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2021年01月15日

「人魚の嘆き」本文vol,14

「人魚の嘆き」VOL,14


程なく、驢馬は貴公子の邸内深く引き込まれ、第一の大門を入り、第二の儀門(にいもん)を潜り、後庭の樹林泉石の門をめぐって、昼を欺く紅燈の光を湛えた、内庁(ないでん)の石階のほとりに据えられました。

貴公子はいつものように、七人の寵姫を身辺に侍らせながら、廊下の端近く椅子を進めると、それを見た異人は再び恭しく地に跪き、支那流の作法に依って稽首の礼を行うた後、又もあやしい発音で、たどたどしく語り始めるのです。

「私がこの人魚を獲たのは、広東の港から幾百海里を隔てている、蘭領の珊瑚島の附近でした。
或る日私は、其処へ真珠を採りに行って、思いがけなく真珠よりももっと貴い、美しい人魚を得たのです。

人は真珠を恋することは出来ませんが、いかなる人でも人魚を見たら、彼の女を恋せずにはいられません。
真珠には冷ややかな光沢があるばかりです。

しかし人魚は妖麗な姿の内に、熱い涙と暖かい心臓と神秘な智慧とを蔵しています。人魚の涙は真珠の色より幾十倍も浄らかです。人魚の心臓は珊瑚の玉より幾百倍も赤うございます。

人魚の智慧は、印度の魔法使いよりも不思議な術を心得ています。人間の測り知られぬ通力を持ちながら、彼女はたまたま背徳の悪性を備えているために、人間よりも卑しい魚類に堕されました。

そうして青い青い海の底を泳ぎながら、常に陸上の楽土に憧れ、人間の世界を慕うて、休む暇なく嘆き悶えているのです。

その証拠には、人は誰でも彼(あ)の美しい人魚の顔に、憂鬱な憂の影を認めることが出来ましょう。・・・・・・」

こう云った時、異人は不自由な人魚の身の上を憐れむが如く、自分も亦うら悲しげな表情を浮かべました。
貴公子は、人魚を見せられる前に、先ずその異人の容貌に心を動かされたようでした。



引用書籍
谷崎潤一郎「人魚の嘆き」中央公論社刊


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