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2021年01月15日

「人魚の嘆き」本文vol,20


「人魚の嘆き」本文vol,20

白いという形容詞では、とても説明しがたいほど真っ白な、肌の光沢でした。
それは余りに白すぎるために、白いと云うより「照り輝く」と云った方が適当なくらいで、全体の皮膚の表面が、瞳のように光っているのです。

何か彼(か)の女の骨の中に発行体が隠されていて、皓皓たる月の光に似たものを、肉の裏から放射するのではあるまいかと、怪しまれるほどの白さなのです。

しかも近づいて熟視すれば、この霊妙な皮膚の上にハ、微かな無数の白合毫のむく毛が、鬖鬖(さんさん)と生えて旋螺(せんら)を描き、その末端にさながら魚の卵の様な、目に見えぬほどの小さな泡が、一つ一つに銀色の泡を結んで、宝石をちりばめた軽羅(けいら)の如く、彼女の総身を掩うています。

「貴公子よ、あなたは私の予期以上に、人魚の価値を認めて下さいました。あなたのお陰で、私は十分の報酬を得、一朝にして巨万の富を手に入れることが出来ました。

私は人魚を打った代わりに、これらの東洋の宝物を車に積んで、再び廣東の港に帰る積りです。そうして其処から汽船に乗って、遠い西洋の故郷に戻ります。

私の国では、ちょうどあなたが人魚を珍重なさる様に、これらの宝物を珍重する人が沢山あるのです。
私が最後の願いとして、どうぞ人魚に別れの接吻を与えさせてください。」

こう云いながら、異人が水瓶の縁に寄り添うと、水中に水銀の躍るが如く、人魚はするすると上半身を表面へ露出して、両手に偉人の項を抱えたまま、頬を摺り寄せて暫く燦然と涙を流す様子です。

その涙は、睫毛の端から頤(おとがい=あご)へ伝わり、滴々と零れ落ちる間に、麝香(じゃこう)のような馥郁(ふくいく)たる香りを、部屋の四方へ放ちました。

「お前は人魚が惜しくないか。あれだけの値で私に売ったのを、今更後悔してはいないか。お前の国の人たちは、何故人魚より宝石の方を珍重するのだろう。お前はどうして、この人魚を持って帰ろうとしないのだろう。」

貴公子は、利欲のために美しい者を犠牲にして顧みない、卑しい商売根性を嘲るような口調で云いました。

引用書籍
谷崎潤一郎「人魚の嘆き」
中央公論社刊




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