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2017年03月08日
チェスキー・レフ(三月五日)
日本語に訳すと「チェコのライオン」であって、本来国の紋章に使われている獅子のことをさすのだけど、ここで取り上げるのは、チェコ版アカデミー賞とでも言うべき、チェコ国内の映画の賞である。受賞者には賞の名前にちなんで、クリスタルガラスで作られたライオンの像が送られる。今年のはあんまりライオンに見えなかったけど。芸術家というのは度し難いよなあ。
毎年チェコテレビで授賞式が放送されるので、映画館に映画を見に行くことはないのだけど、ついついチャンネルを合わせてしまう。今年も昨日三月四日に授賞式の様子がチェコテレビ1で八時から放送された。結果は、事前の予想通りというか、ノミネートの時点で圧倒的だった「マサリク」が、12のカテゴリーでライオン像を獲得していた。昨年末に公開されて観客数では一番だったらしい「アンデル・パーニェ2」は、ノミネートされた部門はあったが、ライオン像は一つも獲得できなかったようだ。ちょっと意外である。
チェコ人の政治好きを考えると「マサリク」が一番多くの部門で勝つのは予想通りだったが、この映画、マサリクはマサリクでも、トマーシュ・ガリク・マサリクではなく、その息子のヤン・マサリクの生涯を描いたものである。主役のマサリクを演じたのは、ハリウッド映画への出演で日本でも知られているかもしれないカレル・ロデンである。ベネシュを演じたのがカイズルだったかな。
ロデンが脚本を読んだ瞬間に出演を快諾し、カイズルはぎりぎりまで悩み続けて最後の瞬間にOKを出したなんていう撮影のこぼれ話が、特に映画に注目していない人間のところにまで届くぐらいには、この映画はチェコでは注目されていた。劇場で公開されてどれぐらいの観客を集めたのだろうかと考えて、まだ公開されていないことを思い出した。
最近、テレビでも予告編のようなものをしばしば見かけるようになっているし、街中にもポスターが貼られているので、そろそろ映画館で見られるようになるはずである。チェコのライオン映画賞は、前年に公開された映画ではなく、制作された映画を対象にしているので、こんなことが起こるのである。映画「マサリク」にとっては、今回の賞をほとんど総なめした結果は、最高の宣伝である。
その上で、どのぐらいの観客を集めるだろうかと再び問う。昨年末に公開されて、百万人を大きく超える観客を集めた「アンデル・パーニェ2」を超えることができるだろうか。あっちは子供も楽しめる映画で、家族で出かけた人も多いだろうから、「マサリク」が超えるのは難しいかな。このチェスキー・レフで評価が高くても、興行的にはあまり成功しなかった映画もあるわけだし。
ところで、ヤン・マサリクは共産党が政権を獲得したクーデターの後、外務大臣在任中に外務省の窓から転落して死んだことで知られている。これが共産党政権が発表したように本当に転落事故だったのか、マサリクが邪魔になった共産党による暗殺だったのかは、現時点でもはっきりはしていないようだ。もちろん、反共産党のチェコ人たちの多くは、暗殺だと考えているのだが、100パーセント確実だと言えるだけの証拠は見つかっていないようだ。
ヤン・マサリクは、外務省で外交官として仕事をして、ベネシュがロンドンで組織した亡命政府の外務大臣になるわけだが、その前、ミュンヘン協定の後、自分の外交官としての仕事がまずかったのかという自己批判から、心を病んで精神科の病院に入院していたこともあるらしい。この映画「マサリク」では、これまであまり知られていなかったヤン・マサリクの生涯をも描き出しているようである。こういう精神的に追い詰められていた姿が描かれているということは、マサリクの死については、暗殺説を前面に押し出していないということかなと推測する。
映画館にまで足を伸ばしてみたいとは思わないので、来年か、再来年かにテレビで放送されたときに内容を確認しよう。そして、何年か前にチェコテレビが制作した歴史再現ドラマ「チェコの幾世紀」(仮訳)での扱いと比較してみたら面白そうだ。そのころまでには忘れていそうだけど。
ロンドンの亡命政府が主催して、ケンブリッジかどこかで、コメンスキー関係の大きな式典が行われたという話も聞いているのだが、ヤン・マサリクも関っていないはずはないから、最近縁の増えてきたコメンスキー関係からも、見ておくべき映画なのか。
3月5日23時。