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2022年12月15日

2人の少女 2



絶句しました。

「もうやめようや」

とうとう俺は言ってしまいました。
しかし皆、大の男が中学生に言われて、怖がるわけにはいかないようです。

「分かった、行こうや」

その一言で、少女達はきびすを返すように、今来た道を引き返しました。
慌てて俺達は後を追います。
Kだけが俺の意見に賛成らしく、真っ青な顔をしてブツブツとつぶやいています。

「罠や、罠や、これなんかの罠や。俺達連れて行かれてるんや」

Kの真っ青な顔とブツブツ繰り返す言葉に、今度はKのことまで怖くなってきてしまいました。

皆してバンに乗り込みました。Mがカーステレオをつけようとしても、壊れたのかつきません。
嫌な沈黙が続きましたが、皆口を利けませんでした。ただ少女たちの道案内だけが車内に響きます。
着いた場所は、小高い丘の上にある神社でした。
その神社に着くには、その丘を左右対称に包むようについている階段を登るのです。
左右どちらから登っても、多分同じくらいの距離です。
少女達は無言のまま、それぞれ左右に分かれて登り始めました。
車の中でも打ち合わせはしていないし、降りてからも2人は目配せや合図することなく迷わず別の道に向かって行くのです。
もちろん、その神社に続く階段はうっそうとした林に囲まれ、普通の女性なら、複数でも行きたがらないような不気味さです。
その階段を、まだ中学生の少女が、迷うことなく、恐れることもなく、スタスタと歩き出すのです。
明らかにおかしいです。
慌てて俺達も3人ずつに分かれて、それぞれ少女達の後を追いました。

俺はガマンできず、前の少女に話し掛けます。

「おまえら、ちょっとおかしいぞ。何であんな所にいたんや。肝試ししているにしては全然こわがってないし。なんであんな所にいたんや?」

答えない少女にいらいらしながら、しつこく聞きました。
あまりにもしつこく聞いたせいか、彼女はこうつぶやきました。

「私ら…死ぬ場所探してんねん…」

そのとき初めて彼女は、俺の目を見ました。
しかし、俺の目を見ているというより、俺を透かしてはるか遠くを見ているような眼でした。
そして、うっすらと笑いました。
その少しあがった口の端に、よだれがかすかに光っています。

全身に水を浴びたような気持ちです。他のメンバーを見回しましたが、皆真っ青です。
しかし聞こえてはいるでしょうが、この少女の目とよだれが見えたのは俺だけです。
逃げ出しそうになったとき、頂上に着きました。
むこうのグループも、丁度反対側からあがって来たところです。
真っ青になったMが駆け寄ってきました。

「聞いたか!!お前等聞いたか!!」

どうやらM達も、もう一人の少女から聞いたようです。

とりあえずまだ帰らないと言う少女達を、バンまで連れて帰りました。
そこで、なぜ自殺したいのかをしつこく聞きましたが、答えません。

「アホなことするな。いじめか?俺らがそいつらシメたるから、はやまるな」

俺達の問いかけにも、彼女達は首を振るばかりです。

「じゃあ原因はなんやねん」
「…べつに…」
「別にって!!」
「生きてるんも、もうええって感じやねん」

また、あの遠くを見つめるような無表情です。2人とも同じ顔をするので、ますますそっくりに見えます。

「とにかく、もうこっちの眠たいから、お前等送ってくわ。はよ家までの道言え。送ってったる」

降りるという彼女達に強い口調でMは言い、車を発進させました。
彼女達は地元の子達なのか、帰り道をかわるがわる「右」「左」で告げます」
2人同時に「ここ」と言いました。ハモるように同時にです。
止った場所には家等ありません。

「おまえらホンマにここか?家の前まで送ってくぞ」

Mが言いましたが、少女達は「ここ」とだけ言って車を降りました。
そこは、ちょうどさっきの丘の上の神社の裏側のようです。
クネクネとしてきたので結構走ったように感じましたが、そんなに走っていないようです。
もう皆十分気味わるく感じていたし、もう義理も果たしたという感じで、車を走らせようとしました。
その直後Kが、「あれ見てみろ!」と叫びました。
2人の少女は、さっきの神社のある丘の、裏側にある登り口のような、林の中にぽっかりあいた穴に向かって歩き出しています。

「あいつらまた登る気や」

Mがクラクションを鳴らしました。
すると映画のワンシーンのように、ゆっくりと少女達は振り返りました。
首を少しかしげて、左右対称に。
暗くて目はわかりませんが、なぜかうっすら笑っているように見えました。
でも俺には2人の口の端に、同じようによだれが光っているようで、思わず「逃げろ!!」と叫んでしまいました。
後は一目散に車を走らせました。Kがブツブツ又何か言っています。

「だから、あの神社じゃだめだったんだ」
「何がダメなんだよ!!」

思わずいらいらして、俺は叫んでしまいました。

「あの子達の身長じゃ、高い杉の木の枝には届かない…吊れないよ…首…」

ぞっとしました。

「アホなこというなっ!!気味わりい!!」

他の友人の声もうわずっています。
今まで黙っていたDが、気が付いたように言いました。

「なあ、衣替えっていつや?もう11月やで。あの子ら、なんで夏服のセーラー服きてたんや」


その後はどうなったのか知りません。

確かその日は、皆でMの家にとまり、夕方に夕刊を、恐る恐るチェックしたように思います。
たしか、自殺者発見の記事も、行方不明者の記事もなかったと思います。
ただKだけが眠れなかったようで、ずっと部屋の隅でうつろな目をしていました。
その後、そのグループの奴らと遊ぶこともたまにありましたが、その日のことはなぜか誰も口にしませんでした。
そして、あの日以来、俺はKに会っていません。
もともとそのグループの奴じゃなかったので、他の皆もそのようでした。
ただ俺はKがブツブツ言ってた「罠や、罠や、これなんかの罠や。俺達連れて行かれてるんや」を思い出し、連れて行かれたらどうしようと思い、そう思った自分自身にぞっとしています。
あの呟きを聞いたのは俺だけだったから。
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