2022年08月19日
リアル 7
S先生「…どうしようかしらね」
俺「…」
S先生「Tちゃん、怖い?」
俺「…はい」
S先生「そうよねぇ。このままって訳には行かないわよねぇ」
俺「えっと…」
S先生「あぁ、いいの。こっちの話だから」
何がいいんだ!?ちっともよかねーだろなんて気持ちが溢れて来て、耐えきれずついにブチ捲けた。本当に人として未熟だなぁ、俺は。
俺「あの、俺どーなるんすか?もう早いとこ何とかして欲しいんです。大体何なんですか?何でアイツ俺に付きまとうんですか?もう勘弁してくれって感じですよ。S先生、何とかならないんですか?」
S先生「Tちゃ…」
俺「大体、俺別に悪いこと何もしてないっすよ!?確かに〇〇(心霊スポットね)には行ったけど俺だけじゃないし、何で俺だけこんな目に遭わなきゃいけないんすか?鏡の前で△しちゃだめだってのも関係あるんですか?ホント訳わかんねぇ!!あーっ!苛つくぅぁー!!」
「ドォ〜ドォルルシッテ」
「ドォ〜ドォルル」
「チルシッテ」
…何が何だか解らなかった。(ホントに訳解んないので取り敢えずそのまま書く)
「ドォ〜。シッテドォ〜シッテ」
左耳に鸚鵡か鸚哥みたいな甲高くて抑揚の無い声が聞こえてきた。
それが「ドーシテ」と繰り返していると理解するまで少し時間がかかった。
俺はS先生の目を見ていたし、S先生は俺の目を見ていた。ただ優しかったS先生の顔は無表情になっているように見えた…。
左側の視界には何かいるってのは分かってた。チラチラ見えちゃうからね。
よせば良いのに、左を向いてしまった。首から生暖かい血が流れてるのを感じながら。
アイツが立ってた。
体をくの字に曲げて、俺の顔を覗き込んでいた。
くどいけど…訳が解らなかった。起きていることを認められなかった。
此処は寺なのに、目の前にはS先生がいるのに…何でなんで何で…。
一週間前に、見たまんまだった。
アイツの顔が目の前にあった。梟のように小刻みに顔を動かしながら俺を不思議そうに覗き込んでいた。
「ドォシッテ?ドォシッテ?ドォシッテ?ドォシッテ?」
鸚鵡のような声でずっと質問され続けた。
きっと…林も同じようにこの声を聞いていたんだろう。俺と同じ言葉をささやかれていたのかは解らないが。
俺は…息する事を忘れてしまって目と口を大きく開いたままだった。
いや、息が上手く出来なかったって方が、正しいな。たまに【コヒュッ】って感じで息を吸い込む事に失敗してた気がするし。
そうこうしているうちに、アイツが手を動かして顔に張り付けてあるお札みたいなのをゆっくりめくり始めたんだ。
見ちゃ駄目だ!!絶対駄目だって分かってるし逃げたかったんだけど動けないんだよ!!
もう顎のあたりが見えてしまいそうなくらいまで来ていた。
心の中では「ヤメロ!それ以上めくんな!!」って叫んでるのに口からは「ァ…ァカハッ…」みたいな情けない息しか出ないんだ。
もうやばい!!ヤバい!ヤバい!ってところで
「バンッ!!」て。
例えとか誇張でもなく飛び上がった。心臓が破裂するかと思った。
「バン!!」
その音で俺は跳び上がった。正座していたから体が倒れそうになりながら後に振り向いてすぐ走り出した。
何か考えてた訳じゃなく体が勝手に動いたんだよね。
でも慣れない正座のせいで足が痺れてまともに走れないのよ。
痺れて足が縺れた事とあんまりにも前を見てないせいで頭から壁に突っ込んだがちっとも痛くなかった。
額から血がだらだら出てたのに…、それだけテンパって周りが見えてなかったって事だな。
血が目に入って何も見えない。手をブン回して出口を探した。けど的外れの方ばっかり探してたみたい。
「まだいけません」
いきなりS先生が大きい声を出した。障子の向こうにいる両親や祖父母に言ったのかお手に言ったのか分からなかった。
分からなかったがその声は俺の動きを止めるには十分だった。
ビクってなってその場で硬直。またもや頭の中では物凄い回転で事態を把握しようとしていた。
っつーか把握なんて出来る筈もなく、S先生の言うことに従っただけなんだけどね。
俺の動きが止まり、仏間に入ろうとする両親と祖父母の動きが止まった事を確認するかのように少しの間を置いてからS先生が話を始めた。
S先生「Tちゃんごめんなさいね。怖かったわね。もう大丈夫だからこっちに戻ってらっしゃい。Iさん、大丈夫ですからもう少し待って下さいね」
障子(襖だったかも)の向こうからしきりに何か言っているのは聞こえてたけど覚えてない。血を拭いながらS先生の前に戻ると手拭いを貸してくれた。お香なのかしんないけどいい匂いがしたな。ここに来てやっとあの音はS先生が手を叩いた音だって気付いた。
(質問出来る余裕は無かったけど)
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