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2021年03月18日
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,85
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,85
そして私はナオミの愛におぼれていましたけれど、会社の仕事は決して疎かにしたことは無く、依然として精励恪勤(せいれいかくごん)な模範的社員だったので、重役の信用も次第に厚くなり、月給の額も上がって来て、半期半期のボーナスを咥えれば、平均月に四百圓になりました。
だから普通に暮らすのなら、二人で楽なわけであるのに、それがどうしても足りませんでした。
細かいことを言うようですが、先ず月々の生活費が、いくら内輪に見積もってもニ百五十圓以上、場合によっては三百圓もかかります。
このうち家賃が三十五圓、これは二十圓だったのが四年間に十五圓上がりました。それから瓦斯代、電燈代、水道代、薪炭代、西洋洗濯代等の諸雑費を差し引き、残りの二百圓内外から二百三四十圓というものを。何に使ってしまうかと言うと、その大部分は喰い物でした。
それもそのはずで、子供のころには一品料理のビフテキで満足していたナオミでしたが。いつのまにやらだんだん舌が奢って来て、三度の食事の度毎に、
「何が食べたい」「彼(かに)がたべたい」
と、年に似合わぬ贅沢を言います。
おまけにそれも材料を仕入れて、自分で料理するなどという面倒くさい事は嫌いなので、大概近所の料理屋へ注文します。
「あーあ、何か旨い物がたべたいなァ」
と、退屈すると、ナオミの言い草はきっとそれでした。
そして以前は洋食ばかり好きでしたけれど、この頃ではそうでもなく、三度に一度は
「何屋のお椀がたべて見たい」とか、「どこそこの刺し身を取って見よう」
とあ、生意気なことを言います。
引用書籍
谷崎潤一郎「痴人の愛」
角川文庫刊
次回に続く。
三国志演義朗読第60回vol,7(全10回)
(^_-)-☆アスカミチル
【文学通】なりたい人寄っといで
元、県立高校国語教諭30年勤務
文学士アスカミチルが
エスコート〜〜〜〜〜〜〜!!
三国志演義朗読第60回vol,7(全10回)
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