2023年01月09日
蟲毒
蟲毒とは洒落怖のひとつである。
【内容】
台湾人Fとは、彼が日本語勉強で日本滞在中に友達になりました。
アメリカで教育を受け、父親は台湾の銀行の重鎮、お姉さんは結婚してカリフォルニア在住、当時は台湾に戻っていたお兄さんはハーバードビジネススクールの講師という、超エリート集団なおうちの人でした。
彼自身、大学卒業後は台湾に戻り、自分で出版版権のエージェントの会社をおこし、日本のアニメやマンガの版権を扱う仕事をしていました。
市議との関係上、年に数回日本に来日していた彼とはそのときどきに会い、日本のアニメ・マンガの情報を流しつつ、いろんな話をしていました。
枯葉日本語、私は英語と、お互いの語学の勉強向上もあって、私たちはけっこう仲良しでした。
ある時、その日本出張に、日本のコロコロコミックの版権を持つ出版社の社長と編集といっしょに、自分のガールフレンドを連れてきました。
つきあっている人がいるが、諸事情で一族全部からつきあいを反対されていると話にでていた彼女。細くて小さくて、俗に言う「守ってあげたい系」の女性でしたが、感じの悪くなく、ごくごく普通の人でした。
ひとつ、幼い頃にポリオ(小児麻痺)にかかっていたため、片足が不自由で、妊娠は無理だと医者から言われているということを除けば、外国人の私には、なぜ結婚を反対されているのかわかりません。
その時の彼女は、彼が最初に勤務した出版社に勤務していて、その時の来日も仕事がらみでした。
重い口調で結婚を反対されていることを話す彼の様子に、なんでそこまで暗くなるのかよくわからないけど、大変なのねーとうことだけの理解で私は終っていました。
その年の12月。
台湾に遊びに来いという彼からの再三の誘いに応じ、私は友達と三人で台北に旅行に行きました。
基本的にひとりで海外大丈夫な私なのですが、行く前から彼が異様に盛り上がり、私たちの日程をきれいに決めてしまい、私たちがやりたいこと、行きたいところを網羅したスケジュールをファックスしてきていたり。
じゃあおまかせしましょうよと、私と友人二人、MとYは何も考えずに台北いりました。
ホテルで待っていてくれていたFは、早速私たちを地元で有名な北京ダックの店に連れていってくれました。
そこで、Fの恋人の彼女が待っていました。
私たちは楽しくおしゃべりしながら、夕食を終え、次の日からスケジュールを打ち合わせしました。
それから、彼の家族、友人関係が同行しないときは、必ず彼女も同行しました。
よく時間あるよなぁと思った友達Fがそれを問うと、彼女はすでに仕事をやめ自宅におり、生活の面倒はすべて彼がみているとのこと。
しかし、相変わらず彼の両親や知己はそのつきあいを反対しているとのことでした。
なぜそこまで執拗に反対されてるのかということを別の友人が訪ねると、「彼女は客家だし、ガイショウの日緒(ネイティブな台湾人ではない、中国本土からきた一族)だから」という理由が返ってきました。
それで、彼の一族やら友達までがそこまで騒ぐもんかねーと私たちは思いましたが、まぁ、個人のプライバシーにかかわる話ですし、文化や習慣の違う国のこと。わからないこともあるでしょうと、それで納得していました。
二日目の夜、私たちは彼のお兄さんとその恋人をまじえて、おしゃれな台湾料理の店で大盛り上がりしました。
お兄さんの恋人のエミリーが、私の耳元で「Fの恋人に会った?」と聞くので、「かれがいるときはほとんど彼女もいるよ」と答えると、エミリーは一瞬驚いた顔をして、
「彼らがつきあいを反対されている話、知ってる?」
と私にたずねました。
知ってるけどどうしてだかは知らないと答えた私に、エミリーは「彼女の一族に問題があるのよ」とだけつぶやきました。
その後、お茶しに行こうと通りを歩いていると、突然Fが顔色を変えて駆け出しました。
通りの向こうから、彼女が歩いてきました。
待ち合わせしていたの?と聞いた私に、Fは「偶然」と答えましたが、私はエミリーの顔色が変わり、にぎやかだった彼のお兄さんが口をつぐんでしまったことを、私と友人ふたりは不思議に思いました。
当然のように私たちにジョインしたFの恋人は、今日は何をしていたの?と屈託なく私たちに話かけます。
場は、妙にシラケていました。
最後まで彼女の毒気にあてられながらも、無事帰国した私たちは、「ま、恋人の女友達にちょっと嫉妬はいっちゃってたってことで」と、自分たちで勝手にケリをつけて、楽しかったことだけはおぼえているような状態になった、年明けの2月。
在る時から私、身体が重くてかったるくて、朝、起き上がることができないという日々が続きました。
これが本当にどうにもこうにも具合が悪い。
あまりにだらだらとそれが続くので、精密検査に行きましたが、異常なし。
おかしいなぁ、なんなんだろうと思って少しして、Yから電話が入りました。
「泉ちゃん、Fの恋人からもらったカード、どうした?」
そう、私たちは旅行二日目に、彼女からパウチッコした観音様のような感じの女性の絵をそれぞれ、もらっていたのでした。
仏教の勉強をしていて、そこで買ったのよと、イタリアンレストランで彼女から笑顔で渡されたそのカード。
実は私、家族がそういう宗教関係のものを人からもらうのをひじょうにいやがり、年明け早々川崎大師の護摩焚きの際に、他の札といっしょに火にいれてしまっていたのでした。
どうにもこうにもそれを言いにくくて、もがもがしていたら、「まだ持ってるんだったらすぐ近くのお寺か神社にもっていって、処分してもらって」とY。
何をそこまで言い出すの?と聞く私にYが話したこと。
私の背筋が凍りました。
年明けから、いきなり不正出血が始まったY。
医者にいったが原因不明。それでも止まらず、ひどい貧血状態になっていました。
自分も刃物関係を扱う仕事のY、普段から鬼門にお清めのお塩を欠かしたことがありませんでした。
そうだ、Fの恋人からもらったお札が確か神様系だったなぁと思い出し、何気なくお清めのお塩のそばにその札を置いて寝ました。
朝起きて、玄関に新聞をとりにいったYは、蒼白になりました。
札の横で、清めの塩がきれいにとけていたのです。
真冬の2月に。
恐ろしくなったYは、友達に同行してもらって、その塩をつくっているお寺に行き、住職のその札を見せました。
住職がその札を持ったその瞬間、
「う!!」
と声をあげた住職の鼻から、だらだらと血が流れてきました。
Yはその瞬間、貧血で失神そうになったそうです。
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