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2022年11月24日

付きまとう女 7



思いにふけっていた俺の耳に、窓の縁から何かが張り付くような音がした。
音の方向に眼をやると、俺の瞳孔は一気に開いた。
人の手が窓の向こう側に張り付いている。
ここは地上20階。ベランダも無い。人が立てるような場所ではなかった。
そんな場所に人の手がある。俺はジョンの名を叫んだ。
その瞬間、ジョンは俺の前に立ちふさがり、「窓から離れてください!!」と叫んだ。
ジョンは携帯を取ると、どこかに電話し始めた。
俺は窓の手から視線を外せずにいた。

「大丈夫です。俺が居ます。この部屋の中には入って来られません」

震える俺にジョンはそう言った。
その時、ゆっくりと手の主が這いずるように動き出す。
俺は手の主の顔を見た瞬間に、頭を撃ち抜かれるような衝撃を喰らい絶句した。
手の主は俺だった。
窓の向こう側に俺が居た。どう見ても俺だった。
俺の頭は完全に真っ白になった。
どうして俺が窓の向こう側に張り付いているんだ。
俺はここに居るのに、窓の向こう側にも俺が居る。俺の頭は完全に混乱した。

「社長、俺です!ジョンです!マズイことになりました!ドッペルゲンガーです!お兄さんのドッペルゲンガーが出ました!俺の眼にも見えます!!今は窓の外に居ます!!はい!!御願いします!」

ジョンの電話先は社長だった。何かを社長に御願いし、ジョンは携帯を切る。

「お兄さん、あいつに絶対に触れないで下さい!!触れたら、俺でも社長でも、お兄さんの命を助けられない!!」

窓の向こう側のもう一人の俺は、激しく狂ったように窓を叩き始めた。
その衝撃音が連鎖するように、部屋中から鳴り響く。

「開けろぉおお!!開けろぉぉおおおお!!」

俺が窓の外でそう叫んでいた。
俺は縮こまりながら、心の中で『止めてくれ、もう止めてくれ!』と何度も叫んだ。
ジョンは「速くしてくれ、速くしてくれ」と呟く。
次の瞬間、ジョンの携帯が鳴り響く。
携帯の着信音に、窓の向こう側の俺は驚いた表情を浮かべると、溶けるように消えていった。

「なんだ!?あれはなんなんだ!?ジョン!?俺が居た!!俺が居たぞ!!」

怒鳴る俺を無視して、ジョンは携帯で話をしている。

「はい、消えました。有難う御座います。はい…はい…分かりました」

俺はもう何がなんだか訳が分からなかった。

ジョンはソファに腰掛けると今起きた事態を説明しだした。

「非常にマズイです、お兄さん。窓の外に居たお兄さんは、あの女、奈々子が作り出した、お兄さんの分身です。あの分身に触れると、確実に死にます。俗に言う、ドッペルゲンガーって奴です。これは、女がお兄さんを本気で殺しに来た証拠です。ドッペルゲンガーの殺傷能力は異常に高いんです。多分あの女は、お兄さんをゆっくり苦しめてから殺すつもりだった。その方が、お兄さんは強い悪霊として育ち、女にとって役に立つからです。でも、俺たちが現れた。だから、早急に殺すことにしたんだと思います。実を言うとお兄さんの中に、社長特性の外野―ウォールを仕込んどいたんです。普通の悪霊なら、身動き一つ取れなくなる奴です。それをあの女は軽々と突破し、お兄さんの分身を造り上げた。更に悪い事に、俺はお兄さんの分身を見ようと思って、見た訳ではありません。あの女に強制的に見せられた。つまり俺も、いつの間にか女に侵入されていたんです。さっきのは、社長に御願いして祓いました。今の俺にはあれを祓う力はありません。俺にとって何よりもショックなのは、夢の中ではなく現実の中で、女があそこまでリアルなお兄さんの分身を造り上げ、俺とお兄さんの中に、同時に具現化したことです。俺はその前触れに全く気付かなかった。女が俺の遥か上の存在だという事を、心底思い知らされました」

呼吸を乱しながら、ジョンは悔しそうな表情でそう言った。
俺の体は、未だに震えが止まらなかった。ジョンの話が、更に俺の恐怖心を煽る。
俺はジョンに怒鳴った。

「じゃあ、どうするんだよ!?」

ジョンは俯いた。

「どうしよう…」

そう言うとジョンは、頭を抱えて塞ぎ込んだ。


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