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2013年09月15日

十三月の翼・41(天使のしっぽ・二次創作作品)







 はい。みなさん、お待たせしました。。
 「天使のしっぽ」二次創作、「十三月の翼」54話掲載です。
 例によってヤンデレ、厨二病、メアリー・スー注意。


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 閻魔斑猫の萬部屋


イラスト提供=M/Y/D/S動物のイラスト集。転載不可。

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 ―あらゆる存在には対がある。
 この世に存在する万象、万物すべからくにはそれに対となる面が存在し、それ各々が反し合い、釣り合うことによってこの世界は保たれる。
 其は、一つの大きな天秤のようなもの。
 その安定をもたらすは、左右の錘の均衡。
 もしどちらかが失われれば、それは容易に崩れ落ち、無へと帰る。
 夜に落ちなければ昼はない。
 闇なくして光の持ちうる意味はない。
 善は悪と。
 天は地と
 そして、天使は悪魔と。
 “全て”は“全て”と釣り合って、“全て”を織り成す。
 ―けど。
 けれど。
 それなら。
 それならば。
 ”神”は。
 神と呼ばれる存在は?
 其に対するものは?
 其は特例?
 其は例外?
 否。
 神もまた、世界の一部。
 紛う事なき、世界の一部。
 ならば。
 ならば。
 対はある。
 違う事なく。
 そこに。
 ―対は、あるのだ― 


                            
                       ―魔王―



 「こくようの・・・バアル・・・?」
 皆の中の誰かが呟く。
 呆然と。
 呆気にとられて。
 「魔王って・・・ハハ・・・何それ?どこのゲームの話・・・」
 そう言って、誰かが笑った。
 消え入る様に。
 力なく。
 隠す事の出来ないを怯えを、隠そうとする様に。
 だけど。
 「ゲームなんかじゃない・・・」
 その行為は徒労に終わる。
 この場でただ一人。
 ”かの側”の存在。
 一人の、少女の言葉によって。
 「・・・あいつは魔王。魔の神の王。その一柱・・・。」
 綴る彼女の、言葉も震える。
 畏怖か。
 恐怖か。
 それとも怨嗟か。
 その瞳を。
 それまで、天使(彼女)達を震わせた赤い瞳を。
 今度は己が揺らめかせ。
 震える言葉で、彼女は綴る。
 「違う事なき、”神”の反存在・・・」
 「・・・・・・」
 澱の様に落ちる沈黙。
 その場の誰もが、次に紡ぐべき言を失う。
 『―紹介有難う。トウハ―』
 沈黙の中で、声が響く。
 水底(みなぞこ)で、汚泥が泡立つ様に。
 声が響く。
 『―今、その娘が言った事が全て。変える事叶わぬ、事実だよ―』
 そして、”それ”は嗤う。
 何が愉しいのか。
 何が嬉しいのか。
 ”それ”は嗤う。
 禍禍禍、禍禍禍、と虚ろな声で。
 ”それ”は、嗤う。
 その嗤いに、大気が怯える様に震える。
 大地は、竦む様に霜立つ。
 周囲の温度は、身に感じて冷えていく。
 かの世界の空気はもう、閉ざされている筈なのに。
 それでも“それ”が在るだけで。
 それでも“それ”が嗤うだけで。
 世界は苦痛の呻きを上げる。
 蝕まれる悲鳴を上げる。
 禍禍、禍禍と嗤う声。
 耳に痛く。
 そして甘く。
 響き渡る嬌声。
 せめてそれを聞くまいと。
 せめて内の熱を逃がすまいと。
 その場にいる少女達は、己が身をかき抱く。
 抱き合う。
 しがみつく。
 けれど、そんな事には何の意味もなく。
 じわりじわりと。
 冷たい“それ”はその身を犯し行く。
 か弱く震える身体。
 その様を見た”それ”は、なおも愉しそうに嗤う。
 『―そう怯えないでくれたまえ。可憐なる天使達よ。小生には汝らを害する気は、微塵もないのだよ―』
 描かれた紅眼が、グニャリと歪む。
 三日月の様に、グニャリと歪む。
 歪んだそれが、皆を見回す。
 と、その目が止まる。
 紅く濁った視線の先にいるのは、白と黒に彩られた少女。
 その背後で力なく座り込む、一人の青年の姿。
 『―そうそう。もう一方(ひとかた)、ご挨拶をしなければならない方がいたね―』
 ”それ”の意識が悟郎に移った。
 その事に、皆の間に緊張が走る。
 「いかん!!聖者殿を・・・」
 ゴウが、その言葉を言いかけた瞬間―
 ”それ”の姿は、もうトウハと悟郎の間にあった。
 「な!?」
 「何だぁ!!」
 皆が、四聖獣さえもが驚きの声を上げる。
 「何の魔力も・・・波動も感じなかった・・・」
 冷気に震えるルルを抱きしめるユキが、己の身も震わせながら呟く。
 突然目の前に現れた”それ”。
 その姿を、悟郎は呆然と見上げる。
 そんな彼を見下ろす、紅く蛍光する目。
 『―初めまして。睦悟郎氏。いや、ここは”聖者殿”とお呼びした方が良いのかな?―』
 そう言って、恭しく頭(こうべ)を垂れる。
 「あ・・・あ・・・」
 己を見つめる紅眼。その重圧に、悟郎は為す術なく、ただ硬直する。
 『―成程。これはこれは。確かにその呼称にふさわしい、純に澄み切った魂。世が世なら、世界中の妖魅悪鬼がそれを欲する所だろう―』
 まるで珍奇な動物を見るような目で悟郎を見つめながら、”それ”は面白そうに彼に向かって手を伸ばす。
 この世の闇を全て凝縮した様な虚無色のそれが、ゆっくりと悟郎に迫る。
 対する悟郎は動かない。
 動けない。
 ただ竦んだまま、目の前の虚無を見つめる。
 そして、その爪先が触れようとしたその時―
 「「「ご主人様!!」」」
 『―おや?―』
 ”それ”が、少し驚いた様に手を引く。
 ラン、ミカ、アカネ。
 悟郎の間近にいた三人が、彼を守る様に抱き包んでいた。
 「ご主人様に、触らないで!!」
 その内に変えようのない怯えを抱えながら、それでも燃えるような目でランが”それ”を見つめる。
 そして、それは他の二人も同じ。
 その視線を受けて、しかし”それ”はなおも愉しげに嗤う。

 『―禍禍禍、今ここに至って、なお畏れを想いが上回るか。流石と言おうか・・・?―』
 描かれた目が、キョロリと後ろを見る。
 ・・・それの首筋の辺りに、鈍く光る黒剣が突きつけられていた。
 『―おやおや・・・―』
 瞳だけで後ろを見ながら、”それ”は感心した様に目を細めた。
 ”それ”の首筋に突きつけられる黒剣。
 その主―トウハは、その朱い瞳を爛々と輝かせながら牙をむく。
 「・・・ご主人様から離れろ・・・!!」
 先刻までの衰弱具合が嘘の様な、鬼気迫る気配。
 もはや殺気とも言えるそれを真後ろに感じながら、”それ”は酷く愉しげに言う。
 『―その剣、メガミの障壁で砕けたのではなかったかな。ああ成程、魔力を使って再製したか。無茶をする。汝に残されたものは、もう幾らもないと言うのに―』
 途端―
 ギュルンッ
 ”それ”の頭が、180度回ってトウハを向く。
 「――!!」
 驚いた彼女の腕を、あるべき関節を無視して曲がった虚無色の手が掴んだ。
 『―あまり無理をするのは感心しない―』
 その目を歪に歪ませながら、”それ”は愛しむ様にトウハに顔を寄せる。
 『―折角ここまで主演を演じた”劇”なのだ。どうせなら、最後まで演じておくれ―』
 「――っ!!五月蝿い!!わたしはアンタの為にやってた訳じゃない!!」
 トウハは腕を掴む手を振りほどこうとするが、それは彼女の力をもってしてもビクともしない。
 ―その手には、力など微塵も込められてはいないのに―
 『―禍禍禍。まぁ、その向こう見ずな所も”劇”の主役(ヒロイン)として相応しくはあるのだが―』
 と、”それ”がそこまで言った時、
 「・・・劇・・・?」
 『―うん?―』 
 不意に響いた声に、”それ”がグルンと頭を戻す。
 戻した視線の先にいたのは、悟郎の傍らでこちらを見つめるアカネの姿。
 「”劇”って・・・何だ・・・?」
 紅い描眼が、アカネを見つめる。
 途端、その身を襲う例え様もない悪寒。
 たちまち全身が泡立ち、冷たい汗が肌を濡らす。
 けれど、彼女の口は言葉を紡ぐ事をやめない。
 その細い肩を震わせ、カラカラになった喉を戦慄かせながら問いかける。
 「答えろ!!”劇”ってどういう事だ!?」
 『―これはこれは。よもや天使(汝ら)の方からお声がけをいただくとは思わなかった―』
 必死の思いで絞り出した言葉は、”それ”のせせら笑いによって受け止められる。
 『―そう言えば、汝は今回の”劇”に随分と華を添えてくれたね。おかげで”劇”が実に結構なものになった。礼を言おう―』
 そう言うと、”それ”はアカネに向かって微笑む。
 白い仮面にペンティングされた目が歪に歪み、紅い三日月を描く。
 「そ・・・そんな事、どうでもいい!!・・・質問に・・・」
 『―言葉の通りさ―』
 アカネの言葉を先どる様に、”それ”が言った。
 『―今回の出来事(これ)はね、歌劇なのだよ―』
 「歌・・・劇・・・?」
 『―そう。妙なる樂を奏でる、愉快な愉快な劇さ―』
 紅い描眼をクルリクルリと蠢めかせながら、それは愉しげに話す。
 酷く、酷く、愉しげに。
 『―“向こう”の世界は安寧だが、どうにも退屈でね。たまに余興が欲しくなる。暇潰しの術は多々あるが、特にごくまれに手に入るトウハ(彼女)の様な存在は最高の素材なのだよ―』
 「何を・・・言って・・・」
 『―愉快だとは思わないかな?純白無垢な魂という、世でもっとも美しく愛らしい存在が、己の想いのために、傷つき、歪み、堕ちていく。全く、これ以上に愉快な余興が他にあるかね―』
 そう言って、”それ”はまた禍禍禍と嗤う。
 アカネは、否、場にいる皆が絶句する。
 「・・・貴方は・・・」
 皆が言葉を失う中、ユキが絞り出す様に声を出す。 
 「余興だと言うのですか・・・?今回の事を・・・無辜の者が何人も傷ついたこの凶事を、余興だと・・・?」
 『―余興さ―』
 声に嗤いを含んだまま、”それ”は言う。
 紅い瞳を糸の様に細め。
 虚無色の手を広げながら。
 愛しげに。
 愛しげに言い放つ。 

 『―世に存在せし数多の魂。それが放つ千差の想いと万別の叫び。これすべからく愉しき享楽。人、動物。天使、悪魔。万物その内に秘めたる妙味。香しきかな、妙なる美酒。これに勝るは、森羅万象、無きに等しき―』

 クワンクワンと響く、虚無色の歌。
 其を歌いながら、”それ”は嗤う。
 禍禍禍、禍禍禍と禍(まが)しく嗤う。
 その禍笑が響く中、場にいる皆は呆然と。
 ただ呆然と。
 否定しか出来ず。
 けれど、否定する術もなく。
 ただ。
 ただ。
 呆然と、目の前に立つ虚無を見つめる。
 と―
 「ふざけるな!!」
 鋭い叫びが、それに呑まれかけた皆の意識に響いた。


 全ての視線が、その声の元へと集まる。
 その先で揺らめくのは、夜闇の中で輝く黄金(こがね)の髪。
 「アカネ・・・?」
 声の主の名を知る者達が、思わずそれを呟く。
 澱の様に立ち込める妖気。
 それを振り払う様に立った彼女は、眼前の”それ”をしかと見つめる。
 「・・・余興!?・・・享楽!?そんな事の為に、そんな事の為に皆は傷ついたって言うのか!?」
 怒る犬狼の様に牙を向きながら、アカネは吠える。
 「皆・・・皆一生懸命だったんだ!!自分の想いを・・・大事なものを守るために・・・必死に・・・必死に戦ってたんだ!!皆も、ご主人様も、そして、”その娘”も!!」
 「――!!」
 その言葉に、トウハが驚いた様に目を見開く。
 「それを、ただの歌劇だなんて言わせない!!余興の肴だなんて認めない!!そんな権利、誰にもない!!魔の神!?魔王!?そんなの、知った事か!!アンタが何だとしたって、ここにいる皆の想いを弄ばせやしない!!そんな事、絶対に・・・絶対に許さない!!」
 「アカネちゃん・・・」
 「あんた・・・」
 皆が見つめる中、ハアハアと息をつきながら、アカネは震える両足を踏ん張って”それ”の前に立ちはだかった。
 『―・・・ふむ―』
 そんな彼女を見下ろしながら、”それ”は思案する様に顎に手をそえる。
 『―実に勇敢な娘だ。その”強さ”、はてさて。一体何処から来るものか・・・?―』
 白い仮面がカクリとうつむき、己の前の少女を興味深げに見つめる。
 『―持ち前のものか?それとも、トウハ(彼女)に錬成されて出来たものか?はたまた、その”内”に在るものによるのか?』
 「・・・え?」
 その言葉の意を捉え兼ねるアカネ。
 しかし、そんな彼女には構わず”それ”は思案を続ける。
 そして―
 『―・・・興味深い・・・―』
 ボソリと、独りごちる様に呟かれた言葉。
 それを聞いたトウハの顔が強ばる。
 「――っ、アカネちゃん!!」
 「・・・!?」
 思わず叫んだ言葉。
 それに、アカネが気を取られたその瞬間―
 ゴバァッ
 地を這う様に伸びていた”それ”の黒衣が蠢き、アカネをに襲いかかった。
 「――っ!?」
 突然の事に、誰もが声すらも出せない。
 獲物に巻き付く巨蛇の様に、それはアカネを飲み込んでいく。
 蠢く虚無が視界を覆う寸前、アカネは自分を見下ろす”それ”を見た。
 ・・・嗤っていた。
 白磁の顔に、二つの歪な三日月を浮かべて。
 嬉しそうに。
 愉しそうに。
 まるで、新しい玩具を見つけた子供の様に。
 ”それ”は、嗤っていた。
 『―興味深い―』
 また、声が聞こえた。
 その一瞬の中で、アカネの意識は幾数もの拒絶と絶望を繰り返す。
 けれど、どんなに足掻いても。
 だけど、どんなにもがいても。
 為す術など、ある筈もなくて―
 そして、全てが闇に包まれようとした、その瞬間―

 「へっ!!なかなか良い啖呵切るじゃねぇか!!」

 そんな言葉と共に、白い閃光が蠢く虚無を切り裂いた。
 グワシャアッ
 虚無を祓った神爪が、その勢いのまま地面へと食い込む。
 「キャアッ!?」
 勢い余った衝撃に弾かれたアカネが、尻餅をついて悲鳴を上げる。
 「アカネ!!」
 「アカネちゃん!!」
 慌ててアカネを抱き起こす悟郎達。
 「アカネ、大丈夫かい?」
 「う・・・うん・・・。大丈夫だよ。ご主人様・・・」
 言いながら身を起こすと、アカネは目の前のトウハを見る。 
 彼女は、自分が口走った事に当惑する様に呆然と佇んでいた。
 「トウハ・・・」
 アカネが彼女に向かって語りかけようとした、その時―
 「野郎!!また消えやがった!!」
 そんな声と共に立ち上がった爪の主―ガイが、地団駄を踏む。
 『―やれやれ。折角の知の探求を邪魔するとは―』 
 一方、また何の気配もなく移動した”それ”は、数メートル離れた場所で困った様に腕組みしながら小首を傾げている。
 『―全く、汝は無粋だな。・・・まぁ、先から分かっていた事ではあるが・・・―』
 「うるせぇ!!さっきから聞いてりゃ勝手な事ばかりしゃべくりやがって!!すぐにその口塞いでやるから、そこで大人しく待ってやがれ!!」
 牙を向いて喚き散らすガイ。
 その様を見た”それ”は、大仰に溜息をついて首を振る。
 『―元気が良くて結構な事だ。しかし、血気盛んなのは若者の特権とはいえ、汝の場合は些か粗野に過ぎるな。もっとも、だからこの”劇”には不向きだと踏んだのだが―』
 「余計なお世話だ!!」
 がなるガイに、また何事かを返そうとする“それ”。
 しかし―
 「魔王と言ったか・・・?」
 傍らから聞こえたその声に、”それ”はピタリと言を止めた。
 白い首がキョルンと動いて、その声の主を見る。
 向けた視線の先にいたのは、蒼い神衣に身を包んだ青年。
 ―青龍のゴウ―
 彼は鋭く険しい目で”それ”の視線を受け止めると、凛とした声で問う。
 「つまりは、貴様が今回の凶事の黒幕と言う事か?」
 その言葉に、興味深げに向けられる紅眼。
 途端―
 ザワ・・・
 凍てつく様な妖気が押し寄せ、ゴウの身を包む。
 並の者ならば、それだけで精神を蝕まれてもおかしくはない。
 しかし、それを真正面から受け止めながら、四聖の長はしかとそこに立つ。
 そして、
 「ハァッ!!」
 一閃する気合。
 それとともに放たれた神気が、まとわりつく妖気を一瞬で追い散らした。
 「くだらない真似はよしてもらおうか。時間の無駄だ。」
 そう言って、ゴウは再び視線を”それ”に向ける。
 否。彼だけではない。
 見れば、他の四聖獣達も同じ様に鋭い眼光を”それ”に送っていた。
 その様に、しかし”それ”は嬉しそうに嗤う。
 『―良いね。実に良い。流石は世の動物を束ねる若き神々。その覇気、神威、そして生命力。”あちら”の空気に馴染みきってしまったこの身には、実に新鮮だ―』
 「・・・何かは知らんが、お褒めに預かった様だな。もっとも、礼を言う気にはならんが。」
 にべもなく切って捨てると、ゴウは”それ”を見つめる瞳にさらに険しさを込める。
 「くだらん事をペラペラと喋る暇があったら、質問に答えたらどうだ。化物。」
 それを聞いた”それ”は、苦笑する様に目を細めると、『ふむ。』と言って顎に手を添える。
 『―黒幕、と言うのは正確ではないな―』
 何事かを考える様に宙を見上げた後、呟く様にそう言った。
 「・・・どう言う事だ・・・?」
 再びかけられた問いに、”それ”は顎に手を添えたまま答える。
 『―小生は確かにトウハ(彼女)に力を与えた。だが、それだけだ。後は何の指図もした訳ではない。今回の歌劇は、一から全て、トウハ(彼女)が組み立てたものだよ―』
 「・・・つまり、今回の事は自分の手によるものではないとでも?」
 『―直接役を演じるのは趣味ではなくてね。”投資”はするが、劇そのものは観賞派なのだよ―』
 背後から飛んできたレイの声にも、悪びれる態はない。
 「・・・結構な趣味ですね。悪いですが、話を合わせる気にもなりません・・・。」
 『―おお、それは残念―』
 吐き捨てる様なレイの言葉に、“それ”大仰な素振りで首を振る。
 『―一度闇に堕ちかけた四聖獣(汝ら)なら理解してくれるかとも思ったが・・・。同好の士とは成り得てくれないか。実に残念だ―』
 茶化す様なその言い様に、ガイが怒鳴る。
 「テメェなんぞと一緒にすんじゃねぇ!!この外道が!!」
 しかし、“それ”の飄々とした態度は崩れない。
 『―ふむ。“外道”かね。それははたして小生を形容するに相応しい言葉かな―』
 「あぁ!?」
 『―“外道”、とは“道から外れし者”と言う意味だろう?しかし、この言葉の主観は、あくまで口にする者の主観だ。と言うことは、この場合の“道”はこれを口にする者の理想とする“道”と言う事になる。しかし、理想とは個々の存在によって異なるものだ。例えば、獅子の子殺し等は人間の目から見たら外道の行為そのものだろうが、獅子にとっては正常な社会行動の一環に過ぎない。この様に個々の存在の歩くべき道は違う。それを、無理矢理自分の理想に押し込めて、「道に外れている」等と言うのは全く筋違いと言うものだ―』
 「・・・テメェ、何が言いてぇんだ・・・?」
 『―汝は汝、小生は小生。と言う事さ―』
 「〜〜っ!!なら最初っからそう言いやがれ!!いちいち小難しい屁理屈ばっかりこねくりやがって!!」
 「・・・落ち着きなさい。ガイ。手玉に取られてますよ。」
 ワシャワシャ頭を掻き乱すガイを諭すと、今度はシンが前に出る。
 「どうやら、貴方とは話してもらちが明かない様ですね・・・。」
 『―そうかね。小生は結構愉しんでいるのだが―』
 そう言って、また含み嗤う“それ”を冷ややかな眼差しで見ながら、シンは言う。
 「そうやって愉しむのは結構ですが―」
 言いながら、ボロボロになった守護天使達や、ズタズタになった周囲の惨状を示す。
 「その愉しみとやらの結果が、これです。末端とはいえ、手下(てか)たる者の成した所業。主人として、その責任はとってもらいますよ。」
 『―その言い方も、正しくはないな―』
 しかし、“それ”は平然とそう言い放つ。
 『―小生とトウハ(彼女)に、主従の関係などないよ。例えて言えば、商店の主と客の様なものさ。トウハ(彼女)は望み、小生は与えた。今回の劇は、あくまでトウハ(彼女)自身の原作によるもの。小生は代価としてその劇の一等席をいただいた。それだけの話だよ―』
 「・・・あくまで全ての責を、あの娘に被せるつもりですか・・・?」
 声に浮かぶ、嫌悪の色。
 それを隠す事のないシンに、”それ”は何ら動じる素振りも見せずに首を振る。
 『―手柄の横取り等と言う無粋な真似をしたくないだけだよ。小生はあくまで力(資金)を出しただけ。踏み込んで言った所で、せいぜいスポンサー止まりだ。この魅力的な劇の作者(クリエイター)は間違いなくトウハ(彼女)。後の小生は、ただのしがない一観客に過ぎないのだよ―』
 カタカタと止め処なく紡ぎ出される、どこまで本気かも分からない、捉えどころのない言葉。
 耳障りで、しかし何処か甘いその響きが周囲の空気を染めていく。
 それに、その場にいる皆が目眩すら覚え始めたその時― 
 「ほぉ・・・。ではそのしがない一観客とやらが、何を血迷ってノコノコと舞台にしゃしゃり出て来た?」
 気だるく淀む空気を切り裂く様に、ゴウが再び口を開いた。
 『―そう。そこだ―』
 良い所に気がついてくれたとばかりに、”それ”がゴウを指差す。
 『―これまでの劇は実に良く出来ていた。だからこそ、最後の最後で無粋な横槍が入ってしまった事が残念でね。こうして本来の主義を曲げてまで出しゃばって来たという訳さ―』
 言いながら、”それ”は困った事だと言いたげに額に指を当てる。
 「・・・ほう。それは大義だな・・・。」
 『―全くだよ―』
 互いに皮肉めいた言葉が間を飛び交う。
 そこに込められた意味が、ピシピシと空気を張り詰めさせてゆく。
 『―・・・よって、障害を排除してリテイクの準備を整えたら、小生は速やかに退場するつもりだよ。故に、事を神(汝ら)には些か協力をお願いしたいのだが・・・―』
 「・・・何が言いたい・・・?」
 『―聡明な汝達の事だ。分かっているのではないのかな?―』
 「・・・・・・。」
 『―・・・・・・―』
 しばしの間。
 流れる沈黙。 
 そして、最後の言葉は酷くあっさりと告げられる。

 『―汝達、消えてくれないかね?―』
 
 そう言って、黒陽の魔王は禍禍禍と冷たく。
 酷く、冷たく嗤った。


                                          
                                      続く

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