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2022年05月06日

危険な好奇心8



その日から慎と帰ることになった。

その日は学校で噂の『トレンチコート女』(推定・中年女)には会わなかった。
次の日も、その次の日も会わなかった。
しかし、学校では相変わらず【トレンチコートの女】の噂は囁かれていた。
慎と一緒に下校することになり五日目、俺達は久しぶりに淳の見舞いに行くことにした。
お土産に給食のデザートのオレンジゼリーを持って行った。
淳の家に着き、チャイムを押した。いつもの様に叔母さんが明るく出て来て俺達を中に入れてくれた。
淳は相変わらず元気が無かった。ジンマシンはだいぶ消えていたが、淳本人は

『横腹の顔の部分が日に日に大きくなっている。』

と言っていたが、俺と慎には全く解らなかった。むしろ、前回見たときよりマシになっているように見えた。
精神的に淳はショックを受けているのだろう。
俺達は学校で流れている『トレンチコートの女』の噂は淳には言わなかった。
帰り間際に淳のおばさんが俺達の後を追い掛けて来て、『淳、クラスでイジメにでも合っているの?』と不安げな顔で聞いて来た。
俺達は否定したが、本当の理由を言えないことに少し罪悪感を感じた。

それから三日後、その日は珍しく内藤と佐々木と俺と慎の四人で下校した。
内藤は体がデカく、佐々木はチビ。実写版のジャイアンとスネ夫みたいな奴ら。
もう俺と慎の中で『中年女』の事は風化しつつあった。学校で噂の『トレンチコート女』も実在したとしても、全くの別人と思えて来ていた。

その日は四人で駅前にガチャガチャをしに行こうと言う話になり、いつもと違う道を歩いていた。
これが間違いだった。

楽しく四人で話しながら歩いていると、佐々木が『あ、あれトレンチコート女ぢゃね?』
内藤『うわっ!ホンマや!きもっ!』と言い出した。
俺はトレンチコート女を見てみた。心の中で《別人であってくれ》と願った。

トレンチコート女はスーパーの袋を片手に持ち、まだ残暑の残るアスファルトの道で、ただ、突っ立っていた。うつむいて表情は全く解らない。
慎は警戒しているのか、小声で俺達に『目、合わせるなよ!』と言ってきた。
少しずつ、女との距離が縮まっていく。緊張が走った。女は微動だにせず、ただ、うつむいていた。
女との距離が5メートル程になったとき、女は突然顔を上げ、俺達四人の顔を見つめてきた。そして、その次に俺達の胸元に目線を送っているのが解った。
名札を確認している!

俺は焦った。平常心を保つのに必死だった。
一瞬見た顔であの日の出来事がフラッシュバックし、心臓が口から出そうになった。
間違いない。『中年女』だ!

俺はうつむきながら歩き過ぎた。俺はいつ襲い掛かられるのかとビクビクした。
どれくらい時が過ぎたのだろう。いや、ほんの数秒が永遠に感じた。
内藤が『あの目見たけ?あれ完全にイッテるぜ!』と笑った。
佐々木も『この糞暑いのにあの恰好!ぷっ!』と馬鹿にしていた。
俺と慎は笑えなかった。

佐々木が続けて言った。

『やべ!聞こえてたかな?まだ見てやがる!』

俺は咄嗟に振り返った。
『中年女』と目が合った…
まるで蝋人形のような無表情な『中年女』の顔がニヤっと、凄くイヤらしい微笑みに変わった。

背筋が凍るとはこの事か。。。
俺は生まれて始めて恐怖によって少し小便が出た。


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