はい。皆様ご機嫌よろしゅう。
今週木曜日からは前回予告しましたとおり、2001年と2003年の製作されたアニメ、「天使のしっぽ」の二次創作を掲載していきます。当作品の事を良く知りたい方はリンク集のwikiへどうぞ。)
…しかし、当時はヤンデレとか厨二病とか、メアリー・スーとか知らないで欲望の赴くままに書いてた作品なんで、前述のそういったものが苦手な方はやめといたほうが良いかもしれません(もうそういうの全開なんでorz
イラスト提供=M/Y/D/S動物のイラスト集。転載不可。
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「十三月の翼」
暗い
暗い闇の中に一人
何も無い
何も見えない
在るのは想い
この 想い
眠る
ただ眠る
ただ、この想いだけを抱いて
ただ、この想いだけを夢に見て―
―予兆―
気がつくと、睦悟郎は見たことも無い場所に立っていた
「…何処・・・ここ・・・?」
呟いて、辺りを見回す。
その巡らした視界を彩るのは、黒と白のただ二色。
黒は闇。
まるで牢獄の様に周囲を覆い、満たし尽くす。
押し込められ、凝縮された様に濃い。
深い、深い、漆黒の闇。
白は霧。純白の霧。
時に濃く。
時に薄く。
まるで夜風に舞うヴェールの様に、果て無く流れたゆたう。
淡い、淡い、純白の霧。
虚の白。
無の黒。
ともすれば、意識すらも包み込まれてしまいそうな虚無色の帳。
その睡魔にも似た感覚を払う様に、帳の向こうに目を凝らす。
けれど、その先に映るものは何もない。
幾ら視界を凝らしても、ただ遥か果てに地平線らしき一本の線が見えるだけ。
ただ、ただ、延々と続く虚無の世界。
広い。
それこそ、寒気がする程に。
「何なの・・・・・・ここ・・・・・・」
喋る度に、漏れる吐息が白く染まる。
気温が、低いのだろうか。
その割には、寒さは全く感じないのだが。
一歩足を踏み出すと、カツリと硬い音が鳴った。
下を見ると、足元には周囲と同じ真っ黒な地面が広がっている。
もう一度、爪先でつついてみる。カツリ、カツリと、乾いた音が大きく響く。
凍てついていた。
硬く、硬く凍てついた、真っ黒な氷土。
視線を上げると、それが遥か先の地平線まで続いているのが見て取れた。
(・・・・・・あれ?)
そこでようやく、これだけ濃い闇と霧の中にありながら、その視界が閉ざされ切っていない事に気付く。
空を見上げる。
地上と同じく、闇と霧に覆われたそこには星も、雲すらもない。
けれど、ただ一つ、地上には無い“色”がそこに在った。
虚無色の空に、ぽっかりと穿たれた鉄錆色の真円。
濁った血の色にも似たその光が、白黒の風景に慣れすぎた網膜を弄った。
「・・・・・・月?」
そう。
それは月だった。
およそ人が知りうる光景のそれよりも、酷く大きく。
歪で。
濁っている。
けれど、それは確かに「月」としか他に言い様のないもの。
「・・・・・・。」
世界を満たす虚無を、まるで嘲る様に上塗る威容。
軽い目眩を覚えながら、魅入られたように悟郎はそれに見入っていく。
―その時、
「・・・・・・あまり見ない方がいいんじゃないかな?」
不意に背後からかけられた声が、彼を我に帰させた。
「月は、魔性のものだから。魅入られて心を許せば、一緒に魂まで囚われる。」
声は女性。
それも、まだ幼さの残る少女のもの。
「そんな事になっちゃあ、台無しだよ・・・・・・。」
深々と響く、澄んだ声音。
凍らせた銀鈴を鳴らす様なそれが、周囲の静寂の中に溶ける様に消えていく。
「やっと・・・・・・やっとここまで来たってのに・・・・・・」
古い知人にでもかけるかの様な口調と言葉。けれど、その声に覚えはない。
(誰・・・)
そんな悟郎の狼狽も意に介さない様子で、声は淡々と言葉を紡いでいく。
「ねぇ・・・・・・」
後ろを向いて声の主を確認しようと思うのに、何故か体がすくんだ様に動かない。
まるで、何かが拒んでいるかの様に。
「ご主人、様・・・・・・」
「・・・・・・!!」
その言葉が、悟郎を我に返させた。
自分を「ご主人様」と呼ぶ存在。
脳裏に、十二人の少女達の顔がよぎる。
しかし、背中越しに聞こえるその声は、その誰とも違う、聞き覚えのないもの。
「ご主人様ってば・・・・・・。」
もう一度呼ばれ、振りかえる。
真っ先に目に飛び込んできたもの。
紅い月の光を反して銀に輝く、長い白色の髪。
それを両のこめかみで束ね、綺麗な左右対照を描いて揺れる透色のリボン。
―果たしてそこに立っていたのは、やはり見覚えのない少女。
歳は見た所、アカネやミドリと同じ程。
幼さと端整さを同居させた顔に、薄い微笑みを浮かべて悟郎を見つめている。
少し凝った拵えの洋風の服を着ていて、その色は新月の夜空を切り取った様な黒。
巷で、ゴシックロリータ等と呼ばれる類のものだろうか。
モモやアカネが着たら似合うかもしれない、などと場違いな考えがチラリと浮かぶ。
「今、他の女のことを考えたね・・・?」
その心を見透かした様なタイミングで、目の前の少女がそう声をかけて来る。
琥珀色の瞳が、恨めし気に悟郎を見つめていた。
琥珀。
古木の内より生じ、その中に悠久の時を閉じ込めるかの宝珠。
それの様に、少女の瞳は暗く冷たく、寒気がする程に澄んだ輝きを放っていた。
その視線が、真っ直ぐに悟郎の瞳を射貫く。
「駄目だよ。他の女のことなんか考えちゃ・・・。」
いつの間にか、少女は悟郎のすぐ目の前まで近寄っていた。
透き通る様な白髪がふわりと舞って、甘い香を散らす。
「わたしだけ。わたしだけを見て・・・。そうしてくれても、良い筈だよ?あなたは――」
見上げる顔。
酷く白い、肌。
ランやユキの、白花の花弁を思わせるそれとは違う。
無機質で冷たい、氷の様な白。
夜色の服。
琥珀の瞳。
白銀の髪。
氷色(ひいろ)の肌。
―(綺麗だ。)―
素直に、そう思う。
「待ってたよ。焦がれてたよ。この日が来るのを・・・・・・。ずっと、ずっと―」
白い手がスルリと上がって、悟郎の顔に近づいてくる。
「もう、離れない・・・。離さない・・・。逃がさない―」
微笑む口元で、酷く鋭い牙が光る。
「いっしょにいよう・・・。共に在ろう・・・。この世の全ての命が絶え果てても・・・星の礎が朽ち消えても・・・神の御霊が薄れても・・・。永久の時を、在り続けよう・・・。」
細い指先が、もう少しで顔に触れる。
もう、1センチ。
もう、5ミリ。
最後の瞬間は、酷くゆっくりと―
「大好きだよ・・・。ご主人様―」
少女の琥珀の瞳から、滴が一筋。
そして―
「ご主人様―(たま―) 朝だよーっ(だぉ―っ)!!」
ドスンッ
「ぐぇえっ!!?」
大音量のソプラノと共に、二つの温かい(だけど、少し重い)衝撃が振ってきて、悟郎は堪らず飛び起きた。
「エヘへヘ―。ご主人様、起きた?」
「も―。ダメだぉ!!ごしゅじんたま。おねぼうしちゃ。おしごと、ちこくしちゃうぉ?」
見慣れた笑顔が二つ、ニコニコとこちらを見つめていた。
「・・・あれ・・・?」
悟郎は、虚ろな目で周りを見回す。
そこに広がるのは、いつもと同じ見慣れた自室の光景。そして、
「つばさちゃん、お茶碗用意してください。」
「ああ、クルミ姉さんってば!!頼むからおかず、出来る端から摘み食いしないで!!」
「ちょっとミカちゃん!!お化粧なんて後にして、少しは手伝ってもらえません事!?」
戸の向こうから聞こえる、いつもの喧騒。
確かな、日常。
しかし、あの夢の残滓だろうか。
悟郎は、己の身に微かな違和感が纏わり付いているのを感じていた。
「・・・・・・。」
「あや?ご主人さま?」
「ごしゅじんたま、どーしたぉ?」
いつもと違う悟郎の様子に、ナナとルルはそろって彼の顔を覗き込む。
それでも、悟郎は上の空のまま。
ナナとルルは、思わず顔を見合わせる。
と、廊下から聞こえてくるパタパタという足音。
部屋のドアが開き、赤い髪の少女が顔を覗かせた。
「ルルちゃん、ナナちゃん。ご主人様、お起きになった?」
「あ、ラン姉たん。」
ボウ〜とした顔の悟郎と、その前で心配そうな顔をしているルルとナナ。
それを見て、ランも怪訝そうな顔になる。
「? どうかしたの?」
「う〜ん、なんだかごしゅじんたま、おかしいんだぉ?」
「え?」
その言葉に顔を曇らせると、ランは悟郎の前に膝まづき、ナナ達と同じ様にその顔を覗き込む。
「ご主人様、ご主人様?」
虚ろな目の前で、掌をかざしてピラピラさせる。
「あ?ああ、ラン・・・ナナ、ルル・・・。」
それでやっと我に帰ったのか、悟郎の瞳が目の前の少女達にその焦点を合わせる。
「どうなされました?何処かお具合でも・・・?」
「い、いや、そういう訳じゃないよ。」
そう言って、ばつの悪そうな笑みを浮かべると、寝癖のついた頭をポリポリと掻く。
「最近、お疲れの様でしたから・・・。お熱とかはないようですけど・・・今日はお休みになられては・・・?」
ランはそう言って、いたわる様に悟郎の額に手を当てる。
つい今しがたまで水仕事をしていた手はヒヤリと冷たく、火照った肌に心地良い。
悟郎はしばしその感覚に身を任せるが、やがてにっこりと笑うと立ち上がった。
「大丈夫。ちょっと夢見が悪かっただけだから。顔を洗えば、スッキリするよ。」
「でも・・・。」
なお心配そうな眼差しを向けるランに、もう一度笑いかける。
「心配かけてごめん。でも、本当に大丈夫だから。」
そう言って、悟郎は洗面所へとその足を向けた。
続く
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