2012年09月06日
十三月の翼・22(天使のしっぽ・二次創作作品)
木曜日。隔週掲載、2001年・2003年製作アニメ、「天使のしっぽ」の二次創作掲載の日です。(当作品の事を良く知りたい方はリンクのWikiへ)。
ヤンデレ、厨二病、メアリー・スー注意
イラスト提供=M/Y/D/S動物のイラスト集。転載不可。
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カナカナカナカナカナ・・・ カナカナカナカナカナ・・・
真っ赤な世界に、蝉の声が溢れていた。
そこは、老舗旅館つるやの裏山。
夏の夕暮れ。昼間、地面をジリジリと炙っていた日差しはとうに消え、今は代わりに真っ赤な夕焼けが辺りを染め上げていた。
朱い、朱い、朱い夕暮れ。
山を覆う林の中では、沢山のヒグラシが鳴き交わし、今日という日の終わりを惜しんでいた。
―と、その蝉達の合唱の中に一律混じる、異質な音色。
♪〜♪♪♪〜♪〜♪♪♪〜♪〜♪♪〜♪♪〜
寂しげに響くヒグラシの声の中、尚静やかに流れるそれは、何処からともなく聞こえるハーモニカの音。
見れば、朱一色に染まった山の麓、木々の開けた丘にポツンと座る人影が一つ。
一人でいるには、あまりにも寂しい時と場所。そこで、睦悟郎はハーモニカを吹いていた。
♪〜♪♪♪〜♪♪♪♪〜♪♪♪♪〜♪♪〜
誰に聞かせるでもなく。己が心を癒すでもなく。悟郎はただ吹き続ける。
―と、薄く閉じられたその瞳に浮かぶ、一滴の雫。
やがて、それはまなじりからこぼれ、頬を伝って地へと落ちる。
ポタリ
落ちたそれは、ほんの一時地面に跡を残し、消えていく。
ポタリ ポタリ
後から後から、溢れてはこぼれる雫。
それを拭う事もなく、睦悟郎はハーモニカを吹き続ける。
いつまでも。いつまでも。
雫が流れるままに、吹き続ける。
夏の夕暮れ、朱く染まった世界の中に、優しく、そして寂しく、ハーモニカの音は流れ続けた。
いつまでもいつまでも、流れ続けた。
―帰路―
「うー、ミドリねえたん、もっとみぎだおー!!」
「み、右れすかー?」
「ちがうおー!!そっちらないおー!!」
「え、ええー、だって、右に行ってるれすよー?」
ここは睦家の一室。皆が集まったその中心で、ミドリに肩車されたルルが何やら必死に手を伸ばしていた。
「ミドリねえたん、ちがうってばー!!」
「で、でもー!!?」
「る、ルルちゃん・・・」
完全にパニックに陥っている二人に、ランが助け舟を出す。
「右はお箸を持つ方でしょう。そっちはお茶碗の方。左よ。」
「え?」
「ふえ?」
ミドリにまたがり、ルルが必死に手を伸ばしていたのは、壁に吊り下げられた、日めくりカレンダー。
今のページをめくれば、その下には皆が待ち望んだ、待望の日が待っているのだ。
「ほら、ルル、そっちそっち。」
「ミドリ、もっと左!!」
「もーちょい、もーちょい!!」
「うーん・・・」
ルルの手が、ついにカレンダーにかかる。
ビリィッ
高らかな音とともに破り取られる、カレンダーのページ。
出てきた数字には、赤いマーカーで書かれた大きな花まると「ごしゅじんさま」の文字。
「――――――ッ!!」×11
皆の顔が、感極まった様に紅潮する。
「ごしゅじんたまが・・・」
「帰ってくるーーーーっ!!」×11
喜びの唱和が、アパート全体を震わせた。
「ふんふんふんふーん」
室内に聞こえる、楽しげな鼻歌。
ミカが化粧台に座り、念入りに顔の手入れをしている。
「ミカ姉ちゃん、いつまでやってるのさー。早く行こうよ!!」
「そうだおー!!」
ナナとルルが急かすが、ミカは化粧台から動かない。
「んー、もうちょっと待ってー。一週間ぶりの、ご主人様との再会なんだもの。もっとちゃんとお化粧しなくっちゃ。」
「まったく、緊張感がないですわね。」
そう言って、アユミが溜息をつく。
「ご主人様が戻っていらっしゃると言う事は、悪魔(あの娘)との対決が迫っているということです。もっと気を引き締めないといけませんのに・・・」
ぶつぶつ言いながら「ねえ、ランちゃん。」と振り向けば、そこには真剣な顔で姿見を覗き込みながら髪をといているランの姿。
「・・・・・・。」
「あ、アユミさん。何か言いましたか?」
「・・・いえ・・・何でもありません・・・。」
ピクピクする米神を押さえながら、頭痛薬でも飲んでおこうなどと思うアユミだった。
ガタン ゴトン ガタン ゴトン
揺れる列車の中、睦悟郎はジッと窓の外を見ていた。
視界の端から端へと流れていくそれは、次々とその姿を変えていく。
いつしか故郷の山野の多い風景は消えて、人間の手が造りあげた町々の風景へと変わっていた。
そして、それが見覚えのある町並みの中へと入った時―
「――!!」
不意に背中に走る悪寒。
それが自分に向けられる視線によるものだと気付いた時、悟郎は口を引き結び、その目を伏せた。
やがて、プラットホームに入った列車は次第にその動きを緩め、重い音を立てて停車した。
プシュー
そんな音を立てて、列車のドアが開く。
降りた悟郎の目に飛び込んできたのは―
「おっかえりなさ〜い!!ダ〜リ〜ン!!」
そんな声とともに両手を広げて突進してくる、ミカの姿。
しかし―
「パパー!!」
「ンギュッ!?」
ナナが跳び箱の要領でミカの頭を飛び越えてくる。体勢を崩したその上をさらに―
「ちゃ〜ん!!」
「ふぎゃあ!?」
ルルが飛び越え、その後を―
「お父さ〜ん!!」
「んぎゃ!!」
「お兄さーん!!」
「げふぅ!!」
「兄ちゃ〜んれす!!」
「ぐげぇ!!」
「せんせ〜いなの〜!!」
「みぎゃあ!!」
「キャプテ〜ン!!」
「ぐべぇっ!!」
後続のメンバーが次々に踏んで行く。
そして―
「んぎゅうぁあああああ〜〜〜〜〜!!」
最後に、アユミがこれでもかと言うくらいゆっくりと踏んでいった。
「ア・・・アユミィイィイイ・・・あぁんたぁああああ〜〜〜〜!!」
「あ〜ら。そこにいましたの?ミカちゃん。ぜ〜んぜん気がつきませんでしたわ〜。」
そう言ってアユミは「おほほほほ」と高らかに笑うのだった。
「おかえりなさ〜い。パパ〜。」
「はいはい。ただいまナナ。」
「あ〜、ずるいお。ルルたんもルルたんも〜。」
「はいはい。ルルもおいで。」
そう言って、悟郎はナナとルルを抱き上げる。
「お変わりありませんでしたか?あなた。」
「お疲れになったでしょう?旦那様。」
「ねぇダーリン。家に帰ったらどうする?ご飯?お風呂?それともミ・カ?」
「どさくさに紛れて何言ってるんですか!!」
皆に揉みくちゃにされながら微笑む悟郎。
と、その目に皆の輪から少し引いた場所にいるアカネが止まる。
「・・・アカネ。」
「え?あ、な、何!?アニキ?」
急にかけられた声に、驚くアカネ。
そんなアカネに向かって、悟郎は笑いかける。
「ううん。ただいま。」
「―!!う、うん!!お帰り!!」
そしてアカネは、ここ数日の中で初めて、心からの微笑みを浮かべた。
「さあ、それじゃ皆、帰りましょー!!」
「はーい!!」×11
タマミの声に、皆が応える。
ゾロゾロと歩き出す、12人。
周りの好奇の目が少々痛いが、そんな事は問題ではない。
一週間の間、遠ざかっていた幸せに、その場の皆が酔いしれていた。
駅を出た時、もう日は大きく傾いていた。
辺りを染める夕焼けの中を、皆はワイワイと進む。
駅周辺の界隈を抜け、商店街を歩き、アパートの近隣に近づく頃には、辺りはとっぷりと夜の闇の中に沈み、人気も途切れがちになっていた。。
―と、一行がいつもルル達が遊んでいる公園に差し掛かったとき、悟郎がふとその歩みを止めた。
「どうしました?ご主人様。」
ランが訊くと、悟郎はしばし考え込む様に沈黙し、クルリと振り向いて皆に言った。
「皆、公園(ここ)で少し、話をしないか?」
「――!!」
その言葉に、アカネはピクリと眉根を震わせる。
「お話・・・ですか?」
アユミが困った様に言う。
「家に帰ってからではいけませんか?今の状況下では、外は少し危ないかと・・・。」
そんなアユミに、悟郎は寂しげに微笑んで返した。
「その“事”だよ。話っていうのは・・・。」
「―――!!」
その場の皆が、息を呑む。
悟郎は、黙って公園の外灯を見上げる。
ジジ・・・ジッ
外灯に止まっていた蝉が、壊れた様な声で鳴いて、ポトリ、と落ちた。
続く
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