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2021年01月15日

「人魚の嘆き」本文vol,15

「人魚の嘆き」VOL,15


彼は今まで、西洋人というものを未開の種族と信じていたのに、この、乞食のような野蛮な顔を、つくづく眺めれば眺める程、其処に気高い威力が潜んでいて、何となく自分を圧(お)さえつけるように覚えたのです。

その異人の持っている緑の瞳は、さながら熱帯の紺碧の海のように、彼の魂を底知れぬ深みへ誘い入れます。
又、その異人の秀でた眉と、広い額と、純白な皮膚の色とは、美貌を以て任じている貴公子の物よりも、遥かに優雅で、端正で、しかも複雑な暗い明るい情緒の表現に富んでいるのです。

「一体お前は、誰から私の噂を聞いて、はるばる南京へやって来たのだ。」
異人が物語る人魚の話を、暫く恍惚として聴き入った後、貴公子はこう尋ねました。

「私はついこの間、媽(ぼ=雌馬、の意味。)港の街をさまようている際に、或る知り合いの貿易商から、始めてそれを聞いたのです。

もしその以前に知れていたなら、恐らくあなたはもっと早く、私の人魚をご覧になることが出来たでしょう。私はこの珍しい売り物を携えて、およそ半年ばかりの間、亜細亜の国々の港という港を遍歴しましたが、何処の商人も、何処の貴族も、これを贖おうとはしませんでした。

或る者は値段が餘り高すぎると云って、尻込みをします。なぜと云うのに、人魚の代価は亜剌比亜の金剛石七十箇、交趾(コーチ)支那の紅宝石八十箇、それに安南の孔雀九十羽と暹羅(しゃむ=現在のタイ国)の象牙百本でなければ、取り易(か)える訳に行かないのです。

又或る者は、人魚の恋が恐ろしさに、怖気(おぞけ)を慄(ふる)って逃げてしまいます。
なぜと云うのに、昔から人間が人魚に恋をしかけられれば、一人(いちにん)として命を全うする者はなく、いつとはなしに怪しい魅力の罠に陥り、身も魂も吸い取られて、何処へ行ったか人の知らぬ間に、幽霊の如くこの世から姿を消してしまうのです。

ですから、金と命とを惜しがる人は、容易に私の売り物へ手を付けることが出来ません。私は折角、稀世の珍品を手に入れながら、誰にも相手にされないで、長い間徒労な時と徒労な旅人を続けました。

もしも媽港の商人から、あなたの噂を聞かなかったら、もう少うしで私は大事な商品を、持ち腐れにする所でした。その商人の話に依ると、私の人魚を買い得る人は、南京の貴公子より外にはない。

その人は今、歓楽のために巨万の富と若い命とを抛(なげう)とうとして、抛つに足る歓楽のないのを恨んでいる。その人はもう、地上の美味と美色とに飽きて、現実を離れた、奇しく怪しい幻の美を求めている。

その人こそは必ず人魚を買うであろうと、彼は私に教えたのです。」


引用書籍
谷崎潤一郎「人魚の嘆き中央公論社刊


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