2022年10月05日
10の14乗分の1 2
「インチキだろ?」
「でも…ドクロとか8人とか…ズバリだったよね?」
結果として、ババアを信じる事にするしか無かった。
何がどうとんでないのにもわからず、俺達は8人を集めて川に出かけるしか無かった。
ババアの所に行かなかった5人に経緯を説明した。
「いいか?絶対振り向くなよ?ヤバイらしいぞ。あと、みんな走るなよ!慌てて転んだら大変だから!」
そんな説明をしていると、一人だけ聞いていない奴がいる。
「ヨッシー!聞いているのか?振り向いたら大変な事になるらしいぞ?大丈夫か?」
ヨッシーは返事をせず、ヘラヘラしていた。
「よし!流すぞ?いいか?流したら直ぐ回れ右だぞ!振り向くなよ?走るなよ!」
俺はそう言って、ドクロの写真と梵字を書いたチラシを川に流したんだ。
みんなは同時に回れみぎをして、ゆっくりとその場を後にした。
15歩進んだところで、ヨッシーがバカをやりだした。
「俺は桜の木に登っても平気だったんだよ!呪いなんて怖くねぇ!へ!」
そう言って後ろを振り向いている。
「ヨッシーやめろ!ヤバイよ!やめろって!」
みんなが制止するのを無視して、ヨッシーが振り向いている。
「へ?あれ?あれなんだ?ぉぁ…………………」
ヨッシーは黙り込んでしまった。
「ヨッシー!ヨッシー!どうしたヨッシー!」
みんなは歩みを止めない。ヨッシーは付いてこない。
「う、うわあー!」
誰かが走り出した。つられて全員走り出した。
「うわあーああああー」
駐車場に着いたがヨッシーはいない。
「おい、ヨッシーはどうしたんだよ」
陽が沈みかけて、辺りは暗くなりだしている。
誰も怖くてヨッシーを探しにいけない。
「俺、明日早いから…お先に…」
一人、また一人と消えていって、俺とカメラの持主にだけになってしまった。
「どうする?探しに行くか?」
「正直…怖い…無理」
「あいつ…何を見たんだ?」
俺達は慎重に話し合い、あと30分待ってヨッシー帰ってこない場合は帰る事にした。
約束を破ったヨッシーが悪いというのが大義名分で、ババアの「振り向くと大事になる」という言葉が、どうしてもヨッシーを探す気分になれなかった。
30分してもヨッシーは帰ってこなかった。
俺達は仕方なく帰ったんだ。
翌日昼休み、職場からヨッシーの家に電話をした。
意外にもヨッシーは直ぐに出た。
「ヨッシー!昨日ごめん…大丈夫だったのか?」
「何が?」
「何が?って、昨日どうやって帰ったんだよ」
「どうやって?バイクでだよ」
「いや、それはわかるけど」
まるで会話が噛み合わない。
仕方なく、仕事が終わってから、カメラの持ち主の奴と二人でヨッシーの家に行ってみた。
「ヨッシー、昨日あれからどうしたんだよ。心配したんだぞ?」
「俺さあぁぁ…へへっ…へへっ……」
「ヨッシー、お前なんかおかしいぞ?7シンナー吸ってるのか?」
「へへへ」
「ヨッシー昨日何か見たんだな?何を見たんだ?ヨッシー?」
「僕なーんも見てない…見てないよ、見てないもん」
(この日からヨッシーは池沼みたくなってしまった)
シンナーのせいかもしれないけど、自分の事を僕と言い出したり、涎を垂らしたりして、俺達を困らせた。
話にならないので、帰る事にして玄関を出ると、バイクが目にとまった。
来た時はシートが掛けてあったけど、風でシートがめくれていたからだ。
「これ…なんだよ?」
ヨッシーのバイクは傷だらけで、ライトと全てのウィンカーが割れてた。
所々に枝が付いていて、ミラーがあらぬ方向に折れ曲がっている。
どこをどう走ったらこんな事になるんだろう。
ヨッシーだって無傷でいられるはずがない。
「ヨッシー!おいヨッシー!お前?」
「あー、あー、あー」
ヨッシーは痴呆のように叫ぶだけで答えなかった。
暫くしてヨッシーは、仕事を辞めて精神科に通うようになったんだ。
日常生活に支障はないけれど、バイクには載れなくなった。
俺はやはりあの日の事が関係しているような気がして、ババアの所に行って解決法を聞こうと思ったけれど、できなかった。
約束を破った負い目があったから。
いつの間にかヨッシーの事は、仲間内でタブーになっていて疎遠になった。
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