2022年12月06日
アケミちゃん 2
時間はもう夜の11時近く、こんな時間に来客など当然あるはずもない。
俺は「いや、まさかな…完全に振り切っていたし」と思っていると、Bが冗談半分に「アケミちゃんじゃね?」と言い出した。
そこで自分で言ったBも含め、俺たちはその言葉を聞いて凍りついた。
というよりも、その言葉を聞いた俺が真っ青な顔で動揺しているのを見て、色々と察したといった方が良いだろう。
Aが「おい、さっきの話マジなのかよ…」と言いつつ、ひとまずドアスコープで誰が来たのか確認してくると言って、足音を立てずに玄関へと向かい、暫くすると戻ってきた。
そして俺たちに「すっげー可愛い子がニコニコしながらドアの前にいるんだけど…」と言ってきた。
その間も何度もチャイムは鳴らされている。
それを聞いてCが「お前マジなのかよ…何で後つけられてるんだよ…」と言ってきたが、そもそも俺にもなんで後をつける事ができたのかわからない。俺は「ひとまずほんとにアケミちゃんかどうか自分の目で見てくる」と言って、同じく足音を立てないように玄関に向かうと、ドアスコープで外を覗いてみた。
そこには困惑気味な顔をしたアケミちゃんがいた…これはかなりヤバい、てかなんで着いてきているのかと、俺たちそんな仲ではなかっただろ?
ちょっと電車内で会話しただけだろ?理不尽すぎね?と思いながらも、ひとまず部屋まで戻ると3人に間違いなくアケミちゃんである事を伝えた。
そして4人でこれからどうするかを相談した。
まず居留守作戦は使えない。部屋の電気がついているし、さっきまで結構大きな声で話していたのだから、在宅なのはモロバレだ。次にひとまず俺はクローゼットの中に隠れAが対応して、俺のことを聞かれてもそんな奴は知らない、何かの間違いだろうとしらを切る作戦を考えたが、相手は文字通り「アレな人」な可能性もあるからそれで納得するか未知数なうえに、凶悪な武器持ちだ。ドアを開けるのは危険すぎる。
そんな話をしていると、外からアケミちゃんが「〇〇(俺の名前)くーん、ここにいるよね?入っていくの見てたよー、何で逃げるの?酷いよ、ちゃんとせつめいしてよー」と声が聞こえてきた。
Aが「お前モロにつけられてんじゃねーか、てか自分の名前言ったのかよ!どうすんだよ!」と焦り気味に言ってきた。
前の駅で降りてここまでタクシーできたのにどうやって後をつけたのか、色々疑問は残るが、今更そんな事を考えても仕方がない。
俺たちがそんな会話をひそひそ声でしていると、今度はドアのほうからキィ!ギギギギギギギギギギギギギギ!キィ!ギギギギギギギギギ!と金属同士がこすり付けあうような、非常に不快な音がし始めた。
Aがまたドアの方に行き外をうかがって戻ってくると、「おいなんかやべーぞ、包丁でドアを引っかいてやがる…マジでヤバイ人じゃねーか!」と声を殺しながら言ってきた。
その間も「〇〇くーん」と俺を呼んだり「ちゃんと出てきてお話しようよ」と、行動と言動が全くかみ合わない事をやっている。
この騒ぎでお隣さんがキレてしまったのだろう。ドアごしに「うるせーぞ!何時だとおもってる!」と怒鳴り声が聞こえてきた。
そして金属音もアケミちゃんの声も止まり一瞬の沈黙のあと、「うわっ!なんだこいつ!」という声がしてその後にドアが激しくバタン!と閉まる音がした。
そしてまた例のキィ!ギギギギギギギギ!という音が鳴り響く。
何事が起きたのかと、隣の人は大丈夫なのかと、明らかに状況がどんどん悪化してきている。俺たちはその後もあれこれと対策を考えたのだが、その場の思いつきの付け焼刃でどうにかなるとも思えず、どうすれば良いのかと考えていると、外からパトカーの回転灯の光が見えた。
サイレンの音など聞こえなかったが、どうやら誰かが警察を呼んだらしい。
俺たちが助かったとほっとした瞬間、外から「待ちなさい!」という声の後に、誰かが駆け抜ける音がして、その後直ぐに静かになった。
すると今度はドアチャイムが鳴り、警察官が「大丈夫ですかー?」とドア越しに声をかけてきた。
どうやら助かったようだ。
Aがドアをあけ、俺たち全員が事情を話すと、どうもアケミちゃんは警官1人を突き飛ばすと、アパートの一番奥のほうまでかけていき、フェンスをよじ登り逃げて行ったらしく、現在追跡中とのことだった。
俺は彼女がアケミという名前である事、俺たちと同じ大学の学生であることをつたえ、ターゲットがどうやら俺である事から、暫く俺のアパートの周囲を巡回してくれる事や、緊急時の連絡先等を教えると帰って行った。
ちなみに、警察に通報したのは隣の人だったらしい。
隣の人が言うには、怒鳴りつけた途端にアケミちゃんが無言で中華包丁を振り回してきたので、慌ててドアを閉めて警察に通報したということで、特に怪我をしたとかそういう事ではないとの事だった。
実はこの後6月末頃にまた事件が起きたのだが、少し話が長くなりすぎたのと、時間も遅いので続きは日曜の夜になる予定です。
ちなみに、大学に該当する学生は在籍していなかったそうです。というか、警察は結局身元の特定すらできませんでした。
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