2022年12月16日
姪と人形
姪と人形とは、洒落怖の1つである。
【内容】
(い)
去年の夏、姉の旦那の実家に遊びに行った。
海も近いし、静かないい所だった。
旦那とは言えば三ヶ月の単身赴任で、その夏も御盆の時に帰ってきただけだという。
義父母と義兄夫婦の住む母屋とは別にありだからオレにとっては、姉と、それぞれ8歳と5歳になる姉の息子と娘だけの、いわば気楽な夏だった。
ある日の夕方、廊下で姪とすれ違った。
よく見ると棟に一体の見慣れない人形を抱いている。
日本の抱き人形で、少し色が褪せてはいるが、まだ十分、遊べそうな人形だった。
母屋からでも持ちだしてきたのだろうか、オレは軽い気持ちで聞いてみた。
けれどもそれには答えずに、姪はとっとと自分の部屋に入ってしまった。
いつもは素直ないい子なのに、なにかイケナイ事を聞いたのだろうか、オレは。
(ろ)
夕食の後、先の気まずさを取りなそうと、またあの人形を話題にあげて褒めてあげた。
すると流しで洗い物をしていた姉が耳ざとく聞きとがめて、改めて娘に質問した。
一瞬しまったかな、と思ったが、どこで拾って来たのならダニでもついてたら大変だ。
バツの悪さをそう思いこむことにして、オレも姉と一緒になって問いかけた。
しかし姪は、がんとして口を割ろうとしない。
そこで傍でテレビゲームをしていた甥が会話に入ってきた。
その人形、近くの〇〇神社から持ってきたものだと言う。
丁度その時、甥は神社の奥の森で友達と虫を捕まえていたので、一部始終を見ていたのだと得意気に言う。
そこで甥はしまった、という顔をした。
なんでも神社の奥というものは神様が住むところだから入ってはいけないものだと言う。
まして生き物を捕るなどは、ということらしい。
特にあの神社は地元に古くあるものだから、と姉は付け加えた。
(は)
その神社は姉の家から子供の足で20分くらいの山の中にある。
山の中といっても斜面に石段が続いており、中腹の辺りに神社の境内が開けている。
相当古くからあるらしく、姉の義父母が子供の頃からすでにあったそうで、いつからそこにあるのかはよく知らないということだ。
なにやら由緒ありげな神社だが、神主、管理者は駐在しておらず普段は町の方に住んでいるそうで、何かの行事のときにだけ上がってくるらしい。
その神社、オレもここへ来た最初の日に散歩がてら散策してみた。
境内の右手を入った所に、左右と背面を板、全面を木で出来た格子でかこった、幅120p、高さにして160pくらいの置物みたいなものがある。
格子の上部は40p程開いていて、そこから破魔矢やウチワ、御札、注連縄、それから人形、ヌイグルミと、普段ゴミと一緒に捨てるには、なんとなくはばかれるような物が入れられている。
おそらく、ある決まった日に神主の立ち合いの元、処分されるのだろう。
どうやら姪は、そこからあの人形を持ちだしたらしい。
神事に疎いオレでも姉と顔を見合わせて、ヤレヤレ困った事をしてくれた、と思った。
(に)
すぐに神社に返さなければ、とは思ったが既に日は落ちている。
田舎の夜は暗い。
それに石段の登り口までは街灯もなく、車一台がやっと通れるような道だった。
だから翌朝、朝食を食べる前に、姉とオレ、そして姪と三人で行こうという事になった。
その間、姪は始終無言だったと記憶している。
夜中、姉に割り振りられた部屋でオレは寝るでもなく、起きるでもなくうつらうつらと天井を見ていた。
するとスーッと襖の空く音がした。
さすがに田舎の夜の静けさの中で弛緩していたオレはビクっとした。
襖の方を見ると、小さな黒い影が立っていた。
甥だった。
(ほ)
甥は枕元で、隣の部屋で話し声がする、お母さんを起こしても起きないという。妹がいないとも。
姪は自分の部屋は持っていたが、夜は母親の部屋で共に寝る。
そしてその部屋に姪がいない、真夜中だぞ?
オレと甥は隣の部屋、つまり姪の部屋へ様子を見に行った。
部屋の前に来て耳をそばたてると確かに話し声がする。
腰にしがみつく甥が妹の名前を呼んだ。
とたん話し声がピタリととまった。
そーっと襖を開けた。
姪が真っ暗な中、膝に何かを置いていた。
入り口の電灯のスイッチを入れた。
膝に置いていたのは、あの人形だった。
姪は眩しそうに、半ば呆けた顔をしてこっちを見ていた。
オレと甥は、しばし呆然と立っていたが、とにかく姪を姉の部屋に送る事にした。
姪の布団をめくり、姪をその上に寝かせると、さすがに姉も目を覚ました。
オレも気が付かなかったが、姪はあの人形を持っていた。
その髪の毛の感触に吃驚したのだろうと思う。
姉は小さく悲鳴を上げると、姪の手から人形を取り上げると、放り投げた。
人形は壁に当たりボタッと落ちた。
オレのいる角度から見ると、落ちた人形は姉の事を睨んでいるように見えた。
(へ)
怪談噺が好きで、いろいろ聞きかじったし、あちこち凸もした。
だから虚実含めて大抵の事には驚かないつもりだったけどその時は、何かホントにヤバいんじゃないかと思った。何かほんとに良くないことが起こるんじゃないか、と。
正直、怖かった。出来れば荷物をまとめて東京に帰りたいほどに。
(と)
あまり寝付けないまま夜を過ごし、翌朝起きると昨夜の計画通りにオレ達は神社に向かった。
例の箱の前に立ち、姉は姪を促した。
意外にも姪はそんなりそれに従った。多少は抵抗するとも思ったのだが。
その前で手を合わせ、社の前でまた手を合わせて、オレ達は神社を後にした。
その日姉は、明日は姪の幼稚園でお泊り保育があるというので、町まで新しいパジャマを買いに姪と出かけていった。
オレと甥は二人でテレビゲームをして過ごした。
姉が用意しておいてくれた昼食を食べた後、オレ達は再びゲームに興じた。
と、突然、二階のトイレで水を流す音がした(その家は一階と二階それぞれにトイレがあった)
姉と姪は出かけている。甥は今、眼の前でゲームをしている。
オレは甥をそこに残して二階へ様子を見に行った。
トイレのドアは少し開いていた。だが中には誰もいない。
念のため他の部屋も調べて見たが、やはり誰もいない。
あるいは前に入った時に、水洗のコックが不完全に戻っていたか。
昨夜の事があったから、妙に神経質になっている。
こういう時こそ判断を誤る。まず第一に合理的、科学的に考える事、直感で物事を判断してはいけない。
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