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2022年07月04日

地下のまる穴 2


その後は懐中電灯をつけたり消したりしながら、更地の敷地内をグルグルしていました。
「なんにもないじゃん」「建物に近づいたらさすがにヤバイのよ」など、小さな声で雑談していたのですが、あまりにも何もなくつまらないので、施設に近付いてみる事にしたんです。
敷地内は正面の門からは100メートルくらいの完全な更地で、その先に大きな施設が三棟並んでいました。

よく覚えていませんが、とても奇妙な外観をしたデザインの建物でした。
施設周辺をコソコソ歩いていると、施設と施設の間に灯りのついたキレイな公衆トイレの建物がポツンとあり、トイレがある一帯は白いキレイなコンクリートで舗装されていて、ベンチまでありました。
Aが「ちょっと休憩しようや」と言い出し、周りの同級生らは「はぁ?見つかったらさすがにヤバイだろ」「さっさと一周して帰ろうや」と言いました。
私も「見つかったら警察呼ばれるかもしれんし、卒業まであと少しじゃん、問題おこしたらヤバイ、はよ帰ろうや」と言いました。

しかし、Aはベンチに座ると煙草を吸い始めました。
「じゃ一服だけして帰るか」という事で、全員でその場に坐って煙草を吸いました。
すると、Aが「俺ちょっとトイレに行ってくるわ」と、その公衆トイレの中に入っていきました。
BやCは

「アイツ勝手に入った建物のトイレでよくションベンなんか出せるなぁ」「ウ〇コなら悪魔に呪われるんじゃないか」

とか冗談を言いながら煙草を吸っていたのですが、しばらくするとAが、トイレの中から

「おーい。ちょっと来て。面白いもんがあるよ」

と小さな声で言いました。

ゾロゾロと行ってみると、Aは「ほら、ここなんだと思う?」と便所の個室を指さしました。
Bが「トイレじゃん」と言うと、「ドア開けてみてや」と言い、Bが「なんや」と言いながら扉を開けました。
扉を開けてみると、なぜか中には地下に降りる階段がありました。
Aは「おかしいじゃろ。便所便所と並んで、ここだけ階段なんよ」と言いました。

いよいよこの状況がおかしな事に気づきました。第一、Aの言動がずっと不可解でした。
Aが急に肝だめしを提案した事、横の扉の位置を把握していた事、トイレの扉をわざわざ開いた事などです。

私はAに、「お前まさかココでウ〇コするつもりだったん?」と聞きました。
Aは「いや、うん、そうじゃ」と曖昧に答えた後、「ちょっと降りてみんか?」と皆に聞き始めました。私は当然断りました。

「お前おかしな事言うなや。はよ帰ろう。ここでグズグズしよったら見つかるじゃろ」

と言うと

「はは〜お前怖いんじゃろ?ちょっと降りるだけなのに怖いんじゃろ」

と馬鹿にした感じで言い出しました。
私はこれはAの挑発だと思いました。下に誘導しようとしているとしか思えなかったのです。
Bも「「ワシもいかんわ。帰ろうで」と言ってくれたのですが、他の二人は「なんか面白そう。ちょっとだけ降りようか」みたいな感じでAに同調したのです。
Aは「お前らは勇気あるの〜」とか言いながら、私やBを更に挑発していましたが、Bは「ワシ行かんで。勝手に行けや」と吐き捨てるように言いました。
Aは「ならまず3人で降りるわ。お前らはとりあえずココで待っといてや」と言いました。
そして3人は下へと降りて行ったのです。

私とBの二人はトイレの外には出ず、中で待っていました。
トイレの周辺は施設に挟まれた形で、窓も多数あったため、どこかの窓から見つかるか分からないと思い、トイレ内で待機していました。

Bは「おい、Aってなんか変じゃないか?」と聞いてきました。
私は「今日のAはおかしい。なんか最初っから俺らをココに連れてきたみたいな感じがする」と答えると、Bも「ワシもそう思いよった」と言いました。
その後はBと一緒に、今夜の事や見つかってしまった時の対処法などを話していました。

5分近く経った頃、「ちょっと遅くないか?」と私もBもイライラし始めました。
Bは「もう二人で帰るか」と言い出したのですが、二つあった懐中電灯のうち、二つともAたちが持って降りてしまったので、暗闇の中あの小さな横の扉を発見するのは時間がかかると判断し、しぶしぶ待っていました。
すると、遠くのほうから足音が聞こえてきたのです。

ザッザッザッという、複数の足音が遠くから聞こえてきました。
私もBも一瞬で緊張しました。
私たちは小声で、「ヤバイ…人がきた。マズイで…」と囁きあいました。
場が張り詰めた雰囲気に変わりました。
足音は遠くからでしたが、どの方角からの足音か分からなかったですし、いま外に出ても私たちは施設内の方向や構造が分からないので、見つかってしまう可能性がありました。

Bが「ヤバイ…近づいて来とるで…どうする?」と、かなり慌てた感じで言っていました。
私も内心は心臓がバクバクしながら、「コッチに来るとは限らんし、来そうなら隠れよう」と言いました。
しかし、確実に足音は私たちのいるトイレに近づいていきました。

その時、Bがいきなり階段ではない他の大便の個室の扉に手をかけました。しかし開きません。隣の個室もなぜか開きませんでした。
Bは「クソッ!閉まっとる。あ〜クソっ」と小さな声で叫びました。
足音はおそらく15mくらいまで近づいてきています。
直感的ですが、私はその時、足音の連中は間違いなくトイレに来ると確信していました。Bもきっと同じ予感がしていたのだと思います。
私もBもジッと立ち尽くしたままでした。


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