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2021年03月25日
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,90
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,90
そう言った調子で、彼女は自分の買いたいものはすべて現金、月々の払いはボーナスが入るまで後回しと言うやり方。
そのくせやはり借金の言い訳をするのは嫌いで、
「あたしそんなこと言うには厭だわ、それは男の役目じゃないの」
と、月末になればフイと何処かへ飛び出して行きます。
ですから私は、ナオミのために自分の収入を全部捧げていたと言ってもいいのでした。
彼女を少しでもよりよく身綺麗にさせて置く事、不自由な思いや、ケチ臭いことはさせないで、のんびりと成長させていること、それは素より私の本懐でしたから、困る困ると愚痴りながらも彼女の贅沢を許してしまいます。
するとそれだけ他の方面を切り詰めなければならないわけで、幸い私は自分自身の交際費はちっともかかりませんでしたがmそれでもたまに会社関係の会合などが在った場合、義理を欠いても逃げられるだけ逃げるようにする。
その他自分の小遣い、被服費、弁当代などを、思い切って節約する。
毎日通う省線電車もナオミは二等の定期を買うのに、私は三等で我慢をする。
飯を炊くのが面倒なので、てんや物を取られては大変だから、私が御飯を炊いてやり、おかずを拵えてやることもある、が、そういう風になって来るとそれが又ナオミには気に入りません。
「男のくせに台所なんぞ働かなくってもいいことよ、見っともないわよ」
と、そう言うのです。
「譲治さんはまあ、年が年中同じ服ばかり着ていないで、もう少し気の利いたなりをしたらどうなの?
あたし、自分ばかり良くったって譲治さんがそんな風じゃあやっぱり厭だわ。それじゃ一緒に歩けやしないわ」
引用書籍
谷崎潤一郎「痴人の愛」
角川文庫刊
次回に続く。
三国志演義朗読第61回vol,4(全8回)
(^_-)-☆アスカミチル
【文学通】なりたい人寄っといで
元、県立高校国語教諭30年勤務。
文学士アスカミチルがエスコート〜〜〜〜〜!!
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三国志演義朗読第61回vol,4(全8回)
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