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2020年05月15日

クレヨンしんちゃん『嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』 2


幼稚園の送迎バスに乗ったしんのすけ一行は、ブレーキやペダル、そしてハンドル役などそれぞれ役割分担をしながら、万博に到達する。その際コースの妖精 みさえが魔法少女に扮しながら妨害してくる。みさえやひろし以外にも、スッカリ身体の大きい子供(大人)が襲ってくるのであるが、使っている武器がエアガンなど殺傷力はない。
しかも、譲り合いなどの律する精神性がないためか協力や協調性などは皆無で、ちょっとしたアクシデントやトラブルで場が乱れるといった有様であり、しんのすけ達の逃亡は容易なように思えたが、シロに運転を任せて犬とは到底思えないハンドル捌きを讃えるため、ワッショイと胴上げしハンドルを操作する人がいなくなった所為で、事故を起こしバス周辺は囲まれることになる。

しんのすけとひまわり以外の皆が捕まる中、持ち前の機敏な動きで相手を翻弄し、建物内に入っていく。その中で、しんのすけはひろしと出会うのだが、完全に子供と化した彼は「月の石を見る」と両親に駄々をこねている姿であった。
しんのすけが我儘を言うひろしを元の状態に戻すために、彼の靴の臭いを嗅がせるのだが、その際に回想されるエピソードは、ひろしがこれまで生きていく上で、絶対にはなくしてはならない人としての思い出であった。


青空の下、自転車の後ろに座り、親子で遊びに行く光景。

恋の相手と下校する様子と、そして失恋。

やがて新幹線に乗り上京。

新人社員として不慣れながらも働き努力する姿勢。

上司と飲み屋に立ち寄る姿。

しんのすけが誕生し、みさえに小走りで会いに行く。

家ができ、段ボールを運ぶ姿。

深夜まで会社に居残り、操作慣れしていないパソコンに挑むもデータが飛ぶ。

電車に揺られ、寝落ちしそうになりながらもどうにか持ちこたえる。

しんのすけとひまわりと一緒に風呂に入り一杯やる家庭内の様子。

かつて自分の父親がそうしてくれたように、家族四人連れ添って自転車での外出。



果たして、人生の歩みの中で、確かに苦労はあっただろうが、それら全てを捨ててまで頑是なく子供のままでいる必要はあるのだろうか? 否、無い。

全てを思い出したひろしは泣きながらしんのすけの身体を抱きしめるのだが、そこにある現実は張りぼてだらけで出来損ないの無機質な部屋であり、とてもではないが、夢にあふれたものではない作り物にすらなっていない、偽物にすら劣る紛い物。
ひろしを正気に戻した後、みさえも同様に靴の臭いを嗅がせるのだが、二番煎じか、もしくは尺の都合上、あっさりとした感じで彼女も正気を取り戻すのだが、大人が子供の遊びに興じている様子を子供映像補正なしで垣間見ることになる。

ここにいては危険だと判断した野原一家は万博から逃げ出そうとする前に、ケンが現れ、アパートに案内。チャコは野原一家に茶を出すだけではなく、犬であるシロにまでミルクを出すほど、洗脳を行っていたトップの人間にしては少し意外な優しさを見せている。

どうしてもここから出るのかと尋ねるケンに、野原一家は断固として出ていくと誓言し、作り物とは思えない夕焼けの町中を走っていくのであった。この町もひろしがいた張りぼて同様、意図的に設計されたものであり、昭和初期か中期頃のモノである。
野原一家を留めさせるために、夕飯の知らせを伝える見ず知らずのおばさんなど、かなり強い精神攻撃を受ける中、「どうしてここは懐かしんだ」と涙ながらに言いながら、靴の臭いで何とか正気を維持する。

クルマを奪取して建物から野外に脱出し東京タワーを昇っていくのだが、イエスタディ・ワンスモアの人間が襲い掛かる。
ケンとチャコは日本各地に「なつかしい匂い」を拡散するスイッチを押すため、東京タワー内のエレベータで移動を行っていた。ひろしはエレベータのドアが閉まるのを邪魔し、「俺はつまらなくなんかない。家族のいる幸せをあんたらにも分けてやりたかったぜ」と言い放ち、意地でもドアから離れないひろしに対してチャッコは蹴りを入れようとするも、ミニスカ姿で足を上げたことが幸い災いして中身を見らえる。
「お〜モーレツ!」と(映画冒頭でしんのすけも言っていた)といい、ひろしはチャコに対して恥じる姿を「人間らしい表情になった」と述べるも、スカートを抑えた二度目の蹴りで遂にはドアから手を放してしまう。
その場に取り残されたひろしであるが、イエスタディ・ワンスモアの隊員からフルボッコの制裁を受ける中、「色は何だった!?」との声が聞こえるが聞き間違いではない。ハッキリ言っている。

「なつかしい匂い」の拡散を阻止するため、みさえ・ひまわり・シロ・しんのすけが東京タワー内を駆け上がっていくのだが、みさえはひまわりを抱きかかえたまま隊員たちの邪魔をし、シロも加勢するために追撃をかまし、ひまわりは赤子ながらも家族同様に攻撃を行っている。

一人残されたしんのすけであるが、みさえの「早く行って」の訴えでしんのすけはエレベータでグングン上昇していくチャコとケンの二人に視線をやりながら、階段を駆け上がっていくのであった。

東京タワーの階段を駆け上がっていくしんのすけであるが、しんのすけの顔をカメラで固定しグルグル周回しながら上へ目指す場面は、ひろしが正気に戻った時の回想と同じぐらい名場面である。
転んで鼻血が出ても、ボロボロになっても諦めず、遂には東京タワーの最上階にたどり着くのであるが、もうその頃にはフラフラの状態であった。子供だから体力が低いのは致し方ないとはいえ、大人でさえ疲労困憊するであろう幾多の階段を根性のみで駆け上がった姿は驚異的である。
途中でへばってもおかしくはないのだが、「なつかしい匂い」を拡散するスイッチを押そうとするケンにしんのすけは弾き飛ばされても、しがみつく。
なぜそこまで執着するのかと問うケンにしんのすけは、「喧嘩しても家族だから、両親と妹そしてシロと一緒にいたい」、「大人になったらきれいなおねえさんと付き合いたい」と、回帰逆行のソレとは違った『未来へ邁進する』純粋な発言をするのであった。

ケンはしんのすけを無視してボタンを押そうとするも、これまで東京タワー内で監視カメラを通じて、夕焼けのハリボテの町で、未来を守るため健闘していた様子に心打たれたのか、なつかしさのパロメーターは著しく下がっていた。
たとえボタンを押したとしても、対した効果が発揮できず不発に終わることを察知したそこで、ひろし・みさえ・ひまわりが集まってくるのだが、ケンは「未来を返す」と言った後、チャコと共に高所からの飛び降り自殺を図ろうとする。

しかし、しんのすけの「ずるいぞ!」の大声により驚いた鳥が二人に目掛けて飛び、しりもちをついたチャコは本心である「死にたくない」と述べ、事は未遂に終わるのであった。ケンは「二度も家族に邪魔された」らしいが、これは自殺未遂を一度は行っていたということだろうか? 昭和に拘っていた思想と関係しているかもしれないが、特に何も語られていないため、不明。

しんのすけは二人の行動を理解しておらず、皮肉にも成人の儀式であるバンジージャンプをしようとしていたと思っている。「ずるいぞ!」の発言は、このまま逃げるような形で死亡することを咎めたものではなく、単純に「楽しいことを独り占めすること」に、ずるいと述べただけである。

物語終盤、万博に幽閉された人々は洗脳から解放されたのか、それぞれが各々帰路につき、平和な日常を取り戻すことになる。
かくして、未来は守られたのであった。


【余談】


平成の時代が終わり令和となった昨今、子供から大人になった自分としてはかなり感慨深い作品である。
『ミュウツーの逆襲 レボリューション』のように(CGアニメーションではなく絵の方が良かったとの不満点はあるものの)、基本的に双方の作品は「今の子供達に向けて」発表されたモノであり、オトナ帝国は三丁目の夕日(個人的に薄っぺらく、懐かしむ感情を想起させるための映画でありメッセージ性皆無なので好きではない)とは真逆といっても過言ではない。
というかニンテンドーは、ポケットモンスター・スマブラ・どうぶつの森シリーズなどのように、基本的に今の時代の子供向け作品であるものの、大人の購入を視野に作品を作るのが非常にうまい。さすが、花札販売の老舗やでぇ……。

懐かしさもとい、童心に帰ることは決して悪いことではないが、何事においてもそうであるが度が過ぎる振舞いは危険である。でもついつい童心に帰り、ねるねるねるねやお寿司屋さんなどの食玩とかを定期的に購入しちゃうけどね。

このブログは「懐かしいネタ」を主題にし、今回の記事内容の記載文とは矛盾点があるものの、昭和や若い頃なるノスタルジーに回帰しようとしている姿は、過去の例を持ち出しつつもソレが未来に繋がらないモノは単なる欠陥品。過去の栄華たる虚飾にしがみついている姿は滑稽でしかなく、単純なマウント取りのようにしか思えない。
結論として「過去が良かった」は今の時代の流れに適応できず、楽しむ余裕といった武器をなくし白旗誓言している敗北者のようにしか、感じられない。
今回は、未来につながることを期待して、『オトナ帝国の逆襲』を紹介させてもらいました。

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