2022年06月10日
姦姦蛇螺 4
入り口が見えてくると、何やら人影も見えた。
おい、まさか…三人とも急停止し、息を吞んで人影を確認した。
誰だかわからないが、何人かが集まってる。あいつじゃない。
そう確認できた途端に再び走り出し、その人達の中に飛び込んだ。
「おい!出てきたぞ!」
「まさか…本当にあの柵の先に行ってたのか!?」
「おーい!急いで奥さんに知らせろ!」
集まっていた人達はざわざわした様子で、オレ達に駆け寄ってきた。
何て話しかけられたかすぐにはわからないぐらい、三人とも頭が真っ白で放心状態だった。
そのままオレ達は車に乗せられ、すでに三時をまわっていたにも関わらず、行事の時に使われる集会所に連れていかれた。
中に入ると、うちは母親と姉貴が、Aは親父、Bはお母さんが来ていた。
Bのお母さんはともかく、ろくに会話した事すらなかったうちの母親まで泣いてて、Aもこの時の親父の表情は、普段見た事もないようなもんだったらしい。
B母「みんな無事だったんだね…!よかった…!」
Bのお母さんとは違い、オレは母親に殴られAも親父に殴られた。だが、今まで聞いた事のない暖かい言葉をかけられた。
しばらくそれぞれが家族と接したところで、Bのお母さんが話した。
B母「ごめんなさい。今回の事はうちの主人、ひいては私の責任です。本当に申し訳ありませんでした…!本当に…」
と、何度も頭を下げた。
よその家とはいえ、子供の前で親がそんな姿をさらしているのは、やっぱり嫌な気分だった。
A父「もういいだろう奥さん。こうしてみんな無事だったんだから」
オレ母「そうよ。あなたのせいじゃない」
この語、ほとんど親同士で話が進められ、オレ達はぽかんとしていた。
時間が遅かったのもあって、無事を確認しあって終わり…って感じだった。この時は何の説明もないまま解散したわ。
一晩明けた次の日の昼頃、オレは姉貴に叩き起こされた。
目を覚ますと、昨夜の続きかというぐらい姉貴の表情が強ばっていた。
オレ「なんだよ?」
姉貴「Bのお母さんから電話。やばい事になってるよ」
受話器を受け取り電話に出ると、凄い剣幕で叫んできた。
B母『Bが…Bがおかしいのよ!昨夜あそこで何したの!?柵の先へ行っただけじゃなかったの!?』
とても会話になるような雰囲気じゃなく、いったん電話を切ってオレはBの家へ向かった。
同じ電話を受けたAも来ていて、二人でBのお母さんに話を聞いた。
話によると、Bは昨夜家に帰ってから、急に両手両足が痛いと叫びだした。
痛くて動かせないという事なのか、両手両足をぴんと伸ばした状態で倒れ、その体勢で痛い痛いとのたうちまわったらしい。
お母さんが何とか対応しようとするも、「いてぇよお」と叫ぶばかりで意味がわからない。
必死で部屋までは運べたが、ずっとそれが続いているので、オレ達はどうなのかと思い電話してきたという事だった。
話を聞いてすぐBの部屋へ向かうと、階段からでも叫んでいるのが聞こえた。
「いてぇいてぇよぉ!」と繰り返している。
部屋に入ると、やはり手足はぴんと伸ばしたまま、のたうちまわっていた。
オレ「おい!どうした!」
A「しっかりしろ!どうしたんだよ!」
オレ達が呼び掛けても、「いてぇよぉ」と叫ぶだけで目線すらも合わせない。
どうなってんだ…
オレとAは何が何だかさっぱりわからなかった。
一度お母さんのとこに戻ると、さっきとはうってかわって静かな口調で聞かれた。
B母「あそこで何をしたのか話してちょうだい。それで全部わかるの。昨夜あそこで何をしたの?」
何を聞きたがっているのかは、もちろんわかってたが、答えるためにあれをまた思い出さなきゃいけないのが苦痛となり、うまく伝えられなかった・
というか、あれを見たっていうのが大部分を占めてしまったせいで、何が原因かってのが、すっかり置いてきぼりになってしまっていた。
「何を見たかでなく何をしたか」と尋ねるBのお母さんは、それを指摘しているようだった。
Bのお母さんに言われ、オレ達は何とか昨夜の事を思い出し、原因を探った。
何を見たか?なら、オレ達も今のBと同じ目にあってるはず。
だが何をしたか?でも、あれに対してほとんど同じ行動だったはずだ。
箱だってオレ達も触ったし、ペットボトルみたいなのも一応オレ達も触ってる。
後は…楊枝…
二人とも気付いた。楊枝だ。あれにしかBしか触ってないし。形もずらしちゃってる。しかも元に戻していない。
オレ達はそれをBのお母さんに伝えた。
すると、みるみる表情が変わり震えだした。
そしてすぐさま棚の引き出しから何かの紙を取出し、それを見ながらどこかに電話をあけた。オレとAは様子を見守るしかなかった。
しばらくどこかと電話で話した後、戻ってきたBのお母さんは震える声でオレ達に言った。
B母「あちらに伺う形ならすぐにお会いしてくださるそうだから、今すぐかえって用意しておいてちょうだい。あなた達のご両親には私から話しておくわ。何も言わなくても準備してくれると思うから。明後日またうちに来てちょうだい」
意味不明だった。誰に会いにどこへ行くって?説明を求めてもはぐらかされ、すぐに帰らされた。
一応二人とも真っすぐ家に帰ってみると、何を聞かれるでもなく、「必ず行ってきなさい」とだけ言われた。
意味がまったくわからんまま、二日後にオレとAは、Bのお母さんと三人である場所へ向かった。
Bは、前日にすでに連れていかれたらしい。
ちょっと遠いのかな…ぐらい思ってたが、町どころか県さえ違う。
新幹線で数時間かけて、さらに駅から車で数時間。絵に書いたような深い山奥の村まで連れていかれた。
その村のまたさらに外れの方、ある屋敷にオレ達は案内された。でかくて古いお屋敷で、離れや蔵なんかもあるすごい立派なもんだった。
Bのお母さんが呼び鈴を鳴らすと、おっさんと女の子がオレ達を出迎えた。
おっさんの方は、その筋みたいなガラの悪い感じでスーツ姿。女の子は、オレ達より少し年上ぐらいで、白装束に赤い袴。いわゆる巫女さんの姿だった。
挨拶では、どうやら巫女さんの伯父らしいおっさんは。普通によくある苗字を名乗ったんだが、巫女さんは『あおいかんじょ?(オレにはこう聞こえた)』とかいう、よくわからない名を名乗ってた。
名乗ると言っても、一般的な認識とは全く違うものらしい。
よくわからんがようするに、彼女の家の素性は一切知る事が出来ないって事みたい。
実際オレ達は、その家や彼女達について何も知らないけど、とりあえずここでは見やすいように『葵』って開くわ。
ただっ広い座敷に案内され、わけもわからんまま、ものものしい雰囲気で話が始まった。
伯父「息子さんは今安静にさせてますわ。この子らが一緒にいた子ですか?」
B母「はい。この三人であの場所へ行ったようなんです」
伯父「そうですか。君ら、わしらに話してもらえるか?どこに行った、何をした、何を見た、出来るだけ詳しくな」
突然話を振られて戸惑ったが、オレとAは何とか詳しくその夜の出来事をおっさん達に話した。
ところが、楊枝のくだりで「コラ、今何つった?」と、いきなりドスの効いた声で言われ、オレ達はますます状況が飲み込めず混乱してしまった。
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