ニューヨーク在住で市民権を持つ作家の新元良一さんが、一人の有権者として感じ、考えた米国社会の「今」をリポートします。
「お前は首だ!」と参加者に言い放つ。
そんな姿でファンを獲得し、これを足掛かりに政界へ進出して、大統領の座迄上り詰めたのがトランプ。
融和や妥協を一切許さず、政敵を作り、激しい対決姿勢を示す政治スタイルを貫いてきた。
そんな彼に対して、バイデンやヒラリー・クリントンと言った大統領選の相手候補は、敵意を剝き出しにして彼に立ち向かい、分断が更に深まる。
このパターンが長く続いた。
ニューヨーク・タイムズは先日、2010年代は政治などの権威に怒りを示す抗議運動が活発化し、トランプがこの機運に上手く乗じたと分析した。
私が疲れを感じたのは、正にこの為だった。
特定の人物や団体を忌み嫌ったとしても、その気持ちを維持するのは精神衛生上良くない。
心が荒んでくる。
所がハリスが民主党の大統領候補になって、こうした対決一辺倒の空気が幾分変わった。
けれど唯憎み、貶めるのではなく、例え価値観や政治信条が違っても、同じ米国人と認める。
これを寛容の精神と位置付けるなら、現時点で米国の社会はそこまで達しておらず、ハリスの政治姿勢は、そうしたものが広がる兆しと呼ばれる程度だろう。
だが少なくとも、トランプが政治の世界に登場して以降感じる事ができなかった何かを、私は感じる。
憤慨の社会が続くのか。
立場を異にする相手との共存の社会が到来するのか。
今回の選挙で何方の米国を選ぶのか。
時代の行方は市民が鍵を握っている。
米国社会の「今」 作家 新元 良一 1959年神戸市生まれ。 リセ・ケネディ日本人学校校長。
84年に米ミューヨークへ移住、2006年に日本に帰国し、
京都造形芸術大(現京都芸術大)の教授を務めた。
16年に再び渡米し、以来ミューヨークを拠点にしている。
主な著書に「あの空を探して」「翻訳文学ブックカフェ」。
愛媛新聞 文化から
分断は良くない。