『グレート・リセット』
(グレート・リセット)
[経済・金融]
◆グレート・リセット―新しい経済と社会は大不況から生まれる
リチャード・フロリダ 、 仙名紀
◆グレート・リセット ダボス会議で語られるアフターコロナの世界 (日本語) 単行本(ソフトカバー)
クラウス・シュワブ (著), ティエリ・マルレ (著), & 4 その他
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『『グレート・リセット』とは』
■『グレート・リセット』とは■
「私たちはいま地殻変動のさなかにいて、まったく新しい経済秩序に突入する。それは(19世紀の)農業経済から工業経済へ移行したような大変革で、今回は工業経済からアイデアに基づいたクリエイティブな経済に移行する」(リチャード・フロリダ)
定冠詞をつけた「the Great Reset」
『グレート・リセット』とは米国の「クリエイティブ都市論」で知られる社会学者、リチャード・フロリダの著作のタイトル。また、来年、2021年1月に開催される世界経済フォーラム(WEF)の年次総会「ダボス会議」のテーマ、それも「グレート・リセット」です。
【追記あり 記事の最後】
後者についてはすでにこのブログで記事にしたので、ここでは前者について、書いていきましょう。
●日本は経済と社会をリセットできるか | ちえのたね|
詩想舎 https://society-zero.com/chienotane/archives/8791
この著書の副題は「新しい経済と社会は大不況から生まれる」。すなわち2008年のリーマンショックに始まる不況を名指して、産業革命以降の資本主義の時代における三度目の「グレート・リセット」の時期に入ったのだとしています。
一度目が1870年代に始まる「大不況(Great Depression)」、二度目が1930年代からの「大恐慌(The Great Depression)」。
そして今度が、定冠詞をつけた「the Great Reset」です。
前回記事に書いたように、資本主義体制はリーマンショック以降変貌を遂げつつあり、その変化がコロナ禍で加速される、との見立てが出ています。
◆「グレート・リセット」とは◆
フロリダの言う「グレート・リセット」とは、経済社会秩序の幅広い根本的な変革を指します。つまり、狭義の経済・金融の枠内の話ではありません。経済状況の再編であり「経済史の転換点」となる時期に該当する、という主張です。そこでは、
・欲求や必要性が変化し、それとともに消費性向が変わります
・システムやインフラが新しいものへシフトします
・人々の価値観(何をかっこいい、望ましいと思うか)が刷新されます
さらに著者の主張をポイントアウトすると
1.「グレート・リセット」には30年ほどの時間が必要
2.今回の The Great Reset は、 The Great Depression (大恐慌)より Great Depression (大不況)に近い。それだけ徹底した変化・シフトが起きるだろう
3.メガ都市がこの変化・シフトの中心地となるだろう
4.メガ都市は、タレント(教育・技能の水準)とテクノロジー(科学技術や知識の水準)のほかに、トレランス(異質なものに対する寛容度)により特徴づけられる地域でなければならない
・クリエイティブ・インデックス
(クリエイティブ・クラスの人材育成こそ、国と企業の競争優位の原動力となる リチャード・フロリダ トロント大学 教授 https://www.dhbr.net/articles/-/5309 )
マルクスが亡くなった年に生まれた理論経済学者シュンペーターは、「創造的破壊」を唱えています。つまり、経済危機が起こると、古い形態の企業や時代遅れの経済システムや習慣が駆逐され、新たなテクノロジー、新たなシステム、新たな産業が立ちおこり、新たな時代が始まる、というのです。この、「不断に古きものを破壊し新しきものを創造して,絶えず内部から経済構造を革命化する産業上の突然変異」を具体化するのが起業家で、彼は「一見、関係なさそうな事柄を結びつける思考(クレイトン・クリステンセン)」に長け、それが時代を画期する「イノベーション」へとなっていくわけです。
ここでイノベーションが単に技術上の出来事だけにとどまらない、という点が重要です。交通システムや好まれる住宅のパターンに変化が生じ、さらに暮らし方や働き方にまで変化が及び、生活のすべてが様変わりするのが「グレート・リセット」です。
フロリダは1930年代からの「大恐慌(The Great Depression)」より、1870年代に始まる「大不況(Great Depression)」に、今回の「グレート・リセット」は近いものとなろうとしています。
そこでGreat Depression をモデルに、いかに「新しい経済と社会は大不況から生まれ」たかを見ていきましょう。
大不況(Great Depression)はベルエポックの時期へ重なる
1870年代に始まる「大不況(Great Depression)」は、1873年から74年にかけて、まずアメリカ合衆国での金融逼迫、鉄道建設の衰退として発生しました。その後ドイツにおける重工業の不振が顕在化し、ついでギリス産業の過剰な固定資本の処理の困難、生産力の停滞、物価の低落傾向、利子率の低下へ向かい、19世紀末までのほぼ4分の1世紀にわたる全面的な長期停滞傾向(物価の下落、生産の停滞)となりました。
ただ19世紀末には物価の下落、生産の停滞の傾向に終息が見え始め、ベルエポックへとつながっていきます。
ベルエポックとは最初パリの様子を表現した用語でしたが、その後この時代の西欧の潮流を表わす用語となっていきます。つまりパリをはじめとする近代都市空間で文化と経済の繁栄が謳歌された時期のこと。大衆を巻き込んだ、印象派、象徴主義、アール・ヌーヴォー、キュビスム、フォーヴィズム、ボン・マルシェ百貨店、「オペラ・ガルニエ(オペラ座)」など数々の新しい芸術運動、産業動向をトレンドとして生み出しました。潮流の頂点となった1900年の第5回パリ万国博覧会の開催に向けて、パリの地下鉄(メトロ)が開通した時代でもあります。
(美しき”ベル・エポック(Belle ?poque)”期のパリに、タイムスリップ|エクスペディア https://welove.expedia.co.jp/destination/europe/france/34054/ )
ベルエポックの少し手前、1860年代からパリを起点とした鉄道網が整備され始めます。すると都市の人々は緑豊かな郊外やノルマンディーの海辺へと、気軽に足を運ぶようになりました。その結果生まれたのが印象派の絵画群です。経済学や経済史学が不況、恐慌の単語で表現するこの時代は、同時に新しい生活様式、ニューノーマルの時代でもあったのです。(ちなみに「ニューノーマル」は『グレート・リセット』の第17章のタイトル名です)
まさに「新しい経済と社会は大不況から生まれ」る、ですね。
◆特許/交通革命/新製造システム◆
フロリダはアメリカの研究者なので、特にアメリカの記述が豊富です。
彼は1870年代に始まる「大不況(Great Depression)」の時期、実はアメリカでの特許の件数が突出して増えていた事実をまず指摘します。
そしてこの結果たとえば、内燃機関の開発競争が過熱したのです。それは鉄鋼生産工程での新技術開発に支えられ、鉄道革命を引き起こします。鉄に対する需要とそれに呼応する生産体制への投資熱は、地下鉄、路面電車、上下水道、住宅建設などの都市化といった、目に見える生活全般の変化を引き起こしていきました。アメリカの富裕層がフランスの印象派の絵を競って購入するようになるのがこの時期です。
生産財ばかりでなく消費財でも、交換可能な部品をベースにした生産体制というイノベーションが起きます。「部品」はそれまで、専門の職人が別個にノミやヤスリで作っていました。それが、標準化された、機械で作られる部品にとってかわられたのです。
「アメリカの製造システム」と後に呼ばれるようになる、このモジュール化革命により、様々な製品が低価格化、大衆化していきます。
「(それまで軍需産業でしか試されていなかったものが)時計やポンプにまで応用された。さらに錠前や芝刈り機、タイプライター、電動ノコギリなどに転用され、やがて自転車やエンジンにまで利用された」。
◆インフラ・システムのイノベーション◆
1870年代すでにパリのオペラ通りに電気アーク灯がともっていましたが、まだまだ安定的な運用にほど遠く、大衆的な設備でももちろんありませんでした。送電体制ができていなかったからです。
エジソンはアーク放電を光源に用いたアーク灯から、寿命の長い真空電球を使った電灯へのシフトを決定づけた発明家として知られています。しかし彼は同時に、インフラ・システムのイノベーターでもありました。1882年、都市単位の配電システムを完成させたのはエジソンでした。
白熱電球だけでは、世の中の風景は変わりません。
大規模発電機、送電システムのための銅線、スイッチ、ヒューズ、ソケット、すべてエジソンとその研究所の仲間たちの成果物です。
家電が大衆に普及していくには送電配電システムがなければならず、エジソンはインフラ・システムのイノベーションで、第一次「グレート・リセット」の立役者の一人となりました。しかも彼が、科学と発明を有機的に産業へ結実させるまでのビジョンを持ち合わせていた点が重要です。
(GEとエジソン。時代を変えた10の発明 | GE Reports Japan https://www.gereports.jp/edison-and-inventions/ )
彼の目標は「世界中の男女、子どもたちだれにとっても有益な事柄を、無理のない値段で購入できるよう」にすることでした。
「エジソンは、システムを構築した。彼は発明にあらかたの努力を傾注したが、すべてを一つの大きなビジョンを実現するために結集しようと試みた。その結果、彼は研究・開発・事業展開すべての面で傑出した存在になった。」
◆教育と技能(スキル)◆
1870年代に始まる「大不況(Great Depression)」の時期、つまり第一次「グレート・リセット」のこの時期、労働に求められるニーズが変化します。工場労働者の拡大と同時にエンジニアが、そしてイノベーションを企画、主導する企業家が、必要になってきました。
工場労働者であれば小学校の初等教育が行きわたることで十分かもしれません。しかしエンジニアや企業家には、高等教育が必要です。連邦政府は1862年、1890年の法律制定で高等教育の振興を企図します。この結果、1870年6万3千人であった大学学生数は1900年、23万人にまで増加します。
今回のリーマンショックに始まる第三次「グレート・リセット」の時期も、労働に求められるニーズは変化しています。デジタル化、WEB化、AIなどに象徴される分野への技能(スキル)です。さらにはエジソンが持ち合わせていたビジョンセッティング能力が「グレート・リセット」時代に共通して重要です。
いま必要なのは人々のクリエイティビティを最大限に伸ばす教育システムである。
ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズ、マイケル・デルが学校の寮やガレージでこつこつと事業を興した。なぜこれらの創造的な過程を教育システムの中に組み込めないのか。
教室における学習は、学びのひとつの手段でしかない。
人間は基本的に、何かをすることによって学んでいく。何かを発見したり体験したり結び付けたりというのは、いつでもどこでも可能だ。
学習システムは、私たちに創造性を養う刺激を与えるものでなければならない。
さてここで教育から、第三次「グレート・リセット」に話を戻します。
◆何をかっこいい、望ましいと思うか◆
最近日本で若者がクルマを買わないことが話題になるとき、非正規労働と関連付け、「なんとかこの状況を打破しなければ」という論調が多く見られます。経済的な理由、そういう面がアメリカにもあるでしょう。しかしそれだけでは短見だとフロリダは言います。
クルマの購入はecoの意識からすると決してかっこいいことでも、望ましいことでもない、という意識、価値観の変化にこそ目を向けるべきだと主張しています。
「環境問題を意識するようになったため、マイカーの意味を問い直す人が増えてきた。一世紀あまりにわたってクルマはアメリカン・ドリームのシンボルだったが、いまやアメリカ人のDNAの一部ではなくなった」
ひとりクルマばかりでなく、他のさまざまな家電製品、もっというと住宅でもそうです。
リセットのたびに、暮らし方や労働の形態が変化するし、消費の習慣も変わる。(中略)従来の所有願望は、時代遅れになりつつある。かつて称揚された所有権社会は、皮肉なことに現在では「レンタル社会」に地位を譲りつつある。
こういった人々の価値観(何をかっこいい、望ましいと思うか)の刷新の背景を「非物質化」というキーワードにまとめているのは京都大学大学院経済学研究科教授の諸富徹氏です。
21世紀に入り、資本主義そのものの転機が訪れている、つまり資本の増殖、GDPの成長を旗印にしてきた資本主義が低成長を余儀なくされているのは、「経済が物質から離れ始めたからだ」というのです。
GAFA(グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップル)が提供するサービスに多くの人が心地良さを感じ、それらのサービスが人々にとってなくてはならないものなっています。
根底にあるのは、人々がモノそのものよりも、モノにまつわる快適さ、安全性、デザイン性など非物質的要素に関心を向ける流れにあるのです。
(●コロナ禍で加速、低成長もたらす投資・消費・労働の「非物質化」 https://society-zero.com/chienotane/archives/8791#URL )
ただエコノミストの河野龍太郎氏は、この「知識経済化」の流れに日本社会がうまく対応できていないのではと懸念しています。
「かつて付加価値の源泉は、資本(設備)や土地、労働力などの物的資本にあったが、「知識経済」の下では、無形資産、情報や知識が富を生み出す経済に移行した。
その変化にうまく対応できなかったことが、日本経済の過去30年余りの低迷の原因でもある。」
他方「グレート・リセット」には30年ほどの時間が必要だとフロリダは言いますので、リーマンショックの2008年から数えると、2040年頃。まだ時間はあります。いまから20年後の世界と日本の社会に期待しましょう。
【追記】●2021年のダボス会議延期 新型コロナの影響で - SWI swissinfo.ch https://bit.ly/3gAUn6D
「グレート・リセット」を掲げたダボス会議、それ自身が「リセット」されてしまった。新型コロナが理由だ。そもそも新型コロナで世界が「リセット」されることを見越して、あるいはテーマ化すべきことを想定していたのだが、皮肉だ。
イベントがいつ、どこで行われるかは、明らかではない。
専門家によると来年1月に開催するには危険だが、主催者は同年初夏に開催する可能性が高いと言う。
詳細は「参加者と主催者のコミュニティの健康と安全を保証するために、すべての条件が満たされていることが保証され次第、すぐに」発表される予定だ。
ちえのたね|詩想舎さんのサイトより
https://society-zero.com/chienotane/archives/8822
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http://blog.livedoor.jp/genkimaru1/archives/2153815.html
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