2022年12月21日
姪と人形 4
(む)
目を覚ますともう日が暮れかけていた。
またか、と幽つになる。
最近、夜になるのが怖いような気がするのはオレだけだろうか。
とりあえずは飯を食わせてもらいに階下に降りる。
姉は相変わらず辛そうだったが、皿をならべている、甥がそれを手伝っていた。
オレも手を貸そうとしたところへポケットの中の携帯が鳴った。
俺は通話にして庭におりた。
彼の話を要約すると、毒蛇気神尊の言葉にヒットするサイトは五件にも満たなかったそうだ。
しかし、この同じ静岡県にあの神社とまったく同じ三柱を祀る神社があるそうだ。
ただ、そちらの方は神主も常駐しており、由緒も正しいなかなかに大きな神社らしい。
関係者に迷惑が掛かるのでこれ以上の事は書けない。
どうも牛頭天王と婆梨妻妻女との間の子、八王子の内に誰か、あるいはその子孫の誰かんことを指すらしい。
なんの神なのか、なんと読むのか、それ以上詳しい事は、その時は解らなかった。
礼を言って携帯を切った。
家の方へ振り向くと窓が開けっぱなしだったことに気が付いた。
うっかりしていた、蚊が入ってくる。
オレは家の中に窓を閉めた。
(う)
その晩も甥は枕を抱いてオレの部屋にやって来た。
だが昨晩よりも幾らか表情が和らいでいたので、オレも少しは緊張が解けた。
同時に、姪と姉も共にやってきた。
さすがに姉も気になるんだろう。
もしもウツる病気ならば困るから、しばらくオレの部屋で寝かせて欲しいと。
それならば、姉が作った料理を毎日食べ、同じコップで水を飲んでいるオレ達にとっては、科学的にはあまり説得力のない提案だとは思ったが、ここは姉の言葉に従った。
今ならわかる。当時離婚したばかりのオレは、小さな、頼りない命に飢えていた。誰かを、全力で守りたかった。
甥が姪の布団を抱えて上がってきた。
甥にとってはキャンプな気分だったのかもしれない。
この二人に限らず、親類の子供達にあう度に、愚にもつかない怪談話をして、怖がらせては面白がるオレだった。
だが、この時はそんな気分でも無かったし、また、そんな雰囲気でもなかった。
で、オレはスサノオのオロチ退治の話をしてやることにした。
今日買った本の内容を子供向きにして。
今から思うと子供には充分コワいか。
最初に甥が寝た。
姪の方はまだ眼が冴え冴えと、じっと天井を見ていた。
次に寝てしまったのはオレらしい。
(ゐ)
夜中、顔にサワサワと顔に何かがあたる感じがして、くすぐったくて目を覚ました。
こじ開けるように瞼を持ち上げた。
目の前、顔のすぐ近くにあの人形の顔があった。
頬に人形の髪の毛が当たっていた。
人形の肩の辺りに小さな指が見える。
人形の顔の、そのまま背後に姪の顔が見える。
姪が人形を奉げ持ちオレに向けて何かを喋ってた。
人形にオレを紹介しているのか。
体が動かなかった。
目玉だけが、ただぎょろぎょろと自由に動かせた。
声も出なかった。
悲鳴をあげるのは、生涯、後にも先にもこの時だけのために取っておいたのに。
(ゐ)
ここで、当時のオレの状況を説明しておく。
姉の家に居候していた時、オレは離婚を機にそれまで15年務めた会社を辞めていた。
結婚も同じ様に、離婚もまた体力と精神力を消耗する。
しかも結婚は二人の共同作業だが、離婚は独りの戦いになる。
疲れていた、心身共に。
退職金は丸々元妻に渡したが、失業手当は、三ヶ月は出るのだし前に来て、この街の風景が気に入っていたから、少し静養するつもりだった。
もちろん三ヶ月ここに居坐るつもりはなかったが。
丁度、旦那が単身赴任、姉夫婦にとっても悪い話ではなかった。いわゆる番犬がわりだ。
ことわっておくが、オレは腕に自信はない、非戦闘民族だ。
オカルトは好きだが、呪文などしらない。
そして疲れてもいた。
この状況かでオレに何ができたろう。
全てが見当違い、勘違いの世界ではなかったか。
今、他人と変わらない日常を送っているオレはそう思う。あれは本当に現実のことだったのか。
だからこうして書く。一つひとつ、当時の事を思い出しながら。
(お)
話を前の晩に戻す。
人形はオレの顔の前にあった。
オレは金縛りにあったように動けない。
今まで、金縛り、って現象に出会った事は何度かあった。
だけど、瞼を閉じることも出来ないし、そんな金縛りははじめてだった。
それに、姪が呟いている、この言葉は何語だ?
もとより西洋圏の言葉でないのはわかる。
でも、中国、韓国、そんな言葉でもない。
強いて言えば日本語化。
も少し、日本語勉強しとくべきだった。
ソミンって言葉、皆知ってるか?
当時のオレは全く知らなかった。
(く)
結局、そのまま人形とにらめっこしているわけにもいかず、オレはいつしか寝てしまったようだ。
瞼が閉じれた所までは覚えている。
朝起きるとオレと姪の布団の間にその人形が置かれてあった。
その時、改めてくだらない事に気が付いた。二行って、いつ寝るのだろうか。
隣に寝ている姪はまた、目を開けてジッと天井を見ていた。この子は昨夜寝たんだろうか。
昨夜の事が、夢か現実化よく解らないまま、甥を起こし、三人で廊下に降りた。
いつものように朝食が出来ていた。
姉は首の下、二の腕に以前あの斑紋はあったが、今朝は心なしか気分がいいように見えた。
姪がそれにあの人形を抱いていることにも、何も言わなかった。
むしろ、甥の方があの人形を部屋に置いてくるように、しつこく妹に言っていた。
(や)
食事の後、甥がやってきてオレの耳元で囁いた。
昨夜の夜は怖かったでしょ、と。
見ていたらしい、昨夜の事を。
そこでオレは改めて、あれが夢ではなかったと思うと共に、あの人形がどうしてこの再びこの家に来たのかを思った。
あの神社に人形を戻しに行った日から、姪は神社に行く時間など無い。
強いて言えば昨日オレが本屋に行ったときか。
だが姪も姉も出掛けた様子はなかったが。
甥はその時間、学校のプールに行っていて、知らないという。
姪が人形を抱いて玄関を出るのが見えた。
どこへ行くのかと思えば母屋に行ったらしい。
この家、母屋と反対側に玄関がある。
つまり通りに面してそれぞれに玄関があるわけだ。
通りに出ても互いに行き来はできるが、普段は庭を突っ切って、互いの茶の間から出入りしている。
だから姪がわざわざ通りに出るのを見て、回りくどいことだと思った。
その姪が、今度は母屋の茶の間から出てきて、祖父の(彼女から見て)手を引いて庭に降りてくるのが見えた。
どうやら蔵に入るらしい。
人形の事は一時忘れて、オレは好奇心に駆られた。
あの薄茶の土壁の蔵、オレも前々から興味を持っていたが、まだ入ったことはなかった。
オレはさっそく甥を誘って庭に降りた。
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