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2017年12月16日
拓馬篇前記−美弥9
デイルは黙りこくってしまった。その風貌はさながらロダンの考える人である。口元への手の当て方や当てる手の左右がちがっていても、美弥はそう感じた。
彼は思考整理の時間を美弥たちに頂戴した。その間、律子は手を組んだりさすったりして落ち着きがない。律子の挙動の原因は美弥にある。見かけ上は心優しい男性を、妹が糾弾したことにやきもきしているのだ。美弥は静寂が姉の動揺を煽るのではないかと思い、口を開く。
「お姉ちゃん、なにを心配してるの」
「だって、美弥が失礼なことを……」
「ホントのことじゃないの。すこししゃべっただけの相手を『信じる』だなんて、カンタンに言ってくれるのは世間知らずか詐欺師くらいよ」
美弥は現実にありうるのはその二者だと思った。もう一つ、深い洞察力により他人の人間性を見抜く人もいるだろうとは思っている。だがそんな人間はだいたい心理学者か人生経験豊富な老人に限定される。高校の教員だと自己紹介する青年にはあてはまらないと考えた。
美弥が取りあげた二者はどちらも批判的なレッテルだ。「世間知らず」のほうが道徳心が肯定されるだけいくらかマシに見える。ただし、美弥はデイルを「世間知らず」とは判断していない。
デイルの年頃は三十歳前後。どう見ても美弥たちより年長だ。その態度は冷静沈着で、どこか達観した気配がある。話中に「元上司」という単語があったことから察するに、職務経験もちゃんとある。これらの要素は彼が渡世に無知な人間だと結びつかなかった。おまけに、彼の年齢では正確無比な人間観察ができるとも思えない。それゆえ美弥の口調は意識的に荒々しくなり、律子が「彼に失礼なことを言った」のだと美弥の言動を案ずるのだ。
美弥の認識にはデイルが自分たちを騙そうとする男だという認識があった。だがもし相手が人のよさそうな老人や中年の女性、あるいは幼子であったら、美弥はこれほどの敵愾心を掻きたてられなかったろう。
(男だから……疑ってる?)
大人の男性というその一点で、デイルがお人好しである可能性を破棄している。それは大いなる偏見だ。
「また、そんな言いかた……」
律子は妹の主張に否定的だ。そればかりか悲愴な面持ちでいる。美弥が不和を拡大させることを嫌がっているのだろう。美弥は自分の言動が姉を悲しませる状況に胸が痛んだ。
(でも……はっきりさせなきゃ。もう、だまされたくないでしょ)
律子に寄ってくる男は金銭目当ての時もある。そういった相手になると美弥の勘はにぶる。相手のほうが人心のなんたるかを心得たプロだからだ。そんな連中がいるからこそ、人の良さそうにふるまう学校関係者が、敵ではないという確信がほしかった。
ここまでこき下ろされた相手が沸点の低いやからであれば「出て行け」と絶交宣言をしそうなところだ。だがデイルは美弥の追撃を聞かなかったかのようにポーズを維持する。思考中ゆえに姉妹のやり取りは耳に届かなかったのかもしれない。彼はそこまで真剣に物思いにふけっている。その理由は美弥にも律子にもわからなかった。
(この人も、私みたいにきつく他人にあたったらしいけど……)
自分のことがわかるはずがないと、彼を良く思ってくれた人物に言った──そのようにデイルは説明する。これほど美弥が彼に楯突いても負の感情をもらさない人が、他者を攻撃した。美弥はどうにもその光景がうかびにくい。
(私に合わせてるようには、見えない)
「あなたの気持ちはわかる」といった、同調を演出する人種は存在する。浅薄な慣れあいは美弥の嫌悪するところだ。デイルの思考時間の長さから考えるに、美弥の仲間意識を得るための行動ではなさそうだった。
重たい空気の中、マイペースな男性がおもてを上げた。またもうっすら笑みをつくっている。
「ミウラリツコという芸能人について、私はあまり存じあげていません」
デイルは美弥の質問にやっと答えはじめる。彼の長考のおおもとである出来事は取りあげないらしい。
「ですが、不慣れな土地にすむ妹を心配する姉……その姉を必死に守ろうとする妹のことなら、知っています。その妹はいまも、姉を害する危険のある男を見張っています」
デイルは自身のことも他人事のように言う。美弥は彼の推察が的外れでないと思い、口をはさまない。
「姉がわるい男にだまされ続けたせいなのでしょう。妹は男嫌いになってしまい、姉と自分に関わる男すべてが姉妹をだまそうとする人に見えています。その反応が、妹の新生活に影を落とすことにならないかと、姉はいっそう心配しています」
「影を落とす?」
美弥は率直に疑問点をあげた。話者は口角を上げる。
「たとえば妹が、彼女の授業を受けもつ教師と険悪な仲になることです」
美弥は盲点を突かれた。デイルは学校の教員だと確定している。美弥が彼の授業に参加するのだとしたら、彼との関係を決裂させることは得策ではない。ひとたび憎みあえば相手の顔を見るだけでもつらくなる。そんな苦々しい気分を抱えた学校生活を、これからすごすのか。
(学校に行くことがイヤになりそう……)
美弥は姉のために警戒することで、みずからの環境を悪化させようとしているのだ。そして、その環境は律子の暮らしとは直接の関係をもたない。
「私があなたにつっかかっても、お姉ちゃんの不安を増やすだけ……」
「そうです」
「だから、ヘンなことを言う相手にも波風を立てずにやり過ごせってこと?」
「私以外の教師にはそうなさったほうがよいでしょう」
「あなたはいいの? 詐欺師だとか言われちゃってても」
「かまいません。批判や侮辱の言葉は聞き慣れています。なにより、貴女の冷ややかな態度には愛情がこもっていますから、ほほえましいです」
美弥の辛辣さを好意的に捉えているらしい。美弥は彼がマゾヒズムでないかと気味悪がる。
「……ヘンタイ?」
「私の言う愛情とは貴女からお姉さんに向かう感情のことです。貴女は姉を大切にするがゆえに、私に反発したのでしょう?」
「それは、そう、ね……」
美弥は不必要な攻撃を加えてしまったことに恥じ入った。デイルは美弥の勘違いを捨て置く。
「この目で見て、二人の絆は固いと感じました。お二人はお互いの幸せを望んでいるのでしょう。互いを思えばこそ、お姉さんが不倫という退廃的な行為に走るとは考えられません。それが、私が貴女たちの潔白を信じる根拠です」
デイルは姉妹の絆を証拠として提示した。くわえて美弥の好戦的な物言いの原因を列挙し、そのどれもが美弥のうなずける解答をくりだした。姉が妻子ある男性を誘惑するはずがないことは、美弥がいちばん知っている。亡き母と美弥は、律子に健全で幸福な家庭をもってほしいと願った。そのことを律子も承知している。
美弥はデイルがれっきとした人物眼をもつ男性だと認めた。美弥が非礼をわびようとした時、律子が「ごめんなさい」と先んじて謝罪する。
「妹がピリピリするの、わたしのせいなんです。わたしがしっかりしてないから、美弥がやりすぎなくらい他人を警戒してしまうんです。どうか、美弥をわるく思わないでください」
「私は気にしていません。もともと校長から『男嫌いな女子生徒』だと忠告を受けていました。男性教師では対応がむずかしいだろう、とも」
「はい、ほんとうに……」
「授業がはじまる前に、どんな生徒なのかわかることができてよかったです」
デイルは依然として前向きな姿勢だ。
「妹さんがお姉さんを守る目的で異性に対して苛烈になるのなら、お姉さんがいない学校では彼女の男嫌いが多少おさまるんじゃないでしょうか」
「そう、だといいですけど……」
「そう言われても実感がわきませんよね。自分がいない時の家族のふるまいなど」
デイルがなごやかに会話を続ける。美弥との遺恨は完全に残さないつもりのようだ。
(いえ……この人、私と対決してた感覚さえないのかも……)
歯の生えそろわぬ子猫が手に噛みついてきた──彼の視点ではその程度の舌戦だったのかもしれない。美弥はこの男性と対等の立場でいられなかった自分をなさけなく思いながらも、彼の寛大さに敬意を感じた。
彼は思考整理の時間を美弥たちに頂戴した。その間、律子は手を組んだりさすったりして落ち着きがない。律子の挙動の原因は美弥にある。見かけ上は心優しい男性を、妹が糾弾したことにやきもきしているのだ。美弥は静寂が姉の動揺を煽るのではないかと思い、口を開く。
「お姉ちゃん、なにを心配してるの」
「だって、美弥が失礼なことを……」
「ホントのことじゃないの。すこししゃべっただけの相手を『信じる』だなんて、カンタンに言ってくれるのは世間知らずか詐欺師くらいよ」
美弥は現実にありうるのはその二者だと思った。もう一つ、深い洞察力により他人の人間性を見抜く人もいるだろうとは思っている。だがそんな人間はだいたい心理学者か人生経験豊富な老人に限定される。高校の教員だと自己紹介する青年にはあてはまらないと考えた。
美弥が取りあげた二者はどちらも批判的なレッテルだ。「世間知らず」のほうが道徳心が肯定されるだけいくらかマシに見える。ただし、美弥はデイルを「世間知らず」とは判断していない。
デイルの年頃は三十歳前後。どう見ても美弥たちより年長だ。その態度は冷静沈着で、どこか達観した気配がある。話中に「元上司」という単語があったことから察するに、職務経験もちゃんとある。これらの要素は彼が渡世に無知な人間だと結びつかなかった。おまけに、彼の年齢では正確無比な人間観察ができるとも思えない。それゆえ美弥の口調は意識的に荒々しくなり、律子が「彼に失礼なことを言った」のだと美弥の言動を案ずるのだ。
美弥の認識にはデイルが自分たちを騙そうとする男だという認識があった。だがもし相手が人のよさそうな老人や中年の女性、あるいは幼子であったら、美弥はこれほどの敵愾心を掻きたてられなかったろう。
(男だから……疑ってる?)
大人の男性というその一点で、デイルがお人好しである可能性を破棄している。それは大いなる偏見だ。
「また、そんな言いかた……」
律子は妹の主張に否定的だ。そればかりか悲愴な面持ちでいる。美弥が不和を拡大させることを嫌がっているのだろう。美弥は自分の言動が姉を悲しませる状況に胸が痛んだ。
(でも……はっきりさせなきゃ。もう、だまされたくないでしょ)
律子に寄ってくる男は金銭目当ての時もある。そういった相手になると美弥の勘はにぶる。相手のほうが人心のなんたるかを心得たプロだからだ。そんな連中がいるからこそ、人の良さそうにふるまう学校関係者が、敵ではないという確信がほしかった。
ここまでこき下ろされた相手が沸点の低いやからであれば「出て行け」と絶交宣言をしそうなところだ。だがデイルは美弥の追撃を聞かなかったかのようにポーズを維持する。思考中ゆえに姉妹のやり取りは耳に届かなかったのかもしれない。彼はそこまで真剣に物思いにふけっている。その理由は美弥にも律子にもわからなかった。
(この人も、私みたいにきつく他人にあたったらしいけど……)
自分のことがわかるはずがないと、彼を良く思ってくれた人物に言った──そのようにデイルは説明する。これほど美弥が彼に楯突いても負の感情をもらさない人が、他者を攻撃した。美弥はどうにもその光景がうかびにくい。
(私に合わせてるようには、見えない)
「あなたの気持ちはわかる」といった、同調を演出する人種は存在する。浅薄な慣れあいは美弥の嫌悪するところだ。デイルの思考時間の長さから考えるに、美弥の仲間意識を得るための行動ではなさそうだった。
重たい空気の中、マイペースな男性がおもてを上げた。またもうっすら笑みをつくっている。
「ミウラリツコという芸能人について、私はあまり存じあげていません」
デイルは美弥の質問にやっと答えはじめる。彼の長考のおおもとである出来事は取りあげないらしい。
「ですが、不慣れな土地にすむ妹を心配する姉……その姉を必死に守ろうとする妹のことなら、知っています。その妹はいまも、姉を害する危険のある男を見張っています」
デイルは自身のことも他人事のように言う。美弥は彼の推察が的外れでないと思い、口をはさまない。
「姉がわるい男にだまされ続けたせいなのでしょう。妹は男嫌いになってしまい、姉と自分に関わる男すべてが姉妹をだまそうとする人に見えています。その反応が、妹の新生活に影を落とすことにならないかと、姉はいっそう心配しています」
「影を落とす?」
美弥は率直に疑問点をあげた。話者は口角を上げる。
「たとえば妹が、彼女の授業を受けもつ教師と険悪な仲になることです」
美弥は盲点を突かれた。デイルは学校の教員だと確定している。美弥が彼の授業に参加するのだとしたら、彼との関係を決裂させることは得策ではない。ひとたび憎みあえば相手の顔を見るだけでもつらくなる。そんな苦々しい気分を抱えた学校生活を、これからすごすのか。
(学校に行くことがイヤになりそう……)
美弥は姉のために警戒することで、みずからの環境を悪化させようとしているのだ。そして、その環境は律子の暮らしとは直接の関係をもたない。
「私があなたにつっかかっても、お姉ちゃんの不安を増やすだけ……」
「そうです」
「だから、ヘンなことを言う相手にも波風を立てずにやり過ごせってこと?」
「私以外の教師にはそうなさったほうがよいでしょう」
「あなたはいいの? 詐欺師だとか言われちゃってても」
「かまいません。批判や侮辱の言葉は聞き慣れています。なにより、貴女の冷ややかな態度には愛情がこもっていますから、ほほえましいです」
美弥の辛辣さを好意的に捉えているらしい。美弥は彼がマゾヒズムでないかと気味悪がる。
「……ヘンタイ?」
「私の言う愛情とは貴女からお姉さんに向かう感情のことです。貴女は姉を大切にするがゆえに、私に反発したのでしょう?」
「それは、そう、ね……」
美弥は不必要な攻撃を加えてしまったことに恥じ入った。デイルは美弥の勘違いを捨て置く。
「この目で見て、二人の絆は固いと感じました。お二人はお互いの幸せを望んでいるのでしょう。互いを思えばこそ、お姉さんが不倫という退廃的な行為に走るとは考えられません。それが、私が貴女たちの潔白を信じる根拠です」
デイルは姉妹の絆を証拠として提示した。くわえて美弥の好戦的な物言いの原因を列挙し、そのどれもが美弥のうなずける解答をくりだした。姉が妻子ある男性を誘惑するはずがないことは、美弥がいちばん知っている。亡き母と美弥は、律子に健全で幸福な家庭をもってほしいと願った。そのことを律子も承知している。
美弥はデイルがれっきとした人物眼をもつ男性だと認めた。美弥が非礼をわびようとした時、律子が「ごめんなさい」と先んじて謝罪する。
「妹がピリピリするの、わたしのせいなんです。わたしがしっかりしてないから、美弥がやりすぎなくらい他人を警戒してしまうんです。どうか、美弥をわるく思わないでください」
「私は気にしていません。もともと校長から『男嫌いな女子生徒』だと忠告を受けていました。男性教師では対応がむずかしいだろう、とも」
「はい、ほんとうに……」
「授業がはじまる前に、どんな生徒なのかわかることができてよかったです」
デイルは依然として前向きな姿勢だ。
「妹さんがお姉さんを守る目的で異性に対して苛烈になるのなら、お姉さんがいない学校では彼女の男嫌いが多少おさまるんじゃないでしょうか」
「そう、だといいですけど……」
「そう言われても実感がわきませんよね。自分がいない時の家族のふるまいなど」
デイルがなごやかに会話を続ける。美弥との遺恨は完全に残さないつもりのようだ。
(いえ……この人、私と対決してた感覚さえないのかも……)
歯の生えそろわぬ子猫が手に噛みついてきた──彼の視点ではその程度の舌戦だったのかもしれない。美弥はこの男性と対等の立場でいられなかった自分をなさけなく思いながらも、彼の寛大さに敬意を感じた。
タグ:美弥
2017年12月18日
拓馬篇前記−美弥10
部屋主が入れてくれた飲み物はすっかり冷めてしまった。彼は入れなおしを提案したが、そんなぜいたくな申し出は気が引ける。美弥と律子は常温のカフェオレを飲みほした。
カップを空ければ、べつの飲み物をどうか、とデイルが言ってくるかもしれない。美弥は身構えながらカップを座卓に置いた。
「おかわりはいかがです?」
やはりたずねてきた。美弥は首を横にふり、不要の身振りをする。律子も「今日は午後からたくさん飲んじゃってて」と遠慮した。デイルは「そうですか」と温厚な笑みをたたえたまま言う。
「お二人は私と会うまえにお出かけされていましたね。どこかの店へ寄られたのでしょうか?」
「はい。知り合いがやってる喫茶店へおじゃましてきたんです。そこでごちそうになりました」
「知り合い……というと、芸能関係の方ですか?」
「そうなんです。ご夫婦で経営してるんですけど、旦那さんのほうがタレント業をしてて──」
律子はみちるの店のことを談話のネタにする。美弥は内心、この教員が律子の話に触発されるではないかと気がかりになった。触発後の行動とは、デイルがみちるの店に通うことだ。彼が店に入りびたりになろうものなら、美弥は店に行きづらくなる。だがその抵抗は彼に嫌悪感を抱くせいで生まれる感覚ではなかった。
(学校とアパートで会う人に、プライベートまで顔あわせてちゃ……)
日中の居場所、住居、余暇に利用する場まで同じではくどすぎる。美弥はデイルを嫌ってはいないが、それはあくまでほかの男性よりはマシというだけだ。特別好いていない他人と、家族以上の遭遇率になる事態は避けたかった。
(自炊する人だったら、外食はしないかも)
美弥は彼の部屋に入った直後に見えた台所の風景を思い出す。台所にてデイルは「どれでもいいですよ」とインスタントのスティック飲料を美弥たちに見せていた。その台所はかなりすっきりしていて、生活臭がしなかった。
(今日、部屋に来たばかりの人だし……)
引っ越しの初日では他人の生活習慣が露見しない。室内の状況で推測ができないならば直接彼に聞くべきだ。美弥はまず律子が続ける会話を聞き、自分がデイルに質問をするに自然なタイミングをうかがう。現在の話題はみちるの店にいる才穎高校の関係者についてだ。
「才穎高校の卒業生の人が働いていたんです。彼女は明るい人で、おかげでたのしくすごせました」
「才穎のOBの方がいらっしゃるのですか。その女性から学校のお話が聞けそうですね」
「そうなんです。美弥はぜんぜん才穎のことを知らないから、いまのうちにいろいろ聞けたら安心できるかと思います」
「では、授業がはじまるまでの間に妹さんは何回もお店に行くことになると?」
「何回……とは考えてなかったんですけど、たぶん通うと……それがどうかしたんです?」
「妹さんが常連客になるのでしたら、私がその店を利用するのはひかえたほうがよろしいかと思いまして」
彼は美弥の願望通りの提言をした。それは願ってもない判断だ。美弥にはよろこばしい一方で、彼が美弥を避ける動機が気になる。律子も不安気だ。
「妹が失礼なことを言ったからですか?」
律子がおずおずとたずねた。デイルは笑顔のまま「そうではありません」と否定する。
「せっかくの妹さんの心のよりどころを、私が邪魔するのはよくないと思います」
「そうでしょうか……妹は、あまりデイルさんのことをいやがってないですよ。いやだったらこのお部屋に来ていません」
「妹さんは男嫌いなのでしょう。苦手なものは我慢できても、そう簡単に克服できませんよ。リラックスできる時間くらいは、無理をしないですむ環境がのぞましいはずです」
デイルの主張は美弥をおもんばかった内容だ。美弥は彼が信頼に足る教師やもしれないと感じはじめる。
「聞けばそのお店は女性店員ばかり。オーナーの方も特殊な性別とはいえ女性の範疇です。だから貴女はそのお店の方に妹さんを任せられるのではありませんか?」
「そうですけど……男性のお客さんだってとうぜん来ます。あなたが気にすることじゃ……」
「数の問題ですよ。男性客が一人だけいるのと十人いるのとでは、店の入りやすさが変わってくると思います」
デイルは美弥に確認の視線を投げた。美弥は店内客の性別によって店の利用を決める自信がないものの、居心地の善し悪しでいえば彼の予想通りになりそうだとも思う。
「そうかもしれない……」
美弥は肯定的につぶやいた。その考えには若干のデイルの暗示が影響している気はした。しかしはじめてデイルの姿を見た時の不快感を思えば、なるべく男性を視界に入れないほうが心が安定する確信はある。
「今日会ったばかりなのに、よくそんなに思いつけるものね」
「人間の考え方には多少の興味と知識がありますので」
デイルがにこやかな調子を保つ。美弥はその笑顔がいままでにない自信を帯びているように見えた。
カップを空ければ、べつの飲み物をどうか、とデイルが言ってくるかもしれない。美弥は身構えながらカップを座卓に置いた。
「おかわりはいかがです?」
やはりたずねてきた。美弥は首を横にふり、不要の身振りをする。律子も「今日は午後からたくさん飲んじゃってて」と遠慮した。デイルは「そうですか」と温厚な笑みをたたえたまま言う。
「お二人は私と会うまえにお出かけされていましたね。どこかの店へ寄られたのでしょうか?」
「はい。知り合いがやってる喫茶店へおじゃましてきたんです。そこでごちそうになりました」
「知り合い……というと、芸能関係の方ですか?」
「そうなんです。ご夫婦で経営してるんですけど、旦那さんのほうがタレント業をしてて──」
律子はみちるの店のことを談話のネタにする。美弥は内心、この教員が律子の話に触発されるではないかと気がかりになった。触発後の行動とは、デイルがみちるの店に通うことだ。彼が店に入りびたりになろうものなら、美弥は店に行きづらくなる。だがその抵抗は彼に嫌悪感を抱くせいで生まれる感覚ではなかった。
(学校とアパートで会う人に、プライベートまで顔あわせてちゃ……)
日中の居場所、住居、余暇に利用する場まで同じではくどすぎる。美弥はデイルを嫌ってはいないが、それはあくまでほかの男性よりはマシというだけだ。特別好いていない他人と、家族以上の遭遇率になる事態は避けたかった。
(自炊する人だったら、外食はしないかも)
美弥は彼の部屋に入った直後に見えた台所の風景を思い出す。台所にてデイルは「どれでもいいですよ」とインスタントのスティック飲料を美弥たちに見せていた。その台所はかなりすっきりしていて、生活臭がしなかった。
(今日、部屋に来たばかりの人だし……)
引っ越しの初日では他人の生活習慣が露見しない。室内の状況で推測ができないならば直接彼に聞くべきだ。美弥はまず律子が続ける会話を聞き、自分がデイルに質問をするに自然なタイミングをうかがう。現在の話題はみちるの店にいる才穎高校の関係者についてだ。
「才穎高校の卒業生の人が働いていたんです。彼女は明るい人で、おかげでたのしくすごせました」
「才穎のOBの方がいらっしゃるのですか。その女性から学校のお話が聞けそうですね」
「そうなんです。美弥はぜんぜん才穎のことを知らないから、いまのうちにいろいろ聞けたら安心できるかと思います」
「では、授業がはじまるまでの間に妹さんは何回もお店に行くことになると?」
「何回……とは考えてなかったんですけど、たぶん通うと……それがどうかしたんです?」
「妹さんが常連客になるのでしたら、私がその店を利用するのはひかえたほうがよろしいかと思いまして」
彼は美弥の願望通りの提言をした。それは願ってもない判断だ。美弥にはよろこばしい一方で、彼が美弥を避ける動機が気になる。律子も不安気だ。
「妹が失礼なことを言ったからですか?」
律子がおずおずとたずねた。デイルは笑顔のまま「そうではありません」と否定する。
「せっかくの妹さんの心のよりどころを、私が邪魔するのはよくないと思います」
「そうでしょうか……妹は、あまりデイルさんのことをいやがってないですよ。いやだったらこのお部屋に来ていません」
「妹さんは男嫌いなのでしょう。苦手なものは我慢できても、そう簡単に克服できませんよ。リラックスできる時間くらいは、無理をしないですむ環境がのぞましいはずです」
デイルの主張は美弥をおもんばかった内容だ。美弥は彼が信頼に足る教師やもしれないと感じはじめる。
「聞けばそのお店は女性店員ばかり。オーナーの方も特殊な性別とはいえ女性の範疇です。だから貴女はそのお店の方に妹さんを任せられるのではありませんか?」
「そうですけど……男性のお客さんだってとうぜん来ます。あなたが気にすることじゃ……」
「数の問題ですよ。男性客が一人だけいるのと十人いるのとでは、店の入りやすさが変わってくると思います」
デイルは美弥に確認の視線を投げた。美弥は店内客の性別によって店の利用を決める自信がないものの、居心地の善し悪しでいえば彼の予想通りになりそうだとも思う。
「そうかもしれない……」
美弥は肯定的につぶやいた。その考えには若干のデイルの暗示が影響している気はした。しかしはじめてデイルの姿を見た時の不快感を思えば、なるべく男性を視界に入れないほうが心が安定する確信はある。
「今日会ったばかりなのに、よくそんなに思いつけるものね」
「人間の考え方には多少の興味と知識がありますので」
デイルがにこやかな調子を保つ。美弥はその笑顔がいままでにない自信を帯びているように見えた。
タグ:美弥
2017年12月19日
拓馬篇前記−美弥11
電灯の明かりが必要になってくるころ、美弥たちはデイルとの雑談を切り上げた。きっかけは彼が「もう暗くなってきましたね」と帰宅をすすめたことにある。美弥と彼は同じアパートの住人だ。外が真っ暗であろうと帰宅に支障はない。彼の言葉は「じゅうぶん話し尽くした」という意思表示だと思われた。
デイルは別れ際も穏やかに姉妹と言葉を交わす。おかげで今後の交流を維持できる別れ方を果たせた。
デイル自身は美弥の視界に男性がいることを避けたいと考えている。男性である彼と接触すること自体が美弥の負担になるとも思っている。それゆえ、彼から積極的に美弥にアプローチをかける気配はなかった。あとは美弥が彼を頼るかどうかに一任される。その状態は美弥の居心地がよかった。
姉妹が美弥の部屋へ帰る。時刻は夕飯時。しかし美弥たちは腹が減っていない。軽食のホットケーキがまだ胃に残っているようだ。いつもなら料理にとりかかるところを、二人はまず座卓のまわりでくつろいだ。
「今日はいろんな人としゃべったね」
律子が安息と疲労をこめて感想を述べる。彼女の疲れはおそらく美弥のデイルに対する態度への気疲れだ。
「私があの教師につっかかったから、ヒヤヒヤしてたんでしょ」
「そうよ。あの先生はやさしかったけれど、ふつうの人はビビっちゃう。もうやめてね」
「べつに、私に近寄らないんだったらそれでいいと思うけど」
「そうやって自分から他人を見限るの、よくない」
めったに批判をしない律子が強い口調で言った。美弥は姉が本気の助言をしているのだと思い、傾聴する。
「美弥は頭がまわるし、家事は得意だし、一人でなんでもできる子よ。わたしの自慢の妹。だけど第一印象を信じすぎるのが心配なの」
「第一印象?」
「まず『男性だから警戒する』っていうのがそれ。相手と話して、いったん誤解を解くとこまではいい。でもなにかのきっかけでまた振りだしにもどるでしょ。ずっと警戒心が残ってる」
「さっきの教師のことを言ってるの?」
「うん、あの人がいちばんいい例だわ。はじめの印象は最悪だったでしょ?」
デイルの灰色の頭髪を見て、美弥は染髪している不良ではないかと嫌悪した。彼はその髪を地毛だと言う。美弥は彼の言葉を信じた。だが、一度感じたマイナスイメージはぬぐいされない。どこかで悪事を働いていても納得できる程度には、彼を完全なる善人とは見做せなかった。
「デイルさんがいい人かわるい人か、一日会っただけじゃわからない。美弥とそりの合わない人かもしれないけど、そう決めつけるのはまだ早いと思うの。人付き合いはオーディションや面接でふるいをかけるものとはちがうんだから」
他者を審査する時とは、応募者の能力が基準値を達するのを調べるか、定員を超過する際に脱落者を決める目的で行われる。律子の主張をもとに置き換えれば、美弥は自身の友人知人を選り好みしていることになる。美弥と親しくなろうとする者が、美弥の希望の定員を超えることなどないだろうに。
(私は大した人間でもないのに……)
美弥の考えは傲岸不遜である。他人をさしたる理由もなく邪険にあつかっていけば、最終的に孤立する。おまけに美弥は姉に養ってもらう身だ。一人で生きていけると豪語する資格がない。この態度のままではいたずらに姉の心労を増やしてしまう。
「デイルさんは美弥のことをよく考えてくれてる。その動機が『学校の教師だから』、『校長先生に言われたから』っていう、周りに強制されてることだとしても、美弥のためになるんならそれでもいいじゃない。それがあの人の仕事なんだもの」
「仕事でやってる……そのほうが信じられそう。ヘタにいい人ぶられても『裏がある』と疑っちゃうし」
「美弥ったらリアリストね」
律子が笑った。姉の笑みには妹の同感を得られた安堵と、妹が子どもらしくない物の見方をすることへの憐憫がふくまれていた。その憐憫はもとをたどれば律子の不甲斐なさから生じるものだと、姉は固く信じている。美弥への憐れみは律子自身への責めにもなるのだ。美弥はこれ以上の姉の自責を止めるべく、年相応の言動をしておく。
「お姉ちゃんはあの教師のこと、ずいぶんいいふうに言うのね。もしかして気になってるの?」
美弥はかるい気持ちでたずねた。デイルの話題は卑近な例として出たのだとわかっていたものの、場の空気を変えるにはちょうどよい素材だ。
「え、あの、男の人を?」
律子はとまどっている。律子に贈り物をした男性の話の時はそっけない反応だったのだが。恋愛疑惑をにおわせないまま単刀直入に聞いたせいだろうか。美弥は姉に慕情はないものと見て会話を続ける。
「そこそこ頭が切れるみたいだし、本音はどうだか知らないけどやさしい人だったし。そういう男性はお姉ちゃんの好みのタイプじゃなかった?」
デイルの容姿が秀でていたことを美弥はあえて根拠に取りあげなかった。あれぐらいの人物は律子の職場に腐るほどいる──と言い切れる数の男性俳優やモデルは列挙できないが、美男に見慣れた姉が一喜一憂する特徴ではないと思った。
「そんなの、まだわかりっこないでしょ。ちょっと話しただけじゃ……」
律子の目が泳ぐ。姉が美弥と視線を合わせない時はうしろめたさを感じている場合が多い。美弥は姉に淡い情が生まれつつあるのだと察する。
「……ほんとに、気があるの?」
「ダメよね、美弥があんまりよく思ってない人なんて……」
「私はあの教師がダメなやつだとは思ってない。男の中じゃ『いい』と思えるほう」
律子は妹の許しが出ても、まだ美弥を直視できないでいた。
「はずかしがることないじゃないの。あんな少女漫画にでてきそうな完璧な人、年頃の女子があこがれるのは正しい反応だと思う」
「でも、美弥はぜんぜん、そんな気持ちがないでしょう?」
「だって男はみんな敵だと思ってるから」
自身が正常な反応のできない女子だと美弥は断言する。
「だけど、あの先生はちょうどいい距離感をたもってくれそう。だからそのうち男嫌いがマシになると思う。その時は、どう感じるかわからない」
美弥はデイルが恋愛対象になるとはまったく思っていない。だがこう言っておけば姉の心が休まると判断した。律子はやっと美弥と目を合わせる。
「そうね……学校でいい人が見つかるといいね。あ、それは恋人にかぎったことじゃないのよ?」
「わかってる。恋人は一人しかつくっちゃいけないけど、友だちは何人いてもいいんだもんね」
姉妹はようやく意見と心情を一致させた。話に区切りをつけた二人はそれぞれの家事にとりかかる。美弥は風呂の準備を、律子は夕飯作りを。律子の手掛ける料理はかけそばだ。乾麺の蕎麦と市販のつゆを使い、適当に野菜をきざんでゆでる。美弥にとっては小学生のころから作っている簡単な料理だ。しかし幼少時から仕事で忙しい律子はちがった。律子は料理に慣れず、麺を鍋底にこびりつかせたり沸騰した湯をふきこぼしたりと失敗続きだ。当人が人並みに料理の腕を身に着けたいと言うので、美弥は非効率的だとは思いながらも姉に食事の用意を任せている。
(店にいたマヨさんも、料理下手だっけ)
美弥は洗剤が泡立つスポンジで浴槽を拭きつつ、今日得た情報を顧みる。あの明るい店員には家事のできる弟がいるという。彼は美弥の同級生だと聞いた。
(弟さんとは、打ち解けられるかな)
姉の不始末を処理させられる者同士、共感する部分は多そうだ。性別の垣根を超えた交流を望める生徒が、同じ学校にいる。そんな稀有な存在がいると思えるだけで、美弥は前途に光明を見つけられる気がした。
デイルは別れ際も穏やかに姉妹と言葉を交わす。おかげで今後の交流を維持できる別れ方を果たせた。
デイル自身は美弥の視界に男性がいることを避けたいと考えている。男性である彼と接触すること自体が美弥の負担になるとも思っている。それゆえ、彼から積極的に美弥にアプローチをかける気配はなかった。あとは美弥が彼を頼るかどうかに一任される。その状態は美弥の居心地がよかった。
姉妹が美弥の部屋へ帰る。時刻は夕飯時。しかし美弥たちは腹が減っていない。軽食のホットケーキがまだ胃に残っているようだ。いつもなら料理にとりかかるところを、二人はまず座卓のまわりでくつろいだ。
「今日はいろんな人としゃべったね」
律子が安息と疲労をこめて感想を述べる。彼女の疲れはおそらく美弥のデイルに対する態度への気疲れだ。
「私があの教師につっかかったから、ヒヤヒヤしてたんでしょ」
「そうよ。あの先生はやさしかったけれど、ふつうの人はビビっちゃう。もうやめてね」
「べつに、私に近寄らないんだったらそれでいいと思うけど」
「そうやって自分から他人を見限るの、よくない」
めったに批判をしない律子が強い口調で言った。美弥は姉が本気の助言をしているのだと思い、傾聴する。
「美弥は頭がまわるし、家事は得意だし、一人でなんでもできる子よ。わたしの自慢の妹。だけど第一印象を信じすぎるのが心配なの」
「第一印象?」
「まず『男性だから警戒する』っていうのがそれ。相手と話して、いったん誤解を解くとこまではいい。でもなにかのきっかけでまた振りだしにもどるでしょ。ずっと警戒心が残ってる」
「さっきの教師のことを言ってるの?」
「うん、あの人がいちばんいい例だわ。はじめの印象は最悪だったでしょ?」
デイルの灰色の頭髪を見て、美弥は染髪している不良ではないかと嫌悪した。彼はその髪を地毛だと言う。美弥は彼の言葉を信じた。だが、一度感じたマイナスイメージはぬぐいされない。どこかで悪事を働いていても納得できる程度には、彼を完全なる善人とは見做せなかった。
「デイルさんがいい人かわるい人か、一日会っただけじゃわからない。美弥とそりの合わない人かもしれないけど、そう決めつけるのはまだ早いと思うの。人付き合いはオーディションや面接でふるいをかけるものとはちがうんだから」
他者を審査する時とは、応募者の能力が基準値を達するのを調べるか、定員を超過する際に脱落者を決める目的で行われる。律子の主張をもとに置き換えれば、美弥は自身の友人知人を選り好みしていることになる。美弥と親しくなろうとする者が、美弥の希望の定員を超えることなどないだろうに。
(私は大した人間でもないのに……)
美弥の考えは傲岸不遜である。他人をさしたる理由もなく邪険にあつかっていけば、最終的に孤立する。おまけに美弥は姉に養ってもらう身だ。一人で生きていけると豪語する資格がない。この態度のままではいたずらに姉の心労を増やしてしまう。
「デイルさんは美弥のことをよく考えてくれてる。その動機が『学校の教師だから』、『校長先生に言われたから』っていう、周りに強制されてることだとしても、美弥のためになるんならそれでもいいじゃない。それがあの人の仕事なんだもの」
「仕事でやってる……そのほうが信じられそう。ヘタにいい人ぶられても『裏がある』と疑っちゃうし」
「美弥ったらリアリストね」
律子が笑った。姉の笑みには妹の同感を得られた安堵と、妹が子どもらしくない物の見方をすることへの憐憫がふくまれていた。その憐憫はもとをたどれば律子の不甲斐なさから生じるものだと、姉は固く信じている。美弥への憐れみは律子自身への責めにもなるのだ。美弥はこれ以上の姉の自責を止めるべく、年相応の言動をしておく。
「お姉ちゃんはあの教師のこと、ずいぶんいいふうに言うのね。もしかして気になってるの?」
美弥はかるい気持ちでたずねた。デイルの話題は卑近な例として出たのだとわかっていたものの、場の空気を変えるにはちょうどよい素材だ。
「え、あの、男の人を?」
律子はとまどっている。律子に贈り物をした男性の話の時はそっけない反応だったのだが。恋愛疑惑をにおわせないまま単刀直入に聞いたせいだろうか。美弥は姉に慕情はないものと見て会話を続ける。
「そこそこ頭が切れるみたいだし、本音はどうだか知らないけどやさしい人だったし。そういう男性はお姉ちゃんの好みのタイプじゃなかった?」
デイルの容姿が秀でていたことを美弥はあえて根拠に取りあげなかった。あれぐらいの人物は律子の職場に腐るほどいる──と言い切れる数の男性俳優やモデルは列挙できないが、美男に見慣れた姉が一喜一憂する特徴ではないと思った。
「そんなの、まだわかりっこないでしょ。ちょっと話しただけじゃ……」
律子の目が泳ぐ。姉が美弥と視線を合わせない時はうしろめたさを感じている場合が多い。美弥は姉に淡い情が生まれつつあるのだと察する。
「……ほんとに、気があるの?」
「ダメよね、美弥があんまりよく思ってない人なんて……」
「私はあの教師がダメなやつだとは思ってない。男の中じゃ『いい』と思えるほう」
律子は妹の許しが出ても、まだ美弥を直視できないでいた。
「はずかしがることないじゃないの。あんな少女漫画にでてきそうな完璧な人、年頃の女子があこがれるのは正しい反応だと思う」
「でも、美弥はぜんぜん、そんな気持ちがないでしょう?」
「だって男はみんな敵だと思ってるから」
自身が正常な反応のできない女子だと美弥は断言する。
「だけど、あの先生はちょうどいい距離感をたもってくれそう。だからそのうち男嫌いがマシになると思う。その時は、どう感じるかわからない」
美弥はデイルが恋愛対象になるとはまったく思っていない。だがこう言っておけば姉の心が休まると判断した。律子はやっと美弥と目を合わせる。
「そうね……学校でいい人が見つかるといいね。あ、それは恋人にかぎったことじゃないのよ?」
「わかってる。恋人は一人しかつくっちゃいけないけど、友だちは何人いてもいいんだもんね」
姉妹はようやく意見と心情を一致させた。話に区切りをつけた二人はそれぞれの家事にとりかかる。美弥は風呂の準備を、律子は夕飯作りを。律子の手掛ける料理はかけそばだ。乾麺の蕎麦と市販のつゆを使い、適当に野菜をきざんでゆでる。美弥にとっては小学生のころから作っている簡単な料理だ。しかし幼少時から仕事で忙しい律子はちがった。律子は料理に慣れず、麺を鍋底にこびりつかせたり沸騰した湯をふきこぼしたりと失敗続きだ。当人が人並みに料理の腕を身に着けたいと言うので、美弥は非効率的だとは思いながらも姉に食事の用意を任せている。
(店にいたマヨさんも、料理下手だっけ)
美弥は洗剤が泡立つスポンジで浴槽を拭きつつ、今日得た情報を顧みる。あの明るい店員には家事のできる弟がいるという。彼は美弥の同級生だと聞いた。
(弟さんとは、打ち解けられるかな)
姉の不始末を処理させられる者同士、共感する部分は多そうだ。性別の垣根を超えた交流を望める生徒が、同じ学校にいる。そんな稀有な存在がいると思えるだけで、美弥は前途に光明を見つけられる気がした。
タグ:美弥
2017年12月20日
2017年12月21日
サイトについて
ブログを利用して一次創作の小説を載せています。
内容は複雑怪奇というよりは世間でジャンルが確立していない分野かと思います。
人を選ぶ物語ですが、もしハマる方がおられればこれ幸いです。
FREE LINE DESIGN
罫線向けの横長なフリー画像素材があるサイトです。
当サイトでは素材をそのまま使っているもの、加工して使っているものがあります。
クレジット表記はしなくてよいそうですが、個人的な感謝をこめて紹介します。
icooon-mono
フリーのアイコン画像があるサイトです。ダウンロードの際に画像の大きさと色を変更できます。
こちらもクレジット表記はしなくてよいそうですが、個人的な感謝をこめて紹介します。
『十二国記』
小野不由美先生の小説です。
小説の書き方がよくわからないなぁと思った時によく読んでいました。
この作品の存在は昔、アニメで知りました。原作を読んだのはかなり後になって。自分が小説を書くようになるのも(構想は練るわりに)だいぶ遅かったです。
多少、当サイトの小説が似てる部分はあります。作品ごとに主人公が異なるとか。こちらの世界の生き物でない人物がこちらに住んでいるとか。
現在掲載している物語は十二国記でいうところの『魔性の子』みたいなものです。話の方向性や登場人物の種類などはまるっきり違いますけど。
ほかにも活用または参考にしたサイトや作品はあります。
上記のものが特別に、自分の思いにピッタリくるので記載しました。
内容は複雑怪奇というよりは世間でジャンルが確立していない分野かと思います。
人を選ぶ物語ですが、もしハマる方がおられればこれ幸いです。
Special thanks to
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こちらもクレジット表記はしなくてよいそうですが、個人的な感謝をこめて紹介します。
『十二国記』
小野不由美先生の小説です。
小説の書き方がよくわからないなぁと思った時によく読んでいました。
この作品の存在は昔、アニメで知りました。原作を読んだのはかなり後になって。自分が小説を書くようになるのも(構想は練るわりに)だいぶ遅かったです。
多少、当サイトの小説が似てる部分はあります。作品ごとに主人公が異なるとか。こちらの世界の生き物でない人物がこちらに住んでいるとか。
現在掲載している物語は十二国記でいうところの『魔性の子』みたいなものです。話の方向性や登場人物の種類などはまるっきり違いますけど。
ほかにも活用または参考にしたサイトや作品はあります。
上記のものが特別に、自分の思いにピッタリくるので記載しました。
更新履歴
変更点を載せます。が、あまり重要でないと判断した事柄は載せないこともあります。
2/3,お品書きに貼った習一篇4章3〜7のページリンクのずれを修正
2/13,お品書きに貼ったページリンクのずれを修正
3/8,プロフィールにメールアドレスを追加とゲームのオマージュ的文言を撤去
3/9,動的なCSSを一部削除。落ち着きのある表示へ軌道修正
9/1,お品書きの習一篇草稿の項目に、習一篇3章までと共通する場面を掲載。習一篇3章以降は草稿との進行のズレが大きくならない予定
10/6,4つの記事にまたがっていた拓馬篇前記の目次を1つの記事にまとめた。余った記事でクロア篇の裏設定を公開中。メニューのABOUT→未公開設定→クロア篇でも閲覧可
1/1,お品書きの一部を折りたためるようにした
1/26,メニューのリンクミスと抜けを修正。記事番号が一つズレていた
9/30,人外が人外について語る話を掲載開始。他の物語を投稿していない時期に投稿予定
3/5,「拓馬篇の登場人物」を本編1章3まで説明追加。
11/1,拓馬篇*(プロローグの方)を加筆。1200字→1600字
11/30,アンケートを設置→2019年中に撤去
12/8,習一篇草稿*を12/7日付けで投稿
11/1,ブログの体裁を改修する。ファイアアルパカの機能を使ってヘッダー画像を手短に用意した。
11/24,拓馬1を加筆。1100字強→1500字。
「拓馬篇補記」は「拓馬篇前記」に名義変更。理由は想定以上に話数が多くなったため。
12/1,ブログデザインを改装。枠線がにぎやかに。
12/9,見出しの装飾を変更。記事見出しの■はくるくる回る。
12/10,マウスオーバー時のリンクがやや大きくなるよう表示変更。
12/11,ページトップへもどるアイコンを追加。
12/17,プロフィールを加筆。一部ゲーマーにだけわかる表現あり
12/30,メニューにアイコンを表示。ローカルで表示できるVertical-alignがブログでは効かず、悪戦苦闘した。
2021年の分
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2020年の分
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9/1,お品書きの習一篇草稿の項目に、習一篇3章までと共通する場面を掲載。習一篇3章以降は草稿との進行のズレが大きくならない予定
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2019年の分
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9/30,人外が人外について語る話を掲載開始。他の物語を投稿していない時期に投稿予定
2018年の分
3/5,「拓馬篇の登場人物」を本編1章3まで説明追加。
11/1,拓馬篇*(プロローグの方)を加筆。1200字→1600字
11/30,アンケートを設置→2019年中に撤去
12/8,習一篇草稿*を12/7日付けで投稿
2017年の分
11/1,ブログの体裁を改修する。ファイアアルパカの機能を使ってヘッダー画像を手短に用意した。
11/24,拓馬1を加筆。1100字強→1500字。
「拓馬篇補記」は「拓馬篇前記」に名義変更。理由は想定以上に話数が多くなったため。
12/1,ブログデザインを改装。枠線がにぎやかに。
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2017年12月22日
拓馬篇の登場人物
本編の人物紹介は以下のページ内リンクから手早く閲覧できます。
1章から登場
拓馬(前記の拓馬篇1を別窓で読む)
空手家な高校生。姓は根岸。前記の時点では1年生。
地毛の色が明るい。中学以前は教師に染髪の疑惑をかけられることがあった。
才穎高校の規則が染髪OKなので現在は自身の外見に引け目を感じていない。
両親と姉とはほどよく親しい関係を築けている。ペットの犬とも仲が良く、幸福度の高い家庭にめぐまれる。しかし本人は自身を幸せな人間だとはあまり思っていない。
その原因は変な生き物(または死者)が見える体質にある。本人はその力を嫌う。
拓馬が霊視能力を持つと知る者はごく一部。力があっても自分一人でできることはない。
知人に変な生き物が見え、しかも使いこなす警察官がいる。その人には全幅の信頼を寄せる。
◇習一(前記の習一篇1を別窓で読む)
姓は小田切。前記の時点でも高校2年生。所属は雒英(らくえい)高校。
勉強も運動もできて家が金持ちというなんでもそろったスーパーマンのように見えて、家庭事情は複雑。
親とのこじれがもとで現在は他校の三馬鹿不良とつるむ。
最後に加わったメンバーだけれどみんなのまとめ役。ネプ○ューンの名倉さんポジション。
◇羽田校長(前記の校長篇1を別窓で読む)
拓馬の通う才穎高校の校長。この物語で一番のギャグキャラ枠。
男女の純愛を好むスイーツ脳。その趣味のために日夜画策したり情報屋を使ったりしている。
恋愛がからまないところでは人情家な紳士。度量は広い。
妻は恋愛漫画家。才穎に所属していた生徒を題材にする作品もある。
前記では触れていないが、頭髪が部分的にうすい。その特徴と校長の趣味をもじった生徒が「ハゲたことを言う」といった形容詞的ハゲの活用方法を生み出す。
◇八巻(前記の八巻篇1を別窓で読む)
二十代後半の男性教師。拓馬の一年生夏休みの期間中に交通事故を起こし、ケガの治療中。
事故に遭った時の記憶があいまいになっているが、不思議な人に助けられたことは覚えている。
入院中に枕元にあらわれた謎の美女が助けてくれたのだと思いこみ、彼女にご執心。
同僚の女性教師や女子生徒とは一線を超えてはならないと考える硬派。その影響もあって出会いに恵まれず、謎の美女が運命の人だと思うふしがある。
彼自身の体格と顔つきが美形の範疇にあっても、性格が変人に片足ブっこんでるせいで女性経験はない。
◇実澄(前記の実澄篇1を別窓で読む)
才穎高校に通う女子生徒の母親。家事と手芸が得意な主婦。
50歳近くでいながら若々しい美人。わりと異性にもてるが長年夫一筋をつらぬく。
過去の経験により、おさない子どもへの庇護欲や執着が強い。
困っている人は見捨てられないお人好し。その性格が幸も不幸も呼ぶ。
作中に奇妙な青年と出会う。彼との接触が今後の物語の展開に関わっていく。
◇新人(前記の新人篇1を別窓で読む)
二十代後半の男性。姓はデイル。警備員の仕事をしていたが、このたび才穎高校の教師になろうとする。
両親が帰化したアメリカ人で、名前が横文字なのに本人は日本国籍というややこしい事情の人。
身体能力はかなり高い。見てくれ良しで頭もそれなりに切れるといいとこずくめだが、それには理由がある。
彼の視点でも謎は満ちたまま。あきらかになるのは拓馬篇本編の終盤。
◇美弥(前記の美弥篇1を別窓で読む)
才穎高校に転入する女子。以前はお嬢さまが通うような品格も授業料もお高い学校に所属していた。
といっても本人はお嬢さま気質ではない。むしろ学校になじめなかった。
転入理由は芸能人の姉が起こした不祥事にある。姉は清く正しく生きていたのだが罠にはめられた。
そのこともきっかけで現在は男性不信の絶頂期。かわいい顔して、出会う男みんなに刺を飛ばす。
とりあえず見た目が女ならオカマはOKらしい。
1章から登場
◆根岸拓馬
本編の主視点者。詳細は当記事のトップのほうに有り。
周囲の身内にふりまわされた結果、貧乏くじを引くことが多い。
この物語もつまるところ、受けなくてもいい被害を拓馬が受けている。
◆本摩
才穎高校の男性教師。担当教科は英語。
二年生になった拓馬たちの担任を務める。気苦労と加齢の影響で白髪が多め。
面倒事を起こす生徒たちのことを心配するが、強くは引き止めない。そこに彼らなりの正義があるからだと信じている。
◆ヤマダ
才穎高校の女子生徒。拓馬とは近所にすむ幼馴染同士。
「ヤマダ」がカタカナ表記のわけは、これが本名でないから。本姓は小山田。
下の名前が一風変わった名なのを気にして、周囲には名字かそのあだ名で呼ばせている。しかし一部の人から下の名前あるいはそのあだ名で呼ばれる。
母親の意向のしたがい、髪を長く伸ばす。いつもポニーテールに結っている。
母親は娘をしとやかな子にしようと努め、そのおかげで素養は大和撫子らしくなった。が、本質はエキセントリックに育つ。
拓馬の同級生の中では唯一彼の霊視能力を知る友人。ヤマダ自身に無害な変なやつが憑りついている。
◆ジモン
才穎高校の男子生徒。拓馬とは高校以前からの友人。
本名が本人の人柄と合わないという理由からあだ名で呼ばれる。
体格がよくて力持ち。気は優しいが「大ざっぱなだけ」だと実母に評価される。
口調がジジくさい原因は祖父の影響。父親不在につき祖父が彼の父代わりとなる。
実家はお好み焼屋を経営している。たびたび家業を手伝う。
同じ店にヤマダの父が勤務しており、他人でありながら娘以上に仲がいい。
◆仙谷三郎
才穎高校の男子生徒。拓馬とは高校で知り合った友人。
この人がいると話が広がるという中心人物。でもここでは脇役。
文武両道の剣道部員。同じ部員のジモンと仲がいい。
一年生の時から執行部に所属したり体育祭で活躍したりと露出が多く、女子に人気がある。ところが女っ気はまるきりない。本人は近所にはびこる悪を正すことに夢中で、色恋にふける暇がない。
拓馬にとってはいろんな面倒ごとを押しつけてくる疫病神。それは善意ゆえの行動なので友情は保っている。
警察官の姉がおり、そこから拓馬の知人のシズカのことを「仕事の出来る人」と認識している。
◆羽田校長
才穎高校の校長。おでこの面積の広い中年男性。
表向きは生徒への理解あふれる教職員をふるまう。本性は清い異性交遊を見物したい物好き。
ヤマダのことを好敵手だと思っている。そのきっかけは彼女が恋愛フラグを乱立すること。
ヤマダ自身はフラグブレイカーなのでだれともくっつかない。それにもめげず間接的なちょっかいをかけつづける。
あくまでもプラトニックな愛を好み、不純な関係は弾圧する傾向にある。
◆野依千智
才穎高校の女子生徒。三郎とは幼馴染。
女子人気の高い三郎との距離が近いことから、校長からは三郎の恋人候補として見られた。それが嫌で他校の男友達を恋人として偽装中。
校長のことをめんどくさく思っているが、恋愛話自体は彼女も好き。ミーハーな面もある。
陸上部に所属しており、運動神経と脚力には自信がある。その運動能力の影響でか気が強い。
※本編の登場人物は適宜追加していきます。
1章から登場
前記の主視点者
拓馬(前記の拓馬篇1を別窓で読む)
空手家な高校生。姓は根岸。前記の時点では1年生。
地毛の色が明るい。中学以前は教師に染髪の疑惑をかけられることがあった。
才穎高校の規則が染髪OKなので現在は自身の外見に引け目を感じていない。
両親と姉とはほどよく親しい関係を築けている。ペットの犬とも仲が良く、幸福度の高い家庭にめぐまれる。しかし本人は自身を幸せな人間だとはあまり思っていない。
その原因は変な生き物(または死者)が見える体質にある。本人はその力を嫌う。
拓馬が霊視能力を持つと知る者はごく一部。力があっても自分一人でできることはない。
知人に変な生き物が見え、しかも使いこなす警察官がいる。その人には全幅の信頼を寄せる。
◇習一(前記の習一篇1を別窓で読む)
姓は小田切。前記の時点でも高校2年生。所属は雒英(らくえい)高校。
勉強も運動もできて家が金持ちというなんでもそろったスーパーマンのように見えて、家庭事情は複雑。
親とのこじれがもとで現在は他校の三馬鹿不良とつるむ。
最後に加わったメンバーだけれどみんなのまとめ役。ネプ○ューンの名倉さんポジション。
◇羽田校長(前記の校長篇1を別窓で読む)
拓馬の通う才穎高校の校長。この物語で一番のギャグキャラ枠。
男女の純愛を好むスイーツ脳。その趣味のために日夜画策したり情報屋を使ったりしている。
恋愛がからまないところでは人情家な紳士。度量は広い。
妻は恋愛漫画家。才穎に所属していた生徒を題材にする作品もある。
前記では触れていないが、頭髪が部分的にうすい。その特徴と校長の趣味をもじった生徒が「ハゲたことを言う」といった形容詞的ハゲの活用方法を生み出す。
◇八巻(前記の八巻篇1を別窓で読む)
二十代後半の男性教師。拓馬の一年生夏休みの期間中に交通事故を起こし、ケガの治療中。
事故に遭った時の記憶があいまいになっているが、不思議な人に助けられたことは覚えている。
入院中に枕元にあらわれた謎の美女が助けてくれたのだと思いこみ、彼女にご執心。
同僚の女性教師や女子生徒とは一線を超えてはならないと考える硬派。その影響もあって出会いに恵まれず、謎の美女が運命の人だと思うふしがある。
彼自身の体格と顔つきが美形の範疇にあっても、性格が変人に片足ブっこんでるせいで女性経験はない。
◇実澄(前記の実澄篇1を別窓で読む)
才穎高校に通う女子生徒の母親。家事と手芸が得意な主婦。
50歳近くでいながら若々しい美人。わりと異性にもてるが長年夫一筋をつらぬく。
過去の経験により、おさない子どもへの庇護欲や執着が強い。
困っている人は見捨てられないお人好し。その性格が幸も不幸も呼ぶ。
作中に奇妙な青年と出会う。彼との接触が今後の物語の展開に関わっていく。
◇新人(前記の新人篇1を別窓で読む)
二十代後半の男性。姓はデイル。警備員の仕事をしていたが、このたび才穎高校の教師になろうとする。
両親が帰化したアメリカ人で、名前が横文字なのに本人は日本国籍というややこしい事情の人。
身体能力はかなり高い。見てくれ良しで頭もそれなりに切れるといいとこずくめだが、それには理由がある。
彼の視点でも謎は満ちたまま。あきらかになるのは拓馬篇本編の終盤。
◇美弥(前記の美弥篇1を別窓で読む)
才穎高校に転入する女子。以前はお嬢さまが通うような品格も授業料もお高い学校に所属していた。
といっても本人はお嬢さま気質ではない。むしろ学校になじめなかった。
転入理由は芸能人の姉が起こした不祥事にある。姉は清く正しく生きていたのだが罠にはめられた。
そのこともきっかけで現在は男性不信の絶頂期。かわいい顔して、出会う男みんなに刺を飛ばす。
とりあえず見た目が女ならオカマはOKらしい。
本編の登場人物(上記人物ふくむ)
1章から登場
◆根岸拓馬
本編の主視点者。詳細は当記事のトップのほうに有り。
周囲の身内にふりまわされた結果、貧乏くじを引くことが多い。
この物語もつまるところ、受けなくてもいい被害を拓馬が受けている。
◆本摩
才穎高校の男性教師。担当教科は英語。
二年生になった拓馬たちの担任を務める。気苦労と加齢の影響で白髪が多め。
面倒事を起こす生徒たちのことを心配するが、強くは引き止めない。そこに彼らなりの正義があるからだと信じている。
◆ヤマダ
才穎高校の女子生徒。拓馬とは近所にすむ幼馴染同士。
「ヤマダ」がカタカナ表記のわけは、これが本名でないから。本姓は小山田。
下の名前が一風変わった名なのを気にして、周囲には名字かそのあだ名で呼ばせている。しかし一部の人から下の名前あるいはそのあだ名で呼ばれる。
母親の意向のしたがい、髪を長く伸ばす。いつもポニーテールに結っている。
母親は娘をしとやかな子にしようと努め、そのおかげで素養は大和撫子らしくなった。が、本質はエキセントリックに育つ。
拓馬の同級生の中では唯一彼の霊視能力を知る友人。ヤマダ自身に無害な変なやつが憑りついている。
◆ジモン
才穎高校の男子生徒。拓馬とは高校以前からの友人。
本名が本人の人柄と合わないという理由からあだ名で呼ばれる。
体格がよくて力持ち。気は優しいが「大ざっぱなだけ」だと実母に評価される。
口調がジジくさい原因は祖父の影響。父親不在につき祖父が彼の父代わりとなる。
実家はお好み焼屋を経営している。たびたび家業を手伝う。
同じ店にヤマダの父が勤務しており、他人でありながら娘以上に仲がいい。
◆仙谷三郎
才穎高校の男子生徒。拓馬とは高校で知り合った友人。
この人がいると話が広がるという中心人物。でもここでは脇役。
文武両道の剣道部員。同じ部員のジモンと仲がいい。
一年生の時から執行部に所属したり体育祭で活躍したりと露出が多く、女子に人気がある。ところが女っ気はまるきりない。本人は近所にはびこる悪を正すことに夢中で、色恋にふける暇がない。
拓馬にとってはいろんな面倒ごとを押しつけてくる疫病神。それは善意ゆえの行動なので友情は保っている。
警察官の姉がおり、そこから拓馬の知人のシズカのことを「仕事の出来る人」と認識している。
◆羽田校長
才穎高校の校長。おでこの面積の広い中年男性。
表向きは生徒への理解あふれる教職員をふるまう。本性は清い異性交遊を見物したい物好き。
ヤマダのことを好敵手だと思っている。そのきっかけは彼女が恋愛フラグを乱立すること。
ヤマダ自身はフラグブレイカーなのでだれともくっつかない。それにもめげず間接的なちょっかいをかけつづける。
あくまでもプラトニックな愛を好み、不純な関係は弾圧する傾向にある。
◆野依千智
才穎高校の女子生徒。三郎とは幼馴染。
女子人気の高い三郎との距離が近いことから、校長からは三郎の恋人候補として見られた。それが嫌で他校の男友達を恋人として偽装中。
校長のことをめんどくさく思っているが、恋愛話自体は彼女も好き。ミーハーな面もある。
陸上部に所属しており、運動神経と脚力には自信がある。その運動能力の影響でか気が強い。
※本編の登場人物は適宜追加していきます。