2022年10月03日
交換だから 2
転校してきて2か月くらいたったころ、クラスの女子グループに呼ばれた。といっても1学年1クラス20人の内10人が女子なので、A以外の女子全員から呼び出されたとも言える。
お、いじめかいじめか〜と、ちょっとわくわくしながら女子グループに囲まれていると、クラスの女子のリーダー的なBがちょっと言いにくそうに「Aと関わらない方がいいよ…」と切り出した。
私じゃなく、Aへのいじめか?とも思ったが、ちょっと女子の様子がおかしい。なにか怯えているような様子だった。理由をよく聞くと、Bは両親から「Aに関わると呪われる」と言われているらしい。
他の女子達もそれをすっかり信じこんでいた。
もうね、それを聞いた瞬間思いっきり噴き出してしまった。呪いよ、呪い。んなあほなと。
でも、女子達は真剣だった。口々にAの呪いのエピソードを出してくるが、それって勘違いじゃ?レベルのことばかり。(Aと話した日に怪我をしたとかそういうことばかり。)
Aが私以外の人と話している様子がないことも気づいていたから、こういうことだったのかと内心合点がいった。
しかし、その理由が呪いっていうのは納得いかなかった。私は女子達にそんな非現実的なことはないと言ったが、聞き入れてはくれなかった。
田舎の習慣について知ってるつもりだったが、呪いというキーワードは始めてだったのでみんなをどう説得したらいいかも分からず、私はとりあえず「Aには気を付ける」と彼女たちと約束してその場を離れた。
とはいったものの、席は隣同士だしAと話すのは私だけなので必然的に2人組になるときはAと一緒になるし、いつもと変わらぬ日がしばらく続いた。
夏休みが終わり秋になったが、私に不幸が舞い込むこともなく平凡な田舎の日々は続いた。
その頃から私以外の女子がぽつぽつとAと話すようになった。とはいってもプリントを渡す、とかそういった些細なことだったが、それまでAに近づこうともしなかった子たちだったから少し驚いた。
多分、Aに一番関わっている私が何ともないから安心したのかもしれない。転校生という新しい要素が、古い田舎の風習に風穴を開けたかもしれないと私は内心思っていた。
秋のある日曜日、私は家の周りの田んぼで近所の子供たちと遊んでいた。そこにAが通りかかった。
Aの家は山一つ越えたところにあって毎日1時間かけて小学校に通っていたから、小学校に近い私の家の近所で日曜に見かけたのはこれが初めてだった。
Aは私に気付くと、うちに遊びにこないかと誘ってきた。近所の子はAを見ると蜘蛛の子を散らすように去って行ったが、(たぶん呪いが〜のせい)私はいいよ〜と、Aについていった。
山道を行く道中、アケビやいちじくを取り食べながら行ったので、途中でお腹いっぱいになりつつ進むと、山の中のちょっと開けたところにAの家はあった。
一見すると農機具が置かれている小屋かと思うくらい小さくて、トタンの壁と屋根でできた家だった。
ここがAの家か〜と思いつつおじゃますると、家の中は小さな和室と小さな台所があるだけの簡素な造りだった。
Aはそこでいつも一人で遊んでいると言った。周囲に民家はないし、いつも何をして遊んでるのか聞くと低学年向けの絵本を取り出した。それ以外の遊び道具は見かけなかった。
私はだんだん飽きてしまって外で遊ぶことを提案し、その日はAに山の中を案内してもらって遊んだ。夕方になり、そろそろ帰るとAに伝えると引き止められたが、また遊ぼうと約束し帰宅した。
翌週の日曜、家の近所で再びAに会った。またAに誘われてA家に遊びに行くと、ぬいぐるみと人形があった。その日は2人でぬいぐるみや人形で遊んだ。帰宅時、Aに引き止められたが、また遊ぼうと約束し帰宅した。
その翌週も家の近所でAに会った。再びAに誘われてA家に遊びに行くと、ボードゲームがあった。人生ゲームとか、オセロとかいろんな種類があった。2人でそれで遊んだ。帰宅時、Aに引き止められたが、また遊ぼうと約束し帰宅した。
またその翌週もAに会った。再びA家に誘われたが、毎週遊んでいたので多少飽きていたのと、1時間かけてA家にまで行くのが面倒で、その日は私の家の近所で遊んだ。3時頃、私はおやつを食べに帰宅しAは帰っていった。
翌日、学校に行くとAは「あげる。」と言いながらシールを渡してきた。
その時、女子達の間ではシール交換が流行っていた。雑貨屋で売ってる100円くらいの安い可愛いシールをノートや筆箱に貼るのだが、小学校では何枚も買えないから、余ったシールを友達同士で交換して種類を増やすのだ。
私もクラスの女子達と交換していた。Aはシール交換には参加していなかったが、Aの両親が買ってくれたのだろうかと考えた。そういえばAの家にいくたび新しいおもちゃが増えていたっけ。
しかし、Aがくれるシールはかわいい花柄のラメ入りの2〜300円はするシールだった。ただもらうのではこちらも気が引ける。そう考えた私は、Aからシールを受け取ると、自分の持っているとっておきのキャラクターのシールをAに渡した。「交換ね〜」と言いながら。
Aはすこし驚いたような困ったような顔をしたようだったが、私はいい交換ができたと内心満足感でいっぱいでそんなことは気にしていなかった。
その頃からだと思う。Aの持ち物が少しずつグレードアップしていったのは。ノートは流行りのアニメキャラクターのものになり、洋服はフリルのついたブラウスになり、スカートをはいてくるようになった。薄汚れたトレーナーは見なくなった。
身綺麗になっていくAに反感をもつ女子がでてきたのもそのころからだったのだろうと今なら思えるが、私は人の恰好にまったく興味のない性格だったのでまったく気付くことはなかった。
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