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2021年03月21日
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,87
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,87
「そんな、洗濯なんかすりゃあ、指が太くなっちゃって、ピアノが弾けなくなるじゃないの、譲治さんはあたしの事を何と言って?
自分の宝物だって言ったじゃないの?だのにこの手が太くなったらどうするのよ」
と、そう言います。
最初の内こそナオミは家事向きの仕事をしてくれ、勝手元の方も働きはしましたが、それが続いたのはほんの一年か半年ぐらいだったでしょう。ですから洗濯物などはまだいいとして、何より困ったのは家の中が日増しに乱雑に、不潔になって行くことでした。
脱いだものは脱ぎっぱなし、喰べたものは喰べっぱなしという有様で、喰い荒らした更小鉢だの、飲みかけの茶碗や湯のみだの、垢じみた肌着や湯文字だのが、いつ行って見てもそこらに放り出してある。
床は勿論椅子でもテーブルでも誇りがたまっていないことは無く、あの折角の印度更紗の壁かけも最早昔日の俤(おもかげ)を止めず煤けてしまい、あんなに晴れやかな「小鳥の籠」であったはずのお伽の家の気分は、すっかり趣を変えてしまって、部屋へ入るとそういう場所に特有な、むうっと鼻を衝くような臭いがする。
私もこれには閉口して、
「さあさあ、僕が掃除を僕が掃除をして上げるやるから、お前は庭へ出ておいで」
と、掃いたりハタいたりして見た事もありますけれど、ハタけばハタくほどゴミが出て来るばかりでなく、餘り散らかりすぎているので、片づけたくても手の付けようが無いのでした。
これでは仕方がないというので、二三度女中を雇ったこともありましたが、来る女中も来る女中もみんな呆れて帰ってしまって、五日と辛抱しているものはありませんでした。
引用書籍
谷崎潤一郎「痴人の愛」
角川文庫刊
次回に続く。
三国志演義朗読第60回vol,10(全10回)
(^_-)-☆アスカミチル
【文学通】なりたい人寄っといで(*´ε`*)チュッチュ
元、県立高校国語教諭30年勤務。
文学士アスカミチルがエスコート〜〜〜〜〜!!
三国志演義朗読第60回vol,10(全10回)
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