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2021年03月02日
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,68
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,68
中へ入ると、ピアノだの、オルガンだの、蓄音機だの、色々な楽器が窮屈な場所に並んでいて、もう二階ではダンスが始まっているらしく、騒々しい足取りと蓄音機のおとが聞こえました。
ちょうど梯子段の上り口のところに、慶応の学生らしいのがうじゃうじゃしていて、それがジロジロ私とナオミの様子を見るのが、あまりいい気持ちはしませんでしたが、
「ナオミさん」
と、その時馴れ馴れしい大きな声で、彼女を呼んだものがありました。
見ると、今の学生の一人で、フラット・マンドリンというのでしょうか、平べったい、ちょっと日本の月琴のような形の楽器を小脇に抱えて、それの調子を合わせながら、針金の鉉(げん)をチリチリ鳴らしているのです。
「今日はァ」
と、ナオミも女らしくない、書生っぽのような口調で応じて、
「どうしたのまァちゃんは?あんたダンスやらないの?」
「やあだァ、己(おら)あ」
と、そのまァちゃんと呼ばれた男は、ニヤニヤ笑ってマンドリンを棚の上に置きながら、
「あんなもなあ己あ真っ平御免だ。第一お前(めえ)、月謝を二十圓も取るなんて、まるでたけえや」
「だって初めて習うんなら仕方がないわよ」
「なあに、いずれそのうちみんなが覚えるだろうから、そうしたら奴等(やつら)を取っ掴(つか)まえて習ってやるのよ。
ダンスなんざあそれで沢山よ。どうでえ、要領がいいだろう」
引用書籍
谷崎潤一郎「痴人の愛」
角川文庫刊
次回に続く。
三国志演義朗読第58回vol,3(全6回)
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三国志演義朗読第58回vol,3(全6回)
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