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2022年10月06日

10の14乗分の1 3


そんなある日、不思議な噂を耳にした。
『予次元の木』の噂だ。
ある山奥にあるその木は、厳重にフェンスで仕切ってあり入れないようになっている。
管理しているS市に問い合わせたら、存在を否定される木。
この木はなんの変哲もない樹齢50年くらいの木らしいのだけど、なんと四次元の入口になっているという。
空き缶や石を投げつけると消えるという。
消えた空き缶や石はどこにも見当たらない。
つまり…この世に存在しなくなる…。
元々は、山菜取りの老夫婦の旦那が奥さんの目の前で消えた!tろかいうのが噂の始まりだった。

噂が広がった後は大変で、珍走団は集まるし、子供が消えたとか騒ぎになるし、でも四次元の木に行った事のある珍走団の友達に聞いた話では、何を投げつけても消える事は無かったって。
その友達は先週も行っていて、「フェンスを壊したから今から入れる」って言っていて、刺激を求めていた俺は、懲りずに行く事にしたんだ。

仲間を集めて出発しようとした時、

「僕もいくぞー、僕も、僕も僕も」

なんとヨッシー。
ヨッシーに教えたのは誰?
痴呆を連れていってもお荷物。
けれどヨッシーは俺のバイクに跨って離れない。

「嫌だ嫌だ、僕も、僕もへへへ」

ヨッシーには誰も連絡していないという。
どうして知ったのだろう?仕方なくニケツで連れて行く事にした。

珍走団の友達の言った通り、フェンスは壊れていた。四次元の木は直ぐに分かった。
しめ縄がしてあって酒が置かれていたから。

「なんの変哲もないな…」

そう言って、仲間の一人が木の枝を軽く投げた。
バシッ!
枝は虚しく、地面に落ちた。

「なんだ嘘かよ……」

何故か、この行為を見たヨッシーの落ち着きがなくなった。

「ダメだよ、ダメだよ、怒られるよ。あのオジサンに怒られるよ」

ヨッシーは大声で暴れている。山奥とはいえ、夜の10時、警察が来ては面倒だ。

「ヨッシー、うるさいよ!静かにしろよ!もーなんでこんな身障連れてきたんだよ!くそ!」

俺は連れてきた事を後悔した。
ヨッシーを見ると騒ぐ一方で、苛立ちが増大してしまった。
みんなに悪いような気がして、冗談のつもりである提案をしてみた。

「ヨッシーを木にに押しつけてしまおうか?うるさいから四次元に葬ってやろうか?」

軽い冗談だ。
けれど…

「おー!いいね!こんなお荷物は四次元に葬ってしまおう!」
「どうせ生きていても役に立たないよ葬ってしまおう!」

やんややんやの大騒ぎ。
ヨッシーコールまで起きてしまっている。
ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー
四次元なんて嘘なんだし、ヨッシーをビビらせておとなしくさせるだけだ。
俺もテンションが上がってしまって、ヨッシーの腕を掴んだ。

「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、オジサンがオジサンが…僕嫌だよ」

オジサン等と訳のわからんヨッシーに怒りさえ感じて、腕を力強く掴んだ。
反対の腕を友達が掴んだ。引きずるように木に向かって歩いていった。
ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー

「嫌だよーあああああああああああ」

足をバタバタして抵抗するヨッシー。
仲間が懐中電灯をぐるぐる回して雰囲気を盛り上げる。
ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー
もはや後には引けない。
四次元の木に後一歩の所まで来た時、友達に目配せをして力強くヨッシーを木に押し付けた。
フッと軽くなったような気がした瞬間、懐中電灯が消えて真っ暗になった。
何かにつまずいて転んでしまった。

「痛!おい、消すなよ!こら!」
「消してないよ!…消えた!」

パンパン!…パンパン!
懐中電灯を叩く音が数回した後、フッと灯りが点いた。

「あれ?ヨッシーは?」

いない?!真ん中にいるはずのヨッシーがいない?!
反対の腕を掴んでいた友達も何故か転んでいて、キョトンとしている。

「いない訳ないだろ?」
「あいつイタズラしてんだよ!おいヨッシー、ふざけんなよ!出てこいよ!」
灯りがつくまでは数秒、ヨッシーはその間に茂みに隠れているに違いない。
俺達は懸命に探した。

「おい、ヨッシー、出てこい!」
「もうやめよう、謝るよ、出てきて」
「悪かった!ヨッシーごめん。頼む出てきて!」

俺達は蒼くなった。
ヨッシーは悪ふざけをして、その辺の崖から転落したのかもしれない。

「お前があんなアホ連れてくるから悪いんだぞ?」

俺は後悔した。
ヨッシーはマジで大ケガ、いや、死んだかもしれない。
ヤバイ…ヤバイ…。

「うん。俺の…責任だ。とりあえずヨッシーの家に行って、お母さんに説明しよう。それから警察に届けよう。俺の責任だ」

俺達はは急いでヨッシーの家に帰った。
山道を15分、バイクで一時間、ヨッシーの家に到着した。

「おばちゃん、おばちゃん!ヨッシーが大変な事に!ごめんなさい!」

ヨッシーの母ちゃんは、俺達の勢いにびっくりしたようだが、直後にとんでもない事を言った。

「どうしたのこんな遅くに?義彦ならさっき押入れから落ちたみたいで、うーうー唸っているよ。二階で」

え?な・ん・だ・っ・て?俺達は訳がわからず二階に行った。
そこには紛れもなくヨッシーがいた。

「おい、ヨッシー、ヨッシー!お前どうやって帰ったんだ?え?」

ヨッシーは何故か全裸だった。体中に傷があって、涎をだらだらと垂らしている。

「オジサンがね…僕のね…えへへ…お前らしくないぞ?オジサン怒ってたぞ?」
「ヨッシー、オジサンって誰なんだよ?え?オジサンって?頼むよ、答えろよ!」

俺は何故か半泣きになってヨッシーを揺さ振った。

「えへへ、えへへ」

ヨッシーは答えない。

お母さんの話を聞くと、一時間位前に二階でドスンドスン大きな音がして見に行くと、ヨッシーが全裸でヘラヘラ笑っていたという。
一時間前って…ヨッシーが消えた頃じゃないか?

「この子…もう駄目なのかな…みんな…友達でいてあげてね」

俺達は何も言えなかった。

翌日の日曜日の昼間に、俺達はもう一度四次元の木に行ってみた。
何か手掛かりがあるかもしれない。
四次元の木の周りには何もない…すると一人が何かを発見して叫んだ。

「おい、あれ見ろよ!」

四次元の木の頂点付近、30メートル位の場所に…服が絡みついている。

「あれ…ヨッシーの服だろうか?」

間違いない。昨日ヨッシーが着ていた服だ…。
一体どういう事だろう?
俺達はいくら考えても解らなかった。
ヨッシーは四次元に迷い込んだのか?
オジサンとは誰だろうか?いくら考えても解らなかった。

あれから15年…ヨッシーは通院では済まなくなって、今は面会不可な場所に居る。
俺達あの時は犯罪者になった気分だったけど、10の14乗分の1位の確率で木だって通り抜けられるんだよね?
だから…偶然じゃなく必然だったんだ。
そう自分に言い聞かせているんだ。
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