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2021年01月14日

「人魚の嘆き」本文vol,10/29

「人魚の嘆き」本文全29章vol,10/29

やがて、その年の夏が暮れ、秋が老けて、十月朝(じえちょう)の祭りも終わり、孔夫子(こんふうつう)の聖誕も過ぎてしまいましたが、彼の頭に巣くっている倦怠と憂うつとは、依然として晴れる機会がありません。

「うら若さ」を頼みにしている貴公子も、いよいよ来年は二十五歳になるかと思えば、房々とした鬢髪の色つやまでが、だんだん衰えて来るように感ぜられます。

気分が塞げば塞ぐほど、心が寂しくなればなるほど、享楽に憧れ、昂奮を求める胸中のもどかしさはますます募って、旨くもない酒を飲んだり、可愛くもない女を嬲(なぶ)ったり、十日も二十日も長夜の宴を押し通して、沸き返るようなばか騒ぎを催したり、色々試して見ますけれど、さっぱり効き目は在りませんでした。

それで結局は、あの獏という獣の様に、阿片を吸って、夢を喰らって、荒唐無稽な妄想の雲に囲ぎょうされつつ、終日ぼんやりと手足を伸ばしているよりほかはなかったのです。

貴公子の眉の曇りは晴れやらぬままに、とうとうその年が明けて、のどかな迎春の季節となりました。
この時分、大清の王化はあまねく支那の全土に行き渡り、上に英明の天子を戴いた十八省の人民は、鼓腹撃壌の太平の世に酔うて、世間が何となく、陽気に浮き立っていましたから、正月の南京の町々は近年にない賑やかさです。

ちょうど一月の十三日、いわゆる上燈(しゃんてん)の日から十八日の落燈(らてん)の日まで、六日の間を燈夜(てんやー)と唱えて、毎年戸々の家々では夜な夜な門前に灯籠を点じ、官庁や富豪の邸宅などは、楼上高く縮緬(ちりめん)の幔幕(まんまく)を張り綵燈(さいとう)を掲げて、酒宴を設け糸竹を催します。


又、市中目抜きの大通りには、あたかも日本で大阪の夏の町筋を見る様に、往来の片側から向こう側の軒先へ、木綿の布を覆い渡して、燈棚(てんぽん)を造り、それに紅白取り取りの燈篭をぶら下げます。

そうして街中到る所に寄り集うた若者は、法華の信者がお会式(おえしき)の万燈を担ぐように、龍燈、馬燈、獅子燈などを打ち振り打ち振り、銅鑼を鳴らし、金鑼を叩いて練り歩くのです。

しかし、このお祭りの最中にも、例の貴公子の顔つきばかりは相変わらず沈み勝ちで、少しも冴え冴えとする様子がありません。

 次回に続く。

引用書籍
谷崎潤一郎作「人魚の嘆き」
中央公論社刊
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