2020年04月08日
ミスミソウ
鬱くしくも儚い漫画、ミスミソウ
『ミスミソウ』とは、押切蓮介により執筆された漫画。キャッチフレーズは「精神破壊(メンチサイド)ホラー」。
漫画の舞台となる場所はゲーセンをはじめとした娯楽のない過疎化した雪深い田舎町で、主人公「野咲春花」が父親の転勤に伴い転校することになる。転入当初、容姿共に美しかった彼女はすぐさまクラスのリーダー格である、美容師を夢見る小黒妙子と良好な関係を築いていたが、とある些細な出来事がきっかけで、春花を目の敵にして周囲のクラスメイトを煽動させ、酷いイジメに発展いき、放火事件でほとんどの家族を失う事になる。
春花は当初、「いじめられてまで学校に行くものではない」と、転校前イジメを受けていた妹の件もあって心配していたのだが、彼女は「卒業までもうすぐだから」と、心配させまいと気丈に振舞っていた。
イジメが過激化するにつれて、写真撮影が趣味である相場晄と交流を重ね、彼を頼りにしていく。本作のタイトルであるミスミソウだが、本作舞台である深い雪の中でも懸命に咲き、花言葉である「はにかみや」が相場いわく、春花にピッタリと言われ、その言葉にはにかむ彼女であるが……。
【大まかな流れ】
主人公であり、家族を放火により殺されたことを発端に復讐を開始する。
彼女は佐山流美(実質単独実行犯)の「人間バーべーキュー」の一言で、恐らく、放火事件にクラスメイトが関与していることに勘付いたものと思われる。
放火事件前、父親が学校にイジメの件について直訴を行うも、担任の先生は「もうすぐ卒業だから事を荒げないでください」とかなり冷たい対応が行われているだけでなく、春花の父親を廊下で上履きにつけた画鋲で蹴り飛ばすなど、異常な状況に直面する。
この件をキッカケに父親の説得により、春花は登校拒否するも、春花より前に小黒をはじめにしたクラスメイトにイジメを受けていた流美が、彼女が再登校するよう家に訪問。流美は「あなたが来ないと自分がイジメられる」と訴えるのだが、春花は応じることはなく、翌日学校で小黒により、長かった髪の毛をざんばらに切られることになる。流美は帰宅後、小黒ではなく春花に非常に強い逆恨みの感情を抱くことになり、ある意味では流美特有のドス黒い粘着性の矛先となってしまった。
流美の粘着的な性格は春花に向けられる前、クラスの中心的人物である小黒にも向けられていた。その執着心は度を越えたものであり、小黒の映った写真を所持しているだけでなく、どこか崇拝していたような様子さえ見せているが、小黒本人は相場と共に流美の存在を非常に嫌っている。
春花が復讐心を抱く根底になった事件前、流美はこれ以上イジメられたくないのか、「春花の家を放火する」との宣言を小黒にしているが、小黒は必死な流美に取り合わず「頑張って。応援しているから」と適当な態度で応じ、崇拝する彼女に期待を持たれたと勘違いした流美は本当に春花の自宅にガソリンを撒いて放火することになる。
しかし、放火してしまう事態になってしまったが、流美は本気で決行するつもりはなく、彼女の本当の目的は「放火」を建前にしているが、本音では「脅し(春花が学校に戻りイジメの標的から外れる)」が、本音だったのではないかと推測される。これは小黒により応援された地、一目置かれていると思い、自分がこれほどの凶行を実行可能といった力の誇示の双方の感情が入り混じっているのではないかと思われる。
一方、春花の母親を殺害した久賀は精神的に追い詰められた流美とは違って、愉快犯としての性質が強い。
春花の自宅に流美をはじめとした、橘吉絵・加藤理佐子・久賀秀利・真宮裕明・池川努らが乗り込んでいるとは知らず、父親から借りたカメラを使って、相場と共に自然の写真撮影を行っていた。春花はこの時点では唯一の味方だと思っていた相場との距離感が縮まり、陰ながら応援してくれている人物がいることに感謝しながらも帰宅することになるのだが、放火に怯え春花の自宅の方向から逃亡して来た加藤と三島に遭遇。春花はそのことを不審に思いながらも、嫌な予感を覚えながら帰宅し、轟轟と燃え上がる家を目撃することになる。
家の中には両親と妹がおり、半狂乱になる春花を押しのけて、果敢にも相場が火災現場に入り、妹を救出する。両親の方は助からなかったが、瀕死の重傷になるほどの大怪我(具体的には全身の皮膚が黒く焼き爛れている)を負いながらも、辛うじて生存している状態であった。
放火事件後、妹の祥子は病院に。春花は祖父の家に。
春花は毎日、意識の目覚めない全身に包帯を巻かれた――助かったとしても、今後の生活に確実に支障が出るであろう、妹の回復を願って頻繁に見舞いに行くことになる。
その内、春花にとってはイジメが続く過酷な環境に戻り、そこで通り過ぎ様、流美から作中一番の問題発言である、
「バーベキューの焼き加減はどうだった」
と、悪意たっぷりの発言を受けることになる。
その瞬間、春花の表情が豹変し、自分が優位な立場であり脅かす存在なぞいないと横柄に振舞っていたのだが、その表情は流美が思わず怯え、恐怖心を抱かせるほど。流美は即座に(計画の首謀者であるためか)、春花が犯人に気付いていると思い、復讐の対象になることを察知。
流美は放火事件の発端となった小黒に「助けて欲しい」との連絡を入れるが、「そんなことは知ったこっちゃない」と突き放した言動をしつつも、内心では転入当初、良好な仲を築いていた春花を相場に取られたくない些細な嫉妬心でイジメを煽動してしまったこと、そうして流美の「放火」を本気にせず、彼女の家族を殺める要因になってしまったことを悔いていた。
橘・加藤・三島の火災事件の関係者は自己保身か、それとも家族が燃え上がる様子に優越感を抱いたのか、それとも両方なのか、再登校をはじめた春花を校舎裏のゴミ捨て場に突き落としてガソリンを手に、彼女にここで自殺するよう灯油をぶちまける。
その際、橘は春花の家族が死ぬ様子を仄暗い興奮と共に語るが、その内容は人格破綻者そのもの。春花の大事な家族の死んでいく様子が「滑稽だった」と述べたことがキッカケとなり、彼女は本格的に復讐者として覚醒していくことになる。眼球に鋭利なものを突き刺す、鉄パイプで滅多打ちなどの因果応報自業自得による報復を連中に受ける中、加藤は「やったのは久賀」と命乞いによる情報提供するも容赦なく殺され、ゴミ捨て場にあった冷蔵庫の中に三人纏めて押し込まれ、証拠隠滅される。
次いで、復讐の対象の久賀は学校からの下校途中、ナイフを片手に襲い掛かってくる春花と遭遇することになる。春花は久賀の口を包丁で切り裂き、助けを呼ぶ声を封じた。結果的に春花は久賀を直接に仕留めることはできなかったが、追い詰めてくる彼女から逃亡すべく山中に入ったのは良いものの、『冷静な状態ではなかった・深い雪が災い』して、井戸の中に落ちることになる。春花は自力では脱出不可能なその井戸の中まで追い詰めることはなく、一命をとりとめたと勘違いした久賀であるが、そこは通常、人が立ち寄らない場所であり、声が出せない状況も合わさって、餓死。
久賀の春花に対する態度は、流美ほどではないにしろ小黒を慕い、髪まで染めてもらっていたが(小黒からすれば気まぐれ)、春花が転校してきてから優しかった小黒が変わっていく様子を春花に責任転嫁していた。
久賀の失踪に伴い放火事件に加わっていた真宮と池川は、いち早く春花の仕業だと気付き、彼女を抹殺することにする。
池川は真宮に改造したボウガンなどを貸し与え、春花を追い詰めるも彼女を狙ったボウガンが真宮の脳にあたりに当たり、中身が露出。真宮は春花に劣情の感情を抱きながら、イジメられる前からその美しさによる影響が周囲に対して毒であると認識しながらも、相場と仲良くなっていく様子に嫉妬していた。頭の中身が溢れた影響で池川を春花だと誤認し、彼の行動を阻害する。
池川は春花の手によってナイフで刺され、奪われたボウガンで背中を刺される。凍った池に逃げたものの、池の表面が体重により割れて、溺死する結果になった。
物語終盤、春花は小黒と出会うことになる。小黒は日々重責のように募っていく罪悪感と共にろくに学校に行っていなかったが、ある日、外出したところ春花と遭遇。春花は小黒が明確な復讐対象と未判明であるがゆえ報復の対象としなかったのか不明だが、久賀のようにいきなり襲い掛かることなく、落ち着いて話をすることになる。
その会話の中で転入してから両者の仲が良好であったこと、春花にあこがれていたことなどを述べ、小黒は心からの謝罪をした。その気持ちが伝わったのか、春花は小黒には復讐行為はしなかったが、二人が別れた直後、流美が小黒の前に出現。
流美は包丁を所持しており、小黒の夢であった美容師の夢を断つように指の数本を切断する。死闘の中、「キャ!って言った! あの小黒がキャっていった!」と喜ぶ流美に、小黒は「久賀もあんたも腰巾着で気持ち悪い!」と徹底的に拒絶と嫌悪感をあらわにした言葉を向け、素手の状態で健闘したものの、腹を刺されて死亡。死体は降り積もる雪に隠れる形で数日間、発見されることはなかったが、幸いなのは道路の真ん中で倒れ伏したことから、これ以上、肉体が傷つくことはなかった点であろう。
物語終盤、行方不明者多数の春花のクラスに大勢の子供達の両親が詰め寄ることになる。その親も子供と同等(もしくは橘などの異常性を持った人間を産み出した点においてはそれ以上かもしれない)の存在であり、モンペやアル中などの親がいる。
行方不明者が多く出たクラスの担当教師である南京子は、感情的に振舞う親たちに、過去この学校出身でいじめられていた過去を暴かれ、狂乱することになる。事なかれ主義の友達先生だった彼女であるが、南としての目的はどのような形であれ、この学校を『卒業』することによって、過去の自分に折り合いをつけて新しい人生をスタートさせることが目的であった。
しかしその望みが絶たれるだけでなく、思い出したくもない過去が公然に暴露され、狂乱状態になった彼女は詰め寄った保護者の目を潰し、学校から逃亡。地面に倒れ伏したところで、除雪車に轢かれ、無残な死体となった。
小黒を殺した流美は春花の妹がいる病院に、ガソリンを片手に侵入。流美は春花の容姿を「気持ち悪い」といいながら、病室にガソリンを撒き、春花が来るまで待機。
彼女が現れた瞬間、まるで全ての責任を転嫁させるように「死んで詫びろ!」と罵倒。だがその時、意識があるのか不明だが、重体状態であった妹が起き上がり、流美を指さすなどの行動を起こした。妹の容態急変に人が集まってくることを悟った流美はすかさず逃亡。
その後、雪山で春花に放火の真相を話すも、とある事情によって相場と敵対することになった春花の攻撃の肉盾となり、死亡した。
上記で、相場と敵対することになると述べた相場であるが、彼はこの作中において、流美に次ぐほどの異常人物である。
そもそも彼は母元から離れて祖母の元である舞台で暮らしているのだが、それにはとある事情があった。
相場の元々の家庭環境は母親が父親からDVを受けることで夫婦仲を繋ぎ止めていたが、母親が虐待されている状況に耐えきれなくなった相場が、父親をカッターで切りつけ、離婚のキッカケとなった。息子としては母親を、暴力を振るう父親から守ったのだが、母親から出された言葉は彼が予想していたものとは正反対なものであり、暴力面は父親から、精神の歪みは母親から受け継ぐことになる。祖母の元へ預けられるまでの間、母親に幾度となく暴力を繰り返しており、いびつな精神面がより強固なものになっていった。
自分の手には負えないと判断した母親は祖母の元(故郷)へ預けるのだが、相場に対する態度はたとえ電話越しであったとしても、恐怖をあらわにして接しないほど。
相当歪んだ精神を有した相場であるが、その本性は小黒から見抜かれており、流美以上に嫌っていたかもしれない。
母親から引き離された彼であるが、その精神面が矯正されることなどなく、祖母にまで暴力を振るうだけでなく、「一緒に東京で暮らそう」と提案した相場の提案を拒否し、「おじいちゃんと暮らす」と述べた春花に、彼女の祖父と話し合いをすると言いながら、実際行われたのは一方的な暴力で、老体を病院送りにしたほどである。相場のこうした精神的な歪みは、自分自身から離れられないか弱い存在にのみ発揮され、共依存の関係を望んでいるものだと思われる。
しかし、相場の上記の悪行はまだ優しいもので、春花のイジメ行為に加担することなどなかったものの、吐き気を催す邪悪として筆頭に挙げられる悪行は、火災現場に乗り込み妹を救ったときにある。
表面上、相場の行動は果敢だと思わしきものであるが、裏面にあるのは春花の妹を庇うように身を挺して守る父親の様子を写真撮影していた点である。しかも写真は一、二枚程度ではなく、激写さえされていたのだ。
流美との一戦でカバンの中身が暴かれ、その写真を目撃した春花は復讐者として更に感情を募らせ、彼女は偶発的に拾った真宮のボウガンを拾い、弱った春花を被写体にしようとしていたカメラごと頭部を矢で貫かれた。
全ての復讐を終えた春花であるが、既に彼女は満身創痍の状態である。
作中では明確に描写されていないが、春花は深い雪山で死亡したものだと思われる。
ミスミソウの完全版の上下巻の最後では、春花の祖父が墓参りに新幹線で訪れるのであるが、すべての家族を失ったといっても過言ではない祖父は懺悔の言葉を口にする。その時、目の前の相席に幻影か幽霊なのか、春花が現れるなど、多少、救いのあるエンドになっている。
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