2022年11月22日
つきまとう女 5
「ここまでで何か質問ありますか?」
若い男はそう言いながら、ノートPCに何かを打ち込んだ。
「何故その悪霊と言うのは、俺に取り憑いたんだ?俺には何の因縁もない女のはずだ」
若い男はひたすらのーとPCのキーボードを叩きながら、質問に答えた。
「取り憑いたのは、たまたま、という表現が適切かもしれません」
「たまたま?偶然ということか?」
「はい。たまたま侵入しやすかった。多分それだけです。本当の目的は、誰でも良いから自分の中に取り込むことだと思います。悪霊は生きた人間を殺して、取り込むことで勢力を拡大させます。お兄さんをベースに、更なるグレードアップを狙っているのでしょう」
「何のために?」
「恐らく、孤独の穴埋め。もしくは、恨みの穴埋め。或いは両方。といったところでしょうか。そんな事しても無意味なんですけどね。むしろ逆効果です。彼女の穴埋めは、永遠に叶わないのです」
「随分自分勝手な、テロリストのような理由だな……。もう一つ疑問がある。君は…」
「ジョンでいいです」
「ジョン?」
「仲間内ではそう呼ばれています。本名が言い辛い名前なので」
ジョンか…。昔、うちで飼っていた犬と同じ名前だ。
「じゃあ、ジョン。さっき君は、社長に俺の除霊を言い渡された時に、頭を抱えて『オーアイガー』と呟いたな。それと、『下手に手を抜けば自分も死ぬ』と言った。それについて説明が欲しい」
「あ、聞こえていたんですか?まぁ、なんと言いますか、正直に言うと、俺の手に負える相手じゃないと思ったんです」
「手に負えない」
「お兄さん、心当たりはありませんか?医者、警察官、看護師の3人の男」
俺は驚いた。こいつら何故そんな事が分かるんだ。
「心当たりは…ある」
「そいつらは、お兄さんの言うキチガイ女が、今まで殺してきた人間です。今では完全に彼女に取り込まれていて、彼等が彼女のファイヤウォールになっているんです」
「殺してきた?」
「そうです。今のお兄さんと同様に取り憑き、苦しめた挙句に殺しました。中でも五社との繋がりが強い。お空悪最初の被害者であり、親子だったのかもしれません」
俺は北海道での出来事を思い出していた。
「俺には手に負えないというのは、その3人が理由です。社長はお兄さんを見た瞬間に、キチガイ女の姿が見える所まで侵入しました。でも俺には、未だに女の姿が見えない。ファイヤウォールである3人を見る所までしか侵入できません」
北海道で見た幻。あの病院内で出会ったあの3人も、あの女に殺されているだと?
「仮に強引に彼らを突破しようとしても、彼ら3人に足止めを食らうでしょう。その隙に女が俺の中に逆侵入し、今のお兄さん同様、俺にも取り憑くでしょう。恐らくそうなれば、俺の命も危ない」
じゃああの時、医者が言った言葉の意味は?奈々子?あの女の名前か?
「方法は考えます。俺にもこの商売に命懸けてますから」
社会的に抹殺?私には無理なんだ?孤独を共有?
俺はいっぺんに不可思議な情報を得てしまった為か、頭が混乱していた。
「お兄さん?どうしましたか?」
ジョンの言葉に我に返る。頭が混乱していた。
「なあ、ジョン。借りにこのまま何もせず放置していたら、俺はどうなる?」
ジョンのノートPCを打つ手が止まる。
「死にますね。事故死、病死、自殺……。俺は予言者じゃないので、その先の死因までは分かりませんが。キチガイ女は、今まで3人も殺めている。非常に危険な女です。殺される可能性は極めて高い…」
俺は頭を抱えた。気が狂いそうだ。
「ジョン…俺が今までにあの女を見たのは2回だ。その時の話をする」
俺はジョンに、北海道での出来事。それと、初めてジョンと出会った日の、夜の出来事を話した。
ジョンは真剣なまなざしで俺の話を聞いていた。
話し終わった後のジョンの第一声は、「予想以上に厄介です」だった。
「そんなに厄介なのか?」
「厄介です…。お兄さん、その病院の中で『これは現実じゃない』という違和感は憶えませんでしたか?」
「違和感は無かった。今でもあれは現実のように感じる」
それを聞いたジョンの顔は、更に深刻な表情に変わる。
「そこまでリアルな病院を、お兄さんの脳に作り上げた。しかも、同時に3人をその場に出している。これは女…奈々子ですか?そいつが、お兄さんの脳をかなり深い部分まで浸食していることと、完全に3人を掌握していることを示しています。相当ですよ、これは」
俺は言葉を失った。不意に底なし沼の深みに陥った気がした。
「お兄さん、正直な俺の感想を言います」
「なんだ?」
「今まで良く生きていましたね」
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