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2022年12月05日

アケミちゃん

アケミちゃんとは洒落怖のひとつである。


【内容】



去年の5月に起きた話を。
大学に入学し友達も何人かできたある日の事、仲良くなった友人Aから、同じく仲良くなったBとCも遊びに来ているので、今からうちに来ないかと電話があった。
時間はもう夜の9時過ぎくらい。しかもAのアパートは俺の住んでいるところから大学を挟んで反対方向にあり、電車を乗り継いでかなり先にある。時間もかかるしちょっと面倒なのだが、特にすることもなく、そのうえ土曜の夜で暇だった俺はAのアパートへ向かう事にした。
乗り継ぎ駅のホームで待っている時、ふと気付いたのだがホームで待っている人がやけに少ない。
「土曜の夜ってこんなもんだっけ?」と疑問に思ったが、特に気にせず電車に乗り込んだ。すると電車の中もやけに空いていて酔っ払いらしい2人組みが乗っているだけだった。特になんとも思わず席に座り、携帯を弄りながらぼーっとしていると、その酔っ払い2人とも次の駅で降りて行き、代わりに俺と同い年くらいかな?女の子が乗ってきて、俺の向かいきらいの位置に座った。
最初は気付かなかったのだが、ふと携帯を弄るのをやめて顔を上げると、その女の子がやたら可愛い事に気が付いた。
黒のセミロングくらいの髪型でちょっと大人しめな感じ、ぶっちゃけ言えばモロにタイプの子だ。
が、別に女の子と話したことが無いとかそういうのではないけど、彼女いない歴=年齢の俺に声をかける勇気があるわけもなく、「出会いなんてあるわけもないよなぁ」と心の中で思いながらふとその子を無意識に見つめてしまった。
しかも間の悪い事にその事にその子と目があってしまった。

「ヤバイ、キモいやつだと思われる!」と慌てて目を逸らしてずっと窓越しに外を見ていました風な態度を取ったのだが、傍から見てもバレバレだろう。
目的地の駅はまだ5駅も先に、俺は「どうしよう、次の駅で下りるべきか、でもそれだと余計不自然じゃね?」などとあからさまにきょどって葛藤していると、クスクスと笑い声が僅かに聞こえてきた。

「え?」と俺が正面を向くと、女の子が俺のほうを見て楽しそうに笑っている。
そして、楽しそうに「なんですかぁ?」と俺に話しかけてきた。
「え?マジで?何このマンガみたいなシチュエーション」と思い浮かれまくりながらも、表面上は冷静さを取り繕いながら「いや…外を見ていただけだけど…」と返すと、あろう事かその子はクスクスと笑いながら「私のこと見てたよねー」と言いつつ俺の隣へと移動してきた。
内心大喜びしながらも、観念した俺は「ごめん、見てました…」正直に答えた。
その後15分ほどの間だが、俺はその子とかなり色々話した。名前はアケミちゃんというらしく、学部は違うが同じ大学に通っているらしい。
しかし、その時は気付かなかったのだが、後になってこの時の会話を思い返してみると、明らかにアケミちゃんの言動はおかしかった。
最近話題になっていることを話したかと思えば、急に何年も前の話を始めたり、時事関連も詳しいかと思えば「この前の地震こわかったねー」というような話には不自然なくらい反応が薄かったり、同じ話を繰り返し出したかと思えば、急に無表情で黙ってしまったり。
完全に「可愛い女の子とお近づきになれた」という状況に有頂天になっていたその時の自分はまるで解らなかったけど、後から思えばなんといえばいいのか、自分が見聞きした事ではなく、他所から伝わった情報をただ聞きかじって覚えただけといえば良いのか、上手く説明できないが、そんな不自然さと違和感がアケミちゃんの言動にはあった。

ただし、浮かれまくっていたその時の俺にも一つだけ気になることがあった。
電車が走り僅かに揺れるたびに

「カチ…カチ…」

とプラスチックのような硬く軽い感じのものがぶつかり合うような、なんか変な音がする。
俺は何の音だろうとあたりをキョロキョロしたのだが、音の正体がわからない。
アケミちゃんがその様子を見て「どうしたの?」と聞いてきたが、音の出所も解らないし、別段気にする事もないと思った俺は「いや、とくに」と流した。
音の正体については後でわかる事になるが…。

電車が目的地前の駅に差し掛かった頃、アケミちゃんのバッグの中の携帯が鳴った。
バッグを開け、携帯を中から取り出そうとしたとき、俺はバッグの中にとんでもないものが入ってるのを見つけて一瞬思考が停止してしまった。
ボロボロにさび付いた異様にでかい中華包丁2本。
明らかに10代の女の子が持つには相応しくない代物だ。
というかこんなものを日常的に持ち歩くやつがいるとは思えない、明らかに異様な光景だ。
アケミちゃんはすぐにバッグを閉じてしまったが、俺の見間違いという事はない。
その間も「カチ…カチ…」と例の変な音はし続けていた。
そこで俺はやっとふと我に返り状況を分析してみた・

「そもそもこんな可愛い子が、目があったってだけで唐突に声をかけてくるって状況がおかしくね?そんな上手い話があるわけがねーよ、その子ヤバイ子なんじゃねーのか?」という疑念が出てきた。
疑念というより確信に近かったが…。

そして、このまま目的地の駅で降りるのはまずいと感じた俺は、ひとまず次の駅で降りることにした。
ただし、降りようとすると着いてくる可能性もある。そうなると申し開きが出来ないし余計にピンチになるのが解りきっているから、電車が駅に停車し、発車直前、ドアが閉まる寸前で降りることにした。
そうこうしているうちに電車が駅に着いた。
アケミちゃんはまだ電話をしているが、チラチラとこちらを見たりもしているのでうかつに動けない。目が合うたびに背筋に寒いものを感じながらも、愛想笑いを浮かべながらタイミングを伺うと、発車の合図の音楽と同時に「ごめん、ここで降りるから」と一方的に言って電車を掛け降った。
案の定、アケミちゃんは反応できず、電車はそのまま発射し行ってしまった。
ひとまず難を逃れる事ができた俺は、とんでもないものに出会ってしまったと思いながらも、されこれからどうしようかと考えた。
Aのアパートまでにはまだ結構距離がある、というかまだこちらに来て2ヶ月も経っていない俺に、ここから目的地までの道順など解るわけもない。
かといって次の電車に乗った場合、次の駅でアケミちゃんが待っていたら余計にヤバイ。
仕方がなく、俺はAに電話をした後で事情を話すからと住所を聞き、駅を出て、タクシーでAのところまで向かう事にした。アケミちゃんにもう一度出会うリスクを考えたら、千数百円の出費のほうがずっと良い。
Aの家に着き、かなりほっとした俺は「おいやべーよ、なんかすげーのに会っちまったよ、都会こええよ!」と大げさに、かなり興奮気味に3人に事の事情を話した。
AもBもCも、当然全く信じてくれず、「嘘くせーw」とゲラゲラ笑っているとピンポーンとドアチャイムが鳴った。


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