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2016年06月21日
スポーツ選手のあだ名の話、もしくは偉大なるパベル(六月十八日)
チェコテレビのサッカーのユーロの中継では、試合の前後とハーフタイムにプラハのスタジオから、解説者、ゲストを交えて、あれこれプレーの解説をしたり、現地からの情報を発信したりする番組を放送している。チェコテレビのアナウンサーも司会役として出ているのだが、メインの解説者を日替わりで務めているのが、あちこちのチームでプレーしてどこの選手だったからわからなくなってしまったルデク・ゼレンカと、ブルノの生んだメルセデスベンツ、ただし車庫から出てこないペトル・シュバンツァラ、そしてスラビア・プラハがチェコリーグで連覇を果たしたときの中心選手エリフ・ブラベツである。
チェコとクロアチアの試合が行われた日は、ブラベツの担当で、ゲストの解説者としては、トマーシュ・ウイファルシが呼ばれていた。それを見ていて気になったことが一つ。この二人が、いつの間にか選手の名前でもなく名字でもなく、選手たちの間で使うあだ名で、選手を呼び始めていたのだ。ブラベツは、ウイファルシのことを、最初は「トマーシュ」って呼んでいたはずなのに、何度か「ウフィ」とか何とか呼んでいたし。
この手のあだ名は、選手のインタビューでたまに出てくることはあっても、解説者が番組中で使うことは普通はないので、それほど知られているわけではない。チェコ人ならシュコダを「シュコデャーク」、ネツィットを「ネツァーク」とか言われても、なんとなくわかるのかもしれないが、外国人にはちょっとつらいものがある。
ウイファルシなんかシュコダのことを、「シュコドフカ」なんて呼んでなかったか。これでは、チェコの誇る自動車メーカシュコダ社の車になってしまう。それともシュコダのヘディングを「シュコドフカ」なんて呼んだりするのだろうか。ブラベツがフブニークのことを、「フブニャ」と呼ぶのを聞いたときには、「フブノウト(=やせる)」という動詞に関係のある言葉かと思ってしまったし。
この手のあだ名は、同じ名前の選手が多いせいか、名前よりも名字から作られることが多い。一時期代表に大量のトマーシュがいたものだ。覚えやすいのは、元代表のバロシュの「バリ」とか、ロシツキーの「ロサ」、リンベルスキーの「リンバ」あたりかな。フランス在住ということで、時々画面に登場する、ヤン・コレルのあだ名「ディノ(=恐竜)」は、体の大きさから付けられたらしいが、チェコの誇るパベル・ネドベドのあだ名「メーデャ(=熊さん)」は、恐ろしさを表しているのかと思ったら、名字から付けられたものだった。本来Mで始まる熊を表す言葉が、Nに子音交代を起こして出来上がったのが、ネドベドという名字なのだという。
ネドベドといえば、以前チェコテレビで、スポーツ選手とティカットするなという指令が出たときに、生中継で電話インタビューを受けて、お前と俺の仲だろう、何でそんなよそよそしいしゃべり方するんだよと抗議をして、その指令を有名無実化させてしまったのを思い出す。
スポーツ選手とチェコテレビのスポーツアナウンサーの大半は、尊敬する相手や、よく知らない相手に対して丁寧にしゃべるときの動詞の二人称複数の形を使う喋りかた(ビカット)ではなく、仲のいい友人と喋るときに使うティカットを使って話しており、インタビューでもその形を使っていたのだが、なれなれしくてこれではいかんと考えた人がいたらしく、ある日突然、禁止令が出たのだ。
チェコ語では、最初お互いのことをあまり知らない間は、互いにビカットする。そして、知り合ってからある程度時間が経ってから、どちらかがティカットしようねと申し出ることで、お互いにティカットするようになる。よほどのことがない限り、一度ティカットし始めたあとに、ビカットに戻すことはないという。お前なんか友達じゃねえという縁切りにも仕えたりするのかね。この辺、日本語の敬語になれていると、状況によって話し方を代えてしまいがちになるので、時々すごく嫌な顔をされることがある。
サッカー選手たちも、日ごろはティカットで喋っているチェコテレビのアナウンサーに番組中だけは丁寧に話されて、結構戸惑っているみたいだった。一応、選手の側からはティカットしてもかまわないということは言われていたようだが、こんな上下関係のある喋り方をするのは、小中高の先生と、生徒たちの間ぐらいなので、選手たちは自分が先生になったような気分を味わっていたのかもしれない。
選手側も、チェコテレビのアナウンサー側も、一時期はなんだか微妙に不自然な感じで、インタビューをしたり、解説の仕事をしたりしていたのだが、ネドベドが爆弾を落としてくれたおかげで、いつの間にか元通り、仕事上でも普段と同じ話し方をするようになって、スポーツ番組の解説でも、インタビューでも自然な話が聞けるようになったのであった。ネドベドだったからチェコテレビの偉いさんも譲歩したのだろうなあ。サッカーには直接関係しなくても、さすがの存在感である。
さて、表題のあだ名に関して、サッカー選手じゃないけど、面白いのを思い出した。どこかのオリンピックでのこと、陸上のやり投げで優勝したシュポターコバーが、直後のインタビューでコーチのジェレズニーのことを、優勝した興奮からか、プレホフカと呼んでいたのだ。プレホフカとは、缶ジュースや缶ビールのこと、もしくは缶そのもののことを言う。ジェレズニーという名字は、「鉄の」という意味の形容詞なので、そこからの連想だろうが、面と向かって呼んでいるのだろうか。
6月20日18時30分。