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2022年11月10日

おじゃま道草 2



「その猫はたまたまそうなっただけで、普段は生きていない猫がうろうろしているみたいだね」

私がそう言うと、すかさず茅野君は

「うん、今も廊下をふっと影が通った様な気がしたよ」

と意見が一致。
しかし、大切なのは、さっきの茅野君のコメントです。
私は、茅野君の勘(感)を生かすつもりで、彼にたずねました。

「でも、本体は猫じゃないな。台所へ行ってみる?」
「いいや、今はよすよ。明後日は休みだから、明るいうちに来よう」

この後、馬場君からもう少し話を聞き、新曲のデモを聞かせてもらい、台所には足を踏み入れず、午前2時ごろ帰途につきました。
茅野君を送った後、私は自宅へ戻りました。

「ん?誰も居ないはずの弟の部屋でひとの気配がする……」

電気をつけて覗くと……やはりいない……

「来たな……」

私は「くるな!」と強く念じ、気配が消えたのを確認してから床に入りました。
明けて、すぐ私はフィルムを現像に出ました。
その日の夕方には仕上げがありますから。
職場へ行くと、弟(大輔)からの伝言がありました。

「今晩、帰る。友人を呼ぶ。酒、買っておいてくれ」

弟は職場が遠いので、その近くに下宿しており、およそ月に1度、衣替えに戻っていました。
私は仕事の帰りに、上がったプリントを引き取りました。
持ち帰るとまず、ネガで現象ムラや光線洩れ、傷などチェックし、それからじっくりぷりんとを調べました。
枯れ木がとても目立ち、何枚かのカットに気持ちの悪い印象を与えていました。
と……よく見ると、そのうちの1枚に……南西の角のブロック塀に小さい赤い光点(豆電球でも点いているかのように見える)が写っているものを見つけました。
同アングルの他のカットにはなく、そのカットにだけ写っていました。
ネガにもきちんと写っており、物理的な処理の過程で出来たミスとは考えられません。
赤……一般に負のエネルギーです。
小さな光点……強い霊体です。
色の感じからも判断して……結論……祟りじゃーーっ!

ちょうど写真を見終わった頃、大輔が友人の榎木君を連れて現れました。
そして、私がテーブルの上の写真を片付けようとすると……

「何写したの?」
「お化け……じゃ」
「へぇーー、どれ?見せて……家?……お化け屋敷?」

そのうち、私と大輔のやりとりを見ていた榎木君が身を乗り出してきました。

「見せてもらっていいですか?」

彼が写真を捲っている間に、大輔が彼について教えてくれました。
学生の頃の剣道部の仲間だそうですが……何と彼は霊感が強く、それを見込まれ、密教系の寺院でアルバイトをしている……という変わり種だそうです。

彼によると

「こういう赤いのって、神仏の罰てぇことがあるんです。強いなあ……うかつなことは言えないので、これ、2・3日預かっていいですか?師匠と相談して見てもらいます。僕だったら、ただですから……」

ネガはあるので茅野君には焼き増しして見せればよい、ということで、私は例のカットの他、数枚を榎木君に預けました。
榎木君は遅くまで飲み、その日は一泊して帰りましたが、大輔は馬場君の家に興味を示し、翌朝……

「今日、茅野さんと行くんだろ?俺、明日も休みだからつきあうよ」

と言い出しました。

「あぶねぇぞ……憑かれるぞぉ〜」
「武道やってるから知れないけど、おれ、そんなの平気だよ」

約束の正午に茅野君は現れ、私たちは3人でB宅へ向かいました。
私は例の猫が気になっていたので、途中、鰹節のパックを買っていきました。
馬場君宅へ着くと、ちょうどバンドの練習中でした。
すぐに終わると言うので、待つ間に建物の周囲を調べることにしました。
林が切り開かれ、宅地として分譲された場所のようでは在りましたが……近くには古そうな農家が点在しています。

「わざわざ木を切らなくても農地があるのになぁ」

私はだんだん土地の成り立ちが気になり出しました。
そして、しばらく歩き回るうち、

「ん?水の気配がする……」

池か井戸か……溜まった水のようです。
場所は限定できませんが、どこかにあったと思われます。
そのうち馬場君宅が静かになり、女の子(船井さん)が呼びに出てきました。
中に入ると、まず使わない皿を2つ貸してもらい、1つには水を入れ、もう1つには鰹節をのせました。
猫の気配がもっとも多い階段の下に、それらを置きました。
そして、しゃがんで手を合わせると、「ここにとどまるな、去りなさい……」と念じました。
それから5分位後でしょうか……練習室でお茶を飲んでいると、廊下の方から、

「ニャン」

という鳴き声がしました。

「また猫がはいってきたか?鰹節狙ってるんだろう」

馬場君が立ち上がって、廊下を覗きました。

「ありゃ、いない。今ないたよなぁ……」

馬場君が首をかしげながらもどり、また元の雑談になりました。
そしてその後、猫の気配はぱったりと途絶えました。
ところが、この猫供養が、本体をつついたようです……


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