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2014年11月19日

十三月の翼・52(天使のしっぽ・二次創作作品)




 こんばんは。土斑猫です。
 今日も今日とて、「十三月の翼」更新。
 何とか年内に終わる事が出来ればいいなとか、思っています。
 それでは、お付き合いの程を。
 ではでは。



魔王・サークル.png


                     ―煉獄―


 腕の中で、彼女の強張りが溶けていくのが分かった。
 身体を押し戻そうとしていた手が、ダラリと下がる。
 「トウハ・・・?」
 そっと、呼びかける。
 「・・・ハハ・・・アハハ・・・」
 返って来たのは、か細い笑い声。
 脱力した身体を、アカネに委ねながらトウハは笑っていた。
 「アハハハハハ・・・。もう、駄目だな・・・。こりゃ・・・。」
 細い身体を揺らしながら、彼女は笑う。
 笑い続ける。
 そして、
 「・・・キミの・・・キミ達の勝ちだよ。アカネちゃん・・・」
 笑い声とも泣き声ともつかない声で、トウハは言う。
 「・・・分かって、くれたんだな?」
 アカネの問いに、小さな頭がコクリと頷く。
 「分かったよ・・・。キミの想いも、そして覚悟も・・・」
 薄い唇が、ハァ、と小さく息をつく。
 「・・・溶けちゃった・・・。みんな、溶けちゃった・・・。」
 それは。
 それは、彼女が口にする初めての、そして確かな敗北宣言だった。


 「そんな!!待って!!」
 ユキが、血の気の失せた顔で叫ぶ。
 握る杖に灯る神気。
 アカネの想いは確かに理解した。
 その覚悟の程も、思い知った。
 けれど。
 けれど。
 だからと言って、このまま見ている事など出来なかった。
 例え、目の前の妹に罵られる事になっても。
 例え、それで事態がより混迷になるとしても。
 自分の、かけがえのない家族を。
 同胞を。
 友を。
 犠牲にするなど、あってはならない事だった。
 あらゆる事に対する覚悟を瞬時に決め、杖に込めた神気を放とうとする。
 その時、
 アカネの腕の中のトウハと、目が合った。
 その目から、魔性の朱が消えていた。
 昏く沈んだ、琥珀の瞳。
 途端、身体の動きが止まった。
 何故かは分からない。
 ただ、そこにあったのは。
 何かを手に入れて高揚でもなく。
 何かを理解された喜びでもなく。
 深い。
 深い。
 絶望だった。
 「・・・大丈夫だよ。”蛇姉さま”。」
 トウハの口が動く。
 「もう、御終いだから。」
 そう紡いだ、次の瞬間―
 ドンッ
 渾身の力が込められた両手。
 それが、アカネの身体を突き飛ばした。
 突かれた不意。
 抱きしめていた腕が離れる。
 「トウハ!?」
 アカネの口から漏れる、驚きの声。
 遠ざかる視界の中で、寂しげに微笑む彼女の顔が見えた。
 そして、

 ビ キ ン

 ”その音”が響いた。


 突如起こった現象。
 その事を理解出来た者は、どれほどいただろう。
 メガミ(ユキ)も。
 天使(アカネ)も。
 四聖獣達でさえも。
 おそらく、それを察する事が出来たのは、僅か二人の異端。
 力なく佇む悪魔(トウハ)。
 そして、宙から全てを見ていた魔王(バアル)。
 それを証明するかの様に、”それ”に対する両者の反応は酷く淡々としたものだった。
 けれど、他の者達はそうはいかない。
 眼前に広がるその光景に、声すらも出ない。
 立ち尽くすトウハのほんの数歩後ろ。
 その地面に巨大な。
 途方もなく巨大な亀裂が、口を開いていた。
 否。
 それは、現状の説明としては正しくないかもしれない。
 確かに亀裂はある。
 長さにして数十メートル。
 開いた口の広さも、数メートルでは収まらないだろう。
 しかし、それだけ巨大な裂口生じていると言うのに、”何も破壊されてはいなかった”。
 亀裂の走る先々に並ぶ家々。
 パクリと空いた空間の上に生える木々。
 その全てが、その形を幾ばくも損ねる事なく、整然とそこに立っている。
 それはまるで、町というキャンバスの上に描いた絵の様に見えた。
 オ オ オ オ オ オ オ オ
 低い風鳴りが泣く。
 まるで、己が虚構の産物ではないと主張するかの様に。
 その亀裂は、見えぬ底から泣き声を上げていた。
 「・・・な、何だ?ありゃあ・・・?」
 突然の異変は、当然の様に四聖獣達にも届いていた。
 その威容を見たガイが、呆然と呟く。
 『―「ペテロの門」だよ―』
 ”声”が、答えた。
 「ペテロの、門・・・?」
 「人間達の伝承で、「地獄(コキュートス)」の入口とされている・・・?」
 『―架空のものではないよ。その昔、ある「魔王」によって”かの世界”を垣間見せられた人間が語り伝えたものだ―』
 声は、なんでもない事の様に飄々と語る。
 「では、あれは・・・」
 「モノホンか!?」
 『―そうさ―』
 レイやガイの驚きの声にも、淡々とした口調は変わらない。
 「・・・どう言うつもりだ?」
 剣がこもった声で、ゴウが言う。
 『―うん?―』
 「何故、そんなものを現世(この世)に現出させた?今度は、何を企んでいる?」
 『―ふむ?―』
 ゴウの言葉に、声が首を傾げる。
 『―その言い方からすると、汝は”あれ”が小生の仕業だと思っている様だねぇ―』
 「他に誰がいる?あの程度の異変、貴様なら造作もあるまい。」
 『―これはこれは。随分と買い被られたものだね―』
 禍禍禍、と声は嗤う。
 『―生憎だがね。それは見当違いと言うものさ。”あれ”が現れたるは、”かの地”の理によるものだよ―』
 「・・・何?」
 『―天界(汝ら)にもあるだろう?其が地の者に架せられる理(ルール)と言うものが。そう、例えば―』
 チャリ・・・
 何処かで、そんな音が聞こえた。
 『―禁を犯した天使(者)は、その資格を奪われる、とかね―』
 ガシャァアアアアアンッ
 その言葉をかき消す様に、冷たい音が雨の夜天に響き渡った。


 「トウ・・・ハ・・・?」
 目の前で起こった出来事に、アカネは忘我の体で呟いた。
 「御終い。」
 その言葉と共に、トウハの後ろに裂け広がった奈落。
 事態に理解がついていかない。
 混乱する視界に映る、寂しげに微笑むトウハの姿。
 それを掴もうと、もう一度手を伸ばしかけたその瞬間。
 ガシャァアアアアアンッ
 雨夜を切り裂く、冷たい音。
 目を疑う。
 目を擦る。
 けれど、目の前のそれは消えない。
 ―鎖―
 冷たく、氷色(ひいろ)に輝く、鎖。
 それが。
 深い深い、亀裂の中から伸びた”それ”が。
 幾重にも。
 幾重にも。
 トウハの身体に絡みついていた。
 そして―
 ジャリン
 また響く、音。
 同時に、トウハの姿が消えた。


 「何だ!?何が起こってやがる!?」
 『―理(ルール)の、履行だよ―』
 何処か、名残惜しそうに答える”声”。
 シンが問う。
 「どう言う事です!?」
 『―「悪魔」と言うのはね、執着なのだよ―』
 声は言う。
 『―その滾る執着心によって、悪魔は己の存在を力に変え、この世に留まっている。前にも言ったが、力はいずれ消費され消える。その存在と、執着心ごとね。しかるに、力がまだ残っている状態で執着心が途切れればどうなるか―』
 皆を、見回す様な気配。
 一拍の間を持って、“声”は続ける。
 『―それは、悪魔がこの顕界に留まる意思が途切れる事を意味する。その瞬間、”かの地”の理は悪魔を捉える。この星の全ての存在が、この星の重力(力)につなぎ止められる様に、”かの地”の力は、悪魔を己が元へと引き戻す―』
 酷く、酷く禍々しい響き。
 生唾を呑み込み、シンは再び問う。
 「すると、どうなるのです?」
 『―難しい話ではないよ。抵抗する力を失った悪魔は、堕ちる。かの地の底の底。「ジュデッカ」へと―』
 「ジュデッカ・・・?」
 『―そう。「ジュデッカ」は氷獄の地。そこで魂の一片まで凍りつき、生きる事も滅する事も叶わず、一つの氷塊として永久に有り続ける事となる―』
 「・・・・・・!!」
 愕然とする四聖獣。
 そんな彼らを無視する様に、声は独りごちる。
 『―どうやら、此度の劇は悲劇で終わりそうだねぇ―』
 その響きが、何処か不満そうだったのは気のせいだろうか。


 冷たく固いものが絡みつく。
 絶望と言う言葉を、具現した様な感触。
 全ての力が抜けた身体を、氷の鎖が締め付ける。
 強く、引かれる。
 有無を言わさぬ程に強い力が、身体を宙に浮かせる。
 時間の感覚が、酷くゆっくりだった。
 全てのものが、スローモーションの様に動いていく。
 その奇妙な感覚の中、トウハは諦観の思いで虚空を見つめていた。
 無数の雫を落とす、昏い空。
 その中に浮かぶ、かの人の顔。
 己の全てに代えて、手に入れたいと願ったあの笑顔。
 せめてもと、唯一自由の効く左手を伸ばす。
 当然の様に、指先は空をかく。
 (・・・届かなかったなぁ・・・)
 心の中で呟く。
 悔恨の思いはない。
 悲しみすらも、抱けない。
 ただ。
 ただ。
 虚しさだけが胸を満たす。
 チロリと、下を見やる。
 その先にあるのは、闇。
 どこまでも。
 どこまでも深い。
 虚無色の、闇。
 間もなく、あの虚無が自分を呑み込む。
 その先にあるのは、本当の無。
 その中で、想う事も夢見る事も許されず永劫の時を有り続けるのだ。
 けれど。
 (・・・どうでもいいや・・・。)
 恐怖も。
 絶望も。
 もはやない。
 あるのは、ただ・・・
 もう一度、手を伸ばす。届くはずのない、それに向かって。
 未練がましい。
 自分で自分を嘲笑う。
 もう、どうでもいいはずなのに―
 それでも、手を伸ばす。
 残る力を、いっぱいにこめて。
 伸ばす指。
 その先に、ふと見えたもの。
 かの人とは別の顔。
 それは、黄金(こがね)の髪をなびかせる凛々しい少女の顔。
 ほんの一時、番った心。
 かの人の次に、自分を理解してくれた存在。
 (ああ・・・)
 たゆたう思考が、思う。
 もしも。
 もしも、こんな形でなかったなら・・・。
 クク・・・。
 また、自嘲。
 馬鹿げた事だ。
 仮定の話など、今更なんの意味もないというのに。
 もう、やめよう。
 自ら、目を閉じる。
 こうすれば、愚かな想いも途切れて消える。
 次に目を開けた時、そこにあるのはきっと。
 伸ばした手。
 それが、ゆっくりと握られる。
 そして―
 ガクンッ
 突然、身体を揺らす衝撃。
 その時、確かに時が止まった。



                                      続く
この記事へのコメント
さてさて、ひさびさの感想です。

なんか、あと2〜3話だっけなーと思って見たら、まだその2倍ほどあったでござるの巻w パネェぜ…w


トウハっち。いきなり溶けちゃいましたね。心が。
あれだけのことをした自分のことを、そこまで思ってくれる……。
ご主人様さえ手に入れば、他に何も要らないと思っていたはずが…。やはり、心に寂しさがあったんですなぁ。
そうですよ。だって女の子だもんっ(・ω<)ミ☆

しかし、トウハが選んだ道は……自滅。
すぐ手を掴めば、救われたかもしれないのに…。
アカネを犠牲にするのを良しとしなかったのか……。これも、ある意味、トウハなりの愛かもしれませんな。

で、来たよ! 土斑猫さんの十八番、ザ・御庭番式小太刀厨二流、奥義……(←こういうこと言ってる時点でコイツも厨二w)
『ペテロの門』とな!?

バアルの存在ですら、天使のしっぽとは縁遠いアレゲ設定なのに、ついに、そっち側の世界の門まで開いちゃいましたか。
しかも『デュデッカ』とか、さらに色々出てきた…。
あーあ、もうきっと収集つかないぞーw(厨二的な意味でw)

ちなみに、『禁を犯した天使(者)は、その資格を奪われる』というのは、もしやエマステのデッドエンジェルの設定とのコラボでせうか?
だとしたら、嬉しいですな♪

しかし、毎回思うのですが、厨二設定とはいえ、魔王バアルなどが述べるその理屈は、呼んでいて「なるほろ〜」と思わせる説得力が、毎回あるのですよなー。
これ、天使のしっぽ系作品だからこそ、ある意味自制がかかっているんでしょうが、そういう縛りを完全になくしたら、土斑猫作品は一体どうなってしまうのでありましょうやw
土斑猫さんの、土斑猫さんによる、土斑猫さんのための、完全フルブースト厨二作品も読んでみたくなったエマさんである!!w

最後、トウハの無念の思念の語りが……虚しさを誘いますな。
あの時、悪魔の道を選ばなかったら……か。
たしかに、守護天使として、アカネたちと一緒に楽しく暮らせる運命もあったかもしれぬ…。
悲しいのう。

でも、すんでのところで……。
誰かが『ザ・ワールド』を使ったようです!w

誰だ! 時を止めたのは!

『オレが時を止めた…』

とか言ってくれる、どなたかの存在を期待しつつ、次回も楽しみにしていますw
Posted by エマ at 2014年12月20日 20:39
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