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2014年02月10日

十三月の翼・44(天使のしっぽ・二次創作作品)







 ども。土斑猫です。
 「天使のしっぽ」二次創作、「十三月の翼」57話掲載です。
 今回も結構書きましたが、生まれ変わったファンブログは余裕で呑み込んでくれます。
 ああ、何て心強い。
 ビバ、リニューアル!!
 と言う訳で、例によってヤンデレ、厨二病、メアリー・スー注意です。


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イラスト提供=M/Y/D/S動物のイラスト集。転載不可。

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 あの人が言った。
 この娘は、決して悪いだけの娘じゃないと。
 どこかに、きっとどこかに、光を持ってる筈と。
 幼い妹が叫んだ。
 こんなのは、本当のこの娘じゃないと。
 無垢な姉が紡いだ。
 この娘は、悪い人じゃないと。
 そして、今自分が見た光景。
 かつて、彼女と番ったこの心。
 それらが告げる。
 それは、証と。
 紛う事なき、証と。
 けど。
 けれど。
 それなら。
 それならば。
 嬲られた姉妹達。
 引き裂かれた光景。
 そして何より。
 傷つけられた、あの人の心。
 それも。
 それもまた、間違いのないもので。
 光。
 闇。
 移ろう月の様に。
 揺らぐ、その姿。
 分からない。
 見るべき姿が分からない。
 思うべき心が分からない。
 分からない・・・。
 分からない・・・。
 知るべき術は、今はない・・・。



                 ―ヲワリガミ―


 青。
 黒。
 朱。
 白。
 四色の光が、辺りを染める。
 満ちゆく神気の中で、かの少女は闇に属するその身を竦ませる様に座り込んでいた。
 「凄い・・・神気・・・。」
 周囲を見回し、アカネが言う。
 「・・・四聖獣達が、バアルを封じようとしてる・・・。」
 呟く様に、トウハも言う。
 細かく震える小さな身体。
 それは、今にも光の中に掻き消えてしまいそうに見えた。
 「・・・辛いのか・・・?」
 「・・・気持ち悪い・・・。」 
 そんな問いに返るのは、呆気ない程に素直な答え。 
 「”きついな・・・。消えちゃいそうだ・・・。」
 本気とも冗談ともとれない声で、トウハは言う。
 「・・・これだけの力を持ってても、四聖獣達は勝てないっていうのか・・・?」
 「聞いてたんじゃ、ないの?」
 アカネの問いに、トウハは薄く笑う。
 「バアルの抱える存在率は桁違い・・・。若い四聖獣(あいつら)じゃあ、四人合わせたって容量が足りない・・・。」
 流れ来る光の奥を、琥珀の瞳が見つめる。
 「封じようとした所で、逆に呑み喰らわれるのがオチ・・・。」
 何かを諦観した様な、抑揚のない声。
 それが、アカネを不安にさせる。
 「・・・それが分かってて、アユミ姉さんを行かせたのか!?」
 「望んだのは、亀姉さまだよ・・・。」
 「好きな人のそんな所・・・!!」
 「最期の瞬間に、その手を握れない事の方がずっと辛い!!」
 「!!」
 叫ぶ様に放たれた言葉。
 それが孕む悲痛さに、アカネは出かけた言を呑む。
 しばしの沈黙。
 見つめ合う、琥珀の瞳と翠の瞳。
 「・・・ってね・・・。」
 先に視線を逸らしたのは、トウハの方。
 「あはは、何言ってんのかな・・・。わたし・・・。」
 流れ来る光の奥を、虚ろな視線が見つめる。
 「まあ、本当は打算もあるけどね・・・。」
 「打算・・・?」
 「そう。打算・・・。」
 「アユミ姉さんには、何も企んでいないって・・・」
 「企んでないよ。”ああ言う”意味じゃね・・・。」
 「・・・どう言う意味だ・・・?」
 「さあ・・・?」
 空ろに言葉を交わし合う二人。
 その前で、流れる光に異変が生じる。
 光の中に、交じる様に流れていた冷気。
 それが、勢いを増してきていた。
 ゆっくりと。
 だけど確実に。
 虚無が、光を喰らい始めていた。
 「・・・始まった・・・。」
 トウハが言う。
 「後は、亀姉さま次第・・・。」
 その言葉を聞きながら、アカネは空を見上げる。
 光を蝕みゆく、昏い色。
 それはまるで、世界を喰らう巨大な魔物の様に思えた。


 ―辺りは、吹き荒れる四色の光風に包まれている。
 その閉じられた極彩の中で、四つの人影と一つの異影が対峙していた。
 「どうだ。完全に”閉じた”ぜ。」
 たてがみの様な金髪をなびかせながら、ガイが得意げに言う。
 「三界に通じる空間を全て閉じました。」
 「これでもう、逃げる事は叶いませんね。」
 それに続く様に、シンとレイも会心の言葉を放つ。
 「後は貴様を封じるだけだ。付き合ってもらうぞ。俺達と共に、世界の終わりまで。」
 凛と言い渡すゴウ。
 しかし、対する”それ”は動かない。
 ただ、白い面に描かれた赤眼が、糸の様に細まっていた。
 気怠そうに。
 酷く、気怠そうに。
 そして―
 『―“終わり”・・・?―』
 不意に声が響いた。
 『―成程、終わりかね・・・?―』
 確かめる様に言う。
 「そうだ。終わりだ。貴様も、そしてこの凶事もな。」
 ゴウが答える。
 『―――――――――――。―――――――――――』
 ・・・妙な間だった。
 酷く間が抜けていて、それでいて、酷く張り詰めた様な空気。
 それは、呼吸の伴わない長い長い溜息の様にも思えた。
 と、
 ズルリ・・・
 虚無色の衣の中から、手がまろび出る。
 やはり虚無色をしたそれは、ゆっくりと上に上がると、大きな毒蜘蛛の様に白い仮面に張り付いた。
 『―終わり・・・。―』
 張り付いた手。
 それの奥。
 奥の。
 奥の。
 そのまた奥から。
 『―終わり・・・おわり・・・オワリ・・・ヲワリ・・・―』
 クワン クワン クワン
 響く声。
 音。
 有機の様で、無機質なそれが、鼓膜を揺らす。
 『―・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・―』
 繰り返す。
 まるで、壊れたスピーカーの様に。
 『―・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・―』
 クワンクワン クワンクワン
 クワンクワン クワンクワン
 響く。
 響く。
 繰り返される。
 崩れた様に。
 壊れた様に。
 狂った様に。
 『―・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・―』
 怨嗟の様に。
 呪詛の様に。
 呪いの様に。
 淡々と。
 延々と。
 返される、同じ響きの、同じ単語。
 『―・・・ヲワリ・・・ヲワリ・・・モウ、ヲワリ・・・―』
 「な・・・何言ってやがる!?ビビって頭のピンでも飛んだのか!?」
 脳漿に響く声に耐えかねた様に、ガイが言う。
 しかし、それに返る言葉はない。
 代わりに―
 カタリ
 乾いた音が鳴る。
 カタリ カタリ カタ カタ カタ
 虚無色の手。
 その奥。
 薄くうつ向いた、白磁の面。
 それが。
 カタカタ カタカタ。
 鳴き響く。
 そして―
 『―・・・ツマラナイ・・・―』
 響く声が変わった。
 『―・・・ツマラナイ・・・ツマラナイ・・・ツマラナイ・・・―』
 象る形を変えた声。
 カタカタ
 カタカタ
 鳴き響く音。
 それと、同時に―
 ゾワリ
 空気が変わった。
 「!!、これは!?」
 シンが、否、全員が周囲を振り仰ぐ。
 ジュワリ・・・
 ジュワリ・・・ジュワリ・・・
 神々しい光に覆われていた空間。
 それに、”穴”が開いていた。
 それは、ただ”それ”と言うにはあまりに昏く。
 ”それ”と言うにはあまりにもおぞましく。
 けれど、やはり”穴”と言うしか表現のしようもないもの。
 否。
 あるいは、それは虚無と呼ばれるものそのものだったのかも知れない。
 そんなものが、四色の光を蝕んでいく。
 喰らって、いく。
 ジュワリ・・・
 ジュワリ・・・
 ジュワリ・・・
 ジュワリ・・・
 ゴウ達の見る前で、それは見る見る数を増していく。
 広がっていく。
 まるで、酸が鋼を侵し溶かす様に。
 まるで、蠱虫が緑の葉を貪る様に。
 「我らの力を束ねて、なお・・・!?」
 レイが、驚愕の声を上げる。
 「ヤベェ!!持たねぇぞ!!」
 「いけません!!早く封印を!!」
 ガイの言葉に、シンが我に帰った様に叫ぶ。
 その声に反応する様に、四獣の姿をした神気が動く。
 グォウッ
 うねる光。
 四体の獣は混じり合い、一つの形を成す。
 それは、金色に輝く巨大な龍。
 眩い光を放ちながら、眼下の魔を飲み下さんと顎(あぎと)を開く。
 ゴウッ
 下り落ちる、金色の光流。
 視界の全てが、光に染まる。
 しかし―

 『―ツ マ ラ ナ イ―』

 ボハァッ
 一面の光が、一瞬で暗転する。
 「な・・・何・・・!?」
 「馬鹿な・・・!?」
 呆然とする四聖獣。
 その彼らの目の前で、金龍だった残滓が舞う。
 カタカタ・・・
 カタカタ・・・
 ダラリと下げられた虚無色の手。
 その上で、耳障りな音が響いていた。
 カタカタ・・・
 カタカタ・・・
 ”それ”の顔を覆う、仮面。
 白痴の様に白いそれが、支えを無くした様に揺れている。
 その下。虚無色の衣の真ん中で、何かが蠢いていた。
 それは、かつて金龍だったものの足。
 しばし断末の足掻きの様にピクピクと動いていたそれは、やがて漆黒の中に溶け消えていった。
 「・・・喰いやがった・・・。」
 忘我の縁で呟かれる言葉。
 しかし、それに答える声はない。
 聞こえるのはただ、カタカタと鳴く仮面の音と、呪詛の様に繰り返される言葉の羅列。
 『―・・・ツマラナイ・・・ツマラナイ・・・ツマラナイ・・・ツマラナイ・・・ツマラナイ・・・ツマラナイ・・・―』
 もう、周囲を覆っていた極彩の光はない。
 あるのは、昏い、昏い、どこまでも昏い、無。
 それがどこまで広がっているのか。
 どこまでを飲み込み、何を喰らったのか。
 それを知る術すら、既にない。
 常人なら、数刻を待たずに気が狂れるであろうその中で、それでも四聖獣達は正気を保っていた。
 しかし、それだけ。
 目の前に立つ絶対的な虚無を前に、もはや彼らはただ佇むしかなかった。
 「・・・おい。何か他に、手ぇあるか?」
 ガイがシンに向かって訊くが、彼は苦笑いするだけ。
 「希望には答えたい所ですが・・・」
 「打ち止めか?」
 「残念ながら。」
 その答えに、レイが溜息をつく。
 「参りましたね。白旗でも上げますか?」
 「それが出来るなら、そうしたい所ですが・・・」
 「そう言う訳にもいくまい。」
 ゴウが言う。
 「こうしている間にも、この星には理から切り離された負荷がかかっている筈。猶予はない。」
 「じゃあ、どうすんだよ!?」
 思わず怒鳴るガイ。
 それが焦燥によるものか、それとも苛立ちによるものかは、もはや彼にも分からない。
 と、その時―
 「・・・効果は、疑わしいですが・・・」
 考え込んでいたシンが、独りごちる様に言った。
 「お?」
 「何か、ありますか?」
 かけられる言葉に、シンは浅く頷く。
 頷き、そして―
 ダンッ
 唐突に、地を蹴った。
 そのまま、”それ”に向かって突進する。
 「な!?」
 「おい!!何を!?」
 「・・・!!特攻する気か!?」
 追ってくる兄弟達の声。
 その中に、自身の考えを察した長兄の言葉を聞き取り、シンは薄く笑む。
 「何ですって!?」
 「馬鹿!!アイツには直接攻撃は効かねぇって・・・」
 「倒すのではない!!”削る”気だ!!」
 ゴウの言葉に、他の二人が目を見開く。
 ―シンの考えはこうだった。
 違う位相に存在する”それ”を、物理攻撃で傷つける事は出来ない。
 しかし、もし強力な副次効果を持つ攻撃を当てる事が出来たなら?
 人の拳は、水を破壊する事は出来ない。
 それは、水という存在が人の拳とは違う位相に存在する故。
 しかし、叩きつけられた拳によって生じた衝撃は、水を散らす事が出来る。
 その存在を散じた水は、その力を減じる。
 全てを流す大河も、数滴の雫となってはその威力を振るう事は出来ない。
 シンは、”それ”も同じではないかと考えた。
 拳は我が身。
 衝撃は神気。
 懐に飛び込み、力を集中してこの身を散じれば、猛烈な神気の波動が生じる。
 それで倒す事は叶わずとも、”それ”の身を幾ばくか散らす事は出来るかもしれない。
 そうしてその身を削れば、必然的に”それ”の影響力は散分し、減退する。
 今この星を包んでいる魔力もその力を減じ、隔離が解かれるかもしれない。
 確証があった訳ではない。
 けれど、可能性はある。
 もし自分一人の身で足らずとも、効果がある事を示せればそれでいい。
 そうすれば、心を共に持つ兄弟達が後に続いてくれるだろう。
 そう。
 全ては、この星のため。
 この星に生きる、全ての生命のため。
 そして―
 一瞬その脳裏を過ぎる、笑顔。
 たった一人の、少女のため―
 ”それ”の姿が、眼前に迫る。
 体中の神気を、身の中心に凝縮する。
 後は、それを弾けさせるだけ。
 シンが、全ての意識を集中させようとしたその時―

 『―ツ マ ラ ナ イ―』

 怖気を誘う音が、耳朶いっぱいに響いた。
 カツン
 乾いた音が響く。
 視線が、思わず下を向く。
 そこに落ちていたのは、白磁の仮面。
 地に転がった描眼が、キョロリと動いてシンを見る。
 ほんの一瞬の間。
 次の瞬間―
 ゴバァアアアアッ
 「――!!」
 視線を戻したシンの眼前。
 位置的に、”それ”の顔があるべき場所。
 そこに、無が広がっていた。
 深い。
 深くて昏い。
 虚無の闇。
 かつて、彼が幽閉されていた封印。
 その中の記憶ですら、優しいと思える程の絶望的な”無”。
 それが、獲物に飛びかかる蜘蛛の様に脚を広げ、シンを呑み込もうとしていた。
 「・・・・・・!!」
 瞬時に、彼は理解する。
 おそらく。
 いや、確実に。
 自分のやろうとしている事は、無意味だと。
 削る?
 散らす?
 無理だ。
 目の前にあるものは、無限。
 無限の、奈落。
 無限の端を千切り散らした所で、そこに何の意味も生じる筈がない。
 けど。
 けれども。
 彼は足を止めない。
 止める事はない。
 何故なら、賭けていたから。
 残された、可能性に
 自分の手の内にある、ただ一つの可能性(それ)に。
 確実な絶望。
 無きに等しい、可能性。
 普通に考えれば、矛盾する事この上もない。
 それでも、彼はその僅かな可能性を信じる。
 ほんの、僅かな光。
 その先に、あるものを。
 彼は、捨てられなかった。
 (・・・滑稽、ですね。)
 胸の内でひとりごち、薄く笑う。
 以前の自分ならば、こんな真似など鼻で笑っていた事だろう。
 けれど、今の彼はその無きに等しい可能性が持つ光を信じる事が出来た。
 信じる意味を、知っていた。
 いつからだろう。
 いつから自分は、こうなったのだろう。
 自問しながら、その答えを知っている自分に気付く。
 そう。
 それは、あの時。
 彼を。
 彼女達を見た、あの時から。
 永きの封印から目覚め。
 憎悪に身を染めていた四聖獣(自分達)。
 滅びの先にしか、未来を見れなくなっていた神(自分達)。
 けれど、そんな自分達に、彼らは立ち向かってきた。
 絶対の絶望だった筈の神(存在)。
 それに、微塵も臆する事なく。
 彼らは立ち向かってきた。
 守るために。
 己の大切なものを。
 かけがえのないものを。
 その手から、離さないために。
 彼らは凛と、神の前に立って見せた。
 そして、彼らは掴んだ。
 その手の中に、奇跡という名の光を。
 思えば、あの時から自分は魅せられていたのかもしれない。
 彼らの強さに。
 神さえも凌ぐ、絆という名の力に。
 思う事がある。
 自分はどうなのだろうか。
 今の自分は、どうなのだろうか。
 あの時とは違う。
 確信はあった。
 あの時の、闇の殻に篭っていた時とは違う。
 今この手には、大切なものがある。
 彼らの様に、かけがえのないものがある。
 この身に代えても、守りたいと思うものが。
 脳裏で微笑む、あの笑顔。
 ―資格は、あるだろうか。
 あの光を掴む、その資格が。
 今の自分には、あるのだろうか。
 答えはある。
 もう、目の前に。
 視線を上げる。
 目の前に広がる虚無。
 底のない、奈落。
 臆する事なく、見据える。
 彼らの様に。
 あの時の、彼らの様に。
 思考に費やした時間は、ほんの数秒。
 恐れはない。
 後悔もない。
 ただ。
 ただ、見つめる。
 底なき闇の、その向こうを。
 嘲笑うかの様に、闇が広がる。
 奈落が、食いかかる。
 「「「・・・・・・!!」」」
 遠くで、兄弟達の叫ぶ声が聞こえる。
 何を言っているのかすら、もう分からない。
 耳界でさえも、無が覆う。
 形になる音は、ただ一つ。

 『―ツ マ ラ ナ イ―』

 ”それ”が、鳴る。

 『―ツ マ ラ ナ イ モ ノ ハ―』

 クワンクワンと、鳴り響く。

 『―イ ラ ナ イ 。―』

 闇が泣く。
 虚無が響く。 
 終わり。
 おわり。
 もう、ヲワリ。
 遠くに見据えた、光が霞む。
 そして、全てが覆われて―

 「駄目ぇーっ!!」

 意識に被さる暗幕を払う様に、その声は響いた。
 ドスンッ
 同時に感じる、胸への衝撃。
 羽根の様に軽く、そして星よりも重たい、その存在。
 冷え切った身体に、淡い熱が伝わる。
 意識とともに覚醒する視界。
 それが真っ先に捉えたのは、自分を守る様に縋り付く少女の姿。
 何故?
 何故、貴女が?
 何故、ここに?
 数え切れない疑問符が、激流の様に脳裏を過ぎる。
 その間、刹那に足らず。
 そして行き着く、たった一つの回答。
 見開いた目に、自分ごと彼女を呑み込もうとする”無”が映る。
 脳が回答(それ)を認識するよりも早く、身体が動く。

 「やめろぉおおおおっ!!」

 叫びと共に、その手からほとばしる一条の光。
 閃く、閃光。
 切り裂かれる、闇。
 蠢く虚無の触手が一本。
 悲鳴も上げずに、散って消える。
 ―そう。
 奇跡は確かに、そこにあった。



                              続く
この記事へのコメント
十三月の翼・57の感想れすー。

あれ? トウハ……まだ喋れるのか。
前回の終わりじゃ、ついに気絶してしまうのかと思いましたが。
あれだけボロボロになりながらも、このしぶとさ……。くそ、またまんまと喰わされたわいw
しかし、「打算」とは一体? もしかしたら、アユミちゃんの存在によって何かが起こることを期待しているのでしょうか。

バアルを封じた……はずの四聖獣でしたが、どうやらそれはバアルの興を削いだだけだったようですね。「つまらない物は要らない」とは、またなんと、飽きた玩具を捨てる子供のような行動原理ですが、しかし相手が魔王ともなると、別の意味での怖さが……。

で、シンはまたしてもカッコイイところを取っていきますね。愛しき人を背負った男は強い……。
そして、ある意味バカになる。普段のシンなら、やるはずのない無謀な賭けに全てを託すとは……。
そんな命がけの賭けも、バアルにはやはり通用しない……と、おもいきや?

アユミちゃんキター!

そして、シン覚醒!?

そうか、チート級の存在を破るモノ……それはやはり……愛!!w

「愛は地球を救う」とかいいますが、それを地で行く展開になるか?

いや、まじめに考えると。あの道楽魔王には愛なんつーものはロクにないわけで、その「愛の可能性」に再び興味を向けたのかもしれませんな。

いやはや、こうなったら、ゴウ、ガイ、レイたちにも、それぞれ許嫁守護天使たちちを派遣すれば、もしかしてこれは勝つる……かも?ww

いやいや、まだ死闘は続きそうですな。どうなるか全く見当もつきませんが、最後は愛が勝ってほしいところです。

ではまた来週♪
Posted by エマ at 2014年05月18日 19:53
(=゚ω゚)ノ やふー。リニューアル後初になるな。
案の定封印は無理だったと。で、「削る」のも無理だったと。

今回で最も大きな変化はバールの魔王の様子が変わった事のようだけど、
このままじゃどうあがいても絶望状態って解釈でいいのかな。

アユミの介入でどう転ぶかが今回の焦点になりそうなわけだが、
四聖獣に興味を失った魔王がアユミに矛先を変える可能性もあるな。
もしそうなればこっちのもの。後は色仕掛けで骨抜きにして一気に解決だwww
おそらく魔王は貧乳好きだろう(無根拠)

というわけで、株式会社アクシオンでは
服、下着、アクセサリー、ブランドもの等々
女性向けのグッズも各種取り揃えておるぜよw(主に代表取締役の趣味)

代表取締役ラ○ル「ヽ(゚∀゚ )ノ よってらっしゃい見てらっしゃい♪ 代金は君だ☆」
Posted by G5‐R at 2014年02月22日 20:49
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