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2022年11月14日

おじゃま道草 4



皆が出かけ、私たちも帰路につきました。
自宅へ戻ると、写真などをもとに背後関係を見てみました。
1階を歩き回っている「本体」は、千数百年前の怨霊です。
(何であるかは伏せておきます。土地へ縛られてはいますが、出張して動くこともあるのでうかつに波長があうと危険ですから)
本来はこの土地のものではなく、因縁を背負った不幸な一族に取り憑いた状態でやってきた悪霊のようです。
一族を惨死に追込みながら、強烈な結界を形成し、自らを土地に呪縛してしまった形となりました。
負の結界はその吸引力により、捕まるものは何でも取り込んでしまいます。
写真の中には、犠牲となった浮遊礼などが多数みられました。
そしてその中に、決定的な取り込みがあります。
ある時、気がおかしくなった住人がいて、とんでもない大変なことをしでかしてしまいました。
屋敷を増改築する道祖神が邪魔になり、なんと石仏を井戸に投げ込んでしまったようです。
現代ならまだしも、普通の昔の人がそんなことをするはずはありませんから、余程狂った状態だったのでしょう。
オマケにその井戸は、その後そのままの状態で埋められてしまいました。
榎木君が神仏の罰かもしれないと言っていましたが、正にその可能性は大です。
「本体」を核とする結界内で、井戸の石仏が新たな強い核と化し、いわば二重のブラックホールを形成していることになります。
例の少女は、これらの吸引にひっかかってしまった、もっと新しい一族のひとりです。
今から百数十年前のものだと思われます。
母親が怨霊にやられたため、苦しい目にあったようです。
病気になり他の場所で亡くなりましたが、念だけはここに残りました。
例の猫は、その娘が可愛がっていた猫です。
いずれにしても、浄化できるような代物ではありません。1日でも早く転居すべきです。

私は電話で馬場君にその旨を伝えました。
しかし彼等は、転居の際に持ち金を使い果たしたらしく、すぐには越せないとのこと。
彼等も重なる不穏な現象に嫌気がさしていたが、お祓いなどでおさまるのならば……と思って、私に相談をもちかけたもようです。
私が

「だめだ……」

と告げると、

「そうか、やっぱりね……」

と納得し、出来るだけ頑張ってバイトをして金を貯め、急いで転居することを約束してくれました。
その後2ヵ月ほどで彼等は転居に至りますが、その間に随分と失うものがありました。
霊障が原因の人間関係のもつれです。

さて、私たちの方ですが、やはり霊障を免れることは出来ませんでした。
翌日の朝、榎木君から連絡がありました。次の様な内容です。
あの後、バイト先へ行くと、師匠が彼の顔を見るなり

「どこ行ってきたの!」
ときつい口調で言った。
そして、彼を本堂へと連れて行くと

「祓うからそこへ座って。自分の背後は見えにくいものだからなぁ」

といって除霊をしてくれた。
浮遊霊がついてくることはよくあるが、普通は寺に居るうちに自然に落ちてしまう。
わざわざ祓うのはめずらしいことである。
その後

「かなり危ないことに関わってるね。やめなさい……」

と言うので、預ってた写真をみせ、知っていることを話した。
師匠の鑑定の結果は……

「お地蔵さまが抜魂をしないまま捨てられ埋まっている。その下には水脈があり、お地蔵さまは泥にまみれている。その結果、この土地には神罰がくだっており、その後、性質が逆転して怨霊の住み家と化した。また、惨殺された者がおり、その殺傷因縁が凄まじい。意識を飛ばしただけで、その怨霊が斬りかかってくる。ある部屋にお札が貼ってあるが、まったく効果なし。命懸けで対峙すれば怨霊はなんとかなるかもしれないが、仏罰の方は手の施しようがない。ここに関わるのは命を捨てる様なものである。自分なら頼まれても絶対に拒否する。出てきたもの憑いてきたものを、祓ったり追い返したりすること、即ち除霊は可能だが、浄霊は難しい。ましてや土地の浄化などとんでもないことである。そっとしておくしかない。触らぬ神に祟りなし。一日でも早く手を引かないと命にかかわる。日本で有数の祈祷師であっても、現状では無理だろう。そこ一体を穿くり返して整地する覚悟があれば、可能性が見えなくもないが……それにしても、わざわざ命をかけて浄化するメリットが見当たらない。それにこの土地がそのようになってしまったそもそもの原因は、日本史以前にまで遡る。もちろんそれを調べる必要性はない。この様なスポットは所々に存在するので気をつけよ。しかしながら、このような土地に引きずり込まれたのには、やはり何等かの因縁がある。部外者にとっては考えようによってはいい経験だが、当事者つまり住人にとっては死への誘いである。因縁を自覚しないと、またどこかで引き寄せられるだろう。引っ越しの際にはすべての家具に粗塩をふり、出来るだけ早期に除霊の祈祷を受けなさい」

というものである。
死人がでない内に、手を切ったほうがよい。
榎木君はこの他にも、自分の考えなどを教えてくれました。
この内容は茅野君にも伝えました。
そして、もう行くのはよそう……という話になったのですが、実際には問題が持ち上がり、1週間後、もう一度だけ足を運ぶことになります。

それはさておき……しばらくは悪影響が続きました。
私の自宅で最も頻繁だったのは、弟の部屋です。
誰も居ないはずなのに人の気配がする。ぼそぼそと話し声が聞こえたこともあります。
何等かの関連がある浮遊霊のようでした。
電灯をつけたり、「帰れ」と念じたりするとすぐ消えました。
週に1、2度そんなことがありました。
また、私が行(読経)をしていると、背後に気配がする……しかも、鳥肌が立つような気配がする……というようなことが数回ありました。
これは「本体」(親玉)でなく、付属霊(手下)のようです。
気合を入れて行を続けるとその内に消えました。
お帰り願っただけで、決して浄化しようとしたわけではありません。
この様な付属霊だけならなんとかなるのですが、手を出すと芋蔓式に出てきますから、いずれ「本体」と接触しかねません。
浄化などとんでもないことです。
悪影響は茅野君にも及びました。
彼が仕事から帰ってうとうとしていると、自分が畳の上に座っている感じがしたそうです。
いやーーな感じだと思った時、周りの様子が見えてきました。
どうも、馬場君が語った夢の中に出てくるあの座敷のようです。
茅野君は、少女が現れ、やがて恐ろしい母親が出てくることを予想しました。
ところが……その気配がありません。
これは夢だから覚めなくては、しばらくそう考えているうち……ついに……座敷の奥の方から近付いてくる足音が聞こえてきました。
般若面の母親か……彼は筆舌し難い恐怖感を覚えたそうです。
しかし、現れたのは母親ではありませんでした。

「…………!」

この時点で茅野君は、「それ」が「本体」であることを知りませんでした。
でも彼は見てしまったのです。「それ」を……
「それ」はだんだんと近付いてきました。
彼は恐ろしさのあまり、

「神よ仏よ……お爺ちゃん!」

と助けを請いました。

「うわっ……!」

危機一髪、祈りは通じたようです。彼はなんとか夢から覚めることができました。
茅野君はすぐに私に連絡をくれました。
聞いてみると……彼が話す特に「本体」の描写は、私が想像していたよりもリアルでした。
(その描写については、記述を控えます。ご容赦ください)
私が

「「それ」が「本体」だよ」

と伝えると、彼は

「げ!例の斬りかかってくるヤツ?マジかよ〜」

と、しばらく絶句していました。
でも有難いことに、彼がこの夢を見たのはこれっきりです。

私の見解と茅野君の描写を合わせると……オソロシイ……今でも思いだしたくないくらいです。
(実は、私自身が書くのを嫌がっているのです……

悪影響は身体にも現れました。
私自身では、妙に肩が重い、指先が痺れる、などの症状がでました。
もちろん、透き通った「お客さん」がその原因です。
普段なら弾き飛ばすし、乗ってきても振り落としてしまうのですが、仕事帰りに電車で居眠をしていたり、疲れてうとうとしている時を狙ってくるので、つい背負ってしまいました。
このタイプは浮遊霊ばかりなので、落とすのは簡単……とは言っても、落とすまでは吐き気を伴った肩こりに悩まされます。
この肩こりがもとで体調を崩してしまうと、ヤツらの思う壺ですから、健康管理には妙に神経質になっていました。
また、めったに遭わない金縛りにも、その当時だけは続けて、2、3度見舞われました。

弟の大輔には、昔痛めた腰の傷みが復活しました。10年以上前の症状の再発です。
彼には元々因縁があり、その影響で腰痛を患ったのですが、ヤツらはそこにつけこんできました。
弱点をつつき回すのは、ヤツらの常套手段です。
腰が痛いと言う大輔をうつ伏せに寝かせ腰を診ると、そこだけが吸熱されていました。
「お客さん」を祓い落とし、気の通りを促すと傷みが消える。
数日するとまた痛みだすので、自宅へ戻って私に気の流通を修復さswる。
つまり、しばらくは痛んだり治ったりの繰り返しでした。
これは、皆あの土地と縁を切るまで続きました。
しかしながら、彼はそのことをきっかけにして、自分の弱点と因縁をはっきり認識したようです。
それ以来、彼はたいへん謙虚なものの考え方をするようになりました。

さて、茅野君ですが……怖い思いをしたわりには、影響が最も軽かったようです。
軽い肩こりと鼻づまりで済みました。
彼には強い守護の力が働いているためです。


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