フィクションなノンフィクション

☆常識摩擦　その�@☆からの続きです++++++

自分より年配者を敬うという儒教思想の強い国で育った彼女は、
1歳だけ年上のあたしに対しては、割と素直に話を聞いてくれるものの、
年下の同僚の言うことには言い訳や自分の意見を押し通そうとしたりで、
なかなか態度が改まる気配がなかった。
彼女がここまで態度を改めない理由は、社長のある言動が関係していた。

彼女の採用が決まる1年前だったと思うが、
彼女は一度転職エージントの紹介でこの会社へ面接に来たことがあった。
その際、社長は彼女への印象は非常に良かったため、前向きに採用を検討していたが、
その頃営業や生産企画では人手が足りていたので、結局採用を見送った。
唯一人手の足りていないのは受付事務だったのだが、彼女が希望しなかったらしい。
実は当時のあたしは設計書や企画書作成や、検品作業などの専門職業務と、
隙間時間に同チーム内の営業事務をこなしていて、若干オーバーワーク気味ではあった。
普段からみんながあまり申請しない有休を取得したり、残業も少なかったから、
(※本人は余裕なく必死でパソコンに向かっているんだけど、そう思われていた……)
周りからは『コイツ一人だけ何でこんなに余裕なの？』と思われていたらしく、
社長とのボーナス査定面談の時に業務内容を話したら、かなりびっくりされた。

確かに在庫管理などにもっと重点を置きたいと考えてはいたものの、
どうしても新規の案件を優先せざるを得ない状況だったことは、紛れもない事実。
チーム内で事務経験のある女性を求人したいことを社長に告げると、
社長は「以前面談した○○さんはどうだろう？」と嬉しそうに彼女の名を挙げた。
半ば強引に自ら彼女に電話をかけて、是非働いてほしいと声をかけたのだった。
彼女が"ちょうど"今求職中でしたと、二つ返事で快諾したという。
この社長の声掛けが、彼女を勘違いさせてしまったらしい。
社長直々に彼女へ電話して入社を依頼したことから、
彼女はいわゆる『ヘッドハンティング』だと思ったのだろう。

いざ会社へ入ってみたら、彼女も拍子抜けしたに違いない。
口では『なんでもやります！』と言いながらも、実際は裏方仕事ばかりで、
何故わたしが……？と彼女なりに思うところはあったようだ。
ただ、同僚やあたしにしてみれば、彼女にまわす仕事だって当然重要だし、
専門知識も営業経験も少ない彼女に、突然大きな仕事を頼めるはずもない。
同僚もあたしも、頼めるものならもっと大きな仕事を頼みたかったのだ。
でも、彼女はいつまでも年下同僚の指摘を素直に聞かないし、
いつまでも自分は特別優遇されているという勘違いも続いていた。

あたしが時間を見つけて、経験者である彼女に専門的な部分も教えていた。
前職での勤務経験を考えると、彼女にも多少なりともその分野の知識があるはずなのだが、
彼女はどうも経験者の仮面をかぶった素人かもしれない……と思わされることになった。
経験者だからと、基礎知識ありきで説明を進めていたが、彼女はわからないという。
何故彼女がわからないと言うのか理解できないあたしと、彼女とで、苦笑し合うしかなかった。
彼女へは当面営業事務の仕事をしてもらうしかないな……と思って、上司に報告した。
上司も、隣で聞いていた同僚も『え、経験者じゃないの？』と驚いていた。
地道に指導していきます……としか言えないあたしも、そろそろお手上げだった。
振った仕事は間違いだらけ、企画書用の写真もとても客先に見せられない−−
これ以上、彼女のフォローするのは自分の業務に支障をきたしかねなかったからだ。

社長は彼女の何を評価して、採用に踏み切ったのか。
あたしだけでなく、同僚も、上司も同じことを同じ疑問を持つようになった。
あたしには何も言わないが、同僚にミスを指摘されるたびに、
イライラするようになっているのは、見ていれば分かるほどに変わって来た。
フォローとして「わからない事は自分で判断しないで、質問したほうが早いよ」と言うと、
あたしが質問攻めにあうようになり、あたしから同僚に質問することになった……
しかし、間にあたしが入ることで同僚も彼女もイライラは軽減されたらしい。
しばらくは、この方法で何とか進めていたが、とうとう彼女は社長の逆鱗に触れることになる。

その�Bへ続きます→→