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2022年11月17日

つきまとう女 2



俺はバイクに向かって全力で走った。
逃げなければ俺が食われる。そんな思いが全身を駆け抜けた。
メットを手に取り後ろを見ると、あの女がいない。
なぜ、居ない!?
その瞬間、俺の肩に何かが触れた。
あの女の血まみれの左手だった。
女はいつの間にか、俺の真後ろにいた。

「置いていかないで……」

女がそう言うのと同時に、手に持ったメットを女の顔面に叩きつけた。
これ以上無い程の全力で、俺は女を殴った。
女は口と鼻から血を噴出しながら、後ろに仰け反る。
それでも女は、俺の肩から手を離さない。
俺は何度もメットを女の顔に叩きつけた。俺は絶叫していた。
ようやく女が俺の肩から手を放し、後方に倒れる。
メットを女の顔面めがけて全力投球した後、バイクで俺は逃走した。
なんだ!?あれはなんあんだ!?
恐怖と不安を振り払うように、俺はアクセルを捻った。

次の瞬間、俺は見覚えのないベッドの上で目が覚めた。
病院?何で病院なんかに?
そこは明らかに病院だった。何故自分がここに居るのか、全く記憶がない。
俺は北海道の道の駅で、キチガイの女から逃げている最中だった。
なのに、その先の記憶がない。
何故か俺は病院の中に居る。
怪我はしていない。事故を起こしたわけでもない。
俺は病室の外に飛び出ようとした。
ドアが開かない。外側から鍵がかけられている。

「誰か、誰かいませんか!?」

すると、看護師と思わしき男が出てきた。

「どうなさいました?」
「いや、あの、ここはどこですか?俺は何でこんなところに居るんですか?」

看護師は溜息をつくと、

「担当の先生との診察がそろそろ行われますので、詳しい話はそこで」

そう言ってどこかへ行ってしまった。
俺は頭が混乱した。
ここはなんだ?何故、病室に俺は閉じ込められている?
ふと、ベッドの脇に目をやると、ノートが置いてあった。
ノートを手に取り、中を見ると、そこには俺の文字がびっしりと書き連ねて在った。

『助けてくれ。あの女が。殺したのに。誰も俺を信じていない』

内容の意味はさっぱり分からないが、筆跡は間違いなく俺の字だった。
暫くノートに見入っていると、ドアの鍵が開く音がした。
振り向くと、さっきの看護師の男と、警察官の姿をした男が入ってきた。
警察官が俺の手首に手錠を嵌める。

「ちょっと、何で手錠なんか!?」

警察官は黙って俺を殴りつけた。
倒れた俺を見下ろしながら警察官は、「面倒をかけるな」とだけ言った。
二人の男に連れられ、俺は診察室と書かれた部屋に入れられる。
白衣を着た医者のような男が待ち構えていた。
二人の男は部屋から出て行き、俺と医者の二人きりになる。

「調子はどうかね?」

医者が問いかける。

「訳が分かりません。何故、俺はこんなところに居るんですか?俺は北海道に居たはずです。俺は家に帰りたいです。家に帰して下さい」
「君に帰るところなどない」
「え?」
「君は、所持していたヘルメットで女性を撲殺し、警察に捕まった。その後。心神喪失と診断され、この病院に隔離されることになった。君は社会的に完全に抹殺されてるし、帰る場所も全て処分された。君に帰る場所はない」

こいつは何を言っている?俺が女を殺した?
俺の脳裏に、あのキチガイ女が浮かんだ。
あいつを殺したのか?俺が?だからここに居る?そんな馬鹿な。俺に警察に捕まった記憶はない。
だが、隔離病棟に居る。それは俺が精神異常者で、記憶があいまいなのも精神異常者だから?
いや、違う。俺は正常だ。俺は。俺は。俺は。俺は。俺は。俺は。

「混乱しているようだね?」

医者が不意に話しかける。

「当たり前じゃないですか」
「君はもう社会的に死んでいる。気分はどうかね?」
「なんだと?」

こいつ、俺を挑発しているのか?俺が社会的に死んでいるだと?何のつもりだ。そんな事があってたまるか。

「俺は誰も殺してない。社会的に死んでなんかない!!お前は嘘吐きだ!!!」
「いいや、君は殺した!だから君は、彼女と永遠に死ぬんだ!!永遠に彼女とともに死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!」
「何を言ってるんだ、テメェはぁ!!!」

激高する俺と、訳のわからない事を叫ぶ医者。現実離れした異様な空間だった。
その時、俺の首に生暖かいものが巻きついた。
赤い血みどりの左腕。
俺の背筋に電撃が走った。

「見つけた…」

あのキチガイ女だった。
俺は絶叫した。これ以上の声は出せない程に絶叫した。
俺には女が、暗く陰湿な冷たい壁に囲まれた、永遠の監獄のように感じられた。
医者が立ち上がり、俺の両肩を掴む。

「君は奈々子を殺したんだ!君には永遠に、奈々子と一緒に死んでもらう!!!もう私には無理なんだ!!この子は暗闇の中で死んだ!!!この子の孤独を君が共有してくれ!!!!」
「嫌だぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

その瞬間、目の前が緑色に染まった。
気が付くと俺は、道路脇の草むらの中で倒れていた。
どこにも怪我はない。バイクも横倒しになっていたが、無事だ。
夢…?俺は夢を見ていたのか?
周りを見渡すと、あの道の駅が見える。仮説トイレは無い。
時刻は8:00。俺は何をしていたんだ。
不思議な体験だった。きっと俺は、夢か幻に踊らされていたのだろう。
その後、俺は無事北海道一周をやりきり、自宅へと回帰した。

実を言うと、その後も俺は、その女に付きまとわれることになる。
またそれは後日、暇な時に書く。
結果的には、今はもうその女は居ない。
ある霊能者のおかげで、その女の退治が出来たんだ。
俺はその霊能者の人が居なかったら、狂って死んでいたかもしれない。


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