏)との発言も飛び出し、採点への不安は高まって居る。

 だが、もっと心許無いのは、自己採点する受験生だろう。入試改革を考える会代表で中京大学教授の大内裕和氏が言う。「記述式問題は試験後に自己採点を正確に行うのが難しく、プレテストでは国語の自己採点と採点結果の一致率が7割程度に留まりました。受験生は採点結果が通知される前に出願する大学を決めざるを得ず、この不一致は、受験する大学の選択や合否予測に甚大な悪影響を及ぼします」
 英語民間試験は言うに及ばず、記述式問題も欠陥の塊である様な大学入試改革が、何故ロクに検証されずにここ迄進んで来たのか。改めて経緯を簡単に振り返って置きたい。

 産業界のニーズに応えて

         11-26-40.png おおたとしまさ氏

 「ソモソモ今回の大学入試改革案は、アベノミクスの第3の矢、成長戦略を議論する為に設けられた産業競争力会議から上がって来て、それに安倍総理の私的諮問機関の教育再生実行会議が、お墨付きを与えたもの。詰まり産業界のニーズに政界が応える形で進められた教育改革でした」

 教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏は、こう説明する。要は、子供を育てると云う教育が置き去りにされ、産業界の為の人材育成が進められて居たと云う訳である。
 教育再生実行会議は2013年10月、下村博文文科相(当時)を中心に第4次提言をマトメ、今の大学入試改革の方向性はそこで定まった。そこには

 〈センター試験を廃し、代わりに「達成度テスト(基礎レベル)(仮称)」と「達成度テスト(発展レベル)(仮称)」の2段階のテストを実施する。これ等は年間複数回実施する。これ等は1点刻みでは無く段階別の結果を出す様にする。外部検定試験の活用も検討する。コンピュータを使用した試験実施も視野に入れる〉

〈面接、論文、高等学校の推薦書、生徒が能動的・主体的に取り組んだ多様な活動、大学入学後の学修計画案を評価するなど、多様な方法による入学者選抜を実施し、これらの丁寧な選抜による入学者割合の大幅な増加を図る〉

 等と記されて居た。この内〈達成度テスト(発展レベル)〉が大学入学共通テストに当たり〈1点刻みでは無く段階別の結果を出す〉点が、記述式問題及び英語民間試験に繋がり、無論後者は〈外部検定試験〉でもある。

 では〈達成度テスト(基礎レベル)〉は消えたのかと云えば、高校の各段階で学習の達成度を測る「高校生の為の学びの基礎診断」として導入されて居る。

  「当初は大学入試センターがシステムを構築する筈だったのに、殆ど報道されずに民間に丸投げの方針に転換され、ベネッセ系の『ベネッセ総合学力テスト』やリクルート系の『スタディサプリ』等が認定されて居ます。しかも、16年3月に出された、高大接続システム改革会議の最終報告には、これが24年度以降、推薦入試やAO入試に導入される可能性が記されて居るんです」(おおた氏)

 第4次提言の〈生徒が能動的・主体的に取り組んだ多様な活動〉に付いては、どう為ったのか。

 「高校3年間の学習等の履歴を記録し、インターネットで大学に提出する為の『eポートフォリオ』として結実して居て、ベネッセとソフトバンクの合弁会社Classiもシステムを提供して居ます。今やベネッセは入試改革請負人と呼ぶべき存在です」(同)

 英語民間試験にはGTECが認定され、記述式問題の採点を請け負い、eポートフォリオを手掛け、高校生の為の学びの基礎診断にも関わるベネッセ。教育が置き去りにされた大学入試改革が、ベネッセに取って巨大なビジネスチャンスに為って居るのである。







 受験産業が入試に関わる

       11-26-41.png 安西祐一郎氏

 処で、くだんの記述式問題の導入に当たり、ベネッセ関係者は、可なり強引な発言を重ねて居た。中教審会長であった安西祐一郎氏は今年4月「正答率が低いのであれば、それは問題が不適切だからでは無く教育改革が進んで居ないからだ」「授業を変える事を目指すべきだ」等と言って居た。欠陥だらけの入試の為に教育を変えろと云う暴言である。

            11-26-42.jpg 鈴木寛氏

 又、下村文科相の下で文科省参与に就き、15年から18年まで4期に渉って文科相補佐官を務めた鈴木寛氏は2016年2月、記述式問題の採点について「人工知能研究に確り投資して、日本語処理能力を飛躍的に向上させれば、採点の手間も劇的に改善するでしょう」と述べて居た。

          11-26-43.jpg 都立西高校の萩原聡校長

 共に是が非でも記述式問題にシガミ付こうと云う発言だが、安西氏は今年3月まで、GTECを手掛ける進学基準研究機構の評議員で、鈴木氏は現在もベネッセグループの福武財団の理事なのである。英語民間試験導入に強く反対していた全国高等学校長協会の会長である、都立西高校の萩原聡校長「先日、記述式問題の採点をベネッセが落札しましたが、1社しか出来無い様な寡占的な状況はどうなのかと云う思いはあります。受験産業として遣って来たベネッセが、最近は入試そのものに深く関わる様に為って居ます。模試や教材から入試の実施に至るまで全てがベネッセ、と云う状況はどうなのかと思って居ます」 と疑義を呈する。続けておおた氏も言う。

 「ベネッセは今も全国の高校に営業して居ます。入試改革がこれだけ混乱して居る中、高校は、最も確かな情報を握って居るであろうベネッセの営業マンの言う事を聞か無い訳にはいきません。教員の方々はアラユルことがベネッセ漬けにされ、実質、ベネッセ一択だと悔しがって居ます。ベネッセが大学入試を請け負うのであれば、高校の教育現場からは手を引くべきでしょう。高校の学習と大学入試の双方に手を出して進む事は、企業倫理として許されるものでは無いと思います」
 
 しかし、改革の方向が噴飯ものでも、全てがベネッセに通じて居ても「ガバナンスの名の下に文科省の統制を受けて居るので、各大学は逆らえません。文科省は教育改善を促す為だと言って、各大学をキャリア教育やアクティブラーニング、シラバスの作り方等を通して採点し、それによって助成金の額を決めて居る。文科省のご機嫌を伺うしか無いのです」と某大学教授。

 文句を言え無い大学を尻目に、ベネッセが入試改革を請け負って居るのである。ちなみに、先に挙げた進学基準研究機構には、旧文部省と文科省から2人が天下って居る事が判って居る。今後の日本のあり方にも直結する入試改革を、何故ベネッセが一手に担う事が出来て居るのか。ベネッセホールディングスの安達保社長を直撃したが、ドンナ質問も一切無視し、記者と目も合わせずに自宅に入ってしまった。

 とまれ、揺り籠から墓場まででは無いにせよ、しまじろうから大学入試まで、日本の教育がベネッセ漬けに為るか否か。今我々は、その分水嶺に居る。


   「週刊新潮」2019年11月21日号 掲載 新潮社    以上






貴方のはじめての婚活を応援します
はじめる婚活 まじめな出逢い
*:.,.:*< スマリッジ >*:.,.:*

https://px.a8.net/svt/ejp?a8mat=356SUZ+432376+46ZK+62ENN











なぜ今、現代財政理論なのか 意図的? 消費増税でも「カネ不足」政府にとっては好都合




 何故今 現代財政理論なのか 意図的?

 消費増税でも「カネ不足」政府に取っては好都合



         〜J-CAST会社ウォッチ 鷲尾香一  11/26(火) 7:00配信〜


      11-26-8.jpg 鷲尾香一氏


 2019年初めから、現代貨幣理論(MMT Modern Monetary Theory)と云う新たな経済理論がメディア等の盛んに取り上げられた。
 MMTの最大の特徴は「財政赤字に問題は無く、政府が財政再建を行わ無くとも、財政が破たんする事は無い」と云う考え方で、その成功例として、政府債務がGDP(国内総生産)の240%にも達しながらインフレにも陥らず、財政破たんもして居ない「日本」が取り上げられて居る為だ。

 日本は世界でも稀な「成功例」

 国内では、数年前から「政府総債務残高が家計純金融資産残高を上回無ければ、国債消化に困難が生じることは無く、財政危機が起きる事は無い」と云う考え方「現代財政理論」が、一部の学者やエコノミストの間で唱えられて居る。
 MMTでは財政に付いて、不況期には政府が借金をしても(財政赤字でも)政府支出を増加させる事で資金が民間に回り景気が回復すると考える。

 不況時の財政黒字は、民間に資金が回って居ない事を意味し、不況時に財政支出を行わ無いと不況は一段と深刻化すると云う考え方だ。そして「政府債務がどれだけ膨らんで、財政赤字と為ろうとも、財政再建を行わ無くとも、債務不履行に陥る事は無い」と理論付けて居る。
 その根拠として居るのが「政府は『通貨発行権』を持って居り、幾らでも通貨を供給出来る為、債務の期限が到来した場合には、通貨を発行して支払いを行えば好い」との考え方だ。詰まり「財政ファイナンス」を認める事を前提として居るのだ。

 現在の経済学の主流派は、財政ファイナンスを増税無しで生活が潤う事を欲する国民に対するウケの好さだけを狙う「ポピュリズム的」な政策に利用され易くインフレの加速を招き結果として国債価値の暴落によって通貨価値を毀損し、財政破綻のリスクを高めると、財政ファイナンスには否定的だ。
 又、MMTでは不況時に支出された財政資金は、好況時に徴税(税金)を通じて回収されるとして居り、景気の状況に応じて税率を変更すると云う考え方をして居る。これは、税金が物価のコントロールにも使われる事を意味する。

 例えばデフレ経済下であれば、減税を積極的に行う事で、財政出動と相まって景気を回復出来るとする。好況時にインフレ状態に為れば、増税を行う事で景気を冷え込ませ財政出動分を回収すると云う訳だ。但し、MMTには絶対条件がある。それは、自国に通貨発行権がある事や自国通貨建て国債を発行して居ることだ。

 萎むアベノミクス効果に、政府は補正予算の編成に意欲

 とは言え、現代財政理論には、幾つかの疑問がある。ソモソモ、政府総債務残高の上限が、何故、家計貯蓄なのかと云う点だ。家計が保有する国債は発行額全体の2%にも満た無い。家計からの貯蓄を受け入れて居る金融機関も資金運用の大半は国債以外のもので行って居る。詰まり、国債の消化能力を家計に置き換える根拠は見つから無い。
 寧ろ、国や自治体の方が国債で運用されて居るものが多く、更に家計の貯蓄を国債による運用の為の余剰資金と考える為らば、企業の内部留保の方が遥かに国債による運用の為の余剰資金としては妥当だろう。

 こうして見ると、MMTや現代財政理論が盛んに取り上げられる背景には、財政政策を出動させる為の「免罪符」を得ようと云う意図的な思惑がある様に見えてしまう。

 10月1日から消費税率が2%引き上げられて10%に為った。消費税率1%の引き上げは、約2兆円の税収増と為る。2%の引き上げでは約4兆円の税収が増加する筈だ。しかし、2019年度の税収は当初予想を大幅に下回る事に為ると予測されて居る。
 国民に負担を強いて消費税率を引き上げても税収は不足。その一方で、政府は2019年度の補正予算を編成して経済対策を打ちたい。アベノミクスの効果が萎んでしまったからだ。詰まり、政府に取って頼れるのは財政資金しか無い。「財政健全化」を黙殺する為にも、財政政策の規律を緩める財政理論は「勿怪の幸い」なのかも知れない。


           鷲尾香一     以上









 【関連報道】英米メディアも食い着いた! 「桜を見る会」突然中止の裏に「アノ人」の影

          
            〜J-CAST会社ウォッチ 井津川倫子 2019/11/15 07:00〜


〜首相主催で開かれる「桜を見る会」が、2020年度は取り辞めに為ると発表されました。安倍晋三首相の後援者が多数参加して「税金の私物化」との批判が殺到して居ましたが、何故、突然中止する羽目に為ったのか。早速、英米がその「真相」に注目して居ます。
海外が報じた「桜を見る会」の「注目ポイント」とは? 「桜を見る会」を語る英語フレーズも合わせてお伝えします〜



 「桜を見る会」突然の中止を英米メディアは、どう報じた

 英BBCは事実を淡々と並べ「えこひいき」と断言!

「桜を見る会」は、国の予算で毎年「新宿御苑」で開かれて居ましたが、安倍首相の後援者「招待枠」の存在や、ホテルニューオータニでの豪華前夜祭の様子等が明らかに為るに連れ、突然「中止」が発表されました。

日本国内のドメスティックな話題かと思いきや、意外にも(!) 海外のメディアがこのニュースに反応! 速報に近い形で「桜を見る会中止」を報じました。70年近く続いた行事の突然の中止は「裏に何かある筈だ」との疑念を抱かせた様です。先ずは英国BBC放送の見出しから。ストレートに、「えこひいき」と報じています。

 Japan cancels cherry blossom party amid cronyism accusations 日本は、依怙贔屓批判の真っ只中で、桜を見る会をキャンセルした (cherry blossom party桜を見る会 amid〜の真っ最中に cronyismえこひいき・身びいき accusations非難・批判)

 英BBCは「桜を見る会」を「cherry blossom party」として居ます。直訳すると「桜パーティー」ですね。それにしても「えこひいき」とは随分とストレートだなと思って記事を読むと「東京から1000キロメートルも離れた地元(山口県)から850人も招待した」と、首相が沢山の支援者をワザワザ「遠方から」呼び寄せた事を強調して居ました。
更に「花見は日本人に取って特別な文化」「桜の満開は4月の足った2週間」等「桜を見る会」が如何にスペシャルなものかを紹介して、首相の支援者が「特別に配慮された」事を仄めかして居ます。 確かに「1000キロメートルの遠方から、ワザワザ花見にご招待」とは「えこひいき」の印象を強くします。 事実を淡々と述べながら「問題点」を浮き彫りにする・・・英国人らしい、皮肉の効いた報じ方だと感心しました。

 米国では例のアノ人の為に「桜の木をブッタ切り」

米国のメディアは別の見方をして居ます。ニューヨークを拠点とする情報通信社ブルームバーグは、安倍首相が米国との貿易協定の為に「桜の木を切った」と断じました。

 Japan's Abe axes cherry blossom in bid for U.S. trade pact 日本の安倍首相は、日米貿易協定の為に桜の木を斧で切った〜桜を見る会を中止にした (axe斧で切る・終わらせる・壊す in bid for〜の為に U.S. trade pact米国貿易協定) 

 米ブルームバーグは、今国会での安倍内閣の最優先事項は米国との「貿易協定」を承認する事であり、その為の「障害」を取り除く目的で「桜を見る会」を中止にしたと断言して居ます。更に背景には、ウクライナ疑惑で窮地に立たされて居るトランプ米大統領の存在があり、喉から手が出る程「疑惑を打ち消す成果」を欲しがって居るトランプ大統領が「貿易協定の締結」を急いで居ると云うのです。と云う事は、日米貿易協定はヤッパリ「米国に有利」な内容だと云う事でしょうか?
それでは「今週のニュースな英語」は「桜を見る会」を伝える英語フレーズをご紹介します。施肥、使ってみて下さい。

 Prime Minister Shinzo Abe canceled cherry blossom party 安倍晋三総理大臣が「桜を見る会」を中止にした (publicly funded公的予算で・国の予算で The publicly funded event with a nearly 70-year history70年近い歴史を持つ・国の予算で行われるイベント) 

 The abrupt decision came after scandals in Abe's cabinet 安倍内閣のスキャンダル発覚の後、突然決断された (abrupt decision突然の決断 Abe cabinet安倍内閣

 Many of Abe's supporters were invited to the last event 多くの安倍首相支援者が昨年のイベントに招待されて居た (invite招待する supporters支援者たち)

 にしても、一向に収束する気配の 「桜を見る会」騒動。中止の判断が吉と出るか否か、 まだまだアツイ報道合戦が続きそうです。


            井津川倫子    以上






保険のコンシェルジュと言われる保険専門のFP(ファイナンシャルプランナー)が、
あなたのライフプランに合った保険をご提案。
保険ゲートは、全国で150人以上の厳選されたFPの方々と提携しています。
すでに保険に加入している方の保険見直しや、これから新しく保険に加入したい方も、
ご自身・ご家庭に合ったプランをきっと見つけられるはずです!

https://px.a8.net/svt/ejp?a8mat=2ZVXAQ+8UIXF6+46QY+5YZ77









イギリスの完全水道民営化って成功例なの?  岸本聡子




 イギリスの完全水道民営化って成功例なのか?


             〜岸本聡子  2019/03/03 18:15〜

 この記事は2014年に労働組合に依頼されて書きました。数年経った今、英国の水道民営化事情のアップデートをして居て、この記事がオンライン上に無い事に気が付きました。既に2014年の時点で英国の民間水道の信頼は崩壊して居た事が判ります。今日の水道民営化の議論の一助にとノートで発表します。

 11-26-18.jpg


 1989年イギリスはサッチャー政権下で、電気、ガス、通信、鉄道、航空に続いて水道サービスの民営化を行いました。
 当時、河川流域毎に10に別れた国営の地域水管理会社があり、総合的な水管理、サービスを供給して居ました。これ等が完全民営化(民間売却)されたのです。正確にはイングランド、ウェールズの地域水管理会社の完全民営化で北アイルランド、スコットランドは公営を守りました。
 ウェールズはその後2000年に非営利の協同組合形式に転換して居ます。なので、この先はイングランドの完全民営化と呼びます。

 上下水道サービスは自然独占なので、サービス利用者の利益を保護する為、価格とサービス基準を規制するオフワット・OFWAT Office of Water Servicesが設立され、水質基準には他の機制機関が担当して居ます。
 イングランドの完全民営化は、官独占に競争原理が導入され、独立の機制・監視機関が機能して居る成功例と度々紹介されて居ますが、果たしてそうでしょうか?

 今日、イングランドの民間水道会社は大手メディアの批判に晒されて居るだで無く、批判的な検証が多くの研究機関から発表されて居ます。そして最近の世論調査では70%の国民が再公営化・国有化するべきだと言って居るのです。市民がそう願う理由がタップリあります。完全民営化から25年、完全民営化の現実を見て行きましょう。

 現在、イングランド民間水道会社の多くは、プライベート・エクイティー・ファンド(訳注) かアジアの多国籍企業が所有して居ます。この形態の基でイングランドの民間水道会社は、年間で約3500億円(£2 billion)の純利益を挙げて居ます。
 一方で、水道サービスへの投資は利子の低い公債を借り入れて居ます。この意味は、もし水道会社を国有化すれば、一世帯の水道料金は年間で14000円(£83)20%安く為ると云う事です。

 (訳注)プライベート・エクイティ・ファンド・ Private Equity Fund は、複数の機関投資家や個人投資家から集めた資金を事業会社や金融機関に投資し、同時にその企業の経営に深く関与して「企業価値を高めた後に売却」する事で高いIRR・内部収益率を獲得する事を目的とした投資ファンドである。

 もう少し具体的に知る為に首都ロンドンに行きましょう。ここに水道会社の金融化の好例があります。テムズ・ウォーター社(以下テムズ・ウォーター)は英国最大の上下水道サービス会社でロンドンを含むテムズ川流域の1500万人(英国の人口の27%)にサービスを提供して居ます。







 複雑化するテムズ・ウォーターの所有形態と金融化

 テムズ・ウォーターは最早水道会社の体を失いロシアのマトリョーシカ人形の様に為って居ます。民営化から25年経った今、テムズ・ウォーターは億万長者銀行と揶揄されるオーストラリア投資銀行マッコーリーに率いられるコンソーシアムに所有されて居ます。
 持株会社の株式持ち合いが繰り替えされ、結果として水道サービスを供給する会社と最終的な株主との間に現在5つの中間会社が存在して居ます。その内2つが市場で資金を調達し、その内の一つは租税避難地(タックス・ヘイヴン)であるケイマン諸島に在るのです。この形態で株主利益第一、消費者が最後と云う構造が出来上がって居ます。

 過剰な借入れと株主配当

 ロンドンでは下水施設の許容量が間に合わ無い為、一部適切に処理せれ無いママ下水がテムズ川に放出される状態が続いて居て、国際基準にも抵触して居る危機的な状況です。
 テムズ・ウォーターは川下70メートルに20マイルのトンネルを作り、処理した下水を海に放出する施設投資を行う必要を長年認識して居ますが、その費用は約7000億円(£4bn)と見積もられて居ます。2012年、テムズ・ウォーターは511億円(£279.5m)を配当金として株主に配分しました。
 一方で同年テムズ・ウォーターが収めた税金は0。好く使われる手法ですが、過剰な借入れを行い利子払いで赤字を計上する事で税金を回避出来ます。

 ヨーロッパ開発銀行の専門家の試算によると、もし過去10年間テムズ・ウォーターが株主配当を行わず、代わりにその資金を積み立てて居れば、公的資金借入れも水道料金値上げも無しに下水施設近代化の為の7000億円が在った筈だと報告しました。
 健全な資金運営を行う為らば、テムズ・ウォーターの背後に居るプライベート・エクイティ・ファンドの価値は2006年から2/3に留まるべきですが、実際には価値が10倍に為って居ます。事実2007年から12年の5年間の内3年間、株主は税後の純利益よりも多い配当金を得たのです。

 これが意味する処は過剰に配分した利益は単に会社の債務に為って居るのです。5年間で債務は約2倍の1兆3500億(£7.8bn)に膨れました。
 新しく規制機関オフワットのトップに就任したジョンソン・コックスは水道会社が危険な迄の負債を抱えて居る事を危惧して居ます。1ポンドの資本に対して4ポンドの借入れをするのは、危険なだけで無くそれが税金納入回避の為に行われて居る事、結果として負の影響を受けて居るのは水道サービス利用者であると指摘しました。

 危険な迄の過剰な資金の借入れは、近い将来倒産する危険性が大いにあり、そう為れば金融危機で銀行が破錠したのと同様に公的資金での救済と云う事に為りかねません。ちなみにこの様なリスクは公営のスコットランド水道公社には全くありません。

 研究者は「巨大なレベレッジ債務は消費者が負担する水道料金の値上がりと云う犠牲によって、投資家への過剰利益還元を可能にして居る。勿論株主だけで無く、企業の管理職、夫々の中間会社の間に居る法律家、会計士、金融業者もその恩恵を多大に受けて居る。テムズ・ウォーターの最高経営責任者は2億2300万(£1.29m)の報酬を得た」と報告。テムズ・ウォーターの5年間での配当金の合計は約3118億円(£1.8bn)です。

 残念ながらテムズ・ウォーターだけで無く他の民間水道会社も似たり寄ったりの経営をして居ます。例えばイングランド南岸地域でサービスを供給するサウザンウォーターはサウザンウォーターキャピタルに所有されて居ましたが、2007年にLtd JPモルガン・チェースが率いるコンソーシアムに買収されました。Ltd JPモルガン・チェースは2012年に約4318億円の純利益を挙げました。

 この様な事実は2012年後半から2014年現在まで英ガーディアン紙等が数々の記事を発表し人々の知る処と為ったのです。この批判は大企業擁護、新自由主義で知られるフィナンシャル・タイムズ(FT)でも大きく取り上げています。有料記事でリンクが張れませんが。

 英ガーディアン紙 
 Thames Water: the drip, drip, drip of discontent Renationalise English water Thames Water – a private equity plaything that takes us for fools Water companies pay little or no tax on huge profits
 ファイナンシャルタイムズ紙 Thames Water attacked for paying not a drop of tax, June 10, 2013


 シンクタンクCentreForumが2013年に出したレポート「お金は排水口へ 水道産業から消費者を守る為に」は上記の様な現象を詳しく検証・分析します。
 このレポートは又イングランドの水道民営化において公益性を確保する為の規制機関オフワットが効果的に機能して居ると云う楽観的な認識を打ち壊すものでした。と云うのもこの政策提言レポートはオフワットの前会長イアン・バイアット(Sir Ian Byatt)の支援を受けて、民間水道会社の金融活動を痛烈に批判して居るからです。

 レポートによると株主への利益還元を最大化する為の戦術は、国外に資金を逃す構造的な税金逃れの仕組みと、意図的に過剰に借入れをしてインフラ整備の為に資金拠出が出来無いと云うレベルまで負債を膨らませると云う戦術で成り立って居ます。
 好例が上記のテムズ・ウォーターで、何年も巨額の利益を上げながら、下水施設の近代化の費用は納税者に新規の負担を求めて居るのです。

 民間水道会社の過剰な投機行為は水道利用者に負のドミノ効果を持たらしています。水道料金の値上げは過剰に借り入れた負債の利子の支払いの為に必要で規制機関はそれを容認せざるを得ません。民間水道会社に取ってオフワットに5年毎の料金値上げの上限(cap)を挙げさせるのは容易です。
 どの様にするかと云うと、民間水道会社は先5年の資本維持費用を高く申請し、実際にはその可なりを使わ無いで、利益に回すと云う事を過去25年間遣って来ました。結果ロンドンの下水処理施設は今に至って老朽したママです。

 CentreForum は水道と云う市民の生命と健康に取って重要な産業において、又市民に供給者の選択の余地の無い独占産業で、市民が過剰な料金を払わされれた上に株主が巨額の利益を持ち去ると云う状況は社会的に容認する事が出来無いと言って居ます。議会と規制機関が水道産業により厳しい規制を要求するべき時期に来て居ます。

 ソモソモ水道民営化は、経済性と管理が公営より優れて居ると云う主張に基づいて導入されます。経済性の恩恵は、投資の拡大、公的資金より高い価値があるとされる民間企業による投資、公営より優れて居るとされる民間による効率性の向上が説かれます。
 管理に付いては、規制機関が消費者を過剰料金から守り、政治から独立した規制機関が政治に左右されず長期的な視点で管理を行い、市場による適切な競争が消費者に利益を持たらすと主張されます。

 民営化大国のフランス・イギリスにおいて、これ等の前提が悉く実現して居ない実証的な研究が、様々な研究機関から発表されて居ますが、特にグリニッチ大学(ロンドン)の国際公務労連研究ユニット(PSIRU)は長年に渉ってイングランドの完全民営化を包括的に検証して来ました7。以下はPSIRU のレポートを中心に様々な論点を見て行きましょう。







 水道料金

 水道民営化と料金高騰には相関関係が無いと主張する機関は多いですが、国際公務労連研究ユニット(PSIRU)によると、フランスでは民営水道は公営水道より料金が16%高いと云う調査結果があります。民営化による水道料金高騰は全世界的な現象ですが、英国でも同様です。
 現金ベースで見ると 1989年に平均年間£120 (20800円)だった水道料金負担は2006年には£294(51000円)17年間で 245%の上昇となっています。民営化後17年間で、他の物価上昇の平均よりも水道料金は39%高く為りました。
 この上昇傾向は続き2007〜2008年の世帯平均料金(水道・下水)は£312(54000円)インフレ率を差し引いた実質値上げ率は1989年比で42%です。一方で水道運営コストは変わって居ません。これは料金高騰の結果が株主の利益に還元されて居る事を表します。

 他の統計ではこの10年間で電気料金は140%増、水道料金は74%増に為りました。この時期の世帯の収入増は20%です。又スコットランド、ウエールズ、イングランド間の興味深い比較もあります。
 2012年1月に規制機関オフワットは向こう5年間の水道料金値上げ率を発表しました。これによるとイングランドの民間会社の平均値上げ率は8.2%で、ウエールズ の非営利水道会社の Glas Cymruは3.8%、公営を保って居るスコットランドは値上げ無しです。

 この違いは水道会社の所有形態から来て居ます。公営のスコットランドは株主への配当圧力がありません。結果2009年からの5年間、価格維持を発表するに至りました。 ウエールズは2001年に民間企業 Hyderが潰れて協同組合経営に為り、2010年9月の料金は前年比で£4安く為りました。テムズ・ウォーターの値上げ率は6.7%、別の民間会社サウザンウォーターは8.2%です。

 この値上げ率を理解するもう一つの統計を紹介しましょう。シンガポールの水道公社PUBは世界でもトップクラスの水道サービスを提供する事で知られて居ます。そのPUBが最後の水道料金値上げをしたのは2000年。2000年以来、平均世帯収入は31%増加しました。水道料金は据え置きなので、実質料金は低下して居り、世帯収入に占める水道料金の割合は1%以下と為って居ます。

 水貧困

 水道料金を巡る状況は深刻です。2012年にヨーク大学の研究者がマトメた「イングランドとウェールズにおける水貧困」の研究結果によると、民営化から25年経った現在、英国で23.6%の家庭が家計の3%以上を水道料金に当てる結果に為っており、その内半分は5%以上を払う結果に為って居ます(2009〜2010年の統計)
 国連開発計画(UNDP)は水道料金が家計の3%を越えると「支払い困難」だとして居て、この数値は米環境保護庁によると2〜2.5%と為って居ます。この「水貧困 water poverty」に特に低所得世帯、単独世帯が陥って居ます。

 効率性と生産性

 民間は公営よりも効率的であると主張され多くの人がそれを信じて居ますが、学術機関による2008年の包括的な研究は「コストと効率性において民間と公営に違いは見付けられ無い」とし、2004年、2005年の国際通貨基金(IMF)と世界銀行(民営化を推進する国際機関として知られる)の包括的な研究結果も同じ結論に達して居ます。
 
 イギリスの民営化後11年の検証では「最新技術の導入にも関わらず民間による効率性は民営化以前の公営より低下した」と結論づけられました。
 水消費者協議会が定期的に行っている消費者満足度の調査の結果によると、テムズ・ウォーターは金額に見合う価値・下水処理サービスの満足で最下位に近い成績です。一方で ウェールズは2000年に非営利の協同組合形式に転換しDwr Cymruが設立されサービス供給を行って居ますが、こちらはホボ全ての項目でトップに近い結果と為って居ます。

 漏水率

 ガーディアン紙の記事によると1980年のイングランドの漏水率の平均は24%、現在の平均は22%(2013年)です。1989年の民営化後、オフワットは漏水率を3分の1にする事を目指して居たが全く実現して居ません。
 イングランド4大手の2012年の漏水率は以下の通りです。テムズ・ウォーター26%、セブントレントウォーター 27%, ユナイテッド・ユーティリティー 26%, ヨークシャーウォーター25%. 東京都水道局のが3.3%、大阪市水道局が6%代と云う値を見てもイングランドの漏水率の高さが分かります。この様に民営化の英国の民間企業の漏水率は高水準のママです。

 2006年、テムズ・ウォーターとセブントレントウォーター は両社で約345億円(£200m)を漏水率を下げる為に投資することを余儀無くされました。

 ファイナンシャルタイムズ紙 UK water companies struggle to plug leakage rates November 3, 2013

 オフワットが両社の漏水率低下への取り組みの悪さを「許容外」と判断した為です。2004-2005年当時のテムズの漏水率はロンドン地域で40%、それ以外で33%、セブントレントウォーターは26%でした。
 近年、漏水率を下げる為に更なる水道料金の値上げを要求する民間水道会社とオフワットの間で鬩ぎ合いが起きて居ます。水道利用者が漏水率削減の投資の為に今以上の料金を払うのに反対して居るからです。2012年、オフワットは21ある民間水道会社の内の半分は2015年迄漏水率をさげ無くても好いと云う結果を下しました。2011〜2012年に掛けての25年来の干ばつで水不足に悩む中のでこの決定は批判に晒されました。

 民間水道会社のロビーイストは「漏水率を低下させる為の投資と消費者の支払い能力のバランスを取ら無くては為ら無い」と最もらしい事を言って居ますが、上記した様に民間水道会社は年間3500億円(£2 billion)の純利益を挙げて居て、合計で約2600億円(£1.5bn)を株主配当して居る(2011〜2012年)事実を忘れてはいけません。
 民間水道会社に取っては漏水率を下げるインセンティブは乏しく、オフワットは「今後気候変動による異常気象で益々水の安定供給が難しく為る中で、強制され無くても水道会社が長期的視点をもって漏水率を積極的に下げて欲しい」とボヤイテ居ますが、ここに機制機関が民間会社を規制する難しさが見て取れます。







 投資

 民間企業による水道システムへの投資が期待された一方で、世界的に見てそれは実現から程遠い結果に為って居ます。上記した様に英国でも水道セクターへの投資は依然として公的資金が使われて居ます。民営化下のフランスでは「公的資金による投資が主で民間による投資は全体の僅か12%」と云う結果を省庁が2009年に出しました。
 テムズ・ウォーターの下水処理施設への過小投資だけで無く、漏水率を下げる為の適切な投資が行われて居ないのは上記した通りです。

 競争とカルテル

 水道民営化は独占的なサービスなので競争による価格低下の恩恵を持たらしません。実際 には契約獲得の際でさえ、民間企業は競争を避ける傾向が報告されて居ます。イングランドでは未だかつて競争入札は行われた試しがありません。
 フランス、スペイン、イタリアと中央ヨーロッパの国々の多くの都市で民営化の最初の契約は競争入札無しで始まって居ます。フランスに至っては、三大大手(スエズ, ヴェオリア、 SAUR )が談合の疑いで2012年にEUの監査を受けました。
 今年2014年は民営化から25年で契約終了の年ですが、契約終了するのに25年前に告知し無くて行けないと云う新しい条項の為、契約は半自動的に更新されて居ます。これに対して英国とEUの競争庁が独占禁止を問題視していないのは可笑しいな事です。

 汚職

 民間水道会社による汚職の例は幾らでもありますが、イギリスのセブントレントウォーターの不正行為もその一つです。セブントレントは規制機関に偽りの数字を提出して、料金値上げの許可を得、結果として一年間に約72億円(£42million)を消費者に過剰請求した事が発覚しました。この様な不正イングランドの他の会社も行って居ます。

 まとめ

 機制機関が利用者保護(価格、サービス)や水質管理と云った公共性を担保し、企業が競争性を発揮する事でイングランドの民営化は成功して居ると云う論調が日本の専門家の間で実しやかに話されて居る様ですが、現実がそう単純でも楽観でも無い事は明きらかです。
 イングランドの完全民営化は他に見る事の無い極端な民営化の形態です。民間水道会社の組織形態と経営が複雑化、金融化、不透明化する中で、利用者の利益が後回しに為る処ろか、利用者の負担増で株主が利潤を最大化する構造が作られて居ます。
 過剰資金借入れやタックスヘイブンを利用した租税回避は社会全体の利益の対極です。異常気象で干ばつ、洪水が頻発する今日的な環境において、長期的な視点での水源管理や投資は益々重要性を増して居ますが、民間水道会社にこの分野で活躍を期待するのは虚しいばかりです。

 官民連携を含み水道民営化は企業と公的機関の責任の範囲を巡って幅広い形式がありますが、非常に公共性の高い水道の様な社会サービスを利益追求の論理の下に置く事、社会発展、公衆衛生、環境保護、消費者保護等の公共政策が直接及ば無く為る根本的なリスクは同じです。
 イングランドの水道は完全民営化によって、水道サービスが行き着く処まで行ってしまった例として直視し、大阪の議論の批判的材料にするべきだと私は思います。



            11-26-17.jpg        

 岸本聡子  オランダ アムステルダムの政策研究NGO トランスナショナル研究所(TNI)の研究員 2001年にオランダに移住 現在ベルギー在 新自由主義に対抗する公共政策研究するPublic Alternatives プロジェクト担当 趣味はジョギング 料理 空手のトレーニング(沖縄剛柔流)

                以上






保険のコンシェルジュと言われる保険専門のFP(ファイナンシャルプランナー)が、
あなたのライフプランに合った保険をご提案。
保険ゲートは、全国で150人以上の厳選されたFPの方々と提携しています。
すでに保険に加入している方の保険見直しや、これから新しく保険に加入したい方も、
ご自身・ご家庭に合ったプランをきっと見つけられるはずです!

https://px.a8.net/svt/ejp?a8mat=2ZVXAQ+8UIXF6+46QY+5YZ77





  







香港デモに「暴力はダメ」と安易に考える人に伝えたい大事なこと




 香港デモに「暴力はダメ」と安易に考える人 に伝えたい大事なこと


          〜ダイヤモンド・オンライン 11/26(火) 12:15配信〜


      11-26-10.jpg

   香港区議会選挙で初の過半数獲得を果たしたことを喜び合う民主派の人々 
           Photo:Billy H.C. Kwok/gettyimages



 香港の区議会選挙で 民主派が初の過半数獲得

 11月24日、香港区議会(地方議会)選挙が実施された。デモ隊と香港警察の対立が激化し、選挙が中止に為る事が危ぶまれたが、当日は大きな混乱は起き無かった。投票率は前回(2015年)の47%を遥かに上回り、中国返還後に行われた選挙で最高の71%に達した。

 そして、民主派が452議席の約9割に達する390議席を獲得する歴史的な勝利を収めた。民主派が過半数を獲得したのは初めてで、改選前に7割の議席を占めて居た親中派との立場は完全に逆転した。
 民主派は、改めて「五大要求」の実現を要求し、抗議行動を継続すると表明した。しかし、香港政庁とその背後に居る中国共産党が容易に折れるとは考えられ無い。今後の問題は、民主派がどう要求を実現して行くかだ。

 「デモに対する支持率が低下」と語る 日本の識者の好い加減さが露呈

 日本では、テレビや新聞、雑誌、インターネット等のメディアで「識者」と称する人達が「デモによる暴力で、香港経済や市民の生活にダメージがあり、デモに対する支持率が低下して居る」と云うコメントをする事が少なく無い。しかし、それは全く現地の事を知ら無い人が、日本語で好い加減な事を言って居るだけと云う事が明らかに為った。
 香港で行われて居る世論調査では、民主主義を求める若者に対する支持は全く下がって居なかった。だが、この事実は、何故か日本のメディアで取り上げられる事が非常に少なかった。今回の選挙で、香港市民は民主派を圧倒的に支持して居る事が明らかに為った。「デモによる暴力」を批判して居た日本の識者の皆様には違和感がある結果だろう。筆者は、彼等に言いたい事がある。

      11-26-3.jpg 周庭(アグネス・チョウ)氏

 筆者は、選挙の前に香港の「民主の女神」周庭(アグネス・チョウ)さんとSNSのメッセンジャーで遣り取りをした。その際、強い印象が残ったのは、彼女が「私がこの運動が始まってから好く思うのは、民主主義と自由がある国の人達が、自由の無い生活を経験した事が無いのに『暴力はダメよ、支持しませんよ』と云うのは、一寸傲慢なのではないか。私達だって、暴力を使いたく無いですよ」と言った事だ。

 この連載では、中国共産党が「香港の中国化」を目指し、圧力を強める事で、香港市民が自由を奪われ、暴力を使う事でしか民主主義を守る手段が無い処まで追い詰められた事を、詳述して来た。(本連載第213回)
 雨傘革命後、筆者がアグネスさん等民主派の若者達に初めて会った時、彼等は「香港の選挙は『AKB48の総選挙』の様なもの。民主的に行われて居る様に見えて、実は秋元さんが全部決めて居る。香港の選挙も中国共産党が全部決めて居る」と言い、この状況下では「暴力しか無い」と訴え掛けて来た。(第116回)

 それでも彼等は「デモで選挙制度は変えられ無かったが、将来を自分達で決めたいなら若者の政党を作るべきだ」と訴えた。彼等は「活動家」から「政治家」に進化しようとした。(第141回)
 そして、2016年9月4日に行われた香港立法会選挙で、民主派の若者等が6議席を獲得した。彼等を含む「反中国派」全体で30議席を得て、法案の否決が可能に為る立法会定数70議席の3分の1(24議席)以上を占める画期的な勝利と為った。
 しかしその後、彼等は中国を侮辱する言動を行ったとして、議員資格を取り消されてしまった。アグネスさんは2018年4月の香港立法会議員の補欠選挙に弱冠21歳の現役女子大生として立候補しようとしたが、当局によって立候補を差し止められた。

 彼等の政治家に為ろうとする志は、香港政府とその背後に居た中国共産党によって踏み躙られる事に為った。そして、この件に象徴される、中国共産党・香港政庁による民主派に対する一連の「弾圧」は、民主化運動の中心メンバーだけでは無く、多くの若者を深い絶望に陥れ「暴力」を肯定せざるを得ない処にまで追い込んだのだ。

 この背景を理解する事無しに、自由と民主主義を生まれながらに謳歌して来た人が、シンプルに「暴力はいけ無い」と言うのは、浅はか過ぎると断ぜざるを得無い。勿論、筆者も「暴力」は肯定しない。しかし、香港の「暴力」に付いては、民主派の若者に全く責任は無い。彼等を徹底的に追い詰めた中国共産党・香港政庁にこそ「暴力」の全責任があると最大級の非難をして置きたい。

 香港政庁・中国共産党が 区議会選挙の実施を恐れた理由とは?

 香港区議会に付いては、地域の法律や予算を決める強い権限は持って居らず、公共サービスや福祉と云った地域の問題に付いて政府に提言する諮問機関の様な役割しか無い。従って、今回の選挙の結果は、香港の情勢に大きな影響を与え無いと云う人が居る。しかし、その見方は、正しいとは言え無い。

 香港政庁・中国共産党は、今回の区議会選挙を延期出来無いか、ズッと模索して居たとされる。デモ隊と警察の衝突の激化で、選挙の安全な実施が困難だからと報道される事が多かったが、そんな単純な理由では無い。
 香港政庁・中国共産党は、選挙当日に為れば市民は皆、デモを行わず選挙に行く事を当然、予測出来た筈だからだ。実際、衝突等全く起きる事は無く、整然と選挙が実施された。香港政庁・中国共産党が本当に恐れたのは、今回の選挙結果が「香港行政長官選挙」に与える影響だ。

 香港行政長官は、不動産や金融等35業界の代表と立法会議員・区議会議員ら1200人で構成される「選挙委員会」の投票で選出される。
 行政長官選挙に立候補するには「選挙委員」の内、150人以上の推薦が必要であり、当選するには過半数の得票を得る必要がある。これ迄、選挙委員は親中派が多数を占めて来た為、事実上民主派の候補者は立候補すら出来無い仕組みと為って来た。
 しかし、選挙委員の内区議会枠(総数117)は、区議会議員の互選で選ばれる。今回の区議会選挙で民主派が9割を占めたので、区議会枠は親中派から民主派に変わる事に為る。互選がどう云う形に為るかは不明だが、仮に117人の9割だとすると、民主派は105人云う事に為る。

 又、20年9月には「立法会選挙」が実施される。これは区議会選に比べて、民主派が躍進するには高い壁がある。定数70の内直接選挙で選ばれるのは35議席だ。残る35議席は職業別代表枠で、間接選挙によって選ばれるが、殆どが親中派である。
 その上問題なのは、直接選挙が「比例代表制」である事だ。区議会選は、勝者と為る党派が実際の得票数よりも多くの議席を獲得する傾向にある「小選挙区制」だった。実際、今回の区議会選は、民主派が9割の議席を獲得したが、得票数は6割程度だったのだ。

 「比例代表制」の場合は、シンプルに云えば6割の得票数だと6割の議席を獲得する事に為る。仮に、民主派が今回と同程度の支持を集めたとすると、立法会選挙の直接選挙35議席中21議席の獲得に留まる。定数70の内の21議席なので、区議会の過半数には遠く及ば無い事に為る。
 只、立法会議員はそのママ行政長官選挙の選挙委員と為る。21人の民主派が立法会枠から加わる事に為ると、選挙委員会1200人中、区議会枠と合わせて民主派は126人程度と為る。すると、立候補者を出す為に必要な選挙委員150人の推薦を実現するハードルが、可なり下がる事に為る。

 そして、ここ迄ハードルが下がってしまうと、中国共産党に取っての「不測の事態」が起こり兼ね無く為る。現在、親中派と見られる人達も、民主化支持の世論を気にして、中国共産党と距離を置いて居ると言われる。
 仮に2022年の次期行政長官選挙の際にその様な状況に為ったら、選挙委員会の中から、親中派・民主派双方の幅広い支持を得られる様な、開明的なリーダーが立候補して行政長官に当選し、中国共産党が香港の行政をコントロール出来無いと云う事態も起き兼ね無い。だから、中国共産党は、その切っ掛けと為る懸念がある今回の区議会選の実施を嫌がったのだと言える。

 香港の状況を劇的に変えられるのは 「財界」である

 しかし、それは飽く迄中国共産党に取っての「不測の事態」であり、民主派に取っては「希望的観測」に過ぎ無いだろう。リアリスティックに考えれば、香港の状況を劇的に変える事が出来るのは「財界」である。(第223回・P6)
 財界が民主派に寝返れば、行政長官選挙の「選挙委員」は民主派が圧倒的多数派に為る。詰まり、民主派の候補者しか当選出来無い制度に代わってしまう事に為るのだ。

 だが、アグネスさんに聞いてみたが、財界の動きは「分から無い」と云う。財界に付いて話題を振っても反応が鈍い。恐らく、現在の処民主派と財界の間に接点は無いのだろう。財界は完全に親中派と見做されて居るので、民主派が安易に接触すると、動きが筒抜けに為ってしまう恐れがある。信用出来無いのだろう。
 日本的な感覚で考えれば、民主派の若者の中に財界と交渉出来る様な「寝業師」は居ないのかと言いたく為る。恐らく、居ないのだろう。リーダー不在の「水の革命」)の難しさが露呈して居ると言えるのかも知れない。(第214回)

 香港出身のアクション映画スターであるブルース・リーが語った格言「Be Water・水の様に為れ」にちなんだ、今回の香港の民主化デモの通称。リーダー不在で臨機応変にデモ活動の形を変える事に由来する。

        11-26-4.jpg 

            ルパート・ホッグ前最高経営責任者(CEO)

 一方、財界側は民主派の抗議行動に対して、静観を貫いて居る。只、今回の抗議行動が始まって以降、中国共産党は、香港の民間企業に対する圧力を徹底的に強化して居る。
 例えば、中国政府はキャセイパシフィック航空に対して、デモに関わった従業員を職務に就かせ無い様に強く要求し、実際にデモに参加した操縦士2名が解雇された。又、同社のルパート・ホッグ前最高経営責任者(CEO)が辞任に追い込まれ。キャセイパシフィックの元操縦士で立法会議員のジェレミー・タム氏も同社を退社した。

 英公共放送「BBC」のカリシュマ・ヴァスワニ・アジア経済担当編委員は「キャセイの話は、香港でビジネスをする企業が、中国が何を欲するかを勘案しないとどう為るかを示す教訓と言える」と指摘する(BBC NEWS JAPAN「香港デモ、苦しむキャセイ航空『会社が恐怖に包まれている』」)だが、静観を貫く財界は内心、中国共産党に対する強い不満を募らせて居ると云う。何か、起爆剤と為る事が起きれば、財界は動くかも知れない。

 香港財界を動かす可能性を感じさせる 米議会の「香港人権・民主主義法案」

 そして、財界を動かす可能性を感じさせるのが、米議会が可決した「香港人権・民主主義法案」だ。現在、米中貿易交渉が佳境を迎えて居る(第211回)。ドナルド・トランプ米大統領は法案に署名するかどうか態度を明らかにして居ない。
 だが、仮にトランプ大統領が拒否権を発動しても、上下両院の3分の2が賛成すればこれを覆す事が出来る。この法案は素でに、ホボ全会一致で可決されて居り、大統領が署名しなかった場合でも、問題無く成立すると見られる。

 香港人権・民主主義法は、米国務省が年1回、香港の「一国二制度」が保証され、香港の「非常に高度な自治」が維持されて居るかを確認し、米国が香港に通商上の優遇措置と云う「特別な地位」を付与するのが妥当かどうかを判断するものだ。
 もし、香港で人権侵害等が起きた場合、その責任者には米国の入国禁止や資産凍結等の制裁が科せられる。そして、通商上の優遇措置が撤廃されれば、香港は中国本土の都市と同じ扱いを受ける事に為る。

 これは、只でさえ不調に陥って居る中国経済に大打撃を与える事に為ると指摘されて居る。中国では、資本取引が全面的には自由化されて居ない。中国の対内・対外直接投資の6〜7割は香港経由である。
 又、2008年から2019年7月まで、中国企業が香港市場で株式新規上場し資金調達した金額は1538億ドルで、中国市場全体の3148億ドルの約半分である。更に、中国企業が2018年に海外市場で行ったドル建て起債1659億ドルの33%を香港の債券市場が占めて居る。(岡田充「米中代理戦争と化した香港デモ。アメリカの『香港人権法』は諸刃の刃になるか」Business Insider Japan )

 中国経済における香港の重要度は以前と比べると下がって居ると言われるが、未だに多くの部分を依存して居ると言える。勿論、香港への優遇措置見直しは、米国経済にもダメージを与えるものだ。
 だが、貿易戦争は双方が不利益を受けるものであり、問題はドチラにより大きな損害があるかだ。米中貿易戦争でより大きなダメージを中国が受けた様に、香港が中国本土と同じ扱いと為れば、中国がより深刻な損害を受ける事に為ると考えられる。

 区議会選が終われば、中国共産党は再び全国人民代表大会常務委員会が前面に出て香港への関与の姿勢を強めると見られて居た。デモの鎮圧には、より強硬な手段が講じられるとの懸念も出て居た。だが、米国が香港人権・民主主義法を発動するかどうかは、中国共産党に対する極めて強い牽制と為るだろう。
 そして、香港人権・民主主義法が施行されれば、香港の財界は中国共産党に従属する「親中派」のスタンスを変えざるを得無く為るかも知れない。

 香港に対する優遇措置が維持され無ければ、民間企業はビジネスを続ける事が出来無い。しかし、前述のキャセイパシフィック航空の様に、中国共産党からの圧力に屈する姿を米国に見せてしまうと、一国二制度は維持されて居ないと見做されて、米国が法律を発動する懸念が出てしまう。財界も又、従来通り「親中派」のママで言いのか、難しい判断を迫られる事に為る可能性がある。
 要するに、香港政庁・中国共産党と民主派の間で膠着状態が続く香港の抗議活動を動かせるとすれば、それは香港財界と米国と云う事に為る。

 この連載では、次の様に論じた事がある。(第223回・P6)2014年の「雨傘運動」は、行政長官選挙の選挙委員会を親中派が占めて、民主派は立候補すら出来無い制度の理不尽さに反発して起きた。
 だが、香港財界が民主派を支持すると決断すれば、雨傘運動の若者達が目指したものの大部分が、長い戦いの末に実現する事に為る。この事を改めて強く主張したい。香港財界には、一国二制度を守る為に、歴史的な決断を下して貰いたい。


             11-26-5.jpg

          立命館大学政策科学部教授 上久保誠人    以上


 



 



 








×

この広告は30日以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。