2022年08月12日
リアル 2
会社に着くと、いつもと変わらない日常が待っていた。俺は何とか〇〇と話す時間を探った。
事の発端に関係する〇〇から、何とか情報を得ようとしたのだ。
昼休み、やっと捕まえる事に成功した。以下俺と〇〇の会話の抜粋。
俺「前にさぁ、話してた△すると●が来るとかって話あったじゃん。昨日アレやったら来たんだけど。」
〇〇「は?何それ?」
俺「だからぁ、マジで何か出たんだって!」
〇〇「あー、はいはい。カウパー出たのね」
俺「おま、ふざけんなよ。やっべーのが出たってんだよ」
〇〇「何言ってんのかわかんねーよ」
俺「オレだってわかんねーよ!!」
駄目だ、埒があかない。
〇〇を信用させないと何も進まなかったため、俺は渋々と昨日の出来事を説明した。
最初はネタだと思っていた〇〇もやっと半信半疑の状態になった。
仕事が終わり、俺の部屋に来て確かめる事になった。
夜10時、幸いにも早めに会社を出たれた〇〇と俺は部屋に着いた。扉を開けた瞬間に今朝嗅いだ悪習が鼻を突いた。締め切った部屋から熱気とともに、まさしく臭いが襲ってきた。
帰りの道でもしつこいくらいの説明を俺から受けていた〇〇は「…マジ?」と一言呟いた。信じたようだ。
問題は〇〇が何かしら解決案を出してくれるかどうかだったが、望むべきではなかった。
とりあえず、お祓いに行った方がいいことと知り合いに聞いてみるって言葉を残し奴は逃げるように帰って行った。
予想通りとしか言いようがなかったが、奴の顔の広さだけに期待した。
臭いとこに居たくない気持ちからかその日はカプセルホテルに泊まった。今夜も出たら終わりかもしれないと思ったのが本音。
翌日、とりあえず近所の寺に行く。さすがに、会社どころじゃなかった。
お坊さんに訳を説明すると「専門じゃないですからね〜。しばらくゆっくりしてはいかがでしょう。きっと気のせいですよ」なんて呑気な答えが返ってきた。世の中こんなもんだ。
その日は都内では有名な寺や神社を何軒か回ったがどこも大して変わらなかった。
疲れはてた俺は、埼玉の実家を頼った。
正確には、母方の祖母がお世話になっているS先生なる尼僧に相談したかった。っつーかその人意外でまともに取り合ってくれそうな人が思い浮かばなかった。
ここでS先生なる人を紹介する。
母は長崎県出身で当然祖母も長崎にいる。
祖母は、戦争経験から熱心な仏教徒だ。S先生はその祖母が週一度通っている自宅兼寺の住職さんだった。
俺も何度か会ったことがある。
俺は詳しくはないが、宗派の名前は教科書に載ってるくらいだから似非者の霊能者なそと比較にならないほどしっかりと仏様に仕えてきた方なのだ。
人柄は温厚、落ち着いた話し方をする。
俺が中学に上がる頃親父が土地を買いに家を建てることになった。
地鎮祭とでも言うんだっけ? 兎に角その土地をお祓いした。
その一週間後に長崎の祖母から「土地が良くないからS先生がお祓いに行く」という内容の電話があった。当然、母親的にも「もう終わってるのに何で?」ってことでそれを言ったらしい。
そしたら祖母から「でもS先生がまだ残ってるって言うたったい」って。
つまり、俺が知る限り唯一頼れる人物である可能性が高いのがS先生だった。
日も暮れてきて、埼玉の実家があるバス停に着いた頃には夜9時を回る少し前だった。
都内と違い、工場ばかりの町なので夜0時でも人気は少ない。バス停から実家までの約20分を早足に歩いた。人気の無い暗い道に街灯が規則的に並んでいる。
内心、一昨日の事がフラッシュバックしてきてかなり怯えてたが、幸いにも奴は現れなかった。
が、夜になり涼しくなったからか俺は自分の身体の異変に気が付いた。
どうも首の付け根辺りが熱い。
伝わりにくいと思うが、例えるなら首に紐を巻き付けられて左右にずらされているような感じだ。
頸に手をやって寒気がした。首だけ熱い。しかもヒリヒリしはじめた。どうも発疹のようなモノがあるようだった。
歩いていられなくなり、実家まで全力で走った。
息を切らせながら実家の玄関を開けると母が電話を切るところだった。
そしれ俺の顔を見るなりこう言ったんだ。
「あぁ、あんた。長崎のお婆ちゃんから電話が来て、心配だって。S先生があんたが良くない事になってるからこっちにおいでって言われたって。あんたなにかしたの? あらやだ。あんた首の回りどうしたの!!?」
答える前に玄関の鏡を見た。奴が来るかもとか考えてなかったな……、何故か。
首の回り、付け根の部分は縄でも巻かれているかのように見事に赤い線が出来ていた。
近づいてみると、細やかな発疹がびっしり浮き上がっていた。
さすがに小刻みに体が震えてきた。
何も考えずに、母にも一言も返事もせずに階段を駆け上がり、母の部屋の小さな仏像の前で南無阿弥陀仏を繰り返した。
そうする他、何も出来なかった。
心配して親父が「どうした!!」と怒鳴りながら走って来た。母は異常を察知して祖母に電話している。母の声が聞こえた。泣き声だ。
逃げ場ないと、恐ろしい事になってしまっているとこの時やっと理解した。
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