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2021年01月15日

「人魚の嘆き」本文vol,17

「人魚の嘆き」VOL,17


彼の女は、うつくしい玻璃(はり=ガラス)製の水瓶の裡に幽閉せられて、鱗を生やした下半部を、蛇体のようにうねうねとガラスの壁(へき)へ吸い付かせながら、今しも突然、人間の住む明るみへ曝されたのを恥ずるが如く、項(うなじ)を乳房の上に伏せて、腕(かいな)を背後の腰の辺りに組んだまま、さも切なげに据わっているのでした。

ちょうど人間と同じくらいな身の丈を持つ彼の女の体を、一杯に浸した甕の高さは、四五尺程もあるでしょう。中には玲瓏とした海の潮が満々と充たされて、人魚の喘ぐ度毎に、無数の泡が水晶の珠玉の如く、彼の女の口から縷々として沸々として水面へ立ち昇ります。

その水瓶が四五人の奴婢に担がれて、車の上から階上の内庁(ぬいでん)の床に据えられると、室内を照らす幾十燈の燭台の光は、たちまち彼の女の露(あら)わな肉体に焦点を凝らせて、いやが上にも清く滑らかな人魚の肌は、さながら火炎の燃えるように、一層眩しく鮮やかに輝きました。<


「私はこれまで、心私(ひそ)かに自分の博い学識と見聞とを誇っていた。昔から嘗て地上に在ったものなら、いかに貴い生き物でも、いかに珍しい宝物でも、私が知らないということはなかった。


しかし私はまだこれ程美しい物が、水の底に生きていようとは、夢にも想像したことがない。
私が阿片に酔っている時、いつも眼の前へ繰り出される幻覚の世界にさえも、この優婉な人魚に優る怪物は住んでいない。

恐らく私は、人魚の値段が今支払った代価の倍額であろうとも、きっとお前からその売り物を買い取っただろう。・・・・・・」

こう云っただけでは、まだ貴公子は自分の胸に溢れている無限の讃嘆と驚愕とを、充分に言い表すことが出来ませんでした。

なぜと云うのに、彼は今、自分の前に運び出された冷艶にそいて凄愴な、水中の妖魔を見るや否や、一瞬間に体中の神経が凍り付くような、強い、激しい、名状し難い魂の竦震(しょうしん=心のふるえ)を覚えたからです。

そうして、いつまでもいつまでも、死んだように総身を強張らせて彳立(てきりつ=少し歩む。)したまま、燦爛(さんらん)たる水瓶の光を凝視しているうちに、訝しくも彼の瞳には、感激の涙が忍びやかに滲み出て来ました。

彼は久し振りで、長らく望んでいた興奮に襲われたのです。有頂天の歓喜に蘇生(よみがえ)ることが出来たのです。

彼はもう昨日までの、張り合いのない、退屈な月日を喞(かこ)つ人間ではなくなりました。
彼は再び、豊かな刺戟に鞭うたれつつ生の歩みを進めて行ける、心境に置かれたのでした。


引用書籍
谷崎潤一郎「人魚の嘆き」中央公論社刊
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