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2021年03月31日

「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,96


「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,96



と、鏡の中から私の姿を見るなり言って、片手を後ろの方へ伸ばして、彼女が指し示すソォファの上には、三越へ頼んで大急ぎで作らせた着物と丸帯とが、包みを解かれて長々と並べてあります。



着物には口錦の入っている比翼の袷で、金紗(きんさ)ちりめんというのでしょうか、黒みがかった朱のような地色には、花を黄色く葉を緑に、点々と散らした總(ふさ)模様があり、帯には銀糸で縫いを施した二たすじ三すじの波がゆらめき、ところどころに、御座船(おざぶね)のような古風な船が浮かんでいます。



「どう?あたしの見立ては巧いでしょう?」

ナオミは両手に白粉を溶き、まだ湯煙の立っている肉付きのいい肩から項(うなじ)を、その手のひらで右左からヤケにぴたぴた叩きながら言いました。



が、正直のところ、肩の厚い、臀(しり)の大きい、胸の突き出た彼女の体には、その水のような柔らかい地質が、あまり似合いませんでした。



めりんすや銘仙を着ていると、混血児の娘のような、エキゾティックな美しさがあるのですけれど、不思議なことにこう言う真面目な衣装を纏(まと)うと、かえって彼女は下品に見え、模様が派手であればあるだけ、横浜あたりのチャブ屋か何かの女のような粗野な感じがするばかりでした。



私は彼女が一人で得意になっているので、強いて反対はしませんでしたが、この毒々しい装いの女と一緒に、電車へ乗ったりダンス・ホールへ現れたりするのは、身が竦(すく)むような気がしました。





引用書籍

谷崎潤一郎「痴人の愛」

角川文庫刊



次回に続く。
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三国志演義朗読第62回vol,2(全7回)

(^_-)-☆アスカミチル
「押忍、 ご来場、誠にごっつあんです。」

県立高校国語教諭30年勤務。

文学士アスカミチルがエスコート!!

毎日更新光るハート(*´ε`*)チュッチュ



三国志演義朗読第62回vol,2(全7回)

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