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2021年03月19日
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,86
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,86
昼は私は会社にいますから、ナオミ一人で食べるのですが、かえってそういう折の方がその贅沢は激しいのでした。
夕方会社から帰ってくると、台所の隅に仕出し屋のおかもちや、洋食屋の容物(いれもの)などが置いてあるのを、私はしばしば見ることがありました。
「ナオミちゃん、お前又何か取ったんだね!お前の様にてんや物ばかり喰べていた日にゃお金がかかってしようがないよ。第一女一人で以てそんな真似をするなんて、少しはもったいないということを考えてごらん」
そう言われてもナオミは一向平気なもので、
「だって、ひとりだからあたし取ったんだわ、おかず拵えるのが面倒なんだもの」
と、わざとふてくされて、ソファの上にふんぞり返っているのです。
この調子だから溜まったものでありません。おかずだけならまだしもですが、時にはご飯を炊くのさえ億劫がって、飯まで仕出し屋から運ばせるという始末でした。
で、月末になると、鳥屋、牛肉屋、日本料理屋、寿司屋、鰻屋、菓子屋、果物屋と、方々から持ってくる請求書の締め高が、よくもこんなに喰べられたものだと、驚くほど多額に上ったのです。
喰い物の次に嵩(かさ)んだのは、西洋洗濯の代でした。これはナオミが足袋一足でも決して自分で洗おうとせず、汚れ物は全てクリーニングに出したからです。そしてたまたま叱言(こごと)を言えば、二言目には、
「あたし女中じゃないことよ」
と言います。
引用書籍
谷崎潤一郎「痴人の愛」
角川文庫刊
次回に続く。
三国志演義朗読第60回vol,8(全10回)
(^_-)-☆アスカミチル
【文学通】なりたい人寄っといで
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元、県立高校国語教諭30年勤務
文学士アスカミチルが
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三国志演義朗読第60回vol,8(全10回)
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