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2022年11月11日

おじゃま道草 3



さて、3人でキッチンへ……
6畳の広さがあるダイニングキッチンでしたが、だれもそこで食事を取らないため、テーブルなどの家具もなく、広々としていました。
まずは写真撮影。

「ん?なんだぁあれは……」

柱の上部に、貼っていた紙を剥がしたあとがある……
きちんとはがさずびりびりになって、中央部が残った状態です。
黄ばんでいて古そう。
しかも、そこだけではなく、部屋の司法に同じものがある……
御札で何かを封じた……しかし破られた……
最も剥がれていないものに近寄って見てみると、真ん中が妙に黒い……
絵?……黒犬?御嶽山か……?

「足がちくちくする……いるな」

私は茅野君に向かって

「何か感じない?」
「何か足がひりひりするよ」
「そう……俺と同じだね。どの辺がひどい?」
「この流しの前のあたりかな」
「そうだろう……」

またしても意見が一致。
それまで黙していた弟の大輔が口を開きました。

「すごい……殺気がある。目を閉じると、今にも誰かが斬りかかって来そうな気配があるよ。それに、昔痛めた腰が痛くなった。弱いところをつついて来るみたい。この感じ……修学旅行で関ケ原へ行った時以来だな。普通は俺、こういうのは平気なんだけど……ここは別だよ。何がいるんだい?」
「ここで「見る」と危ないな。帰ってからな」

私は、これは猫のようには行かないな……無理だなと思い、馬場君に転居を勧めることにしました。
そして、私がもう2、3枚写真を撮ろうとすると、茅野くんが

「何か気持ちが悪くなりそうだから、向こうで御茶飲んでるね」

と言って台所をでました。

「俺もそうするよ」

大輔も同じことを言いだしたので、私も出ることにしました。
練習室へ戻ると、馬場君が横になって寝ていました。

「明け方までかかってバンドスコアを書いたって言ってたからね。でも、何か安眠しているようではないみたいね」

船井さんがタオルケットを馬場君にかけながらつぶやきました。
しばらくすると、うつ伏せの馬場君がうなされ始めました。
なにやら寝言で、

「うん、うん」

といっています。

「あれ?」

よーーく馬場君の方を見ると……何か気配があります。
彼の上に、影の様なモノがのっているようです。
私は茅野君に、

「どう思う?」

と意見を求めました。

「これ、金縛りじゃぁないの?押さえ付けられてんのかな?」

茅野君の直感は当てになります。私は確信しました。

「馬場君は、意思が強く、行動力もあり、覚醒時は強い……したがって、疲れてうとうとしている様な弱い時につけこんで憑依してくるんだ」

船井さんが

「起こそうか?」

と、馬場君の肩をゆすりました。
でも起きません。相変わらずです。

「あっ、ちょっと待って、もし意識が飛んでいたらマズイ。帰還に失敗するかも……無理に起こさないで」

私は、強くゆすろうとした船井さんを制しました。
その時、茅野君が……

「あれぇ……何か動いたよ。馬場君の背中の上……」

と言い出しました。
そして馬場君の背中の上、30pほどのところに、手をもって行こうとして……。

「おーーーーっ:」

彼は、慌てて手を引っ込めました。

「ああ、ぞっとした……ちょっと、やってみなよ」

私にも促します。
なんと、茅野君にも見えていたのです。

「やばいな。俺たちも影響をうけるな……」

私はそう思いながら、彼に倣いました。
そーーっと手を出す。
動いている影の輪郭を抜け、突っ込む……
ひんやるとしています。冷蔵庫に手を入れたときのようです。
それでもヤツは動こうとしません。
そおーっと手をひっこめる。
冷たさは消えます。ヤツはうごきません。

「ねっ、冷たいだろ?」

と、茅野君が同意を示してきました。

「隙間風なんて通ってないよね……やっぱり居るんだね」

枯葉いつになく真顔です。
私は乗っているヤツがいまだ退こうとしないので、除霊九字を切りました。
そしてそれが効いたのか、ヤツの気配は消えました。
いや、一時的に退いただけですが……
切った後、馬場君を揺すると、彼はすぐに目を覚ましました。
起きるなり彼は、

「ああーーっ、疲れた。おれ、うなされていなかった?揺すったでしょ?分かったんだけど、夢がさめないんだ。これで4回目かな。同じ夢を見たのは……2階じゃ見たことなくって、いつもここで寝た時にだけ見るんだ。おれ、何か寝言を言ってた?」

と、目をこすりながら一気に話しました。

「うん、うん……っていってたよ」

船井さんが答えると

「そうか?おれ、うんう……って……自分では首を振ってたつもりなんだけどなぁ……聞いてもらえる?」

そう言って、馬場君が夢について語り始めました。
馬場君が見た夢の要旨は次のとおりでした。

「気がつくと座敷に座っている。広い屋敷で30畳ほどはある。電燈もなく、造りも古い。時代劇のセットのようである。しばらくすると少女が現れる。5、6才で可愛らしい。赤っぽい振袖を着ている。七五三参りに行く姿のよう。髪もキチンと結ってある。時代劇なら、武家の娘という役柄。少女が、「おにいちゃん、あそんで」とせがむ。遊んであげたいが自分はここを動いてはならない。動くと帰れなくなるかも知れない……という不安感がある。そこで、少女に「外で遊んできなさい」と勧める。しかし聞き分けない。「あそんで。あそんで」と繰り返しせがむ。しかたがないので、少しだけこの場所で……と思うと、それを察したのか少女はニコッとして、持っていたお手玉を差し出す。さて、どうしようかな。そう考えながら、受け取ろうとする」

「と、その時、座敷の奥の方から、「遊んではイケマセン」という母親らしき声が響く。その途端、少女の笑顔は消える。蒼白となり、自分(馬場君)の陰に隠れようとする。「呼んでるよ。行かないと叱られるよ」と言うと、少女はおびえ始め、今にも泣き出しそうである。そしてついに、母親が座敷のはずれから姿を現す。和服を着込み、すらっとしている。初めは遠くではっきりしないが、近付くにつれ、綺麗な顔だちであることがわかる。優しそうな母親じゃないか。そう思って後を振り向くと、少女は消えている。あれ?不思議に思いながら、母親の方を向く……先ほどの顔だちはかき消え、なんと般若になっている。恐怖に捕らわれ、にげなきゃ……そう思った時、夢からさめる」

馬場君が話を終えた時、バンドのメンバーが2階から降りてきました。
ライブの打ち合わせに皆が出かけるそうです。
越をあげて私たちも帰る支度をはじめると、天井から……いや、2階からタッタッタ……と誰かが走り回るような足音がしました。
全員聞こえたようで、一瞬、皆動きを止め、顔を見合わせました。

「聞こえた?これで2度目だよな。今、2階には誰もいないよなぁ」

馬場君が言うと、メンバー全員がうなずきました。
茅野君がすかさず、

「大人だとドスッドスッという足音になるから、あれは子供だな。実際、2階で子供が走り回ると、あんな足音になるよ」

とコメント。
しばらく皆沈黙し、次の音を待ちましたが、もう足音は聞こえませんでした。


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