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2022年10月11日

廃病院の地下 3



バイクの照明を落として、メットをミラーにかけたCは、戸惑った顔で俺を見てた。
こっちに近付くと、分厚いガラス越しの向こうで『何やってんだお前』的なことを言っていた。よく聞こえなかったけど。
俺は必死に「ここから出してくれ」って叫んで、Cが呆れた顔で横に歩いていって俺の視界から消えようとしたから、俺は必死にCに追いすがって横に移動すると、そこにちょうど俺の腰くらいの位置に、窓の割れた部分があった。必死すぎて気付いてなかった。
Cが「あーでもここはアブねえんじゃねえの?」なんて言ったが、俺はそのギリギリのスペースに身体を突っ込ませるようにして外に出た。
俺の尋常じゃない勢いにCは仰け反るようにして引いていたが、俺はやっと外に出れたということと、今さらながらに、心臓がバクバクバクバク壊れたみたいに鳴って苦しいことに気付いていた。

Cがマジでドン引きしながら「お前どうしたの」と声をかけてたけど、
返事をできるようになったのは、多分2,3分してからだったと思う。
俺は微妙な顔で戸惑ってるCに必死に叫んで、ここから離れるように言った。
事態を説明しようにも、とにかくここから離れたかったからだった。
Cは「はぁ?あいつらは?あいつらどこいってんの」なんて、パニくってる俺に半分キレ気味だったが、
俺があまりにも必死に叫んでたからだと思う。渋々バイクにまたがってターンすると、俺を後ろに乗るように促して発進した。
俺はバイクに乗りながら、後ろから何か付いてきてないかとか、そういったことが気がかりで、
何度も何度も無理に後ろを見ようとして、「あぶねえだろ!」とCに怒鳴られた。

やがてCは病院から2,3キロくらい離れコンビニでバイクを止めて、「マジ何やってんのお前」と今度こそキレてきた。
俺はとにかくCに病院であったことをまくし立てた。
といってもその時の俺は、これからやらなくちゃいけないことや、AやBのことやあの化物のことなんかが頭にグルグルしてて、全然要領を得なかったと思う。
たしか、

「俺達あそこの下に行ったらBが倒れて、なんか奥のほうからワケわかんねぇのが出てきて、俺とAがB連れて逃げようとしたんだけど、Aが奥から出てきた車椅子にぶつかって、パニックになってどっか行っちまって、俺ホント怖くて、なんか足に子供の顔とか見えたりして、二人のこと置いてきちまった」

こんな説明を「はぁ?」なんて言うCに二、三回説明した。
かなり早口だったし、舌もまわってた自身がなかったから、ここまで振り回すように連れてこられたCにとっては、かなり頭にきてたと思う。
でも俺の様子が尋常じゃないのと、話の不気味さは伝わったらしく、とりあえず怒りは引っ込めてくれたようだった。

C「お前ら俺のこと騙そうとしてない?」
俺「んなことするわえねえだろ!!冗談じゃねえマジでやべえんだよ!!」

俺があまりにデカい声を出してたせいで、コンビニの店員が「どうしました?」なんて外に出てきた。
店の中で立ち読みとかしてた奴らも、変な目でこっちを見てた。
俺はとにかく「なんでもないから」と店員を追い返し、(これ以上事態を説明している時間が惜しかった)ジーパンから携帯を取り出して警察に連絡した。
こん時俺は凄い焦ってて、ジーパンの固い生地からうまく携帯がだせなくて「ああ!オイ!!」とか叫びながら出してた。
ここまで来てようやくCが、躊躇い無く110を押した俺を見て表情を真剣なものへ変えはじめた。
110番はすぐ繋がった。電話の向こうでおっさんの声で『はいこちら緊急110番』と返事があったので、おれはまくしたてるようにして「J病院(廃病院)で友達二人はやばいことになった!早くきてくれ!」って言った。

※『どこのどこ病院です?』
俺「JだよJ病院!×××山とか田んぼが近くにある!」
※『あーわかんないわかんない。詳しく住所とか言ってくれる?』
俺「ざけてんじゃねーぞオイ!住所なんざわかるわけねぇだろ!!〇〇村んとこにある病院だつってんだろ!!」
※『ああそう。で、何があったの?事故?喧嘩?』

まるでやる気のない気だるな返事がマジで頭にきて、怒鳴るようにして「どうせ今言ったってテメー信じねえよ!!いいから怪我してるヤツもいんだ!!さっさと来い!!」

その台詞を言い終えるか言い終えないかのときだった。
ザザザザって携帯にはお決まりの雑音が入って、警察のオッサンが『あ?もしもし?もしもし?』なんて言い始めた。
俺が何も言っても聞こえないみたいで、向こうの声もブツ切りになって聞こえなくなってきて、『もしもーし。イタズラですかー?』なんて完全にこっちを馬鹿にして、しばらくしたら電話を切りやがった。
俺はひたすら悪態をつきながらもう一度110を押して、耳に携帯を当てた。
そしたら今度はコール音じゃなくて、ザザザってあの音が続いて、時々『ブツ……ブツッ…』なんて音が混じるだけだった。
通話を一旦切ってまた掛けなおしたが、今度は何故か携帯の電源そのものが落ちた。
いま思い返せば、手が震えていたせいで長押ししてしまったのかもしれない。

俺はCに「携帯貸せ!」って奪うようにして、Cの携帯で110をコールした。
ちょうどボタンを押してコールがはじまった頃、またコンビニの店員が「ちょっとちょっと、どうしたんですか」と迷惑そうな顔をしながら出て来た。
まぁ実際、俺としてはそれどころじゃなかったけど、向こうにしたら本当に迷惑なヤツだったと思う。
俺はもう店員なんかほっといて、電話だけに意識を集中させた。
Cが「いやなんか俺にもよくわかんないんすけど」なんて店員に説明しはじめたのが聞こえてきた。
今度のコールはやけに長くて、中々相手が出なかった。
Cが店員に「いやなんか、ダチがあそこ(病院)行ったんですけど、戻ってこなくて」そんな説明が聞こえたとき、やっと『ツッ』と短い音がして通話状態になった。
相手が何も言わないのに少し疑問は感じたが、俺はまた怒鳴りながら「友達が二人怪我してヤバイから」ってはじまりで、事態を説明しようとしたときだった。
電話の向こうっていうか、向こうの電話の遠いほうの音?が聞こえた。

『ぁぁぁぁぁああああああああ』


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